今更ですが、孤島のマップを見ながら読むと状況の把握がしやすいです。
BGM:荒ぶる乱入者
雄叫びを上げた怪物は体勢を戻すと大口を開けて球磨達に走り寄る。
「ヤバいクマ!」
咆哮の影響で頭が割れそうなほど痛む球磨だが、目の前に迫る危険にそうも言ってられないと木曾を抱えて大きく横に飛ぶ。
次の瞬間、さっきまで球磨達がいた場所でガチンという音と共に大顎が閉じられる。
「コイツ球磨達を食べる気クマ!?既に球磨達よりも大きな獲物を確保してるのになんでクマ!?」
アシダカグモというクモがいる。
このクモは食事中でも新たな獲物を発見すると、今の獲物を捨てて狩りを行う。
クモのこの行動は知能よりも本能と反射によるものだが、現在球磨達が相対しているこの怪物の場合だと高い体温を保つために大量の食事を必要としており、そのため既に獲物を捕らえていても新たに獲物を見付けた場合、食料を増やそうと襲い掛かるのである。
「分かったクマ、島の生き物の姿が見えない理由が。アイツがこの森に現れたことでみんな見付からないように身を隠しているに違いないクマ!運悪く見つかったヤツはアイツの腹の中クマ!そりゃ誰もいないわけクマ!」
球磨の推理通り、島の生物はほとんどが怪物に見つからないように隠れている。
大嵐に立ち向かっても何の意味もないように、強大なモンスターという災害を恐れて脅威が過ぎ去るのを待っているのだ。
しかし母熊は巣とタマゴを守るために、明らかに勝ち目のない相手に隠れることなく挑んだであった。
全ては子供を守ろうとする母の愛故に……。
それを理解したからこそ球磨は改めて決意する。
母熊が自分の命を捨ててでも守ろうとした木曾の幼い命は自分が何としてでも守り抜くと……。
「球磨が受け取った命のバトン、ここで投げ捨てるワケにはいかないクマ!」
球磨は木曾を抱っこしたまま走り出す。
本当は鎮守府に近いエリア1に行きたかったが、目の前の怪物の真横を通り抜けて通路を目指すのはリスクが高過ぎる。
よって多少遠回りになるが、川の上流にあるエリア3を経由してエリア1に向かおうと考えた。
怪物の巨体ならエリア1と鎮守府をつなぐ一本橋は渡れないし、それ以前に一本橋の前にある門を通り抜けることも出来ないだろう。
「鎮守府に辿り着きさえすれば球磨達の勝利クマ!」
木曾を抱えたまま走る球磨を怪物が猛追する。
狩娘の中では小柄で尚且つ木曾という荷物まで抱えた球磨と、20メートルを超える巨大生物が本気で鬼ごっこをして勝負になるはずもない。
それでも未だに球磨が捕まらずにいるのは、主に二つの要因がある。
一つは球磨の身体に不思議と力が湧いており、普段とは比べ物にならないくらい身体能力が上がっているということ。
本来であればとっくの昔にスタミナは底を尽き、間違いなく足を止めているのだが、現在はまだまだ余裕がある。
この時の球磨はこれを火事場の馬鹿力によるものだと思っていたが、実際は木曾を守ろうとする球磨の意志に絆石が反応し、限界を超えた力を引き出していたのだ。
もう一つは怪物が負傷しており、本来の速度が出せなかったということ。
怪物が万全の体調であれば絆石の力を得た球磨でも歩幅の差から簡単に追い付かれていたが、怪物は全身のいたるところに真新しい傷を負っていた。
特に右の脇腹と太腿、そして眉間には大きな傷があり、今も少しづつ血が垂れている。
これらの傷は全て木曾の母が付けたものである。
本来ならば怪物と大熊では生物としての格の違いもあって全く勝負にならないのだが、我が子を守ろうとする母の愛が怪物にここまでのダメージを与えたのだ。
とはいえ怪物もここまでの傷を負ったことで回復のためにより多くの獲物を求めており、球磨と木曾を絶対に逃がすまいと追跡がより執拗になっているのは皮肉としか言いようがない。
「も、もうすぐエリア1クマ!あそこまで行けば……ん?」
エリア3走り続け、ようやくエリア1とつながる通路目前まで来た球磨達。
ここでふと球磨が振り返ったのは偶然だが、その偶然が二人の命を救った。
「岩!?岩が飛んできたクマ!」
後方から球磨達を狙って巨大な岩石が飛んできていたのだ。
怪物がこのまま単純に追い掛けても球磨達に追い付かないということを悟り、飛び道具による攻撃に切り替えてきたのである。
振り返ったことで岩に気付けた球磨は大きく横に跳ぶことで回避に成功したが、岩石の勢いは止まることなく今まさに球磨が通ろうとしていた通路の手前に着弾した。
「通路が塞がれたクマ!?」
目の前の岩はそこまで大きくはないので登って進むことは不可能ではないし、先程のように木曾に砕いてもらうことだって出来るだろう。
しかしどちらにしても時間が掛かる作業である。
そして今は悠長にしている時間はない、腹を空かせた怪物がすぐ後ろまで迫っているのだ。
「クッ、こっちに逃げるクマ!」
エリア1に行くことを諦めた球磨は、すぐさまもう一つの通路であるエリア7とつながる道を進むことを選択する。
「鎮守府からは離れちゃうけどこの際仕方ないクマ!捕まるよりましクマ!」」
エリア7は開けた土地が広がるエリアで逃げるにも隠れるにも不向きなエリアである。
そしてエリア6につながる通路があるのもこのエリアである。
エリア6はジャギィ達の巣があるので普段であれば入りたくないエリア筆頭であり、巣穴から出発したばかりの球磨もここに入るのは避けていた。
しかしそこを通り抜ければ木曾の巣穴があったエリア5に戻ることが出来る。
そうすれば後は簡単だ、再びエリア2に戻ってそのまま鎮守府のあるエリア1に向かえばいい。
「ジャギイに絡まれるのも嫌だけど、背に腹は代えられないクマ!化け物に比べたらジャギィなんて子犬みたいなもんクマ!」
球磨は木曾を抱いたままエリア6への通路目指して走り出す……が突如として赤黒い煙のようにも電流のようにも見える形容し難いエネルギーの奔流が通路に向かって放たれた。
巻き込まれれば肉体が蒸発するのではないかと思われるほどの膨大なエネルギーが球磨の進行を妨害する。
「これは龍属性の光クマ!?」
球磨はその赤黒いエネルギーに見覚えがあった。
龍と呼ばれているが実際は未だに解明されていない赤黒い光を放つ正体不明のエネルギー、それが龍属性である。
提督が持っているスラッシュアックスのヘリオスクラッシャー、それに搭載されているのは武器に龍属性を纏わせる滅龍ビン。
提督がトレーニングと称して農場の隅の空き地に刺した木の柱を斬り刻んでいたときに、球磨は同じ光を目にしたことがあった。
火属性や水属性などと違って龍属性を扱えるモンスターや深海棲艦はごく僅か、その理由は龍属性の秘める力は生半可な生物には手に負えないほどの強大なものだからだという。
逆に言えば龍属性を扱える生物は紛れもなく強者であるということでもある。
「コイツは龍属性を扱うほどの実力があるクマ!?」
振り返ってみればその龍の光は怪物の口から放たれていた。
そして龍のエネルギーは怪物が放つのを止めても消えることはなく、煙となってその場に滞留する。
「あぁもう!また道を塞がれたクマ!」
前門の煙、後門の怪物。
龍の煙に遮られてエリア6に進むことは出来ず、怪物が陣取っているためエリア3に戻ることも出来ない。
他に進める道はないかと周囲を見渡すと、山奥に続く道が目に付いた。
「あれはエリア8の通路クマ?」
エリア7にはエリア6だけでなくエリア8につながる通路もある、しかし球磨は今まで一度もエリア8に入ったことがない。
基本的に狩娘は海で戦う存在であり、島そのものの探索をする機会はさほど多くない。
だからこそ自由に島を探索出来る今回のピクニックを楽しみにしていたのだ。
ましてや山登りなど疲れるし時間も掛かる作業となる、ピクニック気分で足を踏み入れていい場所ではないのだ。
よってエリア8はマップでチラッと存在を確認しただけの場所であり、どのような構造になっているのかなんて見当もつかない。
それでもここでじっとしているよりはましと、球磨は木曾を抱きなおすとエリア8目指して走り出した。
「ハァハァ……ハァハァ、ここがエリア8……クマッ!?」
球磨は初めて訪れたエリア8を見渡し、そして絶句する。
「い、行き止まりクマ!?」
エリア8は海に面した崖のエリア。
どこにもつながる道はなく、そして山というだけのことはあり孤島のエリアの中で最も高所に位置する。
球磨は慌てて崖下を覗き込むが、飛び降りるには危険な高さである。
球磨一人なら決死の覚悟で飛び降りるのも選択肢の一つだが、木曾を連れて飛び降りるのは単なる無理心中でしかない。
「まさか怪物はここに球磨達を追い込むのが目的であんなことをしてたクマ!?」
このエリアは完全に袋小路となっており逃げ場がない。
思い返してみればあの岩投げも龍の煙もこちらの進路を妨害するように放たれていた。
あの怪物はただ暴れまわるだけの凶暴な獣ではなく、獲物を追い詰める知能も持ったモンスターだったのだ。
「こうなったらもう戦うしか選択肢がないクマ。木曾はここに隠れているクマ。」
球磨は木曾を枯草の中に隠すと、背負っていた大剣のアギトを両手で構えて怪物を待ち受ける。
「がぅ……。」
「心配しなくても大丈夫クマ。別に勝つ必要はないクマ、隙を作って逃げればいいクマ。」
少しずつ大きくなってくる怪物の足音。
音が近付くにつれ球磨の呼吸は荒くなり、全身から冷や汗が流れ出す。
そして遂に通路の奥から怪物が顔を覗かせた。
怪物と球磨の目が合い、球磨の背筋はスッと冷たくなり両足が震え始める。
やがて完全にエリアに侵入した怪物はまるで追い詰めるかのように走るのを止めて一歩ずつゆっくりと、しかし確実に球磨に歩み寄る。
近付いて来る怪物の巨体を前に、球磨は恐怖から今にも武器を捨てて逃げ出してしまいたい衝動に駆られた。
あんな怪物と戦いたくない、絶対に勝てっこないと……。
「でも別に、アレを倒してしまっても構わねークマ?」
だがそんな弱い自分を鼓舞するように強がりを口にすると、アギトを強く握り締めて覚悟を決める。
BGM:健啖の悪魔/イビルジョー
怪物の大顎が球磨に迫る、しかしその動きは直線的で単純だ。
狩娘としてはまだまだ駆け出しの球磨でも、この程度ならかわせない道理はない。
右に向かってステップで避け、怪物の顎が通り過ぎたところでガラ空きの胴体にアギトを振り下ろす。
「クマッ!?」
しかし直撃したにもかかわらずアギトの刃は怪物の皮膚を浅く傷付けただけであり、全く手ごたえを感じられなかった。
「こ、こいつ硬いクマ!」
球磨も薄々感じているが、本来ならこの怪物は今の球磨が立ち向かっていいレベルの相手ではない。
アギト程度の弱い武器の斬れ味で、この怪物の硬い皮膚を切り裂くことは非常に難しいのだ。
「だったら!」
攻撃が効かないと分かるや否や、球磨は戦い方を変えることに決めた。
怪物の身体には母熊によって付けられた深い傷がいくつかある、そこを狙って攻撃する作戦だ。
いくら皮膚が硬かろうと、既に裂けた皮膚ならば問題なく攻撃を通すことが出来るだろう。
文字通り相手の傷口を抉る残酷な戦法に流石の球磨もいい気分はしないが、選り好みをしていられるような状況ではない。
ここで手を抜けば、その代償は球磨と木曾の命で払うことになるのだ。
作戦を決めた球磨は怪物の右側に回り込むように移動を開始する。
怪物の右側には脇腹と足に目立つ傷がある、球磨の狙いはそこだ。
「グルルルル……。」
すると怪物は怪物で球磨の右側に回り込もうとしているのか、球磨に右半身を向けながら接近してきた。
「チャンスクマ!」
狙って下さいと言わんばかりに弱点を晒したまま近付いて来る怪物。
千載一遇のチャンスに球磨は飛び出した。
次の瞬間、球磨の身体は吹き飛ばされ宙に舞っていた。
そのまま重力に引かれて地面に落ちる身体、そしてようやく脳が再起動を果たしたのか遅れて全身に走る鈍い痛み。
「な、何が……起きたクマ?」
地面に仰向けに倒れた球磨は、何とか首だけを動かして状況を把握しようと試みた。
そこには尻尾を大きく振り抜いた怪物がいた。
「球磨は……球磨は、アイツの誘いに……乗ってしまったクマ?」
そう、これは全て怪物の狙い通りであったのだ。
自分に攻撃が通用しないのなら相手は通じる場所を狙ってくるであろうことを理解し、敢えて弱点を見せることで油断と隙を誘いそこを迎撃したのである。
球磨は怪物が獲物を追い込む頭脳を持っていることを知っておきながら、戦闘の際にもそれを活かした戦い方をするとは考えていなかった。
完全に球磨の浅慮が招いた結果であった。
怪物は倒れて動けない球磨に悠々と近付くと、大顎で食らい付きそのまま持ち上げた。
今まで体験したこともない激痛に、球磨は喉が潰れる程の絶叫を上げる。
何本もの鋭い牙が球磨の身体中へ食い込み、プレス機同然の咬合力は球磨の全身を押し潰し、そして強酸性の唾液が球磨の肉体を焼き焦がす。
「だ、脱出……を……。」
球磨は何とか逃れようとするが先程吹き飛ばされた際にアギトは崖から落として失くしており、そもそも全身を鋭い牙と強大な顎の力で抑えられているので抵抗どころか身動き一つ取れない。
「あ゛っ……ぎっ……ゴホッ……ぅぁ……。」
顎の力は更に強くなり、全身を押し潰されている球磨は呼吸もままならなくなった。
視界はチカチカと白と黒に点滅し、だらしなく開かれた口からこぼれるのは血と泡の混じった涎と蚊の鳴くような呻き声のみ。
球磨の意識は酸素不足により朦朧としており、肉体がバラバラになるのも秒読みである。
しかしこれから起きようとしていることを考えれば、意識がない方が幸せかもしれない。
遂に限界を迎えた球磨の全身の骨という骨は軋み始め、粉砕へのカウントダウンを始めた。
MHRもシナリオが進んで次々と衝撃の展開になってきましたね。
マリィと姉妹同然に育った親友ヒルダは闇落ちしてオトモンのリオレイアを役立たず扱いして捨て、そしてマリィと絆を結んだオトモンのリオレウスは黒い記憶石の影響で暴走……。
あれ?この展開どっかで見たような?
具体的に言えばMHSTでほとんど同じものを見たような?
リュートと兄弟同然に育った親友シュヴァルは闇落ちしてオトモンのレイアを役立たず扱いして捨て、そしてリュートと絆を結んだオトモンのレウスは黒の凶気の影響で暴走……。
うーんこの二番煎じの展開……。
一番の相違点がメンタルボロボロでヒルダに敗北したマリィと、鋼メンタルでシュヴァルをボコボコにしたリュート君ってのが……。
せめて問題の解決は全く違う方法でやって欲しいですね。
なぁマリィ、お前も自分より年下なのに世界を背負って戦うリュート君を見習わにゃいかんとちゃうんか?
ちなみに上記の文章のレウスとレイアってのはそういうニックネームなのであって、面倒だからリオの部分を省いたワケではないです。
ところでMHRって負けイベントばっかでフラストレーション溜まりますね。
実際のバトルでも勝てないくらい相手が強いならまだしも、バトル中はクソザコナメクジなのに倒した後のイベントで「こいつ強い!?」みたいなの多い、多くない?