のんびりしてたらいつの間にやら球磨ちゃんの改二どころか改二丁が出てた。
だけどここの球磨ちゃんは上位に上がっても、G級まで昇格してもアシラシリーズを着続けるクマ!
オトモンと装備が同じだと技を使うのに必要な絆ポイントが減って便利だから仕方ないね。
今から1年ほど昔のモガ鎮守府、球磨型狩娘の生活小屋。
そこにはウキウキでポーチに荷物を詰め込む球磨の姿があった。
「今日は久々の休みクマ、今日は目いっぱい楽しむクマ!」
球磨は本日休暇を貰っており、外出する気満々である。
しかしモガ鎮守府がある孤島は自然が広がるばかりであり、周囲に商業施設のような気の利いたものは一つもない。
それに球磨がポーチに入れているのも釣り竿や虫アミにお弁当といったものばかりであり、本人の装いも普段から狩猟の際に使っている球磨シリーズの防具一式に大剣のアギトと、これから遊びに行くというよりも狩猟に行くと言わんばかりの格好である。
それもそのはず、球磨はモガの森でピクニックをしようと考えていたのだ。
モガの森はモンスターの生息する地域であり、丸腰で出歩くのは危険である。
よって海で深海棲艦と戦う予定がなくとも、森に入るときは武装していく必要があった。
「それにしても提督から貰ったコレ、一体何に使うクマ?」
球磨の左の手の甲に取り付けられた、青い宝石のようなものがはめ込まれた籠手。
これは数日前に提督から贈られたものである。
『これは絆石、ハクム鎮守府の提督から貰ったもんだ。お前はハクム鎮守府がどんなところか知らないのか?まぁいい、時間があったら今度教えてやる。そんなことよりこいつは俺の勘なんだが、この石は俺よりもお前が持っておくべきものだと思う。自分で言うのもなんだが、俺の勘は昔からよく当たると思っている。近いうちにお前にはこの石が必要になる日が必ず来るだろう。それまでこの石は肌身離さず持っておけ。』
「うーん。持てと言われてるから取り合えず持ってるけど、単なる宝石にしか見えないクマ。」
使い道は分からないものの、絆石はアクセサリーとしてはオシャレであり、また提督からの贈り物ということで球磨は気に入っていた。
「提督は北上とケッコンしてるのに球磨にこんなプレゼントをくれるなんて、実は球磨に気があるクマ?いやいやそんなワケねークマ。それに人から貰ったものを更に人にあげるというのは球磨的にもポイント低いクマ、そんなんで球磨とケッコンとか百年早いクマ。そもそも提督は木曾に似過ぎていてそんな目じゃ見れないクマ。あれで男とか詐欺クマ。」
球磨の上司であるモガ鎮守府の提督の外見は球磨の姉妹艦である木曾に瓜二つであり、球磨はそんな提督のことを内心では妹扱いしていた。
尊敬出来る上官というよりも、気心の知れた可愛い妹といった感じである。
荷物をまとめた球磨が小屋から出ると、そこには思い思いに過ごす鎮守府の仲間達がいた。
クエストカウンターで呑気にお喋りをしている北上と大井。
連装キッチンで猫のようにウマウマと呟きながら遅めの朝食を食べている多摩。
テーブル代わりの大タルの上でせっせと船の設計図を引いている潮風丸。
そしてそんな彼らを見守る提督。
1年前のモガ鎮守府は人員が少なく、農場にいる連装砲ちゃん達を除くとここにいるメンバーで全員である。
北上は鎮守府最古参のメンバーであり秘書艦を務めている。提督とは出会って僅か三日でケッコンしたらしく、球磨がこの鎮守府に所属した時には既に指輪を嵌めていた。
大井はどうやら提督に気があるらしく、何かにつけて提督と会話しようとしたり、さりげなくボディタッチを試みようとしている。その姿はまさしく恋する乙女そのものであり、大井のいじらしさには球磨もニヤつきを抑えられない。しかし提督は姉妹であり大親友でもある北上のケッコン相手ということで、それ以上の行動には踏み込めないようであった。
多摩は今でこそ潮風丸が持ち込んだマタタビによって猫耳と尻尾が生えているが、この頃はまだ生えていない。しかし立ち振る舞いはこの頃から猫そのものである。
潮風丸は鎮守府から独立して交易船の船長となることを夢見ており、自分のかつての姿である交易船を図面に起こそうと薄れてしまった自分の記憶の中から必死に掘り出している。
潮風丸が抜ければただでさえ少ない鎮守府の人員が更に減るので、提督は近々新たな狩娘を建造する予定がある。球磨としては本物の木曾を建造してほしいと思っているが、後に建造されるのは文月達を始めとした睦月型の狩娘ばかりというのをこの頃の球磨は知らないのであった。
「おっ、球磨か。その様子だと出掛ける準備は出来たみたいだな。」
「もうバッチリクマ!いつでも出られるクマ……ってどうかしたクマ?」
球磨に気付いた提督が声を掛けてくる。
しかしその表情は何か考え事をしているのか、決して明るいとは言えない様子だった。
「悪いが本当に出掛けるつもりか?今日の外出を楽しみにしていたお前にこんなことを言うのは出鼻を挫くようで気が引けるが、森の様子が変だ。上手くは言えないが普段と空気が違うように感じる。それでも出掛けるのか?考えを改める気はないか?」
提督の表情が硬かったのは森の異変について考えていたからのようであり、提督は球磨に外出を控えて欲しいようであった。
「大丈夫クマ、こういうのはハプニングも楽しむものクマ。それに球磨だって狩娘の端くれ、何かあっても自分で解決して見せるクマ!」
だが球磨は自分に自信があるのか、それとも軽く考えているのか出掛ける気満々であり、止められないと分かった提督は溜息を吐く。
「そうか、分かった。どうやら決意は固いみたいだな。だがお前は俺の大切な狩娘で、替えの利かない俺の家族なんだ。何かがあったら心配だし、遅いからな。もしちょっとでも何かあったらすぐに帰って来い、いいな?」
「俺の大切な狩娘だなんて、そんなの照れるクマ。」
「全く、ふざけている場合か。まぁそれだけ余裕があれば大丈夫か、それじゃ気を付けて行くんだぞ。」
「心配しなくても平気クマ!行ってくるクマー!」
真剣さの感じられない軽い返事を残して出掛けていく球磨。
球磨は決して提督を軽んじているワケではないのだが、どうしても妹である木曾と重なって見えてしまう為に妹を相手にするようなこんな軽い対応をしてしまっているのである。
「……提督はあぁ言ってたけど、森の様子は平穏そのものクマ。」
孤島エリア10の海に釣り糸を垂らしつつ、球磨はそう呟く。
鎮守府を出てから球磨は一日中島を巡って食べられそうな野草やキノコを集めたり、虫捕りをして過ごしていた。
そして最後のシメとして海釣りを楽しんでいるのである。
「今日の森は本当に平和だったクマ。いつもはうっとおしいくらいにいるジャギィもルドロスも、それどころかブルファンゴすら一匹も見当たらない史上稀に見る平穏な日クマ。モンスター除けにたいまつ持ってきたけど別にいらなかったクマ。それどころか大剣すらいらなかったかもしれないクマ、提督は心配性クマ~。」
今日球磨が孤島でモンスターを見掛けることは一度もなかった。
攻撃的なモンスターはおろか、アプトノスやケルビといった大人しい草食モンスターすら一匹たりとも見当たらないというこの状況がどれだけ異常なのか。
少し考えればすぐに分かりそうなものだが、呑気な球磨はそこまで頭が回っておらず、単に手間が省けてラッキーだな程度にしか考えていない。
「うーん、いい天気だと思ってたけど急に曇ってきたクマ。いい時間だしそろそろ帰るクマ。」
ふと空を見上げてみると、いつの間にかどんよりとした雲が空を覆っていた。
これはまずいと思った球磨が荷物をまとめている間にもポツポツと雨は降り始め、帰る支度が出来た頃には既に土砂降りになっていた。
「うわーっ!?油断してたクマ、大変なことになったクマ!」
突然の雨に両手で頭を守りながら慌てて駆け出す球磨。
「傘なんか用意してないクマ!提督の言ってた異常ってこれのことクマ!?」
そんなワケがない。この雨は単なる夕立であり、提督の懸念とは無関係である。
しかし球磨にとっては今自分に降り注ぐこの厄介な雨こそが全てであり、森に何が起こっているのかなど考えてすらいない。
「ゲゲッ、土砂崩れクマ!?道が塞がってるクマ!この雨で崩れちゃったクマ?こんなの想定外クマ!」
エリア5まで辿り着いた球磨が目にしたのは、大量の土砂や岩石によって塞がれたエリア2につながる通路。
球磨は雨によって土砂崩れが起きたと推測した。
しかし急な夕立とはいえ、孤島で雨が降るのは珍しいことではない。
ましてやこれは狩娘もモンスターも使用する重要な通路、雨が降った程度で崩れるような軟な地盤をしているものだろうか?
「困ったクマ、最短で鎮守府に帰るにはエリア2を経由するのが早いのに……。」
途方に暮れる球磨を他所に、ますます激しさを増していく雨。
「マズいクマ。雨は強くなるし日も暮れてきたし、このままじゃ風邪ひくクマ。」
エリア6を経由するという手もあるがエリア6はジャギィ達の住処であり、球磨としては天気のいい昼ならまだしも、こんな視界の悪い夕方にエリア6に立ち入るのはゴメンであった。
実際のところはエリア6のジャギィ達も同様に姿を消していたのだが、そんなことを球磨は知るよしもなかった。
「……ん?」
困り果てた球磨がふと周囲を見渡すと、岩壁に洞穴があるのを発見した。
「あれ?こんなところに洞穴なんてあったクマ?ここいっつも通ってるけど全然気付かなかったクマ。うーん、仕方ないクマ。雨脚が弱まるまでここで雨宿りしていくクマ。」
洞穴に入った球磨が最初に感じたのは、清々しく気持ちのいい風の匂いだった。
「雨の日の洞穴ってのはもっと暗くてジメジメしたカビ臭い所だと思ってたけど、ここはどことなく暖かくて空気も澄んだ心地のいい場所クマ……ってアレは?」
球磨が洞穴の中央に目を向けるとそこには岩や土を固めて作られたと思われる小山があり、その頂上には枯草や枝が敷いてある。
「これは何クマ……ってタマゴクマ!?」
小山の上に登った球磨が発見したのは60㎝以上はありそうな大きなタマゴ。
全体的に青く、いくつかの緑色の模様が入った今まで見たこともないタマゴである。
「この洞穴って何かの生き物の巣クマ?……ってことはずっとここにいたらこのタマゴの親が帰ってくるクマ?もしそうなったらマズいクマ!自分の子供を守ろうとする親の愛情は物凄いパワーを生むというクマ。巣の持ち主に球磨がこのタマゴを盗ろうとしてる敵だと勘違いされちゃったらタダじゃすまないクマ!それに球磨としても我が子を守ろうとする親と戦うなんて酷いことしたくないクマ、早く出なきゃ……。」
そう言う球磨だが、何故か目の前のタマゴから目を離すことが出来なかった。
初めて見たタマゴなのに、まるで長年探し求めた自分の半身を見つけたかのような感覚がここから立ち去ることを許さなかったのだ。
「わぁ、あったかいクマ!ずっしりとしたこの重みは命の重さクマ……って、何勝手にタマゴを触ってるクマ!?こんなことよくないクマ!」
球磨は自分でも気付かないうちに巣の中央に座り込み、そっとタマゴを抱いていた。
こんなことをしている場合ではないと頭では分かっているのだが、意思に反して手はタマゴを離さない。
「でも生命の鼓動を感じるクマ、心が安らぐクマ……。」
我が子を慈しむ母親のような優しい手付きでタマゴを撫でる球磨。
その時、ピシリという音を立ててタマゴに小さなヒビが入った。
「ピシリ?……今の音ってまさか!?」
驚く球磨を他所に、ヒビはビシビシという音と共にあっという間にタマゴ全体に広がっていく。
そしてタマゴがブルリと震えると同時に殻が内側から弾け飛んだ。
「う、生まれたクマ。タマゴから熊が生まれてきたクマ。あれ?熊って卵生だったクマ?いやいや、熊は哺乳類クマ、哺乳類は胎生クマ。じゃあこの熊は哺乳類なのにタマゴから生まれてきたクマ!?」
球磨の腕の中にいたのは青い体毛に身を包んだ愛らしい子熊。
混乱する球磨の様子など知った事かと言わんばかりに、子熊はグルグルと喉を鳴らしながら球磨の胸に頭を擦り付けて甘えている。
「ひょっとして球磨のことをお母さんだと思っているクマ?タマゴから生まれたばかりの雛鳥は最初に見た動くものを親だと思い込むって聞いたことあるクマ。確か刷り込みクマ?でもそれは鳥の話クマ、哺乳類でもそうなるとか聞いたことないクマ。」
子熊は球磨の顔をペロペロと舐めたり服の裾を甘噛みするなどして甘え続けており、球磨のことを親だと信じ込んでいるようであった。
「クマ~、球磨はお前のママじゃないクマ。お前の本当のママは今出掛けてるだけクマ。」
球磨は子熊にそう言い聞かせるものの、理解していないのか子熊は甘えるのを止めようとはしない。
子熊を納得させるのは難しいと悟った球磨は溜息を一つ吐くと、ある決意をする。
「よし、それじゃあ球磨がお前のお姉ちゃんになってあげるクマ!」
「がぅ?」
「お前にはお前を産んだ本当のママがいるクマ。だから球磨はお前のママにはなれないクマ。だけどお前のママが帰ってくるまで、お前のお姉ちゃんになってあげることくらいなら出来るクマ!球磨型の長女として妹の面倒を見るのには慣れてるクマ、お姉ちゃんの責任としてお前の世話をしっかりとしてやるクマ!」
「がぅ!」
球磨の言葉を理解したのかしていないのかは定かではないが、球磨のお姉ちゃん宣言を聞いた子熊は先程よりも更に嬉しそうに鳴いた。
しかしここで球磨はふとあることに気が付いた。
「そういえばこの熊は名無しクマ。生まれたばっかりだから名前が無いのは当然だけど、いつまでもお前と呼び続けるのもちょっと変クマ。母親どころか親戚ですらないのに命名するっていうのもおかしな話だけど、この際だから球磨がお前に素敵な名前を付けてやるクマ!……とはいえいざ名付けるとなると難しいクマ、責任重大クマ。何にするクマ?」
命名とは生まれてきた赤子に名前を授けるという大切な儀式。
適当な名前や変な名前は許されない、DQNネームなどもっての外である。
球磨は名前を考えた、考えに考え抜いた。
そしてようやく考え付いた子熊にふさわしい名前、それは……。
「よしっ、お前の名前は木曾クマ!球磨お姉ちゃんの妹になるんだったら名前は木曾以外ありえないクマ!それにモガ鎮守府に所属している球磨型狩娘には木曾がいないから丁度いいクマ。今日からお前は木曾と名乗るといいクマ!強さとカッコよさを兼ね備えた我が妹、木曾の名に恥じぬ立派な熊となるクマ!」
「がうー!!」
妹と呼んだはいいが、子熊の性別は果たしてオスなのかメスなのか?
今後鎮守府に本物の木曾が配属されたら一体どうするのか?
そんなことは一切考えず、ただ単純にいい名前を付けたと誇らしげな表情を浮かべる球磨と、無邪気に喜んでみせる子熊改め木曾。
そんな中、大きな音を立てて木曾のお腹が鳴る。
木曾はお腹をさすりながら切ない顔をして球磨を見つめた。
「ひょっとしてお腹空いてるクマ?うーん、普通に考えれば生まれたばっかりの動物はママのおっぱいを飲むクマ。でも木曾のママは不在だし、球磨のおっぱいをあげるってのは論外クマ。吸われたって出るワケないし、そもそも動物に自分のおっぱい吸わせるのはいくらなんでも嫌クマ。ここに大井がいれば代わりに吸わせたんだけど……そういえばあれが使えるクマ?」
大井に対して酷いことを考えつつポーチの中を漁る球磨。
ちなみに球磨型で一番立派な胸部装甲を持つ大井でも吸われたって何も出ないし、長女命令だとしても許可するハズがない。当然である。
「粉ミルクとかは持ってないけど、これなら食べられるクマ?」
球磨が取り出したのはサシミウオとアオキノコ、今回のピクニックで採集したものである。
「あぐあぐ!」
よほどお腹が空いていたのか、凄い勢いで食事を平らげていく木曾。
あっという間にサシミウオとアオキノコを食べ尽くしたのを見て、球磨は追加のサシミウオとアオキノコを取り出すと木曾はそれも食べ始める。
赤ちゃんだからミルクしか飲まないではないかと内心心配していた球磨は一安心である。
「おーおー、よく食べるクマ。よしよし、デザートにハチミツもあるクマ。味わって食べるクマ。」
木曾の食欲に気を良くした球磨は気前よくビンに入ったハチミツも木曾に与えた。
木曾は大喜びで蓋の空いたビンに鼻先を突っ込み、中をペロペロと嘗め回す。
「可愛いクマ~。これが母性愛ってやつクマ?」
木曾の可愛らしい様子に頬が緩む球磨だったが、ふと鎮守府のことを思い出し洞穴の外の様子を軽く確認する。
「相変わらずの大雨クマ、ますます夜も更けてきたしこれで帰るのはちょっとキツいクマ。それにこの子を置いて帰るワケにもいかないししょうがないクマ。あんまり遅いと提督に怒られるかもしれないけど、どのみち木曾のママが帰ってくるまでここにいるって約束しちゃった以上は一緒にいてあげるクマ!感謝するクマ!」
「がぅ~!」
「わっ、急に抱き着いて来るなんてお前は本当に甘えん坊クマ~。よしよし、いい子クマ~。」
降り続く夜の雨。
外は暗く気温も冷え込んできたが、洞穴で過ごす球磨と木曾の周りはどこまでも明るく暖かい。
二人が心を通わせるたびにそれに合わせて絆石も少しずつ輝きを増していたのだが、木曾を愛でることに夢中の球磨がそれに気付くのはまだ先の話であった
球磨ちゃんは改二丁が出たし、アオアシラはRISEで内定貰ったし、作中で推してたキャラクターが出世すると運命感じますね。
今年は丑年じゃなくて熊年だった?
球磨ちゃんが改二丁になったのも、アオアシラがRISEに出られたのも、全部この作品のお陰じゃないか……!(ブック・オブ・ジ・エンド)