黒王ネロ「やみのま!」
フェルジア大陸は熊本県だった?
小人達の導きにより横穴へと逃げ込んだ天龍達。
そのまま腹這いになって進んでいくとやがて広い場所へと出た。
「ウィーキッ!」 「キッキー!」 「キィー!」
「うわぁ、小人がいっぱいいる……。」
「うーん、これも調査の一環だし写真撮ってもいいのかな?いやでも勝手に撮ったら流石に怒られるよねぇ。」
そこは小人達の集落であった。
広い空間には仕留めた獲物のものと思われる骨や毛皮が多数あり、彼らの武器であるモリやハンマーなどもそこら中に置かれている。
洞窟の奥ではあるが窓の代わりなのか壁に直径2メートルくらいの大きな穴が開けられており、そこから外の冷たい空気と光が入り込んでいる。
至る所にいる小人達は全員天龍達のことを観察するように見つめており、少し居心地が悪い。
天龍達を横穴へと案内してくれた小人は二人を集落の中央まで連れてくると、姿勢を正しながら二人の方へ向き直った。
「ウィッキー!ウーイッ!ウィッ!」
「「えっ?」」
「ウィッウィッ!ウィキー!」
「何言ってるの?天龍分かる?」
「全然分からん?……って何だ!?アイテムポーチが勝手に!?」
小人は二人に向かって何かを喋っているのだが二人にとってはウィキウィキとしか聞こえず、何を言っているのかさっぱり分からない。
言語の違いというブ厚い壁に阻まれて異文化コミュニケーションに大苦戦していると、突然天龍のアイテムポーチがモゾリと動いた。
驚いた天龍がポーチに手を入れてみると、何やら硬質なものに手が触れる。
こんなもの入れたっけと思いつつもそのまま掴んで引っ張り出せば、中から出てきたのは紫色の塗装がされた隻眼の長10㎝砲ちゃん。
「ヤァ旦那サン!オ困リノヨウダネー!」
「えっ、お前はマサムネ!?」
彼は天龍のオトモであるマサムネ。
マサムネは戦いの苦手な平和主義者のオトモであり、天龍は普段から彼を狩猟には連れて行かずに交易をさせていた。
当然今回のクエストにも連れていくつもりはなかったのだが……。
「お前何でアイテムポーチの中なんかにいるんだよ!?そもそもいつからそこにいたんだ!?」
「今回ノ出撃デ旦那サンガ困ッタコトニナル予感ガシタンダゾー。ダカラ旦那サンヲ助ケスルタメニ鎮守府ヲ出ル前カラ、コッソリアイテムポーチノ中ニ潜ンデイタンダゾー。」
アイテムポーチはいわゆる四次元収納空間となっており、明らかにポーチに入りそうもない大きな物や重い物でも詰め込むことが出来る。
マサムネはこれを利用して、天龍にバレずにこっそり着いてきたのだった。
「勝手に着いてきたのかよ、着いてきたいなら普通にオレに言えばいいじゃん。」
「コノ島ハモンスターガイルカラ、普通ニ歩クト戦闘ニナッテシマウンダゾー。ダカラ隠レテ行ク必要ガアッタンダネー。」
「メガトン構文やめろ、そんなに戦いたくねーのかよ。」
「ソンナコトヨリ旦那サン、言葉ガ通ジナクテ困ッテルンデショー?コンナコトモアロウカト、着イテキテ正解ダッタゾー。」
「こんなこともあろうかとって、お前何が出来るんだよ?」
「フッフッフッ、実ハボクコウ見エテ世界中ノ言語ニ詳シインダヨ。」
「マジで?」
「彼ラノ言葉モバッチリ分カルヨー!ボクガ通訳スルカラ任セテネー!」
マサムネはそう言うと小人の元へ行き話し合いを始めた。
天龍の耳にはお互いにウキャウキャ言っているようにしか聞こえないが、話はちゃんとまとまったようで、マサムネは自信に溢れた顔で天龍の横に戻ってきた。
『ワレラはボワボワ、遥か昔からこの地に住まう戦士の一族ダ。』
「私はクロオビ鎮守府の川内、こっちは同じくクロオビ鎮守府の天龍。」
毛皮の小人は自らのことをボワボワと名乗った。
尤もこれはマサムネの翻訳によるものなので翻訳そのものが間違っていたらどうしようもないのだが、その可能性は考えないことにする。
あまりそのような意識はないが、一応鎮守府の先輩狩娘として川内が話し合いの場に立つ。
『センダイにテンリュウか、覚えタ。センダイとテンリュウ、キミラは狩人カ?』
「違うよ、私達は狩娘。今の時代に狩人は多分いないんじゃないかな?」
天龍がクロオビ鎮守府で建造されたその日、神通にかつてこの島には狩人と呼ばれる者達が存在していたということを説明されていた。
強大なモンスターを狩猟することを生業とする狩人、そしてその勇猛な魂を受け継いだ艦娘を狩娘と呼ぶのである。
『そうか、狩娘というのカ。とはいえキミラが持っている武器はワレラが知る狩人とよく似ていル。その武器は巨大なモンスターを狩るのに使っているのダロウ?』
「うーん、モンスターよりも深海棲艦を狩る方がメインなんだが大体そんなところかな。」
『ならばキミラも狩人ダ。』
「うん?」
よく分からないうちに謎の理屈で狩人認定された川内達だが、ボワボワはそのまま話を続ける。
『つい先日までこの島に一人の狩人がいたのダ。大きな剣を背負い黒く長い髪をした女の狩人。彼女はキミラの同胞カ?』
「ひょっとしなくてもそれって長門のこと?」
『ナガト?』
「長門は同じクロオビ鎮守府に所属してる私達の仲間で、任務でここの島を調査してたんだよ。私達は長門と入れ替わりでこの島の調査に来たの。」
『なるほど。チンジュフというのが何なのかは知らないガ、ナガトと呼ばれる狩人がキミラの同胞だということが分かればそれで充分ダ。』
長門について情報を得たボワボワの雰囲気が変わる。
『ワレラは見ていタ、キミラのことをずっと見ていタ。キミラがこの島に上陸して、そしてあの洞窟でピンチになるまでずっと見ていたノダ。』
「見てた?私達をずっと監視していたってこと!?」
『そうダ、そしてワレワレはキミラと同じようにそのナガトの様子もずっと見てイタ。それを踏まえた上で言わせてもらウ。』
「な、なんだと!?」
いきなり侮辱されたことに天龍達は唖然とするが、ボワボワは話を続ける。
『ナガトは素晴らしい戦士ダ。彼女は雪獅子の手下の群れを相手にたった一人で全滅させ、その直後に乱入してきた白兎獣も休むことなく戦い返り討ちにシタ。巨獣は相手にたまたま敵意がなかったとはいえ、臆することなく近付き抜け毛を採取シタ。雪鬼獣とも互角の勝負を繰り広げ、最終的にはヤツの片腕の鉈氷を破壊することで追い返したのダ。』
「雪獅子?白兎獣?巨獣?雪鬼獣?川内、何のことか分かるか?」
「きっと長門がこの島で調査したモンスターのことだと思う。雪獅子はさっきのブランゴ。白兎獣はウルクススじゃないかな?巨獣は毛を採ったって言ったしきっとガムートだね。雪鬼獣は腕の鉈氷って言ってたから多分ゴシャハギのことだと思う。全部ノートに書いてあるから後で見せてあげる。」
聞きなれない名前を連続で出されたが、それらはどうやら長門が調べたモンスターのことのようだった。
『ワレラの先祖はかつてゴキダンと名乗る一人の狩人と友となり、共に狩場を駆けたことがあったそうダ。』
ゴキダンなんて変な名前だなぁと天龍は思っているが、実際は五期団というのはその狩人が所属していたチームの名前であり、狩人本人の名前ではない。
しかしそもそものボワボワが勘違いをしており、誰も訂正することなく話は進んでいく。
『ゴキダンは強く勇敢な素晴らしい戦士ダ。ワレラはゴキダンの友となったことを今でも誇りとしており、今でも一族に語り継いでイル。ナガトも同じく強く勇気のある戦士ダ、ワレラは強きモノを貴ぶのダ。だがキミラは逃げてばかりダ。キミラは二人なのにナガトが一人で倒した雪獅子の手下からすら逃げ出しタ。キミラは本当にあの勇敢なナガトの同胞なのカ?とてもナガトと同じ戦士には見えナイ。』
「てめぇら、オレ達が腰抜けの臆病者だって言いてェのか!?」
ボワボワの言いたいことを理解し、その内容に腹を立てて喧嘩腰になる天龍。
だがボワボワはそんな天龍の怒りをも軽く受け流す。
『違うのカ?この地は誰もが常に戦ってイル、大人しく争いとは無縁そうな草食獣ですら生き残る為に戦い続けているのダ。最初から戦うことを放棄した弱きモノにこの地はふさわしくナイ。弱きモノがこの地にいることは許されナイ。今回はワレラが助けたガ、キミラがこのまま逃げ続けていけばいずれ逃げ切れなくなり命を落とス。悪いことは言わナイ、命が惜しくば即刻この地から出ていきタマエ。』
「好き勝手言いやがって!帰れとかてめぇら一体何様のつもムグッ!?」
「落ち着いて落ち着いて、ここは私が話すから。」
完全に頭に血が上った天龍は啖呵を切ろうとするが、このまま喧嘩されては話がこじれて任務どころじゃなくなると思った川内は慌てて天龍の口を塞ぐ。
「狩娘の役目は自然の調和を保つことなの。自然の存在ではない深海棲艦ならいつでも狩るけど、意味も無く何の罪もないモンスターを狩ることは禁じられてる。それは自然の調和を乱すことだから。長門が色んなモンスターを狩っていたのは生態調査の任務があったからで、それに報告でも必要以上の狩りはしなかったと聞いてるわ。何より私達の任務は長門とは別だから、消耗を避けるためにも無駄な戦闘はしたくなかったの。」
『つまりキミラは目的のために逃げざるを得なかっただけで、本当は勇敢な戦士だと言いたいのカ?』
「そう!それに逃げ切れなかったらちゃんと迎え撃つ気もあったんだよ。私達は極端に言えば戦うために生み出された生まれながらの戦士!いや本当は戦士じゃなくて兵士なんだけど……。とにかく私達は伊達や酔狂で狩娘や艦娘なんて名乗ってるワケじゃないんだよ。」
『フム……。』
川内の話を聞いたボワボワは少し考えた後に、再び口を開く。
『ならばキミラの勇気をワレラに示すのダ。そうすればワレラだけでなく、この地もキミラのことを認めるダロウ。』
「勇気を示すっていっても何すればいいの?何かモンスターを狩ってみせればいいの?」
『そうダ、大物を仕留めるのダ!キミラの力を見せてミロ!』
「だったら丁度いいや、私達の任務はこの背ビレの持ち主を調べることなんだよ。もしこの背ビレの持ち主を狩ったら私達のことを認めてくれる?」
『なるホド、コイツカ……。運命的なものを感じるナ、ワレラの先祖とゴキダンが初めて共に戦った記念すべき相手もこのモンスターだったそうダ。いいダロウ。ワレラにとっても感慨深いこのモンスター、コイツを狩ればワレラはキミラのことを立派な戦士だと認めヨウ。』
川内は例の背ビレの写真を取り出してボワボワに見せた。
どうやらボワボワはその写真の相手と因縁があるようようで、狩りの相手に相応しいと判断したようだった。
「ひょっとしてこの背ビレの持ち主のことを知ってるの?だったら詳しく教えてほしいんだけど……。」
ボワボワの反応を見て今回のターゲットに心当たりがあると判断した川内は、詳細を聞き出そうとする。
『悪いがそれは言えナイし、言わナイ。ここでキミラにワレラがコイツのことを教えてしまっては意味がナイ。ワレラが与えた情報で勝利してモ、それはキミラの勝利の価値を下げるからダ。確かに情報は立派な武器ダ、事前に情報を集めるのは当然の戦略ダ。だがキミラが努力して手に入れた情報と、ワレラが与えた情報とではその価値は大きく違ってクル。勝利とは与えられるものではナク、自ら掴み取るものなのダ。』
川内の提案を一蹴するボワボワ。
だがボワボワの言うことにも一理あると考えた川内は引き下がる。
ボワボワから情報を提供された場合、それは彼らの助力を受けたことになる。
与えられた勝利、勝利の価値を下げるというのはそういうことなのだろう。
価値の低い勝利ではボワボワを納得させることは難しい。
彼らを納得させる勝利を得るためには、ボワボワの助力無しに勝利しなければならないというわけだ。
『安心しロ、コイツの居場所をワレラは知ってイル。狩りの手助けはしてやれないガ、コイツの住処までキミラを案内してやることは出来ル。ワレラはキミラの勇敢な姿が見たイ、だからキミラを狩場まで導くのダ。』
目の前のボワボワはそう言うと両手をパンパンと鳴らす。
するとその音を聞いた他のボワボワ達はボワボワの被り物を模した物体を取り出し、そしてそれに火を付ける。
物体が焼けると同時にモクモクと煙が立ち昇り、煙はそのまま大きな壁の穴から外へと出ていく。
『これは救援ののろし、ワレラが戦いに赴く際に使っているものダ。』
やがて物体が燃え尽きて煙が止むと、壁の穴からひょっこりと黒い獣の頭が顔を覗かせる。
黒い頭はそのまま穴からするりと這い出ると、壁伝いに降りてきた。
穴から出てきたことであらわになったその姿はイタチに似ているが、サイズはトラよりも大きい。黒いのは頭と手足だけで他は全てモッフモフの白い体毛に包まれており、この寒い地域に適応した生物であるということが一目で分かる。
大イタチは天龍と川内の前で止まるとそのまま伏せの態勢になった。
「このイタチみたいなモンスターは?」
『カレはウルグ、ワレラの盟友ダ。ウルグはワレラと共に狩場を駆ケル。今回はカレがキミラを狩場へと連れて行ってくれるダロウ。さぁカレの背に乗りタマエ。』
言われるがままに天龍と川内はウルグの背に跨った。
「当然マサムネは来ないんだよな?」
「ボクジャ足手マトイニナルカラネー、ココデボワボワト一緒ニ旦那サンノ無事ヲ祈ッテルヨー。」
そう言ってマサムネは手を振った、明らかに二人を見送る体勢である。
『恐れることはナイ。確かにワレラは手を貸さないガ、別にキミラの力のみで戦う必要はないのダ。』
これから出発ということで多少なりとも緊張している天龍達の内心を見抜いたのか、ボワボワは不思議なアドバイスを送ってきた。
「お前は手は貸さないのにオレらの力以外は使っていいってどういうこったよ?」
『このような格言がアル……。』
『ゴキダンが使っていた言葉ダ。あるものは全て使エ!周囲をつぶさに観察シロ!想像力ダ!体のみならず頭を使エ!戦いの本質を突いたいい言葉ダ。相手は自分より力も体格も上回る正真正銘のモンスター。そんな相手に真っ向勝負を挑むのはただの蛮勇ダ。勇気と蛮勇を履き違えてはならナイ。ゴキダンは時には地形を利用シ、時には他のモンスターと同士討ちさせることデ、自分より強いモンスターと渡り合ってキタ。周囲の環境を利用するのも立派な戦術、あるものは全て使えとはそういうことダ。キミラも馬鹿正直にモンスターと戦うのではナク、あるもの全てを使って勝利を手にするのダ。』
「あるものは全て使えか……。分かった、やれることは全部やれってことだな。」
『そういうことダ。では行ケ、センダイとテンリュウ。務めを果たシ、この地にふさわしい戦いを見せてミヨ。』
ボワボワのその言葉を合図に、ウルグは二人を乗せているとは思えないほどのスピードで壁に取り付いた。
そしてそのままヤモリのように壁を登っていき、大きな穴へと飛び込んでいく。
「わぁ、外だ!やっぱり冷たい!」
「くぅ、眩しいぜ!」
穴の外は当然洞窟の外、ホットドリンクを飲んでいるとはいえ相変わらず冷たい風が二人の肌を撫でる。
降り積もる白い雪は光を反射し、洞窟の暗がりに慣れた二人の目に眩しく突き刺さる。
「わっ!動き出した!?」
「うおっ!?落ちる落ちる!!」
寒さと眩しさに参っている二人を無視してウルグは勢いよく走り出す。
サドルもなく、手綱もハンドルもない自動運転の生きたバイクとでもいうべきウルグ。
そんなウルグの突然の加速に天龍と川内は振り落とされないよう必死にその背にしがみ付くのであった。
ボワボワは本編では普通にモンスターの正式名称を話してたけど、ここでは異文化ということで別名しか話さないという設定。
それと語尾をカタカナにしたのも異文化感を出すための捏造。
自分の都合のいいように本編設定を捻じ曲げて捏造しまくる二次創作の屑である。
ボワボワはそんなこと言わない。
おまけ:川内ちゃんの装備
武器:那珂ちゃんマイク
頭:川内リボン
胴:川内スーツ
腕:川内カフス
腰:川内スカート
脚:川内ブーツ
護石:城塞の護石
スキル:回避距離UP、隠密、笛吹き名人
ぶっちゃけると神通の装備の完全下位互換、G級と下位の差である。
火力に関するスキルは一切発動しないのでそのままでは物足りない。
武器の那珂ちゃんマイクは下位の時点で既に覇笛と同じ旋律が使えるという若干チート染みた性能をしている。
やっぱ……那珂ちゃんの……笛を……最高やな!那珂ちゃんはアイドルみたいなもんやし!
とはいえ旋律が強力な代わりに攻撃力は低く、斬れ味は無駄に緑ゲージが長いという覇笛とは正反対の性能が足を引っ張る。
はぁ~つっかえ!那珂ちゃんのファンやめます!
旋律以外に取り柄の少ない那珂ちゃんマイクだが、強化を続ければやがて覇笛よりは劣るものの高めの攻撃力を持つようになり、更に優秀な斬れ味も兼ね備えた使い勝手のいい狩猟笛へと成長する。
いつしか雨はやみ、そこには虹がかかるんだよなぁ……。