「そういえばバラキー。マスターとエウリュアレさん達って喧嘩するのかしら」
「……いや、するが」
不思議そうに聞くアビゲイルに、平然と返すバラキー。
だが、アビゲイルはさらに不思議そうな顔になると、
「でも、見た覚えがないのだけど」
「喧嘩するときはわりと分かりやすい。エウリュアレはいつもの余裕が微塵もなくなっているし、マスターは生気のない顔をしているからな」
「まぁ。極端なのね」
「うむ。ただまぁ、最近は隠すのがうまくなって、分かるかは怪しいところだな」
「そう……じゃあ、今はどうなのかしら」
「それ吾も知ら……ん?」
質問してくるアビゲイルの顔を見ると、遠くを見て指差していた。
その先にいるのはエウリュアレとメルトで、何かを話しているようだった。
「むむ。マスターと一緒じゃない……?」
「えぇ。あの状態だったのに自分達からマスターの近くを離れるとは思わないのだけど……」
「ふむ……あぁ、それで『喧嘩をするのか』に繋がるわけか」
「そう。だって見たことないもの」
「そうだな……吾から見れば喧嘩ではないと思うのだが……聞いてみれば解決か」
「それは面白くないと思うの。ちょっと考えましょ?」
「……吾別に興味ないのだが……」
「なんで来たかを考えるゲームよ。勝てば……そうね。お団子三つでどうかしら」
「勝負なら受けざるを得ないな……吾も団子三つだな。よし。では考えるとしよう」
そう言って、二人はエウリュアレ達を視界に留めながら考える。
「まず、吾らが最後に見たときは離れそうになかったな」
「えぇ。ベッタリだったもの。あれで離れるわけないわ」
「だが、今は二人でいると」
「そうね……って、あれ? カーマさんも一緒?」
「む? 本当だ。一緒だな……むぅ?」
人影の中から出てきたカーマは、エウリュアレとメルトに向かって、ため息を吐きつつ何かを言っていた。だが、二人は首をかしげながら何かを言い、それを聞いたカーマが更に肩を落とす。
「……『食べ歩くのと帰るのどっちが優先なんですか』『食べ歩きに決まってるでしょ?』だな。吾の読み的に」
「え、バラキーそんなことできたの? ビックリだわ……」
「読唇術というやつよ。奇襲をするときには使える手段でな。遠くの人間の口の動きを読んで話を合わせるなど容易いことよ。まぁ、酒呑は何も考えず蹂躙するのだが……」
「……バラキーも大変なのね」
「酒呑がいたのだから問題ない。吾が失敗しても酒呑は解決してくれるからな。うむ。酒呑すごい」
「そう……私にはバラキーの方がすごいように感じるけど、今はいいわ。それで、お二人は食べ歩きをしているのね?」
「うむ。それに、帰るつもりでもいるらしい。カーマがそれをいっているということは、おそらく意図的ではないと見るな」
「ということは、敵の罠かしら?」
「吾は令呪だと思うが……どうなのだろうな」
「どちらにせよ、今は帰っている最中ということかしら」
確認するようにアビゲイルが聞く。
バラキーはそれに対してニヤリと笑いながら、
「うむ。ということで、吾は『令呪で飛ばされ帰っている最中』と見た。アビゲイルは?」
「私は、『敵に引き剥がされてとりあえずお城に戻る最中』だと思うわ。それじゃあ聞きに行ってみましょう!」
「うむ。おっだんごおっだんごたっのしっみだ~♪」
「もう勝ったつもりでいるの?」
そんなことを言いながら、二人はエウリュアレ達のもとへ駆け出すのだった。
どこかで喧嘩したことがあるような無いような。覚えてないくらい昔の事かもしれない……
でもまぁ、あの二人は喧嘩して離れた直後くらいからめちゃくちゃ動揺してそう。