殺風景な廊下。灰色の壁と床は、この国の内情を表しているかのように思えてくる。
東ドイツのとある基地。その一角で、テオドールは歩きながら思考していた。
(あの時の戦術機・・・)
彼は光線級吶喊任務中に見た、10機以上の戦術を思い出していた。
(どこの部隊なんだ?いや、そもそもあれはこの国のモノなのか?クソったれの国家保安省が、新型に飽き足らず更に強い戦術機を・・・?)
そこまで考えて、その思考を否定する。
(いくら連中でも、資源も手間も無いハズだ。そもそも、資源と人手があったとして、あんな高性能な機体を今の技術で作れるのか?)
マニピュレーターは攻撃の手段になりこそすれ、それは突撃砲や短刀、爆発反応装甲を持ち、それを使って攻撃するからである。決してマニピュレーターで攻撃する訳では無い。なのにあの戦術機はそれをやっていた。追い詰められた衛士が死にたくないともがいたという考え方もあるが、それは当てはまらない。きちんと部隊が一丸となってBETAと戦っていた。第666戦術機中隊隊員として、数多の激戦を繰り広げ、生き残っているテオドールの目は確かだ。
ああでもないこうでもないと自問自答しているうち、彼はいつの間にか戦術機格納庫に来ていた。
「・・・」
つい、なんともなしに自機を見上げてしまう。見慣れた機体は今日も整備兵のお陰でピカピカだった。数時間前まで戦闘をしていた後などどこにも見当たらない。
その、いつもと変わらない姿に勇気をもらったような気分になる。
今のままでいい、自分を貫けと言ってくれいているような・・・そんな気分に。
(そうだ・・・今は不確定なことを考える必要も無い・・・。ただ自分が生き残ることだけを考えていれば・・・)
諦観にも似た考え方だった。昔の自分なら反発していたであろうこの方針は、今や自分の行動の基本となっていた。
言論は勿論思想まで弾圧する国家保安省。それに協力し、友人や家族までも売る密告者。そして、絶えず襲いかかってくるBETA。
テオドールの生き方が変わるのも無理はなかった。
拾われ、その家族とともに過ごした楽しい日々。この国に耐えかね、西へ亡命を図ったが国家保安省に捕まり、恩人の両親と妹は殺された。
自分はひとり、取調室で震えていた。その間、絶えず家族の幻影が彼を責め続けた。
彼の人生の転換期は、間違いなくその時だった。もし亡命が成功していたら、今頃自分はどうしていたのだろうか。
取調室で独りで震えていた時、辛く恐ろしい国家保安省職員の取り調べをやり過ごすための材料になると思って思い浮かべていた時期があった。しかし、そう考えることもやめてしまった。国家保安省に殺されなかった家族の事を考えなければならなくなるからだ。彼にとっては辛いことだった。
(どうしちまったんだろうな、俺は。戻るか)
一体何を考えていたのだろうか。急に熱が冷めたような感覚に陥る。格納庫に来てみたはいいもののやる事は無い。自室に戻ろうとした、その時だった。
「緊急。第666戦術機中隊隊員は速やかにブリーフィングルームへ集合せよ。繰り返す、第666戦術機中隊隊員は速やかにブリーフィングルームへ集合せよ」
テオドール・エーベルバッハの、第2の人生の転換期が訪れた瞬間だった。
寝ぼけて書いたので間違ったとこあるかもしれません