たった一つの望み   作:#1106

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それっぽく書いて誤魔化すスタイル。


一瞬の邂逅

「中継機が足りない?」

「はい。森が予想以上に広くて、木より高くあげてもどこかで木や枝に遮られて・・・。結局回り込むように配置するハメになってしまうんです」

「そうか・・・」

ここ2週間で判明したことは、自分たちが広い森の中にいるということだけだった。あとは外を見ればわかる「天候が吹雪」ということだけ。何も進展がないに等しい結果に、オルガは苛立ちを募らせる。

「ふぅ・・・」

「何もわからないのと同じですね・・・これじゃ」

「ああ」

報告に来たライドとため息混じりに会話する。話していると余計に気が滅入ってくる気がして、ライドを下がらせた。

これから自分たちはどうなるのだろうか。全く見当がつかない。団長である自分がくよくよしては団員達にも影響が及ぶのは分かっていたが、それでも不安が顔に出てしまいそうだった。エドモントン戦の直後の頃はまだタービンズは損害0だった。負傷者はいたが、死者はいなかった。シノや昭弘が散策しているが、タービンズらしき人影はないそうだ。メリビット、おやっさん、デクスターはいる。当時の状況と同じ。クーデリアがいない事にアトラはガッカリしていたが、確かにその時はクーデリアはアドモス商会を立ち上げていて、以前のように団員の1人のような関係ではなかった。

この調子だと、「鉄華団以外は生き返らない」のかもしれない。もし名瀬さんが・・・兄貴が生きていたら、どんなに楽だっただろう。

オルガはどうしようもないことを考えていた。

 

 

その頃。東ドイツの各要塞陣地では、音紋探知によってBETAの進行を予測していた。

いつもの通り準備を整え、いつもの通り犠牲を出し、いつもの通り作戦が成功する・・・はずだった。

 

確かにいつも通りの成功だった。「彼ら」との遭遇を除けば。

 

 

 

 

 

砲兵隊による重金属雲展開後、光線級吶喊を開始する第666戦術機中隊。

「うっ!」

「同志中尉!?」

中隊付政治将校グレーテル・イェッケルンが仕留め損ねた要撃級から前肢による攻撃を受け、跳躍ユニットを両方とも破壊されてしまう。

「しまった、跳躍ユニットが!」

「くそ、08!援護に回れ!」

「了解・・・!」

テオドールは舌打ちをこらえて援護に回る。その間に大尉が策を講じるのだろうが、まさか光線級と会敵する前にトラブルに見舞われるとは思っていなかった。

「(まだ任務は終わってないっていうのに・・・!)」

さっきから撃ちまくっているのにBETAの数は一向に減る気配がない。光線級からの照射が無いのは不幸中の幸いだが、不味い状況に変わりはない。

「く・・・」

一機あたりの弾薬の減りが激しく、弾薬の残量は今後の光線級吶喊に支障が出そうなレベルにまで達している。

「(くそったれ、なんでこんな所でヘマをするんだ!)」

同志中尉は諦めて光線級吶喊に向かいましょう、と叫べたらどれだけ楽なことか。国家保安省の狗を置いていくとことに対して何のためらいもない。テオドールはそれだけの憎しみを国家保安省に対して抱いていた。自分を拾ってくれた優しい家族を奪い、国民が国民を監視し合う狂った体制を作り出した元凶だ。心が痛む筈がない。国家保安省というだけで憎むに値すると、彼は考えている。

しかし、拷問された時の情景がフラッシュバックし、背中に悪寒が走る。

「(くそっ・・・!まだ何とかなっているが、このままじゃ・・・!)」

「仕方がない、私が同志中尉を自機に移す!各機、援護を頼む!1分でいい!」

「了解」

「はい」

「・・・了解・・・!」

ただでさえ厳しいが、政治将校を助けるにはこれしかないと判断したのだろう。危険な賭けに出る大尉。

「っ・・・しまっ!」

アネットが悲鳴をあげる。要撃級の影に隠れた戦車級に取り付かれたのだ。慌ててナイフシースを展開、排除する。精神に疾患を抱えているとはいえこの中隊の衛士だ。片手でしか突撃砲を使えなくとも、状況を瞬時に見極め36mmと120mmを使い分け、自機にこれ以上取り付かれたり接近されることがないよう撃破していく。

が、流石に限度があった。BETAの体液で赤くなり、見づらくなった地面に紛れるように戦車級が射界の限界をつくように進入、隣で応戦していた味方に群がる。

「!」

「くぅ」

シルヴィアとファムの顔が歪む。明らかに状況は悪化していた。

「よし、移乗が完了した!各機、付近の戦車級を片付け次第跳躍開始!急げよ!」

ようやく移乗が完了したらしい。

「(ようやく光線級吶喊に行ける・・・!)」

会いたくもないBETAに会いに行くことを喜ぶのはどうかと思うが、とにかく与えられた本来の任務を終え、シャワーを浴びてさっさと寝たかった。

「掃討完了しました!」

「各機跳躍ガガガ…ガ」

「!?」

急に音声は勿論映像まで途切れた事に焦る。重金属雲下とはいえ、この距離でデータリンクが使えなくなることなど有り得ない。まして、通信まで途切れるなど前代未聞だった。

テオドールは瞬時に外部スピーカーと集音機構を作動させ、怒鳴る。

「中隊長!集音機構と外部スピーカーを使えば、無線が使えなくても一応コミュニケーションは取れます!」

「だな、08の言う通りだ!各機集音機構と外部スピーカーをオンに。これを通信の代わりとする」

相変わらず切り替えの早い指揮官だ。まぁそうでなくては今日まで生き残っていないだろうが。

了解の声が連鎖する。しかし、やはり通常の通信と比べて聞き取りづらい。

「各機、跳躍開始!」

ロケットを使用しての長距離進出。それ自体は良かった。

しかし、

「?」

訝しげな表情をするファム・ティ・ラン中尉。

「どうした?」

「2時方向距離・・・3000に何か・・・戦術機?」

望遠機構を使って拡大すると、確かにそれらしき機影が複数見えた。

なかなかの多さだ。中隊規模だろうか。それにしても姿形がバラバラで、まるで傭兵のような集団だった。

白とオレンジの機体は突撃砲で戦車級を蹴散らしている。どうやら一機だけでは無い様だ。ベージュ色の期待は背部兵装担架を使用して四門のーーここから見てもわかるほどに長いーー突撃砲で射撃している。吹き飛ぶBETAの様子からすると、恐らく120mmだろうか。そして、一番派手なカラーリング

の機体は、肩の突撃砲を使って要撃級を叩きつつ、小型種を短刀で切り裂いていた。ワインレッドの機体も複数おり、巨大なシールドをうまく使って攻撃をいなしつつ、近接攻撃を的確に当てている。

そして、胸部の青と白い四肢が目立つ機体は、長刀らしきもので要撃級を叩き潰し、振り向きざまに戦車級をーー驚いた事にマニュピレーターでーー切り裂いている。

「すごい・・・」

誰かがそう漏らした。確かにそうだ。

機体の性能という要素もあるだろうが、動きから分かる。彼らは相当腕の立つ衛士なのだろう。

だが、彼らは確かに囲まれていた。このままではジリ貧で、いずれBETAの物量にすり潰されてしまうだろう。

彼らをどうするか尋ねたが、返答は変わらなかった。見捨てて、我々は任務である光線級吶喊を行うと。

 

テオドールは操縦桿を握りしめる。

「(なんだ・・・この感じ・・・)」

不思議な気分だった。

いつもと違う、何かを自分は感じていた。

正体はわからないが、決して不快ではない、不思議な感じ。一体自分はどうしたのだろうか。




結構悩みました

4/10 19:08 誤字を訂正しました。報告ありがとう御座いました。

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