「やっほー姫ちゃん」
「久しぶりに来たと思ったら新しい呼び方してくるの何?」
「おっと。なんか機嫌悪いみたい?」
むすっとしている刑部姫に、オオガミは持っていたクッキーを差し出しつつ、こたつに入る。
刑部姫は受け取ったクッキーを食べながら、
「これ、始めて見るね。新作?」
「いや、練習。グラスクッキーはまだうまくできないね。形が歪だもん」
「なるほど。でもまぁ、きれいなんじゃない? 姫は好きだけどな~」
「正直綺麗に作るの難しいんだよ。エミヤは普通に出来るけど、あれは熟達の職人だよ」
「まーちゃんにそこまで言わせるの?」
「いや、師匠だし」
「……師匠いっぱいじゃん」
「うん。おっきーは同人誌の師匠だから」
「不名誉!!」
そう言って、深いため息を吐く刑部姫。
「まーちゃんはさ、そうやってポンポン師匠増やしていいと思ってるわけ? 師匠泣いてるかもだよ?」
「う~ん、どうだろう。師匠って言っても、スカサハとかレオニダスみたいな熱血系は気にしない気がする」
「まぁ、あれは参考にならないし」
「知識面での先生はロリンチちゃんだし、むしろ他の人にもどんどん聞けって感じ」
「ふむふむ。で、芸術は?」
「北斎さんは見て学ぶって感じだからね。参考にならない」
「それはちょっとわかる。次元が違うよあの人は」
「うん。まぁ、そんな感じ」
そう言うと、一瞬固まったあと今にも泣き出しそうな顔になって、
「ね、ねぇまーちゃん? 誰か大事な師匠を忘れてない? 大丈夫? 本当にまーちゃんの師匠はそれで全員?」
「うん? 当然じゃん。師匠はこれで大体全員。おっきーは師匠ってよりもフレンドじゃん?」
「……ねぇまーちゃん。そのすごい手慣れてる返しは何? さては誰か他の人にもしたでしょ」
「おっきーからの信頼無さすぎるんだけど。なして?」
「日頃の行いだと思うよまーちゃん。で、相手は誰かな? 返答次第で離すけど」
「これに関しては珍しくおっきー初ですけど!? 考えてはいたけどしてないから!」
「あ、そう」
詰め寄っていた刑部姫は元の場所に戻り、またサクサクとクッキーを食べ始める。
その顔はいつもよりどこか赤く、照れているかのようだった。
「……あ~、今日はこれで帰るね。なんだか嫌な予感がするから」
「うん、ばいば~い。エウリュアレさんによろしくね~」
「それ殺されるやつ……どうして試作品を私に持ってこなかったん、だっ……て……」
「ん~? まーちゃんどうし……あっ」
刑部姫の部屋の出口。そこには満面の笑みで立っているエウリュアレの姿があり、その笑顔を向けられているオオガミだけでなく、刑部姫も動けずにいた。
「ねぇマスター? 私のおやつはどこかしら」
「えっとぉ~……今から作るとかどうですかね女神様。超特急で作りますけど」
「ふふっ。それは楽しみね。グラスクッキー、楽しみにしてるわ」
あ、そこまでばれてるかー……と呟いたオオガミは、笑顔を浮かべたままのエウリュアレに連れていかれ、残された刑部姫は、
「あっぶな。近付かないでおこ……」
そう言って、引きこもりレベルを上げるのだった。
エウリュアレ様はなんでもお見通し……凄いなぁ……