サンブレイクは楽しみだけど、新作が出るたびに新しく増えた要素が作品作りを悩ませる。
ワールドが出た時も、アイスボーンが出た時も、ライダーズが出た時も、ストーリーズ2が出た時も、ライズが出た時も、今までなかったその作品の新しい要素が過去に書いた話を蝕んでいたのです。
そんな設定が出来たの!?そんなことが出来るようになったの!?そんなものがあるの!?だったらあの時に使いたかった!ってね……。
防具やスキル周りの設定とか、シームレスになったマップとか、記憶石とかその他色々。
小さなものならこじつけられるけど、大きなものだと後出しするのは流石に無理!
そんなわけでこのカムラ回は次回も続くけどサンブレイク要素は一切ありません。(ホモもノンケも人類みな正直)
青々と生い茂る木々、滝が流れ落ちる大きな崖、楽しそうにさえずる小鳥達、優しく辺りを照らす木漏れ日。
そんな美しい大自然の中にポツンと置かれた、太ったカッパのようにもカエルのようにも見える外見をしたカラクリ仕掛けの大きな木造人形。
そのからくり蛙を相手に木刀を振るう一人の少女の姿があった。
「えいっ!えいっ!」
忍者を彷彿とさせるデザインをした紺色の装束に身を包んだ黒髪の小柄な少女。
少女は基本に沿った動きで木刀を振るった後、懐から緑色の甲殻を持った虫を取り出した。
「鉄蟲糸技行くわよ!」
虫は尻尾の先から一本の糸を垂らすと、空に向かって勢いよく飛んでいく。
少女はその糸を掴むことで飛ぶ虫に力いっぱい引っ張ってもらい、その勢いを利用してからくり蛙に跳び蹴りを食らわせた。
「飛翔蹴り……からの!」
少女は空中で木刀を構え直すと、からくり蛙の頭部に落下の勢いを利用して木刀を振り下ろす。
「気刃兜割ィ!!」
少女は木刀をからくり蛙の頭部に叩き付け、そのままバランスを崩すことなく地面に着地することに成功した。
「や、やった!遂に成功したわ!」
気刃兜割が成功したことが嬉しいのか全身で喜びを表す少女。
そんな木刀片手にはしゃぎまわる少女の後方から一人の男性が現れた。
「おーい、愛弟子!」
「あっ、提督!ウツシ提督!」
男性に気付いた少女は振り返ると笑顔を見せる。
現れた男性は彼女の提督、名前はウツシというらしい。
少女の装備とはまた趣の異なる忍者風の装束を身にまとい、腰には狼のような生物のお面を下げている。
「やあ、愛弟子!キミの努力を見ていたよ。遂に鉄蟲糸技が使えるようになったんだね!俺も自分のことのように嬉しいよ!」
「もうっ、また愛弟子って呼んでる!私には葛城って名前があるのよ!」
少女の名前は葛城というようだ。
「はっはっはっ!だけどキミは俺が育てた最初の、そして現状唯一の狩娘だからね。俺の愛弟子に違いないのさ!」
「でも鎮守府には雲龍姉さんと天城姉さんがいるじゃない!それに他にも狩娘はいるでしょ!」
「そうは言っても彼女達はフゲン前提督が育てた狩娘で、俺はそれを引き継いだだけだからね。誰が何と言おうと俺の愛弟子は葛城、キミ以外にいないのさ!」
「ハァ、もういいわ……。」
何度言っても愛弟子呼びを止めようとしないウツシ提督に諦めたのか、葛城は溜息を吐く。
「それより愛弟子!キミは鉄蟲糸技を成功させた!これで狩娘見習いは今日で卒業、名実ともにカムラ鎮守府の狩娘を名乗れるよ!今まではずっとこの修練場で訓練の日々だったけど、今日から実戦に出られるんだ!」
ウツシ提督の言う通り、ここはカムラ鎮守府………………の修練場。
カムラ鎮守府は位置的にはユクモ鎮守府と近い場所にある鎮守府であり、ユクモ鎮守府と同じように和風の雰囲気が漂う鎮守府である。
「せっかく実戦に出られるようになったのに、いつまでも木刀では心許ないだろう?これは俺からのプレゼントだ!」
「これはカムラノ鉄刀!?私にくれるの?やったぁ!やっぱり本物の太刀を持てば身も心も引き締まるわね!」
ウツシ提督が葛城に渡したのは鱗状の模様が特徴的な緑青色をした鉄製の直刀であるカムラノ鉄刀。
カムラは良質な鉄が産出される土地であり、その鉄とカムラ独自の技術で作られた鉄器は他の鎮守府で製造されたものよりも丈夫なものが多い。
このカムラノ鉄刀も例外ではなく、非常に信頼の置ける武器である。
ちなみに武器の他にもカムラ鎮守府はバルバレ鎮守府やセリエナ鎮守府と共同で防具やスキルの研究も行っており、防具やスキルの面でも他の鎮守府の一歩先を行っている。
カムラ鎮守府はその古めかしい雰囲気とは対照的に、様々な新技術を持った次世代鎮守府なのだ。
「喜ぶのはまだ早いよ!プレゼントはこれで終わりじゃない、次のプレゼントはこれさ!」
ウツシ提督はピィーッと音を立てて口笛を吹く。
すると周囲の森がざわめいた後、木々の間から丸っこい中型の鳥が5羽程こちらへ向かって飛んできた。
「よーしよしよし、よく来たね……って痛い!いたたた!?止めて止めて!!」
飛んできたのはまん丸体系のオレンジ色の羽毛を生やしたミミズクのような鳥達。
しかし集まった鳥達は何が気に入らないのか自分達を呼んだはずのウツシ提督を蹴ったり突いたりと執拗に攻撃し続ける。
やがて気が済んだのか、鳥達は攻撃を止めると葛城の前に降りて一列に並んだのであった。
「ふぅ、酷い目に遭った……。さてこの子達はフクズクというんだ!愛弟子も鎮守府で何度か見掛けたことがあるだろう。カムラの狩娘はこのフクズクをパートナーにして周囲の索敵をさせているんだ!狩娘デビュー記念に愛弟子にも一羽あげよう、このフクズク達の中から好きな子を一羽選んでくれ!」
フクズク達から攻撃を受けたことで若干やつれたウツシ提督は一旦置いといて、葛城はフクズクを一羽ずつ吟味していく。
「どの子がいいかなぁ?うーん、この子は何か違う。この子もピンと来ないなぁ。こっちの子は……うん?」
フクズクの列の一番端、そこに一羽だけ明らかに雰囲気の違うフクズクがいた。
フクズク特有のオレンジ色ではなく、葛城の装備と同じような深い青色をした羽毛。
大きく発達し、後方に長く伸びた羽角。
クリクリとした黄色い瞳を持つ他のフクズクとは違って目の色は赤く、目付きも若干悪い。
翼には小さな爪まで生えており、外側にある三枚の風切羽に至ってはまるで刃物のように硬く鋭く変化している。
この不思議なフクズクに葛城の目は釘付けになった。
「この子よ!私このフクズクにするわ!」
葛城は青いフクズクを抱き上げる、フクズクの方もまんざらではなさそうだ。
それを見たウツシ提督はフクズクが葛城を受け入れたことに安心しつつも、そういえばこんな色のフクズクなんていたっけ?と内心で首を傾げていた。
「あなたの名前はセイちゃんよ、青いからセイちゃん!セイちゃんよろしくね!」
「ホー。」
セイちゃんと名付けられた青いフクズクは葛城の左肩に飛び移ると、そこを定位置と決めたのか大人しくなる。
「よし、パートナーとなるフクズクも決まったね!それでは次行ってみよう!」
葛城とセイちゃんを連れて修練場から出ていくウツシ提督。
その後ろ姿を見送ったフクズク達は静かに森の中へと戻って行った。
ウツシ提督に連れられて葛城がやって来たのはオトモ広場。
修練場はオトモ広場から川を船で渡った場所にあるので厳密には戻ってきたと言うのが正しい。
「さて、これから第二のパートナーを選んでもらおう!」
「第二のパートナー?」
「カムラの狩娘のパートナーはフクズクだけじゃないんだよ!第一のパートナーであるフクズクが索敵をしてくれるのに対して、第二のパートナーは戦闘そのものを手助けしてくれるんだ!」
そう言いながらウツシ提督は両手をパンパンと鳴らす。
するとその音が合図となったようで、周囲の茂みや木の上から次々と犬のような生き物が飛び出してきた。
「あっ、ガルク!」
「そう、ガルクだ。前提督がいつも連れているカエンとは愛弟子も遊んだことがあるだろう?だけどこのガルクはただのペットじゃない、狩りを助けてくれる心強いパートナーなんだ!俺ももちろんライゴウという名前のガルクをパートナーにしている、狩場では何度も助けられたことがあるんだよ!だから愛弟子にもパートナーとなるガルクを決めてもらうよ。カムラの技術で鍛えた武器とフクズク、そしてガルク。この三つを揃えて初めて出撃が許可されるんだ!」
「うーん、この中から選ぶのかぁ……。」
フクズクの時と同じように一頭ずつガルクを吟味していく葛城。
しかしやはりピンとくる個体はいない。
とはいえガルク抜きでは出撃の許可が下りないようだし、この際妥協してでも選ぶべきかと葛城が考えていると……。
「ホー!?」
今まで大人しかったセイちゃんが突然騒ぎ出し、葛城の肩から飛び立った。
「セイちゃんどうしたの?どこへ行くの!?」
急に飛び立ったセイちゃんに慌てた葛城だったが、セイちゃんはすぐ近くのオトモ広場と修練場を隔てる川のほとりに降り立った。
セイちゃんが遠くに行かなかったことに安心した葛城だったが、セイちゃんが川の上流を眺めていることに気付いた。
「何か見えるの?」
葛城がセイちゃんに釣られるように川の上流へと目を向けてみるとそこには……。
「何あれ?」
どんぶらこどんぶらこと赤い色をした犬のようなものが流れてくるではありませんか!
「ひょっとしてガルクが溺れているの?だったら助けなきゃ!」
葛城は狩娘特有の能力で川の水面に降りると赤いガルクを抱き上げる。
「お、重ッ!?」
一般的なガルクですら大人の男性より大きな体格をおり、見た目以上に重たいのだ。
ましてやこの赤いガルクは普通のガルクよりも大きく、しかも水に濡れたせいでことさら重い。
しかし葛城も意地と根性で持ち上げ、どうにか岸まで運ぶことに成功した。
「はぁはぁ……。」
「愛弟子、お疲れ様!ところでそのガルクのことなんだけど……。」
運んだガルクを葛城とウツシ提督は眺めるが、ピクリとも動かない。
しかもそのガルクは全身に皮膚も毛皮もなく、頭から尻尾の先まで赤い筋組織が剥き出しになってしまっており非常にグロテスクである。
川を流れるうちに岩に何度もぶつかったり、魚にかじられたことで皮膚が剥がれてしまったのかもしれない。
まぶたのない瞳も白く濁っており、これはもう死んでしまっているのだと葛城は考えた。
しかし水死体となったこのガルクの観察を続けていると、どうやらこの赤い身体は硬質な外皮で構成されたものであり、皮膚が剥がれたのではなく最初からこのようになっていたのだということに気が付いた。
皮膚以外にも普通のガルクとは大きく違う点がいくつもある。
例えばこの太くて長い、松かさのような甲殻で覆われた尻尾。
ガルクの尻尾は毛で覆われていて分かりにくいが、尻尾そのものは細くて柔らかい上に、長さもそれほどでもない。
このガルクが大きいのは運んだ時点で分かっていたが、尻尾の先まで含めると全長5メートル以上はありそうだ。
もう一つは一目見ただけで高い咬合力を感じさせる大きく発達した筋肉質な頭部、そして口を閉じても口の外にはみ出る太く鋭い牙。
ガルクは細面であり、口を閉じれば当然牙は見えなくなる。そもそもガルクの牙はここまで太くはない。
そして一番異様なのは二層構造になった、まるで大型ナイフのような鋭いカギ爪。
驚くことに爪の数は全部で十本もあり、上に生えている四本の爪はただ鋭いだけだが、下に生えている六本の爪にはノコギリのようなギザギザの刃が生えており、引っ掻くを通り越して相手をズタズタに引き裂く恐ろしい凶器になっている。
ガルクの爪は走る際に地面をしっかりと踏み込むのに使用するものであって、相手を引っ掻くことには使用しない。なので爪は短いし、引っ掻かないのだから鋭さも必要ないのだ。
「見れば見る程変わったガルクね……。」
「いや、どう見てもそれガルクじゃなくてモン……。」
「あっ、動いた!」
葛城はこの赤い水死体をガルクだと思っているようだが、ウツシ提督はどんな角度から見てもこの生物がガルクには見えない。
なのでそのことについて突っ込もうとした瞬間、水死体の足がピクリと動き、葛城がそれに気を取られたことでウツシ提督のツッコミは未遂に終わった。
どうやらこの赤いガルクは水死体ではなく、溺れて気を失っていただけのようである。
「ワゥ?」
「大丈夫?起きられる?」
「ワゥ!?グルルルル!!」
目を覚ました赤いガルク。
葛城は介抱しようと近付くが、赤いガルクは葛城を警戒し近付けまいと長い尻尾を逆立てながら威嚇する。
他のガルク達は敵意剥き出しの赤いガルクを取り囲み、逆に威嚇し返した。
状況は正に一発即発、いつ戦いが始まってもおかしくない。
(ど、どうしよう!?このままじゃガルク同士で喧嘩になっちゃうじゃない!こういう時どうすれば……。)
この場を収めるべく頭を働かせる葛城、そしてふと思い付いた。
桃太郎は犬をきび団子で仲間にしていたと……。
(このガルクはどんぶらこどんぶらこと川を流れてきたんだ、だったらヒントは桃太郎よ!桃太郎はきび団子だけで野生動物のサルやキジすら仲間にしたでしょ、だったら最初から人に飼われている犬を仲間にするのなんて朝飯前よね!ガルクだって犬みたいなものでしょ、だったら食べ物を与えれば言うことを聞くはずよ。これで仲間に出来なかったら世界の方が間違っているわ!)
何一つ筋の通らないトンチンカンな発想だが、テンパってマトモな判断力を無くした葛城にはこれが正しい選択のように思えた。
ポーチにはきび団子こそ入っていないものの、肉焼きの練習に使った生肉の余りが入っている。
それに腹が膨れれば精神的に落ち着くし、食料を貰えたことでこっちが敵ではないと理解して貰えるかもしれない。
「これ、食べる?」
葛城はそっと赤いガルクの前に生肉を置く。
ガルクは警戒しつつもその匂いを嗅ぎ、やがて異常がないと判断すると肉を食べ始めた。
「そうそう、食べていいよ。私はあなたの敵じゃないからね。ほらみんなも落ち着いて、この子は悪いガルクじゃないわよ。」
赤いガルクを落ち着かせるように優しく声を掛ける葛城。
赤いガルクが食事をしている間に、他のガルクも落ち着かせる。
腹が減っていたのか肉はあっという間に無くなり、食べ終えたガルクはまるでエネルギーの充填を終えたとでも言わんばかりに全身を赤熱化させ、口からは蒸気のような白い呼気を漏らす。
見るからにヤバそうな姿へと変貌した赤いガルクだが、内心は落ち着きを取り戻したのか威嚇を止めており、葛城のことを白く濁った瞳で見つめている。
「私がね、溺れていたあなたを助けたのよ。私はあなたの味方よ!それでね、恩を売るわけじゃないけど私のパートナーになってくれないかな?あなた、私が今まで見てきたガルクの中で一番大きくて立派よ。あなたが私のパートナーになってくれればこれからの生活がきっと楽しくなると思うわ!あ、もちろん断ってもいいわよ!断ったからって苛めたり追い出したりしないわ!」
まだ慌てているせいか早口で赤いガルクに語り掛ける葛城、だがその心はしっかりとガルクに伝わったようだ。
ガルクはそっと葛城の顔に鼻を擦り付ける。
「クゥン。」
「いいの?やったぁ!契約成立よ!」
喜ぶ葛城は赤いガルクのゴツゴツとした首周りに思い切り抱き着く、ガルクは嫌がるそぶりも見せずにされるがままになっている。
これは完全に認められたと思って間違いないだろう、葛城のテンションはもはや天井知らずである。
「これであなたは私のガルクよ、後悔はさせないわ!力を合わせて戦いましょう!よし、あなたの名前はモモちゃんに決めたわ。よろしくねモモちゃん!」
「ワオォォォォォン!!」
赤いガルク改めモモちゃん、いい名前を付けたと葛城もご満悦である。
名前の由来は桃太郎からなのだが、葛城の内心を知らないウツシ提督からしてみればどうして名前がモモちゃんに決まったのかサッパリ分からない。
しかも可愛いガルクではなく、こんな不気味な外見の謎生物をパートナーに選んだ葛城の感性には変わり者として知られるウツシ提督でも少し引いた。
しかし敵意を向けてくる相手に臆することなく歩み寄り、恐ろしい見た目に左右されることなく和解して見せたその姿は彼女の可能性を感じさせるものでもあった。
「我が愛弟子よ、オレはキミの成長が誇らしいよ!ただ強いだけじゃない、優しさも兼ね備えたキミならカムラ一番の狩娘になることだって夢じゃない!いや、全鎮守府で一番の狩娘になることだって夢じゃないさ!キミの未来は明るく輝いているよ!それに俺も全力で応援している!師匠として、提督として!いつでも、いつまでも!どこでも、どこまでも見守っているよ!!」
葛城に流石にうるさいと思われていたことは秘密である。
赤いガルク(?)のサイズはワールドのイベントクエスト『ラッシュ大騒動!!?』に出現する一体目のモンスターと同じです。