うちの女子バスケ部がヤバイ   作:小野芋子

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大変遅れて申し訳ございません。リアルが夏休みに入って一層忙しくなってしまいまして…
関係ないですけど勉強してるとなぜか作品の構成が思い浮かぶのは一体なぜ?せっかく思いついても書けないから辛い。



とある夏の日の話

「蓮さん、ここの問題ですが……」

 

「ああ、そこならここにある公式そのまま使えば解けるぞ」

 

2人の男女が仲睦まじげに勉強を教え合う。その光景を見てみると、それは正しく青春と呼ばれるものだろう。

場所はマジバ、お昼を少しすぎた時間帯ではあるが、駅から少々離れた立地故か、或いはこの夏の暑さが原因か、客足は少なく勉強を教え合っている中学生を見ても注意の声は無い。

 

だが、この光景を見たからと言って青春だという決めつけは早計であると言わざるを得ないだろう。これはあくまで一部分を切り取った光景に過ぎない。

 

全体像を見てみればこうだ。

俺の正面に座り真剣な表情で夏休みの宿題に手をつける黒子テツナ、その背後、店の奥の奥にはこちら(俺限定)に殺気を飛ばす何やらカラフルな集団が一つ。赤、青、緑、黄、紫、桃、水色、灰色。灰色?え?何で灰色しれっとそっちにいるの?

 

取り敢えずまあ、これで今の状況がテツナと2人っきりでの勉強会、などというお花畑いっぱいの少女漫画的展開ではないということは御察し頂けただろう。どころか、いつも通り一歩踏み違えば即奈落の底に真っ逆さまな命がけの綱渡りを行なっていることまで察していただければ有難い。

この状況がいつも通りとは……慣れとはげに恐ろしいものだ。

 

 

事の始まりは昨日、全中を1週間後に控えているというのに体育館の整備のため今日の練習が一日オフになった俺は、もともと計画していた通りに夏休みの宿題を一気に片付けようと、昨日必死になって勉強していた。

理系科目、その中でも純粋な計算力だけで終わる問題を粗方終えた俺は、そのまま文系科目に手をつけようとし、丁度そのタイミングでメールの着信があったためにその手を止めた。

差出人は知っての通りテツナ、内容は『よければ明日一緒に勉強しませんか?』といった感じのものだ。特に断る理由も無かったために了承の旨を綴ったメールを送り返し、いくつか話し合った後マジバで勉強会を開くことになったのだ…が、今にして思えばもう少し慎重を期すべきだったと後悔している。

『テツヤは絶対に来るだろうし2人っきりってわけじゃ無いな、HAHAHAHAHA』とか思ってた過去の自分を割と全力で殴りたい。まあ実際にテツヤは来てるんだけどね?どういう訳か姿を見せないけど。

ってか今更だけど奥の座席に座っているってことは俺たちより先にマジバに来てたってことだよね?だって俺あんなカラフルな集団が隣通っていくの見た記憶ないし。え?ちょっと怖い。テツナのプライバシーって守られてるよね?そろそろポリスマンに相談した方がいいかな?

 

「どうしたんですか蓮さん?ボーッとして」

「ああ、ちょっと問題に詰まっただけだよ」

 

嘘ではない。ただ問題の内容が宿題には載っていないだけだ。

 

「蓮さんでも分からない問題ってあるんですね」

「俺は万能じゃないからな」

 

いや、ホント万能さが欲しい。それが無理なら世渡りのテクニックが欲しい。じゃないとこんな答えのない問題に立ち向かえる訳がない。だって魔王いるんだよ?問題の中に魔王が御降臨なされているんだよ?

 

「そう言えば蓮さん」

「ん?」

「思春期真っ盛りな中学生として女子と2人での勉強会ってドキドキしないんですか?」

「めっちゃドキドキしてる」

 

主に生命の危機的な意味で。いつ危険物が飛んで来るんだろうと思うとホントドキドキが止まらない。

 

「む、からかってますか?」

「からかってるわけじゃない。本気でドキドキして……なんでもないです」

 

少し冷静になってみて自分が割とやばいことを口走っていることに気付き慌てて止める。セーフだよね?これはセーフでいいよね?

テツナはそんな俺の心情に気づくことなく少し満足げな表情をして薄く微笑みを浮かべている。かわいゲフンゲフン。今店の奥でマックシェイクが宙を舞った気がするが気のせいだ。

 

「時に蓮さん」

「なんだ?」

「今日僕はそれなりにオシャレをしてきたわけですが、どう思いますか?」

 

そう言って徐に立ち上がったテツナがゆっくりと一回転してみせて静かに席に座る。洋服にあまり詳しくない——どころかファッション全般に疎い俺からすれば、テツナの着ているものがワンピースであるということぐらいしか分からないが、テツナの髪色と同じ水色のそれは彼女の雰囲気にはよく似合っている。

 

「似合ってるんじゃねえの?」

「反応がイマイチですね。僕ってそんなに女の子っぽくないですか?」

 

HAHAHAそんなことを思ったら最後、俺の首は胴体と一生さよならしてしまうじゃないか。まあ食い気味に女らしいと言おうものなら、その胴体にもぽっかりと大きな風穴が開きそうなものだからこの場は(腐った)大人な対応をさせてもらおう。

 

「以前祥吾が『黒子テツナって可愛いよな、ちょっと本気出して俺の女にしてやろうか』って言ってたから十分女らしいと思うぞ」

 

あっ、祥吾の霊圧が消えた。いや、大丈夫あいつならきっと生きてるさ。最悪の場合は人造人間祥吾Xにして蘇らせればいいだろ。うん、それがいい。

そういう訳だから今店の奥で特大のケチャップが舞ったような気がしたけど無視だ。あれはきっと触れてはいけない奴だ。間違いない。

 

「………」

 

これ以上考えても不毛だ、と、ある種悟りの境地に到達した俺は諦めて手元の宿題に集中しようとして、テツナがこちらをじっと見ていることに気付いた。

 

「何だよ?」

 

見つめられることへの耐性の無さからか、少々ぶっきらぼうな言い方になってしまったことに多少の罪悪感を感じたが、当のテツナは特に気にしていないのか表情を変えることなく、手に持っていたシャーペンを置いて、ノートを閉じ、雑談の体勢に入っていた。

 

「蓮さんって灰崎くんと一緒にいるときや、バスケをしているときは子供っぽいですけど、今は何だが大人びてますね」

「…勉強中にハイテンションとか頭がおかしいだろ」

「そういうことじゃ無いんですけど」

 

同じく勉強道具を置いて、少し冷めたポテトを口にしながら質問に答えるが、どうやらこの答えはお気に召さなかったご様子で不機嫌そうに唇を尖らせる姿がたいそうかわいゲフンゲフン。

今真横を物凄い速さでポテトが通り過ぎていったが、きっと気のせいだ。

 

「まあ、真面目な話すると家庭の事情だ」

「聞いてもいいですか?」

 

ここでこちらに確認を取って来るあたりテツナの人の良さが伺える。相変わらず人を気遣える優しい子だと思うが、そのまま彼女を褒めそやすと外部の手によって碌でもないことにされることは目に見えているために、深く考えることはせずにある程度言葉を選びながら掻い摘んで話をする。

 

「俺が小学生の時に母さんが亡くなってな、それからは親父との2人暮らし、いやペットを2匹飼ってるから4人暮らし。最も最近親父が海外に転勤したから今じゃ3人だけどな。まあそんな生活してたら嫌でも大人になるってもんだよ」

 

本当ならここにルンバを加えて4人暮らしだと言いたいところだが、冗談でもそんなことを言えば可哀想なものを見る目で見られる可能性があるため自重する。他の誰かならともかくテツナにそんな目で見られたら心がバキバキに折れる自信がある。

 

「寂しくは無いんですか?」

 

躊躇いながら口にしたセリフはどこか弱々しい。

俺自身自分の置かれている状況が普通では無い自覚はあるし、そのセリフも想定の範囲内だ。

 

「寂しくは無い。と言えば嘘になるがもう慣れた。それに悪いことばかりじゃ無い。朝練するために朝早くに目を覚ます時とか、家族に気を使うことが無いのは有難いことだ」

 

逆を言えばメリットはそれくらいしか無いが問題はない。家に帰れば愛犬のチワワとラブラドールが迎えに来てくれる生活を悪いなどというはずもない。

 

どうでもいい話だが、一度ルンバを調節して俺が帰って来る時間にあたかも迎えに来たかのように動くように設定したことがあるが、あれはやめといた方がいい。その日、僅かに帰る時間が遅れて玄関を開けた時、ちょうどそのタイミングで遠ざかり始めたルンバを見た時の喪失感といったらとても形容できるものでは無かった。膝をつく俺の顔を愛犬達が舐めてくれなかったら暫くは学校を休んでいたかもしれない。

 

「…気にすることはない。今じゃ学校で話をする奴も増えたし家に帰ってからもわざわざメールをくれる心優しい誰かさんも居るから、以前よりもずっと楽しい日々を送ってるよ」

 

シュンとした顔を見ていられなくてとっさにフォローを入れたがうまく言葉にできた自信がない。アドリブには強い方だと思っていたが、自分を過大評価していたみたいだ。

けど、そんな俺の不安は杞憂に終わる。

 

「なら、その心優しい誰かさんがこれから毎日メールしてあげますね」

 

どこか誇らしげに、それでいて優しい笑みを浮かべながら胸を張るテツナはとても魅力的で

 

「ところで蓮さん」

「まだ用があるのか?」

 

いい加減勉強を始めた方がいいのではないか?そう言った意味合いも兼ねての言葉だが、おそらくそれに気づいているであろうテツナは分かった上で無視して会話を進める。

 

「僕は今とても眠いです」

「話題転換が半端じゃねえな」

 

別段雑談に興じるのは嫌ではないがここまで一貫性がないと『もしかしたら無理に会話を弾ませようとしているのでは?』と邪推してしまう。もっとも、それもテツナの本当に眠そうな顔をみれば所詮は推測でしかないが。

 

「肩を貸してくれませんか?」

「ちょっと待て、少し考える時間をくれ」

 

気づけば隣に移動していたテツナからの上目遣いありきのその要求にノータイムで承諾してしまいそうになったが、どこまでも理性的な自分が待ったをかける。

おかげで少し冷静さを取り戻したところで考えるべきことはメリットとデメリットについてだ。

まずメリットだがこれは同い年の可愛い女の子との至福の時間といったところだろう。

次にデメリットだが……『へえこれがテツナっちと触れ合った肩っすか、あの、その肩私が貰ってもいいっすかね?』ああこれダメだ。リアルで肩が貸し出されるイメージしか浮かんでこない。

因みにイメージが黄瀬だったことに深い理由はない。無いのだが余りに違和感が無さすぎてこれまでに感じたことのない恐怖を感じるのは一体何故だろう。これってイメージだよね?実際の映像は使われてないよね?

 

取り敢えず祥吾にヘルプのメールを送ろう。こと女子関連のことなら俺よりあいつの方が経験値あるだろうし。

そう思い急ぎメールを送ると以外にも返信は1分と経たずにきた。眠気でフラフラしているテツナをのらりくらりとかわしながら画面を見る。

 

『悪い、俺今少し眠いんだ。ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ寝たらすぐ返事返すから、悪いけど待っててくれないか』

 

祥吾ぉぉぉぉおおおお!!!ダメだ、それ寝たら最後起きれないやつだから!!こことはまた別の世界に旅立つやつだから!!頼むから寝ちゃダメだ!!

 

「おや、こんなところで会うなんて奇遇だね?私もご一緒していいかな?」

 

ま、魔王が御降臨なされたああああああ!!!!!奇遇って何?それって意図的に作り出せるものでしたっけ?この世界って乱数調整可能でしたっけ?

 

「おや?勉強会をしていたのかい?これまた偶然だね、私もちょうど勉強をしようと思っていたところなんだ。ほら、この通り宿題もある」

 

だったら今隣を通り過ぎていったタキシードにサングラスの男と窓の外に見える黒塗りのベンツは一体何なんですかね?明らかにパシリとして使ったよね?テツナと一緒に勉強したいがために権力行使しまくったよね?

 

それと店の奥から負の念がなだれ込んできているんだけど何かあったのか?『あの時グーを出していれば』とか『バカな、私は人事を尽くした筈だ』とか聞こえ……ああ、うん。分かった。ジャンケンで決めたんだな。お前らジャンケンで誰がテツナに声をかけるかを決めたんだな。

 

「アレ?赤司さん?どうしてここに?」

 

だいぶマシになったのか、欠伸を噛み締めながら問いかけるテツナの声は未だに眠たげであるが意識は覚醒し始めたように見える。

取り敢えずチャンスとばかりに隣の席から正面の席に誘導を済ませ、さらにその隣に赤司を座らせることによって蓋をすることに成功させるという荒技をやってのけた俺は、涼しいはずの店内で異様に汗を流した影響か渇きを訴える喉を潤すため飲み物を買いに会話を始めた2人を置いて一先ず席を離れる。

本音を言えば魔王と対峙するために一旦深呼吸の時間が必要なだけだが、まあそれはいいだろう。

 

 

 

 

 

 

っで、流石に炭酸はきついか?いや俺ならいける。っでもここは安全にオレンジを選んだ方が…、男なら度胸か?等々悩んだ挙句結局は無難にコーラを選んで席に帰ってきたはいいが

 

「なあなあ、俺らと一緒にゲーセン行かね?すぐ近くにはこんなしけたところよりうまいクレープ屋もあるんだよ」

「俺らうまい店超知ってんだよ。絶対楽しいからさ、一緒に遊ぼうぜ?」

 

何だこいつら?

 

いや、こいつらが何をしているのかは分かる、所謂ナンパというやつだ。それに野郎に対してこう言うのも変な話だが、こいつらはチャラついてはいるが顔はいい方だ。常日頃からクソみたいにイケメンな灰崎を見ている俺からすれば大してカッコいいとは感じないが、客観的にかつ公平な視点から見ればまあイケメンでいいだろう。そんなやつらがナンパをすると言うのならまあ分からないことはない。

 

じゃあ俺が何に対して疑問を抱いているのか、そう問われた時答えはいくつかある。

一つはあの赤司に声をかけていること。確かに今の赤司、つまりはテツナと一緒にいる時、またはキセキと一緒にいる時の赤司は普段の魔王然とした雰囲気はなく何処と無く優しい雰囲気を醸し出しているかもしれないが、だからと言ってナンパはない。

俺なら声かける寸前に自分が死ぬ未来が見えて躊躇う。そして逃げる。

 

二つ目はさらりとマジバをディスったこと。俺は聞き逃さなかった、マジバのことをしけた店と言ったことを。常識的に考えて現在進行形で入店している店の悪口を言うのはない。

 

三つ目は奥からの殺気にまるで気づいていないこと。これが一番致命的だな。ほんとバカじゃねえのと思う。

だからその殺気を俺にも向けるのやめてくださいお願いします。分かってるよ!!お前らの大切なテツナと赤司には指一本触れさせないから安心しろよ!!

 

「あの、悪いんだけど今一緒に勉強会してるから、諦めてもらえますか?」

 

若干一名呼んでもないのに参加してる魔王様がいらっしゃるけど嘘はついてない。事実テーブルの上に問題集とか広がってるし。

 

「あぁ?………ププッ、アハハハ!!!お前その顔で何彼氏面してんだよ!!なあ釣り合いって知ってる?」

「おいおい!!あんまりいじめてやんなよ、こんな顔でも頑張って生きてんだからさ!!頑張って髪白に染めたりしてんだからさ!!ギャハハハハ!!!」

 

声かけたら顔見て笑われた件について。

 

そんなに俺の顔って酷いの?そりゃ自分のことをイケメンだなんて自惚れる気は無いけど笑われる程か?運動も筋トレもしてるから太ってるわけじゃねえし、いや、確かにオシャレに気を使ってるわけじゃ無いのは事実だが、毎月の仕送りを有効利用しようと思ったらそんなことに回してる金が無いんだから仕方が無いことだろ。犬の餌とか割と金かかるし。バスケット用品も安くは無いし。

 

ってか俺の顔ってどんなだっけ?小学生の時鏡割って以来基本見ないようにしてるから分かんないんだけど。少なくとも最後にまともに見た鏡はスプーンだな。確か理科の実験で凸面鏡だかなんだかでじっくり見たのを覚えてる。灰崎とバカやって笑いあって怒られたんだっけ?

 

後、髪の色は地毛だ。どこの誰の遺伝かは分からないが、生まれ持ったものを笑われるのは流石にムカつくぞ。

 

そこまで考えてふとテツナの手が小刻みに震えていることに気付く。ナンパ野郎共はそれを怯えだと思い優しい言葉を掛け出すが、テツナとの付き合いの長いやつなら分かる。あれは怒りだ。どんな理由で何が引き金となったのかは分からないがテツナは確かに今怒っている。

だとしたらマズイ。今この場でテツナが怒ったら逆上したあいつらが暴力行為に走る可能性もある。面倒だがさっさと凹ませてお帰り願おう。

 

「さっきあんたらは釣り合いがどうとか言ったが、だとしたらあんたら2人が彼女たちに声をかける資格はないんじゃないのか?」

「あぁ?」

 

どうでもいいがナンパ野郎Aの第一声はあぁ?から始まらないといけない法律でもあるのかな。それともあれかな、そう言う自分カッケーって感じなのかな?隣の家の親戚の友達の赤ん坊の頃の体重くらいどうでもいいな。

 

「てめえらじゃその2人に釣り合わねえって言ってんだよ。鏡と現実と身の程を弁えて出直してこい!!」

 

先ほどまでの興味の無いものを見る目ではなく、確かな殺気と怒りを滲ませて睨みつける。

俺のあまりの変貌ゆえか、或いは190近い男に凄まれたからか、漸く自分たちが誰に喧嘩を売ったのかを理解した男2人は脱兎の如く逃げようとして

 

「迷惑料にバニラシェイク2本買って来い。それで見逃してやる」

 

慌ててバニラシェイクを購入して帰っていった。

 

いやあスッキリした。いいことするって気持ちいですね。心なしか店内から拍手が聞こえるような気さえしてきたよ。まあ幻聴なんですけどね。

 

「……凄いね」

 

珍しくも驚きの表情を浮かべながら赤司が言う。俺に言わせりゃ完全におまいう状態だがここは空気を読んで黙っておく。

 

「まるで別人のようだったよ。普段からアレくらい真面目な顔をしていたらモテるんじゃ無いのか?」

 

それはどう言う意味ですかね?もしかして俺がモテないのは普段ボーっとしているのが原因なんですかね?だとしたらちょっと真剣に今後の身の振り方を考えていきたいので是非ともダメな点を教えてくれませんか?え?全部ダメ?デスヨネー。

 

「……」

 

そしてテツナさんは未だに激おこなご様子。もうあいつら追い払ったからいいじゃん。なにがご不満なの?

取り敢えずその辺りのフォローは赤司様にお任せして俺は俺で別のフォローがある為一旦席を離れ、親切にも奢って貰ったバニラシェイクを奥の席に座るとある2人に渡す。勿論テツナにはバレないようにだ。

 

「取り敢えずこれでチャラだ。あんまり怒るなよ」

 

バニラシェイクを渡しながら言ってみるが、2人ーーテツヤと祥吾の雰囲気はまだ刺々しい。

まあ分からないことはない。俺だってこいつら2人、もしくは虹村先輩の悪口を言われたらブチギレる気しかしないし、こいつらもまた俺のために怒ってくれるくらいには信頼している。が、幾ら何でもキレすぎだ。先ほど俺が早々にあいつらを退場させたのだって主な理由の7割はこの2人が占めている。

全く、仲間意識が高すぎて涙が出てくる。

 

「はぁ、今回は俺に免じて許してやってくれ」

「許す気はねえ」「僕も、許しはしません」

 

やだこいつら頑固すぎ。

 

「じゃあ許さなくていいから怒りを抑えろ」

「チッ、今回だけだぞ」「蓮くんがそこまで言うなら、今は抑えましょう」

 

そう言いながらも不機嫌さは全く変わらないご様子。周りに座っているキセキの面子もこの2人がマジ切れしているのを初めて見るのか随分驚いた顔をしている。

まあ確かに祥吾は兎も角テツヤは絶対に怒りそうにない感じはあるよな。テツナ関連以外では。あれ、それってしょっちゅうキレてるんじゃ……

 

もういいや。取り敢えず祥吾に「宿題はちゃんとやっとけよ」とだけ言って席に戻る。

 

座席に座って正面を見ると未だにテツナは機嫌悪そうにバニラシェイクを啜っていた。兄同様根に持つタイプなのかも知れないな。

 

「………蓮さんは……です」

「ん?」

 

ボソボソと呟かれた声はうまくは聞き取れなかったが、自分の名前が呼ばれたことだけは理解できる。

けど、いかんせん肝心の内容が分からない。

 

「だから、僕は蓮さんはかっこいいと思っています!!」

「お、おう。お世辞でも嬉しいよ」

 

珍しく声を張ったと思ったら内容が内容なだけについどもってしまったが、俺に気を使っての発言だと遅れながら理解する。やっぱテツナは優しいな

 

「僕はお世辞は言いません。本当にそう思ってるんです!」

「はいはい、分かってます分かってます」

 

とは言え、先ほど笑われたばかりで素直にテツナの言葉を信じろと言う方が無理な話だ。勿論あいつらの言葉を受けて卑屈になっているわけでは無い。それならとっくの昔に整形してるか、来世を信じてワンチャンダイブしてる。

 

「頭に来ました。こうなったら蓮さんが認めるか、照れるかするまで言い続けます」

 

鼻先が触れるのでは無いかと言うほど体を乗り出したテツナが俺の目を真っ直ぐに見据えながらそう囁く。普段の俺なら照れてすぐ離れるだろうがこれはゲームだ、逃げる気はない。

 

「蓮さんはかっこいいです」

「はいはい」

「蓮さんは優しいです」

「そうですねー」

「蓮さんは賢いです」

「HAHAHA」

 

勝ってる。俺今勝ってるぞ。これはアレだな、そろそろ攻守交代と洒落込んだ方がいいな。

 

「そう言うテツナは可愛いな」

 

言って、後悔した。やってしまった。俺はバカだ。大間抜けだ。筋金入りのアホだ。なぜ学習しない。なぜ周囲に目を向けられない。なぜこの殺気に気付かない。そうだ、忘れていた。俺は……戦場にいた。

 

「ふ、不意打ちはずるいですよ」

 

若干頰を染めながらテツナは照れたように言う。

 

それをきっかけに世界は暗転した。




主人公の外見全く考えて無いんですけど、白髪でストレートですかね。オシャレしたらかっこいい系です。けど基本寝癖付いてる。休日はジャージ。オシャレ?んなもんに金回すくらいならドックフードちょっと高いやつ買うわ

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