天龍ちゃんと狩娘   作:二度三度

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MH-Rのサ終も残り一ヶ月ちょいですね。

少なくとも自分は全く課金しなかったからサ終になるのもやむなしか。

シナリオや主要キャラについて知りたかっただけで、強いライダーやオトモンに全然興味なかったから仕方ないね。




天龍ちゃんと炭鉱夫3

 

 

 

 

 

天龍が出撃して一人になった龍田はそのまま鎮守府に残って農場の世話をしたり、設備のメンテナンスを手伝うなどして過ごしていた。

やがて今日の内に出来そうな仕事もなくなり、自室に戻ってのんびりしていると部屋の扉が開く。

 

「ただいまー。」

 

扉を開けて中に入ってきたのは天龍。

顔や手足には土埃や煤汚れが付着したままになっており、如何にも採掘から帰ってきましたと言わんばかりの風体である。

 

「天龍ちゃんお帰り~、採掘の方はどうだった?」

 

「それがさぁ、今度はちゃんと燃石炭掘れたんだけどよー。代わりにお守りが一個も出てこなかったんだよなぁ。」

 

お守り目当てで採掘クエストを受けたのに肝心のお守りが一つも手に入らなかったことで天龍の顔には不満の色がありありと見える。

 

「フフフ、それが物欲センサーよ。欲しいと思ったものに限って入手難易度に関係なく全然手に入らなくなる、物欲センサーはそんな不思議な現象を引き起こすわ。レアな素材はもちろん、本来なら簡単に集められる雑多な素材の入手率にすら干渉する。この現象に苦しめられたことのない狩娘なんて私の知っている限りじゃゼロね。全ての狩娘にとって……いえ、全人類にとっての敵と言ってもいい存在じゃないかしら?」

 

「ぜっ、全人類の敵!?そんなにか!?」

 

龍田の発言に慄く天龍。

ただの言葉の綾なのに本気で深海棲艦と同等か、それ以上の脅威だと思っているらしい。

天龍が何を考えているのか手に取るように分かった龍田は笑いを堪えながらも話を続ける。

 

「全人類は流石に言い過ぎだったかしらぁ?人命に関わるようなものでもないしね。でも迷信扱いしていた天龍ちゃんもその身に染みたんじゃない?さっきの出撃で燃石炭を欲しがったときは燃石炭が、今回の出撃でお守りを欲しがったときはお守りが出なかったでしょう。」

 

「まぁな、今朝の出撃では全く出なかった燃石炭がザクザクと掘れた時には目を疑ったぜ。まるで神様かそれに準ずる何者かが嫌がらせ目的で出てくるものを操作してんのかと思うくらいにはな……。」

 

そう言う天龍の表情は苦虫を噛み潰したかのようである。

信じていなかったはずの物欲センサーに翻弄されたのが相当堪えたようだ。

 

「なぁ、物欲センサーを防ぐ方法ってないのか?」

 

「そうねぇ、聞いた話によると無欲な人はセンサーの魔の手から逃れられるそうよ。だから全ての欲を捨て去るためにも、心を無にすればいいんじゃないかしら?」

 

「心を無にィ!?それって悟りの境地ってことじゃん、んな無茶な!」

 

心を無にしろと言われて実際に無に出来る者が、果たしてこの世にどれだけいるのだろうか?

仏教の教えの下に日々辛く厳しい修行に励んでいるお坊さん達が目指しているのが、全ての煩悩を捨て去った悟りの境地なのだという。

世界中のお坊さんが修行の果てにようやく行きつくとされる悟りの境地に、修行と全く縁のない狩娘が素材集めの片手間に辿り着こうなど無理な注文である。

 

「まぁそうよねぇ、そもそも欲がなかったら素材集めなんてやらないだろうし……。後は地道に回数を重ねることかしら。物欲センサーの呪縛も完全ではないから、何回も繰り返しやっていればその内手に入るかもねぇ。」

 

「何回もって具体的には何回なんだ?」

 

「何回もは『何回も』よ、明確な数値なんてないわ。目的のものが出てくるまで、そして自分自身が満足するか諦めるまで何回もやり続けるからこそ『何回も』なのよ。」

 

「マジかよぉ……。」

 

ゲッソリとした顔となって、その場にへたり込む天龍。

終わりがないのが『終わり』という採掘・苦行・レクイエムの片鱗に振れたことで、ようやく自分が目指していたものの実態を知り、へこたれてしまったのだろう。

 

「ホラ、立って立って。まだお風呂に入ってないし、それにご飯も食べてないんでしょう?今日の疲れは今日の内に癒して明日に備えるのが狩娘の基本よ。お風呂に入ってリフレッシュして、ご飯を食べてエネルギーを補給をして、温かい布団でグッスリと眠る。そうやって今日の疲れを全部消せば、明日元気に出撃出来るでしょう。」

 

「ウン……。」

 

脱力した天龍に肩を貸して廊下を進んでいく龍田はさながら介護人である。

お守り掘りの不毛さを知る龍田としては、天龍がこれに懲りたことで明日から普通に狩りに行ってくれることを願いながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌朝……。

 

「ふぅん、このアイテムを作成するにはこのレシピが……。」

 

バァン!(大破)

 

「ひゃっ!?」

 

「龍田ぁーーーッ!!」

 

「て、天龍ちゃん!?どうしたのその格好!?」

 

自室で調合書を読んでいた龍田の前にドアを蹴破って現れたのは提督指定の水着、要するにユクモ鎮守府でお馴染みの潜水艦娘が着ているスク水に着替えた天龍。

ご丁寧に腕装備や足装備まで外しており、残っているのは天龍のアイデンティティーとも言える頭装備の角付き眼帯のみである。

腕装備や足装備を外すことに何の意味もないどころか防御力が下がるだけなので損しかしていないのだが、形から入るタイプなのだろうか?

自分がスク水になっていることが恥ずかしいのか天龍の顔は若干赤くなっており、龍田的にはそんな天龍の可愛い姿が見られたことにごちそうさまと言いたいところではあるが、今回ばかりはいきなり想定外な姿で現れたことにより面食らってしまいそれどころではない。

 

「オレ分かったんだよ!」

 

「分かったって何が?」

 

「昨日寝る前に色々と調べたんだ!昨日は何も考えず普段通りの格好で採掘してたけど、採掘には採掘に相応しい格好があるんだってことが!いわゆる採掘時の装備というか制服ってヤツ、それがこの提督指定スク水なんだよ!」

 

「あぁ、そういうこと。そうね、確かにスク水には採集と高速収集のスキルがあるものね。」

 

「だろ?これを装備して採掘に行けば昨日よりも多くのアイテムが素早く手に入るって寸法さ。」

 

ここまで聞いて龍田もようやく天龍が何をしたがっているのかピンときた。

 

「ちょっと天龍ちゃん!?まさか今日も採掘に行くつもり?」

 

「おう!お守りを掘りに行くんだぜ!」

 

「えぇ!?昨日あれだけやる気をなくしてたというのにどういう心境の変化なの?」

 

昨日ふにゃふにゃになった天龍に肩を貸した龍田としては、再び天龍がやる気になっているこの現状は受け入れがたいものがある。

 

「風呂入って飯食ったことで一度頭が冷えたんだよ。努力なくして成長なし!オレは今の俺よりも強くなるためにお守りを掘る努力をするぜ!」

 

「何でそう悪い方向に思い切りがいいのよ。そういうのは頭が冷えたんじゃなくて、喉元過ぎれば熱さを忘れるっていうのよ。それに今日は昨日と違って深海棲艦がいるのよ?」

 

「熱が下がったのならどっちも同じようなもんだろ。それと今日は深海棲艦がいるっつっても本来はいるのが普通なんだろ?それじゃ止める理由にはなんないぜ!そういうわけで行ってくるぜ、採掘がオレを呼んでいるゥ~!」

 

龍田の苦言も全く気にせず廊下の奥へと消えていく天龍。

去り行く天龍の後ろ姿にため息しか出ない龍田なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の夕方……。

 

「天龍ちゃんは昨日に続いて今日もお守り掘りかぁ、大丈夫かしら……。」

 

ガチャ……。

 

「龍田ぁ……。」

 

「て、天龍ちゃん!?どうしたのそんなにボロボロになって!?」

 

本日のクエストを終わらせて自室で翌日の準備をしていた龍田。

そこへ昨日と違ってゆっくりと扉を開けて部屋に入ってきたのは、ボロボロにやられて見るも無惨な姿となった天龍であった。

動きもフラフラと精彩を欠いており、一目見ただけで尋常な状態ではないことが分かる。

 

「オレ分かったんだよ……。」

 

「分かったって何が?」

 

「納品している内に気付いたんだよ。昨日は何も考えず普通に採掘地点とベースキャンプを往復して納品してたんだけど、納品っていうのは指定数のアイテムを納品したという結果さえあれば過程はどうでもいいんだってことに……。」

 

「まぁ、確かにそうね。」

 

「だろ?で、一秒でも早く納品する方法を考えている内にこの結論に辿り着いたんだ。」

 

「辿り着いたってどこに?」

 

この時点で嫌な予感しかしないものの、一応龍田は続きを促す。

 

「基本的にクエストは3回やられるまで失敗にならない。やられた狩娘は死なずにベースキャンプに運ばれる。納品ボックスはベースキャンプにある。ここから導き出される答えは一つ。アイテムを集め終わってからワザとやられればすぐにベースキャンプに戻れるから移動の手間が省けるってことだ!」

 

「あぁやっぱり……。」

 

天龍が行ったのはいわゆるデスルーラと呼ばれるもので、本人の言う通りワザとやられることですぐにベースキャンプに移動するテクニックである。

どうりで納品という難易度の低いクエストに出ている割にボロボロになっているわけだ。

 

「やられたことで報酬金は減っちまうけど、オレの目的はお守りを掘ることだからな。ちょっとやそっと報酬金が減ったって気にしないぜ。移動時間を短縮出来る方がさっさとクエストを終わらせられて得だからな。」

 

「いや、流石に自分の身を削るやり方はどうかと思うわよ。それにモドリ玉使えば一緒じゃない。」

 

「モドリ玉の素材を集める方が大変だろ?そんな暇があったら採掘に行くぜ。」

 

「じゃあこれから採掘に出るたび毎回ボロボロになるっていうの!?」

 

「ヘーキヘーキ、これも必要経費ってヤツさ。それに今日の疲れは今日の内に癒して明日に備えるのが狩娘の基本だって龍田も昨日言ってただろ?お風呂に入ってリフレッシュして、ご飯を食べてエネルギーを補給をして、温かい布団でグッスリと眠る。そうやって今日の疲れを全部消して、明日も元気に採掘に行くんだぜ!」。

 

「いや私そういう意味で言ったんじゃ……。」

 

「そんじゃ風呂入ってくるからまた後でな~。」

 

龍田の苦言を気にすることもなく、ボロボロのスク水姿のまま廊下の奥へと消えていく天龍。

去り行く天龍の後ろ姿に頭痛を覚える龍田なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に翌朝……。

 

「天龍さん、最近は燃石炭の納品クエストにしか行っていないようですね。」

 

天龍は神通に呼び出されて執務室にいた。

ちなみに天龍は当初、朝食後にすぐさま出撃するつもりだったのでスク水姿のままである。

 

「秘書艦の私がクエストの管理も兼任している関係上、誰がどのクエストに出ているのかはすぐに分かります。天龍さんはここ数日納品しかしていません。」

 

「まぁその通りなんだが、それってダメなのか?」

 

「絶対にダメというわけではありませんが、我々の第一の目的は深海棲艦を狩って周囲の海域の安全を守ると共に環境の調査を行うというものです。決して全ての行動を縛るつもりはありませんが、多少なりとも鎮守府の目的に沿って活動していただけなければ困ります。」

 

真面目に説教をする神通だが、叱られている天龍がスク水姿のままなので傍から見ると非常にシュールな光景である。

 

「分かったよ、じゃあ今日は納品クエストじゃなくて狩猟クエストに出るよ。」

 

「分かってくれましたか!」

 

「あぁ、だけど念のため聞いておくけどクエストっていうのは結果良ければ全て良しだよな?」

 

「そうですね、防衛クエストでワザと手を抜いて防衛対象を崩壊寸前まで破壊されるようなことがあったり、明らかな違反行為や迷惑行為を行った場合であればクエストを成功させたとしても注意や罰則の対象となりますが、基本的には結果が全てです。クエストを成功さえしていただければ問題はありません。」

 

天龍が何を言いたいのか分からない神通は明らかに疑問の表情を浮かべている。

しかし一方の天龍は言質は取ったと言わんばかりに軽くガッツポーズをしてみせた。

 

「じゃあせっかく執務室にいるんだし、このままクエストの受注していくわ。つーわけでこれを頼む。」

 

「えっ、これですか?」

 

天龍が受注したクエスト。

それは例の海域で小型の深海棲艦を数体狩猟するという簡単なものであった。

 

「ダメなのか?」

 

「……仕方ありませんね。それに大型種ばかりにかまけて小型種を放置するのもよくありません。高ランクの狩娘ほど大型種のクエストばかりで小型種のクエストを受ける回数が減る傾向にありますから、小型種の増加を防ぐためにもこういったクエストを受注するというのは大切なことです。しかしだからと言って小型ばかり相手にしてもらっても困りますよ?」

 

「わーってるわーってる、次回は他のクエストとかも受けるからさ。じゃあな!」

 

狩猟さえしてもらえればいいと言った手前、強く天龍を引き留められない神通は部屋を出ていく天龍の背中を見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今までの一連のやり取り、それを龍田は隣の部屋に潜んでこっそりと聞いていた。

 

「天龍ちゃんったら、適当に弱い深海棲艦を狩りつつ同時に採掘をするつもりなのね……。」

 

悪知恵を働かせてまで採掘に勤しもうとする天龍の姿に、龍田は呆れを通り越して感心すら覚えた。

この鎮守府一番の実力者であり、仕事をしない提督に変わって鎮守府の全権を握っている秘書艦の神通相手によくやるものである。

 

「頼みの綱の神通さんですら止められないのなら仕方がないわ。こうなったら私が何とかしなくっちゃ!」

 

天龍の採掘狂い、それを直すべく龍田は決心を固めるのであった。

 

 

 






下位でお守り掘りとか効率悪いとか言わない。

ちなみに仏教の件は適当です。



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