天龍ちゃんと狩娘   作:二度三度

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連邦海兵スミカの格好を見てお前それで本当に海兵のつもりか?……ってなったけど、その後に島風を見直したらどうでもよくなった。

島風って本当にしゅごい……。(語彙不足)





天龍ちゃんと一泊二日の旅5

 

 

 

 

 

「ぶっきらぼうに見えてとっても優しくて~♪しかめっ面してもとっても可愛い~♪」

 

「ぶ、ぶっきら……ぼうに見えて、とても優しくてぇ……しかめっ面しても……とてもかぁぃぃ……。」

 

「だけどすっごく強くて~♪すっごくカッコいい~♪世界の誰よりも愛してるよ提督~♪」

 

「だけどすごく強くて……すごく、カ……カコぃぃ……世界の誰よりも……あ~、ぁぅぁぅぁぅぁぅ……。」

 

「コラッ大井!ちゃんと歌うクマ、もっと声出すクマ!羞恥心を捨てて、自分の中の本当の気持ちと向き合うクマ!」

 

「わ、私はいつでも自分に素直ですよ!」

 

「いや、それはねークマ。大井、そんな調子じゃいつまでたっても提督とケッコンなんか出来ないクマ、お前はそれでいいクマ?お前の提督への愛はそんなものクマ?お前は本気で提督を愛しているクマ!?」

 

「そ、そんなこと言われても、そもそも提督は既に北上さんと……。」

 

「北上を言い訳に使うなクマ!知ってるクマ?そんなことを言い続けて、自分の想いを殺して我慢し続けるとそのうち心の病気になるクマ。ようするに病むクマ、頭がおかしくなるクマ!そんなことになってもいいクマ?お前が良くても北上や提督は困るクマ、もちろん球磨も困るクマ。姉として大事な妹にそんなことにはなってほしくないクマ、分かるクマ?だったら心のリハビリのためにも次は一人で最初から歌うクマ!お姉ちゃん命令クマ、反論は許さんクマッ!」

 

「そんなぁ……。わ、分かりました。んんっ……深緑の髪~♪二色の瞳~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~♪~~~♪」

 

「……なぁ。」

 

「天龍、どうしたクマ?」

 

「何これ?」

 

「何ってこの歌クマ?これは球磨が作詞作曲した、球磨の溢れる提督への愛と想いを綴ったラブソングクマ!」

 

ラブソング?この変な歌がラブソング??こんな歌詞でラブソングのつもりなのか???

 

「このラブソングを定期的に歌って溢れる愛を発散しないと、球磨の中に愛が溜まり過ぎて爆発しちゃうクマ。もし球磨が爆発すると鎮守府を中心とした半径500メートルは焼け野原になるクマ、悲惨な未来を回避して、平穏な時代を維持するためにもこの歌は必要不可欠クマ。」

 

「あ、そうか……。(愛が溜まって爆発?鎮守府が焼け野原?何言ってんだコイツ?)……で、何で大井にも歌わせてるんだ?」

 

「~~~♪~~~♪」

 

大井はさっきからずっと一人で恥ずかしい歌詞を歌わされ続けており、見てるだけで可哀想である。

顔は恥ずかしさのあまり真っ赤に染まり、瞳はグルグルと渦を巻いている。

 

「これは教育の一環、そしてお姉ちゃんから妹への愛クマ。大井には素直さとひた向き加減が足りてないクマ。ラブソングを歌わせることで大井の羞恥レベルを徐々に下げることで、大井は提督に素直に向き合って直接愛を伝えられるようになるクマ。そうなれば大井は提督とケッコン出来るようになるクマ!」

 

「は?何だそりゃ?ひょっとしてお前大井に北上から提督をNTRせようとしてんのか?そういう歪んだ趣味でもあんの!?」

 

「クマッ!?そんな変な趣味なんて持ち合わせてないし、そういう陰湿なこともしないクマ!これは提督と球磨型狩娘のしあわせ家族計画クマ!」

 

「ちょっと何を言ってるのか分からない、頭痛くなってきた……。」

 

「ぬっふっふっ~、恋愛初心者の天龍にはちょっと難しかったクマ?まぁいずれ分かるようになるクマ!」

 

そんなの分かるわけがないし、分かりたいとも思わない。

いずれ分かるようになる日が来るとか、そんなの冗談でも嫌なんだけど……。

そもそもどう考えても向こうの方がおかしいのに、何でオレがバカにされてんだ?理不尽だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁ歌のことはいい。それよりもう一つ聞いていいか?」

 

「今度は何クマ?」

 

「何でオレ達出撃したはずなのに、仲良く木曾の上に3ケツして野山を歩いてんだ!?」

 

「ガゥ!」

 

そう、現在オレ達は三人並んで木曾の背中に乗って進んでいる。

一番前で木曾の舵取りをしているのが球磨であり、その後ろに座っているのがオレ。

木曾に乗り慣れていないオレは落馬……もとい落熊しないように球磨の腰に両手を回して身体を固定しており、後ろからも大井がオレの身体を押さえてフォローしてくれている。

つまりオレは二人に挟まれる形で座っているのだ。

ちなみに球磨の武器……スラッシュアックスだと思われるモノは、オレが球磨の背中に張り付くのに邪魔になるとのことで大井が背負っている。

当然大井も自分の武器である片手剣を装備しているので、実質武器を二つ持っていることになる。重そう……。

これが何を意味するのかというと、今までのカオスなラブソングも球磨の大井に対する説教も全てオレを挟んで行っていたということである。勘弁してくれ……。

 

「そもそも何で全員で木曾に乗って移動する必要があるんだ?普通に歩いていきゃいいだろ?」

 

「そりゃ木曾に乗った方が移動が楽だからクマ!」

 

「いや、そりゃ確かに乗って移動した方が楽だけど、オレが言いたいのはそういうことじゃなくて……。」

 

「ほら、周囲を見てみるクマ。」

 

「?」

 

球磨に言われて周囲を見渡してみると、少し離れたところを流れる小川に潜む首の長いワニのような生物が目についた。

ワニは明らかにこちらを警戒しており、遠巻きに威嚇こそしているものの近付いてくる様子はない。

 

「あれはルドロスクマ。」

 

「ルドロス?」

 

「ルドロスはモガ鎮守府周辺の水辺でよく見られるモンスタークマ。好戦的な性格で、狩娘を見掛けると積極的に攻撃してくる厄介なヤツクマ。でも木曾と一緒にいると木曾を恐れるのかあまり近付いてこなくなるクマ!」

 

「つまり木曾といると襲われないから安全ってことか?」

 

「そういうことクマ!野生動物は互いの力関係に対して敏感クマ、意味もなく自分より強そうな相手に喧嘩を売るようじゃ野生の世界ではとても生きていけないクマ!流石にロアルドロスみたいな大物は無理だけど、小型モンスターならビビッて消極的になるクマ!これで無駄な戦闘を回避出来るし、無益な殺傷も減らせるクマ。球磨としても意味もなく野生動物を傷付けたくはないからとても助かってるクマ!」

 

「なるほど、ボディーガードみたいなもんか。(ロアルドロス……?)」

 

「そうクマ!まぁ万が一襲われたとしても、そこらの小型モンスターなら木曾の相手にはならんクマ!ワンパンでぶっ飛ばしてやるから大船に乗った気持ちでいるクマ!」

 

「実際に乗っているのは大船じゃなくて大熊だけどな。」

 

「~~~♪~~~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それともう一つ聞いときたいんだが、オレ達って海に向かってるんだよな?」

 

「そりゃとーぜんクマ。球磨達は狩娘クマ!」

 

「じゃあなんでこんなところを歩いてんだ?」

 

もう既に勘付いていると思うが、現在オレ達は鎮守府の桟橋を渡った先にある孤島を木曾に乗って進んでいる。

要するに陸路である。

 

「鎮守府の周囲は海に面しているんだからそっから出撃すればいいじゃん?」

 

交易船で直接乗り込んだり、そもそも鎮守府が海の上に作られていることから分かるように、モガ鎮守府は周囲を海で覆われている。

そこから直接出撃すればいいのに何で島の中をてくてく呑気に歩いていく必要があるんだ?

 

「やれやれ、そんな簡単なことを説明するハメになるとは思わなかったクマ。」

 

オレの当然の疑問に球磨はコイツ分かってねーなと言わんばかりの態度で返す。

何というかさっきからオレに対して辛辣じゃないか?

 

「まず前提としてこの鎮守府が建っている周辺の海には深海棲艦が生息していないクマ。深海棲艦にもそれぞれの縄張りや、好みの環境ってものがあって、ここの鎮守府はちょうどそういった地帯の間と間に建てられているクマ。まぁ海の上に建ってるんだからいきなり深海棲艦の攻撃を受けないためにも、そういった場所を選ぶのは当然クマ!つまり鎮守府周辺の海は基本的に安全クマ!」

 

そりゃそうだ。

夜に寝てる間に鎮守府の真下から攻撃でもされたら堪らないからな。

 

「逆に言えば鎮守府から直接出撃しても全然会敵出来ないクマ。深海棲艦が多く生息している海域は島を挟んで鎮守府のちょうど反対側クマ、だから狩りに行くならそこを目指す必要があるクマ。だけど鎮守府の裏から出撃すると狩場に辿り着くために島を迂回する必要があるから、もの凄く時間が掛かるクマ。つまり島の中を突っ切ってしまえば近道になるクマ!」

 

要約すると鎮守府から目的の狩場までは海路で行くより、陸路を使った方が早くて近い。島に生息している気性の荒い野生動物は木曾と同行することで交戦を避けられる。

近くて早くて安全ね♪……ということらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木曾の背中に揺られてしばらくすると、見えてきたのは視界いっぱいに広がる大海原。

球磨曰く、ここは孤島のエリア10と呼ばれている場所らしい。

全員で木曾から降りて波打ち際に集まった、潮風が気持ちいいぜ。

ちなみにここに到着するまで大井はずっと歌い続けていた、ご苦労さん。

 

「どうクマ?いい景色クマ!」

 

「あぁ、そうだな。師匠からも散々モガの海は美しいと聞かされてたが、これを見ると誇張でも何でもなく、ただ事実を言っていたんだなって分かるぜ。」

 

見たことがないくらいに澄んだ海。

海岸は崖になっており、海中を覗き込むとそのまま海底が見える程の透明度である。

海底からは明らかに人為的に建てられたと思われる太い石柱が数本、海面から突き出すように生えており、かつてここで栄えた古代文明が存在していたという事実を現している。

 

「それじゃ早速海に出るクマ!」

 

「ちょっと待てェ!」

 

「何クマ?」

 

いきなり出て行こうとする球磨を引き留める。

不服そうな顔をされるが、このまま出撃されるとオレが困る。

 

「まだベースキャンプを設置してないぞ!ここにはベースキャンプが無いだろ?このまま出撃すると、もし乙ったときに運ばれるキャンプがないじゃねぇか。」

 

見ての通り、ここの海岸にはベースキャンプが存在していない。

ベースキャンプは単なるテントではない、狩娘にとってクエストの拠点となる重要なエリアである。

クエストの出発地点、物資の補給所、休息所、避難所、様々な役目を持つ立派な前線基地なのだ。

 

「なーんだ、そんなことクマ。」

 

「そんなことって……。」

 

「心配しなくてもベースキャンプは既に設置してあるクマ!エリア2の隣のエリアがベースキャンプになってるクマ!」

 

「エリア2?」

 

「ほら、ここクマ!」

 

球磨は懐から地図を取り出し、広げるとこちらに見せてくる。

そこに書かれていたキャンプの位置は……。

 

「遠ッ!?エリア2って鎮守府から出てすぐのところじゃねーか!エリア10からどんだけ離れてると思ってんだ!!」

 

「心配しなくてもベースキャンプの釣り場にエリア9に繋がるショートカットがあるクマ。やられたら、そこを通ってくれば復帰が早いクマ。」

 

「いや、そういうことを言ってるんじゃなくて……。」

 

馬の耳に念仏、暖簾に腕押し、何を言っても軽くいなされる現実に頭が痛くなる。

なおも食い下がろうとするものの、大井に肩をポンポンと軽く叩かれ引き留められた。

 

「私には天龍の言いたいこと分かるわよ、私も同じことを姉さんに聞いたもの。エリア10から出撃するのに、どうしてベースキャンプはエリア2にあるのかって……。それに対して姉さんはこう言ったわ。」

 

 

 

 

 

『球磨が建てたワケじゃないから知らんクマ、無いものは無いんだから諦めろクマ。』

 

 

 

 

 

「その後提督にも聞いてみたのだけど、エリア10周辺にはベースキャンプを建てられるほど安全なスペースが無いと言われたわ。ここ周辺は波打ち際まで深海棲艦が近接してくることもあるし、ロアルドロスのような大型モンスターの通り道にもなっている、そんな危険なところにキャンプは建てられないそうよ。」

 

ヤレヤレといった感じの顔で、ため息交じりに語る大井。

なるほど、理解した。要するに建てたくても建てられないんだな……。

球磨も最初からそう言えばいいのにと思ったが、そもそも立地に興味が無いので調べてすらいないのだろう。

お前も苦労してるんだな……。

ところでロアルドロスって何だ……と思ったが、ここでツッコむとなおさら出撃が遠のくと思いグッと我慢する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、待ちに待った出撃である。

しかし日頃からモガの海で狩り慣れており、お互いに気心も知れている地元鎮守府の狩娘姉妹と、本日ここに来たばかりのよそ者天龍。

そんな即席にも程がある凸凹パーティ、果たして天龍は足を引っ張らずに狩りを終えられるのであろうか?

 

 

 







この作品にロアルドロスは登場しません。
仕方ないね。




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