天龍ちゃんと狩娘   作:二度三度

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ゾーマとエスターク、分かっちゃいたけどデカい、デカ過ぎない?
一列に並べるとリオレウスがペットみたい。






球磨ちゃんと熊4

 

 

 

 

 

「……ZZZ。」

 

ぬいぐるみのように木曾を抱いて巣の中で眠る球磨。

抱かれた木曾も安心しきった顔で寝息を立てている。

 

「……むにゃむにゃ……うーん……クマ?……ん……あれ、ここは?今まで何して……クマッ!?」

 

「ぎゃう!?」

 

目を覚ました球磨は寝起きで頭が働いていなかったからなのかしばらくボーッとしていたが、意識が覚醒すると同時に飛び起き、一緒に寝ていた木曾も驚いて目を覚ます。

 

「い、いつの間にか寝てしまったクマ!外はどうなったクマ!?」

 

慌てて外の様子を確認すると、昨日の土砂降りが嘘のようにすっかり快晴となっており雲一つない気持ちのいい天気である。

 

「朝になってしまったクマ、休みは昨日までだったのに……。提督に怒られるクマ……。」

 

すっかり寝過ごしたことを焦る球磨だったが、木曾の様子を見てふと思い出す。

 

「そういや翌日になったのに木曾のママが帰ってきた様子がないクマ。」

 

洞穴の中は昨日のままであり、他の動物が出入りした形跡はない。

もし木曾の母親が帰宅していたのであれば、呑気に寝ていた球磨はあっという間に外に叩き出されていただろう。

鎮守府のことも気になるが、一日経っても木曾の母親が帰っていないこの現状に球磨は不安を感じてきた。

 

「いくらなんでもおかしいクマ。我が子をほったらかしにするなんてネグレクトクマ。テレビの動物番組で見た鳥の親は自分の巣のタマゴや雛鳥を必死に守ろうとしてたクマ。普通の熊はタマゴなんて産まないけど、常識的に考えて自分の巣をほっとく動物はいないクマ。」

 

「がう?」

 

「…………クマ。」

 

自分の脚に縋りつく木曾を見た球磨の脳内で、鎮守府に帰らなきゃいけないという狩娘としての自分と、一人ぼっちの木曾を放っておけないというお姉ちゃんとしての自分がケンカを始めたのを自覚した。

 

 

 

 

 

『球磨は鎮守府に所属する狩娘クマ。狩娘は普段の任務のせいで忘れがちだけど、これでもれっきといた軍属クマ。ただでさえ昨日帰らなかったのに木曾のママが帰ってくるまでここで巣ごもりするというのは流石に許されないクマ。正真正銘の軍人である艦娘に比べれば狩娘は規則に緩いとはいえ、これでも限度ってものがあるクマ。』

 

 

 

『何言ってるクマ!?球磨は木曾にママが帰ってくるまでお姉ちゃんでいてあげるって約束したクマ。妹との約束を守るのは姉として当然のことクマ!それにここで木曾を見捨てていくなんて真似したらそれこそ提督に怒られるクマ。動物とはいえ子供を見殺しにするなんて人として最低の行いクマ!』

 

 

 

 

 

『『……だったら取るべき行動は一つクマ。』』

 

 

 

 

 

球磨は考えをまとめると、しゃがみ込んで木曾と目を合わせるとそのまま語り掛ける。

 

「球磨はずっとここにはいられないクマ、帰らないといけないクマ。だけど木曾のママのことを忘れたワケじゃないクマ、そこで提案があるクマ。球磨と一緒に外に出てママを探しに行くクマ?」

 

「???……がーうっ!」

 

「そっかそっか、それじゃ一緒に行くクマ。レッツゴークマ!」

 

どう見ても話の内容を理解したというより単純に構ってもらえて喜んでいるようにしか見えないが、球磨は納得したものと見て木曾を連れて洞穴の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、いい天気クマ。ほら、これが外の世界クマ。本物のお日様の光に本物の風の匂い、大自然の空気を思いっきり吸うといいクマ。」

 

「がう!」

 

初めて外に出た木曾は興味深そうにキョロキョロと周囲を眺めている。

球磨も同じようにキョロキョロと周囲を眺めているが、それは実際の外の風景と自分の頭の中の風景に差異を感じたからである。

 

「昨日は天気も悪かったし、日も暮れてたから分からなかったけどよく見たらそこら中荒れてるクマ……。」

 

雨上がりということであちこちに水たまりがあるが、気になったのはそんなものではない。

洞穴の入り口には球磨の足など比較にもならないくらい大きな動物の足跡がいくつもあった。

 

しかも足跡はどうやら二種類の生物のものであり、更にはそこら中の地形にえぐり取られたり引き裂かれたような破壊の痕跡もあり、明らかに何らかの生物がここで戦っていたと考えられる。

 

「この肉球と爪のある足跡はきっと木曾のママのものクマ。だけどこっちの三本指の大きな足跡は始めて見るクマ。一体どんな生き物クマ?木曾のママが帰ってこないのは巣を守るためにこの足跡の主と戦ってたせいクマ?」

 

だとしたらマズいと球磨は思った。

三本指の足跡は木曾の母親の足跡よりも明らかに大きく、苦戦は免れない。

夜が明けても帰ってこないということはひょっとしたら最悪の事態を迎えている可能性もある。

 

「駄目クマ、そんな縁起でもないこと考えるのは……!」

 

球磨は不安げに肉球の足跡の匂いを嗅いでいる木曾の様子を見て、そのようなことを考えた自分を叱る。

今の自分の目的はこの子を無事に母親の元に送り届けること、それ以外のことはその時になってから考えればいい。

 

「この足跡の主が木曾のママクマ、多分。ひょっとしたら違うかもしれないけど…………。巣の周辺にある大きな熊によく似た足跡なんだし十中八九そうクマ。少なくとも赤の他熊ってことはないハズクマ。」

 

「がう……。」

 

木曾も匂いから何かを感じ取ったのか、緊張している様子である。

 

「心配しなくても大丈夫クマ、何かあっても木曾のことは球磨が守るクマ。これでも球磨は普段から深海棲艦と戦ってる狩娘だから、腕っぷしには自信があるクマ!球磨お姉ちゃんに任せるクマ!」

 

本心を言えば球磨も不安がある。しかし怖がる木曾のためならば、いくらでも虚勢を張って見せられる。

現に今、自信に溢れる球磨の様子を見て木曾は落ち着きを取り戻した。

お姉ちゃんとして妹の前でなら、いつだって最高に粋がってかっこいい球磨ちゃんでいられるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………と自信満々に出発したのはいいけど、さっそく詰んだクマ。ここ通れないの忘れてたクマ。」

 

エリア2への通路は相変わらず土砂に塞がれており通れない。

仕方なく球磨がエリア6へ続く道を通るべきかと迷っていると、球磨の気持ちを汲んだのか木曾が土砂の前に立ち前脚で土を掻き始めた。

 

「ひょっとしてそこの土をどけて通るつもりクマ?そんなの無茶クマ。そのペースで土を掘ってたら日が暮れるクマ。」

 

それでも懸命に土を掻き続ける木曾、その必死な様子に球磨も勘付く。

木曾は伊達や酔狂で掘っているのではなく、球磨がここを通りたがっていることを察し、球磨のために頑張っているのである。

 

「よし、こうなったら球磨もとことん付き合うクマ!妹に任せてばかりでお姉ちゃんがのんびりしているワケにはいかないクマ!」

 

自分のために頑張る木曾の様子を見て何もせずに諦めた自分を恥じ、一緒に土を掻きだそうと球磨が一歩を踏み出したその時……。

 

「ん?」

 

視界の隅で何かが光を放っているのに気が付いた。

その光は自分の左手、厳密に言えば絆石から発せられている。

 

「絆石が光ってるクマ?これは一体……。」

 

球磨が疑問を覚えたその瞬間……。

 

「ギャウゥゥゥ!!」

 

 

 

 

 

ドオオオォォォォォン!!!

 

 

 

 

 

「な……な……!?」

 

木曾の右腕の一振りと共に爆発四散する土の山。

小さな体に見合わぬパワーを発揮した木曾に絶句する球磨。

 

「これが生まれて一日の子熊の出せる力クマ……?いや考えるのは後クマ、今はここが通れるようになったことを素直に喜ぶクマ。凄いクマ、エラいクマー!流石は球磨の妹クマー!」

 

「がう~♪」

 

ビックリはしたものの取り合えず頑張った木曾を抱きしめながら頭を撫でる球磨。

そのとき球磨は木曾を撫でている左手の絆石の様子が先程と異なることに気が付いた。

 

「あれ?確かさっき絆石が光っていたような?」

 

しかしどれだけ確認しても絆石が光を放つ様子はなく、指先で軽く叩いてみてもうんともすんとも反応しない。

 

「おかしいクマ。ひょっとして光ったのは気のせいだったクマ?」

 

首を傾げるものの何も変化はない。

 

「まぁいいクマ。そんなことよりさっさと先を目指すクマ。木曾、行くクマー。」

 

木曾を連れて開通した通路を通る球磨。

ここで起きた戦いが通路の堅い地層を崩壊させるほどの激しさであったという事実に考えが及ばないまま……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリア2に着いた球磨と木曾だが、エリア5を上回る異様な雰囲気に息を呑む。

昨日と同様に生物の気配は一切なく、戦闘の余波で荒れた大地は普段草食獣が草を食む平和なエリア2の景色と同じ場所だとはとてもじゃないが思えない。

 

「何か変な臭いがするクマ……。」

 

そして球磨が一番恐ろしく感じたのがこの臭い、吐き気がこみ上げるほどの濃厚な鉄の臭い。

 

「この臭い、どう考えても……。」

 

球磨が足元に流れる小川に視線を向ければ、水に混じって赤い液体が流れていた。

 

「やっぱり……。これは血クマ、つまりこれは血の臭いクマ。」

 

そのまま川の上流へ視線を動かしていくと、エリア2の崖から流れ落ちる滝のすぐ近くに大量の血液がべっとりと付着しており、それが少しずつ川に混ざって流されていたようだった。

球磨は気持ち悪いのを我慢して血に近付くと、右手でそっと触れる。

ヌルリとした感触に背筋がゾワリとするが、詳しく調べるために根性で堪える。

 

「うっ……。流石にもう温かくはないけど、全然固まってないクマ。つまりこの血はまだ新しいってことクマ。」

 

血が新しいということは、ここで争いが起こってからあまり時間が経っていないという何よりの証拠である。

ということは血の主かその血を流させた相手、もしくはその両者が近くにいるということにほかならない。

 

「幸い鎮守府はエリア1につながってるから、エリア2からはすぐクマ。まだ木曾のママが見つかってないけど、これが提督の言ってた異常なら球磨一人の手には負えないかもしれないクマ。木曾には悪いけど、一旦鎮守府に帰ってそれから改めてママを探すクマ。提督や北上に事情を話してみれば、事情が事情だからきっとみんな協力してくれるクマ!球磨の妹なら多摩の妹でもあるし、大井や北上の妹でもあるクマ。妹が困ってるのなら助けてあげるのが姉として当然の義務クマ。」

 

そうと決まれば即行動。

球磨は木曾に一声掛けると、エリア1へと続く上り坂を目指して歩き出す。

いや、歩き出そうとした……。

 

「ウゥゥゥゥ!!」

 

木曾は突然坂の上へ向けて唸り声を上げて威嚇を始め、それに釣られて球磨の足も止まる。

 

「木曾、どうしたクマ?何かあった…………いや、あれは!?」

 

木曾の突然の威嚇に困惑する球磨だったが、すぐに状況を理解した。

いや、理解せざるを得ない状況に陥った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズシッ……ズシッ……ズシッ……。

 

重々しく鳴り響く足音。

 

ズシッ……ズシッ……ズシッ……。

 

より強く、そして濃くなる血の臭い。

 

ズシッ……ズシッ……ズシッ……ズン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きょ、恐竜…………いや、あれはそんな生易しいものじゃないクマ。怪物クマ、モンスタークマ!!」

 

坂の上に姿を現したのはぬめりとした光沢のある暗緑色の外皮に全身を覆われた、全長20メートルを軽く超える巨躯。

大量の鋭い牙の生えた大顎と、その顎に比べて小さな頭部。

非常に長くて太い、巨大なヒルのようにも見える不気味な尾。

その巨体を支える強靭な後ろ脚、それに対して非常に小振りだが鋭い爪を備えた前脚。

その姿はどことなくティラノサウルスなどの肉食恐竜に酷似しているが、恐竜に比べはるかにおぞましく暴力的なその姿はまさしくモンスターである。

 

「あっ!?」

 

そして球磨は気が付いた。

化け物の口に咥えられた、本来ならば青い毛皮と茶色の甲殻で覆われているであろうその全身を血で赤く染めた大熊の亡骸を……。

地上最大の肉食獣として名高いヒグマやホッキョクグマでさえ3メートルに達する個体は少ないとというのに、目前の大熊は明らかに6メートルを超えている。

そしてその巨大な熊の亡骸を、まるで無邪気に木の枝で遊ぶ子犬のように軽々と持ち上げる怪物の顎の力はもはや常軌を逸していると言っていいだろう。

 

「あ、あの熊は!?そんな、嘘クマ……。」

 

あることに気付いた球磨は慌てて木曾と巨大熊の姿を見比べる。青い体毛、茶色の甲殻、赤い鉤爪……。

大きさこそ全く違うものの、体の色も体のつくりも何もかもがそっくりであり、明らかに同種である。

いや、同種という言葉で誤魔化すのはやめにしよう。あの個体は間違いなく木曾の母親だ。

確かに二頭が親子であるという証拠はない、しかし不思議と球磨には分かった。

それは絆石を通して球磨と木曾の間につながりが産まれたからであり、それによりあの巨大熊に覚えた親近感から親子関係を見出したのだ。

 

「木曾をママの下に連れて帰ってあげるって約束したのに、こんなのってないクマ……。」

 

打ちひしがれる球磨に対し、そんなのお構いなしと言わんばかりの怪物は文字通り獲物を見る目で球磨と木曾を眺める。

やがて怪物の目が笑うように歪んだかと思うと、怪物は咥えていた大熊を球磨達に向かって乱暴に投げ飛ばしてきた。

 

「ッ!?危ないクマ!」

 

球磨は慌てて木曾を抱き寄せるとその場に屈む。

球磨の頭上を凄い勢いで通り越して行った大熊の亡骸は、そのまま球磨の後方に落ちると三回ほど地面をバウンドしてようやく停止した。

 

「ほ、仏様に……いや、自分の獲物になんてことをするクマ!?」

 

死体を相手に投げ付けるという死者への冒涜、せっかく捕らえた獲物を武器として扱うという野生動物として常軌を逸した行動。

怪物の予想だにしなかった行動に球磨は気が動転しているのか怒ったり驚いたりするばかりで、そもそも何故怪物が死体を投げてきたのかという理由にまで頭が回っていない。

怪物としては死体を投げたのは当たってくれればラッキー程度の考えであり、本当の目的は死体から口を離すことそのものにあった。

 

 

 

 

 

 

「ガアアアアアァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

大熊を捨てて口が自由になった怪物は、身体を大きくそらしながら咆哮を上げる。

木曾を守ると心に誓った球磨に、木曾を手放して自分の耳を塞ぐという選択肢はない。

天をも震わせるかのような恐ろしい雄叫びに、球磨は歯を食いしばって耐えるしかなかった。

そしてその咆哮は、これから始まる地獄の狼煙であるということを球磨は文字通り全身で感じ取るのであった。

 

 

 

 

 








クシャルダオラ「犯人はオレだと思った?残念、雨はただの自然現象だ。」





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