一つだったドイツが分断されて生まれた国、西側と結びつきを強めた西ドイツと東側と結びつきを強めた東ドイツ。
この二つの国の人々は、それぞれが全く違う境遇に置かれていた。片方は思想の自由を謳い、もう片方は国家保安省による国民の徹底的な監視による思想の統一を行っている。
「総員傾注」
女性の声ーーこの中隊の指揮官の声が響く。BETAに対抗するための人類の刃、戦術機。
この中隊は、東ドイツ第666戦術機中隊という。高練度の衛士で構成された東ドイツの精鋭部隊だが、高練度であるがゆえ激戦区や難度の高い任務に投入されることが多く、一度も中隊に必要な人数を満たしたことがない。
「我々は、これより光線級吶喊を開始する。いつもの仕事だ。ヘマをするなよ?」
中隊指揮官アイリスディーナ・ベルンハルト大尉。この第666戦術機中隊を率いる女性衛士だ。
それだけで彼女が優秀であることは察しがつくだろうが、後暗い噂もある。
曰く、実の兄を国家保安省に密告して現在の立場を手に入れた・・・という噂だ。
真偽の程は確かめようがないが、ほとんどの人間がその噂を信じている。
「各機匍匐飛行で突入。目の前の突撃級を飛び越えた後、その後のBETAを撃破して着地地点を構築するぞ。各機、続け!」
「了解」の声が重なる。
テオドール・エーベルバッハは、その声を聞きつつ、操縦桿を握りしめた。
ところ変わってイサリビ内の鉄華団。
「モビルスーツは全て弾薬、推進剤共に満タン、備蓄もありったけある・・・か」
おやっさんが唸る。
「ほんと、何でこんなことになったんだろ」
タカキが呟く。それは鉄華団全員の総意だ。
「ま、足りねぇよりはマシだろ。何が起こるかわかんねーんだからな」
オルガはおやっさんからその報告を聞いたあと、ろくに散策できなかった周辺をモビルスーツを使って散策することにした。三日月、昭弘、シノの率いる部隊のうち三日月の隊を残し、昭弘とシノの隊が散策に向かう。通信はLCSを使うことに決め、早速中継機の打ち上げとモビルスーツの発進準備に取り掛かっているところだった。
「気ィつけてな」
「おう」
「ああ」
シノの流星号とライドの雷電号、それに団員の獅電が先に出発。次に昭弘のグシオンとアストン、デルマのランドマン・ロディ2機が出発した。
「あとは報告待ちだな」
「だな・・・」
火星は雪が降るような季節ではなかった。つまりここは遠い何処かだろうという検討がつく。
しかしその推測は正しいのだろうか。生き返りなんて非常識なことが起こったのだ。また突飛な信じられない現実が突きつけられる可能性の方が高いと、オルガの直感がそう言っていた。
「何はともあれ無事に全員帰ってきてくれるといいんだが」
ユージンも真剣な表情で頷いた。
「レーダーに何か反応は?」
「相変わらず、エイハブウェーブの反応は無しだ。何も変わらない。艦外カメラも木と吹雪だけ。気が滅入るぜ」
ダンテがため息混じりに言う。
「エイハブウェーブ無し・・・か。ギャラルホルンは今何してんだろうな」
「さあなぁ。案外ギャラルホルンはいなかったりして」
「はぁ?」
「もしかしたらここ、"別の世界"かもしんねーぞ?」
かわいそうなヤツを見る目。
「やめろよその目!」
流石に傷つく。
「なんでそんな話になんだよ」
どうやらちゃんと根拠を聞いてくれるようだ。安心するダンテ。
「前にザックがぽろっと言ってたのを聞いたんだよ。チビ達に話してた。平行世界とかなんとか」
「んだそりゃ?学ない俺らには理解出来んな」
「いや、そう難しい話じゃなかったぞ。例えば・・・そうだな、俺の腕が片方無いとか、そんな少しの変化も平行世界だってよ」
「ふぅん・・・てっきり俺はもっと昔の重要な・・・それこそ、モビルアーマーが存在しないとか、そういうでかいことで変わるもんだと思ってたぜ」
「俺もうろ覚えだからなぁ。はっきりと思い出せねーけど」
彼らは話し続ける。しかし、彼らは後で嫌でも気付かされることになる。
ここは「彼らの知った世界」ではないことを。価値観、常識、そして「人対人」のために使われたヒューマンデブリだった彼らにしてみれば想像出来ない「人類の敵」が存在することを。
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