「ふぅ……なんだか、ようやくいつもの定位置って感じ」
「マスターの上を定位置にするとは流石女神様」
「ふふっ。でも嫌じゃないんでしょ?」
「ノーコメント」
オオガミの膝の上に座り、嬉しそうに笑うエウリュアレ。
もはや食堂での日常と化しているため誰も見向きもしない。
「今日はエウリュアレだけ?」
「メルトは用事があるからと言ってどこかに行ったわ」
「そう……まぁ、元気ならいいんだけど」
「元気よ。確実に」
「ならいいや。それで、今日は何を?」
「何をって、貴方が苦い顔をしながらタルトを睨んでいるんだもの。食べてあげようと思っただけよ」
そう言って、エウリュアレが自分の前に引き寄せたのは、一輪の大きな花が咲いたかのように飾られているいちごのタルト。
誰が作ったかと言われれば、何を隠そう我らが料理長ことエミヤだった。
デザートだと言って置いていったのはいいが、あからさまにサイズが大きく、オオガミ一人で食べきれる量ではない。
慌てて厨房を見れば何故か申し訳なさそうに見ているカーマがおり、定位置にいるバラキーの前にも同じようなタルトが複数置かれていることから、状況を察して何も言えなくなり、タルトを見ていた。
そこに偶然来たエウリュアレが、さも当然のごとくオオガミの膝の上に座ったのがこれまでの顛末だった。
「それで、食べていいの?」
「構わないけど、食べれるの?」
「……少食の方が好みかしら」
「むしろいっぱい食べる方が好き」
「じゃあ食べられるわ」
「何で今好きか嫌いか聞かれたの? もしかして返答次第で食べられない可能性があったの?」
「うるさいわね、もういいでしょ。いただきます」
そう言って、タルトを食べ始めるエウリュアレ。
オオガミはその様子を見ながら、
「毎度思うけど、よくこんな細い体にこの量が入るよね」
「…………」
「あっ、いたっ、かかとが当たってる! 無言で蹴らないで!?」
「じゃあ喋ってれば良いのね」
「そう言うとんちではなく!」
「まぁいいわ。それで、セクハラマスターはなんでそんな興味深そうなのかしら」
「いや、セクハラマスターって……今まで気にしてこなかったじゃん……」
「乙女心は突然に芽生えるものよ」
「今までは乙女じゃなかったってこと?」
「あらマスター。ちょっとよく聞こえなかったわ? もう一度言ってくださる?」
「あ、ごめんなさい許してください」
「わかればいいの。で、あなたも食べるの?」
「ん~……一口だけ」
「仕方ないわね。ほら、あ~ん」
「あ~ん」
そう言って、一瞬も躊躇することなく口を開け、エウリュアレに食べさせてもらうオオガミ。
エウリュアレは再びタルトに向かいながら、
「……そう恥ずかしげもなく素直にされたら私も困るのだけど……」
「なんで自分が恥ずかしくなるのにやるのかなぁ……」
そう言って、オオガミはため息を吐くのだった。
マスターの膝の上はエウリュアレが占領した!
まぁ、オオガミ君に羞恥攻撃を仕掛けると大体跳ね返ってきますよね不思議。