今年最後の初投稿です。
「…………そういや、お前はいつまでオレの夢にいるんだ?」
「あれ、最初に言ったと思うけど忘れたクマ?ならもっぺん言うクマ、どっちかの目が覚めるまでクマ。」
「は?」
前回の球磨の奇行に一瞬意識を飛ばしていた天龍だが、正気に戻りずっと気になっていたことを聞いてみた。
その結果、返ってきた返答は予想外の一言であった。
ちなみに球磨が最初に言った通り、夢で天龍に会った時点で球磨は目が覚めるまで夢に居座ると言うことを宣言しており、天龍が忘れていただけである。
「球磨か天龍のどっちかが目覚めない限り、球磨がこっから出られないってことクマ。ここでは球磨と天龍は目が覚めるまで一蓮托生クマ、目覚めるまでよろしくクマ。」
「何でだよ、夢を支配しているんじゃなかったのか!?」
「それとこれとは話が別クマ、支配しているのは夢だけで目覚めについては管轄外クマ。自然に目が覚めるか、外部から刺激を受けて起きでもしない限りは二人っきりクマ。」
「クソッタレ!」
仕方がないので右手で自分の頬っぺたをつねる、何も起こらない。
更にそのまま引っ張ってみる。頬っぺたがうにょーんと伸びたただけで、それ以外に何も起こらない。
「め、目が覚めない?」
「そりゃそうクマ。だってこれは夢クマ。夢なのにそんなことしたって痛いわけねークマ。」
呆れてため息を吐きながらも、天龍の左の頬っぺたに手を伸ばす球磨。
そしてつねって引っ張る、右の頬っぺたと同じように左の頬っぺたもうにょーんと伸びたがそれだけであった。
「へ、へもふめひがあるくてえざえうおとああるあろ!?」
「……何て言ってるクマ?」
「あーもう!はおはらへをはなへ!!」
「はおはらへをはなへ?……あー、顔から手を離せって言ってるクマ?了解クマ。」
「……っへ、なにほやっへいるんがおあえ!?」
球磨に左の頬っぺたを引っ張られたままで上手に喋ることの出来ない天龍は、手を離すことを要求する。
球磨は天龍の言うことを理解して素直に手を離す……と思いきや離すどころか更に強く引っ張り始めた。
「あがががが!?」
引っ張られ続けた天龍の頬っぺたは軽く10センチ程度にまで伸びており、正しく現実ではあり得ない状態である。
しかしそれでも引っ張る手を緩めない球磨、そして遂に……。
天龍の頬っぺたは軽い音を立てて引き千切れてしまった。
球磨の手の中には肌色のピンポン玉のようなものがあり、言うまでもなく天龍の頬肉である。
「ギャアアアァァァァァ!!!???テ、テメェ何てことしやがる!?」
「平気クマ、だってこれは夢クマ。別に痛くないし、顔も別にどうもなってないクマ。」
左の頬を押さえて涙目で絶叫する天龍だが、球磨に言われて気付く。
確かに痛くないし血も出ていなければ、頬っぺたもちゃんと付いている。
「だからってやっていいことと悪いことがあるだろ!?」
キレる天龍だが、球磨は何事もなかったかのように手の中の頬肉を蝶に変えて何処か遠くに飛ばす。
「状況を理解させるのにこれが手っ取り早いと思っただけクマ、別に嫌がらせとかじゃないクマ。そんなことより何か言おうとしてなかったクマ?」
「そ、そうだ!夢見が悪くて目が覚めることはあるだろって言おうとしてたんだ!つーかお前が顔を引っ張らなけりゃさっきの時点で言えてたんだよ!」
「そいつは悪かったクマ。だけど球磨が入り込んだことでいわゆる夢の枠とでもいうべきものが強固になってるクマ。だから並大抵の悪夢じゃ目覚めっこないクマ。現に顔の肉を引き千切られるという悪夢を見ても目覚めてないクマ。」
「お前ほんと余計なことしかしねーな。」
「そもそも今までの様子から察するに提督の夢に入る予定だったんだろ?なのに何でオレの夢にいるんだ?」
そしてこちらが気になっていたことその2である。
最初に球磨が現れたときは明らかに提督の夢に入ったと思い込んでいたようだったし、エロ衣装も提督とクマクマするために用意したと言っていた。
つまり球磨の本来の目的は提督の夢に入り込んでイチャイチャすることであり、決して天龍の顔の肉を千切ることではないのだ。
なのに球磨がここにいることが天龍は不思議で仕方がなかった。
「そんなの簡単クマ。球磨の能力は近くで眠っている誰かの夢の中に自分の意識を飛ばすものであって、特定の人物の夢を狙って入り込んでいるものではないクマ。近くで寝ている人は全員ターゲットになるクマ。」
「はぁ?」
「つまり本当は提督の夢に入りたかったけど、失敗して天龍の夢に入っちゃっただけクマ。」
「そーいや最初に会ったときにまた失敗したとか言ってたような……?」
「その通りクマ。球磨はこの能力を身に着けてから週に一回くらいの頻度で提督の夢への侵入を試みているけど、今のところ一回も成功したことがないクマ。」
「一応聞いとくけど、提督の夢に入れなかったってことは別の誰かの夢に入ったってことでいいのか?」
「そうなるクマ。今までで一番多く入ったのは文月達、駆逐艦の夢クマ。遊び盛りの駆逐艦は遊んでとせがまれるから大変クマ。夢の中限定とはいえ何でも出来るからといって遊園地丸々一個作らされた時は流石に疲れたクマ。考えるだけで作れるとは言っても、逆に言えば考えなきゃ作れないクマ。球磨だって遊園地行ったことないのに……。」
放送局が存在するカリュード諸島でも、流石に遊園地なんてものは存在しない。
要するに球磨は自分の想像力だけで行ったこともない遊園地を作り上げたということである。
「次によく入るのは大井の夢クマ。大井は十中八九北上の夢か、練習艦として教導をする夢を見ているから入ればすぐに分かるクマ。それと実は大井には球磨が夢に入れることも、夢を自由に操れることも秘密にしてるクマ。だから夢で何があっても球磨の仕業だと大井にはバレれないクマ。それで大井に気付かれないようにコッソリ球磨が提督に変身した後に、提督のフリをして大井の前に現れて目が覚めるまでエロいことをし続けているクマ。こうすることで大井の提督とのケッコンのハードルを下げているクマ!球磨は提督のことが好き過ぎて、提督のフリをするもお手の物になったクマ。球磨の完璧な提督ムーブは大井の目さえ騙すクマ。」
ちなみに球磨は大井に対して流石に本番はヤッていないが、それ以外のことなら夢なのをいいことにありとあらゆることを試している。
その結果大井の弱いところは全て把握しており、更には調子に乗って大井の色んな所を開発しているのである。
一方の大井は球磨の仕業とも知らずに北上とケッコンしている提督でそのような内容の夢を見てしまっていることに対して軽い自己嫌悪に陥っており、球磨の作戦は完全に裏目に出ているのだが、肝心の球磨はそれに気付かずエロい夢を見せ続けるのであった。
「これは大井の嫁入り修行でもあるクマ。床上手になればケッコン後に夫婦仲が冷え込むことはないとされているクマ!それに大井を実験台にすることで球磨のテクニックも磨かれていくクマ、つまりこれはWin-Winの関係クマ!お互いのエロテクを高めることで提督との本番も完璧クマ!最近は球磨の技術も大井の感度もうなぎ上りで、とうとう手の甲をつねってやるだけで大井をイカせられ「わーっ!わーっ!もう聞きたくなーい!」たクマ。」
球磨の猥談に対して、そういうことに免疫のない天龍は大声を出して無理矢理さえぎる。
しかしその天龍も実は寝ている間に時々龍田に色々と性的なイタズラをされていることを本人は知らないのであった。
「最近はひょっとしたら提督は夢を見ない体質なんじゃないかと思い始めたクマ。ここまで試しても入れないのはおかしいクマ。球磨は夢に干渉出来るけど、相手が夢を見ていなければどうしようもないクマ。手詰まりクマ。」
「そこまでして夢の中で提督とイチャつきたいんなら、いっそのこと夢の力で提督を作っちまえばいいんじゃねーの?」
「それは違うクマ。」
そこまでしても提督に逢えないのであれば、いっそ自分で提督を作ってしまってはどうかと天龍は提案するが、球磨はあっさり否定する。
「確かに球磨は思い通りに動かせる提督を作れるクマ。だけどそれは球磨の思った通りにしか動かない提督クマ。暖かみの一切ない、心を持たない単なるラジコンクマ。そんなのとイチャついても虚しいだけクマ。球磨が欲しいのは本物の提督クマ!」
そういう球磨の言葉には確かな信念があった。
しかしいくら本人の見ている夢とはいえ、夢の中の人物を本物と呼ぶのちょっと違う気もする。
実に都合のいい信念もあったものである。
「……しかし退屈だなー。」
「そりゃ球磨が介入した以上、球磨が弄らなければ代わり映えのしない夢の風景がひたすら続くだけクマ。」
やることがなくて鎮守府の床でゴロゴロする天龍と球磨。
二人は夢の中で更に寝転がるという不毛な時間を過ごしていた。
「これ目が覚めるまでこのままの状態なんだよな?」
「そうクマ。今が夜の12時で朝の7時に起きるとしたら、7時間ずっとこのままクマ。」
「7時間!?退屈で眠っちまいそうだぜ!」
「普通の睡眠なら夢の内容も本人の意識もあやふやで気が付いたらいつの間にか朝になってるから時間に対する感覚は薄いけど、球磨の管理下にある夢は内容も本人の意識もハッキリとしてるから目が覚めるまで待たされることになるクマ。」
「クッソォ、何か暇潰しに面白い話でもないのか?」
「面白い話クマ?じゃあ球磨と木曾の出会いの話でも聞くクマ?程よい長さのエピソードだから目が覚めるまでにぴったりクマ。」
「木曾との?もう時間潰せるなら何でもいいよ、聞く聞く。」
「決まりクマ!」
球磨が指をパチンと鳴らすと太陽の日差しと潮風が香るモガ鎮守府は、たちまち暗くて広い映画館内へと変わり、天龍と球磨はいつの間にか座席へ腰掛けていた。
館内は当然のように二人の貸し切りであり、手元にはご丁寧にポップコーンとコーラまである。
「うおっ!?分かっちゃいるけどやっぱりすげぇ!夢の操作って何でもありだな、こんなことまで出来るなんて………………ムグ、このポップコーンとコーラ、味が全然しねぇんだけど。」
急激な変化に驚きつつも手元にあったポップコーンとコーラを口に運ぶが、思わず顔をしかめる天龍。
まるでティッシュペーパーか紙粘土でも食べているようである。
「そりゃ夢だから当然クマ、味なんてするワケないクマ。味はしなくても雰囲気を味わってほしいクマ。それにいくら食べても飲んでも減らないクマ、夢の食べ放題クマ!」
「言葉通り夢の食べ放題だよコンチクショウ!こんなのいくら食べても全然美味しくないし、腹も膨れない。地獄の餓鬼かよ!?」
「それよりそろそろ上映開始クマ。携帯電話の電源はちゃんと切ったクマ?上映マナーは守るクマ。」
「んなもん最初から持ってねぇ!」
「冗談クマ、それじゃあスタートクマ!」
館内の照明が落ちると後方にある映写機が動き始め、荒磯に波がぶつかって波飛沫がざっぱ~んと上がるという、どこかで見たことがある映像が流れ始めた。
そして中央に球磨と記された白い三角形のロゴマークが現れる。
この演出の時点で本当にこのまま見続けていいものかと不安になり始めた天龍なのであった……。
大井っちゴメン、書いてたらいつの間にかとんでもないことになってた。
夢の中で木曾みたいな提督の姿をしたサキュバスの球磨に調教される大井という、字面からしてまるで意味の分からないシチュエーションである。
それでは皆さん、よいお年をお迎えください。