「──事態は火急である」
一番隊隊舎にて一番隊隊長、及び護廷十三隊総隊長の『山本元柳斎重國』は重々しく口を開いた。
悠久の時を生き続け、数々の修羅場をくぐり抜けてきたその姿は、例え老いていようとも圧倒的の一言。
元柳斎を中心として、向かい合わせになるように各隊長が並んだその姿は、ピリピリと肌が張り詰めるような威圧感がある。
(やー、まぁったく。居づらいっちゃあありゃしませんや)
そんな中、一人フワフワとした九 花厳が潜り込んでいるというのだから、彼にとっては相当窮屈な現状であるのに違いない。
その上、護廷十三隊所属ではない花厳は隊長たちの横に並ぶ訳にはいかず、結局隊長を挟んで元柳斎の正面に立つ形になる。
総隊長と鬼道長。立場上は同格だとしても、やはり生きてきた年数が違う。正直言って恐れ多い。何より剣八の目が怖い。
そんな花厳の思いを知ってか知らずか、元柳斎は続きを話すため手にした杖で床を叩き、場の緊張感を高める。
「遂に、護廷十三隊の副官を一人欠く事態となった。もはや、下位の隊員たちに任せておけるレベルの話ではない。・・・・・・よってこの事態をうけ、先の市丸の単独行動については不問とする」
しゃがれた声で告げた元柳斎に対し、市丸は糸目を更に細めて胡散臭い笑顔で「おおきに」と一言。
「なお、副隊長を含む上位席官の邸内での斬魄刀の常時携帯、及び戦時全面解放を許可する!」
元柳斎は一度目を伏せた後、ゆっくりと開き、瞳に断固たる決意を宿らせた。
「諸君。──全面戦争と行こうじゃないか」
護廷十三隊。そして、当代鬼道衆大鬼道長。
相手は、尸魂界内に現れた招かねざる客人たち。
数百年ぶりの大事件に、しかしこの事態の裏側で何が起こっていたか、全てを理解出来ている者は現時点、極わずかだった。
■ ■ ■
「──ってぇ訳で、いきなり何がなんだかって感じでしょうが、今ぁこんな状態でさ。しばらくぁ、あんまし外に出んで下さいや」
パンパン、と二度手を打ち鳴らして、鬼道院の大広間の中心に立った花厳は鬼道衆全員に現状を告げた。想像していた通り、どよめきが広がり皆一様に驚きの表情をうかべている。
朽木ルキアの処刑を止めるために来たならば、まず向かう場所は
「まあ、色々不安な事もあるたぁ思いますが、皆さんの安全はぼくがちゃんと保証しますんで」
花厳が外に出る時にはしっかり鬼道院に結界を張るし、何かあったらすぐに伝令機で連絡を入れるよう言ってある。
些か過保護かもしれないが、今回は花厳も嫌な予感がするのだ。昔から彼のこの手のカンは外れたことが無い。
まだ、鬼道衆には戦えるだけの力がついていないのだ。用心していて損はないだろう。
「あ、あのっ。花厳さん、朽木さんの処刑って・・・本当なんですか・・・?」
「ぼかぁ、そう聞いていますなあ」
「・・・・・・そう、ですか」
小さく手を挙げて聞いてきた少女に、偽らず教える。
鎮痛な面持ちで、俯く彼女と同じように何人かは悲しげな顔をしていた。知り合いなのかもしれない。
困ったなぁ、と花厳は頬をかく。
「・・・わ、たし、朽木さんと同期で。その・・・話をしたこととかはないんですけど、いつも真面目で、私みたいな出来損ないとは違って・・・その、凄いなって・・・だから、えっと・・・」
「・・・」
「っ、ごめんなさい、私何言ってるんでしょう・・・」
少女は自分の失言に気づき、慌てて花厳に頭を下げた。ただでさえ、剣術も鬼道にも才能がない自分を拾ってもらった恩があるというのに、これ以上彼に我儘を言おうとしていたのだ。
いくら何でも、それは身勝手が過ぎる。
「そんな顔せんでくださいや。ぼかぁ、君たちが悲しそうなんは見たかぁない」
ぽすん、と頭を撫でられた。はっと顔を上げると、いつも通り鷹揚に笑う花厳がいる。安心させるように、大切に少女を撫でる彼に恋慕の感情はなくとも、そこには確かな愛情があった。
「朽木ちゃんの処刑は、できる限りぼくが元柳斎さんに頼んでみやしょう。・・・それで駄目だったらそん時は──」
「わぁぁぁ、花厳さん大好きですぅぅ!!!」
「あ、ずりぃ!自分もっす!!花厳さん自分も大好きっす!愛してるっすー!!」
「どきなさい!新入りの分際で生意気ね、私のほうが大好きに決まってるでしょう!あい、らぶ、かざりいいいい!!」
「地獄だってお供するぞぉぉぉ!花厳さぁぁぁん!!」
「うわっ、一度に抱きつかんでくださいや!重い重い!!あー!押し倒すな!鼻水つけるな!乗っかるな!そこ喧嘩しなさんな!!」
大勢にもみくちゃにされて、花厳は戦う前からボロボロである。着物も皺々になり鼻水はついてるは、男どもが興奮して脱がされかけるは散々な目に遭った。
皆仲良し。トップがあんなほのぼのした男だからこそ、それが実現されるのだろう。
これが、鬼道衆が『大家族』と呼ばれる所以である。
感想、評価お願いします。m(_ _)m