天龍ちゃんと狩娘   作:二度三度

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連装砲ちゃんってセリフが無い……っていうかそもそも喋らないから困る。
キュイとかみゅーんって言うけどそれってセリフじゃないような……?


こうなりゃ得意の捏造で誤魔化すでゲス!



天龍ちゃんと旅立ちの風3

 

 

 

 

 

ガタゴトガタゴトガタゴトガタゴト………………

 

 

 

 

 

………ん、何の音だ?そもそもここはどこだ?さっきまでオレは何をしていたんだっけ?

オレの視界は真っ暗だが、すぐ近くから木製の車輪が転がるような音が聞こえてくる。そしてその音に合わせて身体が小刻みに揺れているような気もする。

 

そうだ思い出した、オレはさっき轟沈したんだ!あれは絶対に夢じゃない。オレはデカいイ級と戦って、手も足も出ないままボコボコにやられてそのまま海の底に沈んだんだ。

 

じゃあ何でオレに意識があるんだ?死後の世界に来たのか?そんでもって三途の川を渡っている最中なのか?

 

それともこれが噂に聞く轟沈した艦娘が未練と怨念の影響で深海棲艦になっちまうっていう現象か?あれはただの噂だと思っていたし、そもそも今のオレは艦娘じゃなくて狩娘だ。いやそれは関係ねーのか?

 

深海棲艦になったらどうなるんだろうな?この意識も無くなっちまうのかな?龍田は深海棲艦になったオレを見てどう思うんだろう?泣きながらオレを沈めるのかな?それともオレと気付かないまま倒してしまうのかな?

 

 

 

 

 

暗闇の中で物思いに耽っていると、突然浮遊感を感じた。

 

「いでっ!?」

 

続いて感じたのは固い地面に放り出されて転がるような感覚。痛みで完全に目が覚めた。

 

まず目に映るのは眩しい太陽、そして青い空。起き上がってみると目の前には広い海原。

あれ?オレは確かに海に沈んだはず、だけどここは明らかに海の上だ。足元には地面がある、そして背後にはテントと青と赤の二つの箱が……ってここってベースキャンプじゃん!?やられたと思ったら何でベースキャンプに戻ってんだ!?

そんでもってオレの真横には安っぽい木製の荷車と2体の連装砲ちゃん。連装砲ちゃんって島風の艤装だろ、何でこんなところにいるんだ?

 

状況が飲み込めないオレの目の前に突然緑色の煙が立ち上った。

何だこれ、と思う間もなく煙の中から現れたのは龍田。マジで何だよこれ?いつの間に帰って来たんだ?イリュージョン?

龍田は不機嫌といった顔でいきなりオレに詰め寄って来た。

 

「もうっ、天龍ちゃんったら!あれ程言ったのにいきなり1オチするなんて!」

 

「いやっ、その……スマン。」

 

プンプンといった効果音が付きそうな感じで説教を始めた龍田に思わず謝ってしまう。っていうか1オチって何?

 

 

 

 

 

「なぁ、確かにオレは轟沈したはずだろ?なのに何で生きてんだ?」

 

生きてるだけでも奇跡だが、それと同時に身体に痛みが無いのも不思議だ。死ぬ寸前までボコボコにやられたのなら、未だに死に掛けじゃなきゃおかしい。それとも自分で気付いてないだけで、実は意識不明で一週間くらい寝てたとか?

 

「それは簡単な理由よぉ、だって狩娘は轟沈しないもの。やられちゃったから沈んだだけよ。」

 

「はぁ?轟沈しない?でも倒されたから沈むって、轟沈と同じだろ?」

 

「全然違うわよぉ。轟沈した艦娘はサルベージ出来ないし、仮に引き上げたとしても残念だけど轟沈した時点で死んじゃってるわ。だけど狩娘はただ動けないだけだから、回収してくればいいのよ。やられてもすぐ動ける理由は連装砲ちゃんが簡単な手当てをしてくれているからよぉ。それに全てが元通りってワケじゃないわぁ、増やしたスタミナが減ってるでしょう?」

 

何じゃそりゃ?狩娘はやられても動けなくなるだけ?確かにスタミナが減ったとはいえ、それは燃料で補給すればいいだけの話だ。つまり狩娘ってのは不死身なのか?ダメージ受けても傷が残らないし、艦娘と比べて回復もお手軽だ。ようするに無敵ってことじゃん!

 

「天龍ちゃん、やられても問題無いと思ってるでしょ?大アリよ、それじゃあ誰も一緒に狩りに行ってくれなくなるわよぉ。」

 

えっ、何で?死なないのなら時間は掛かるけどゾンビアタックで確実に敵を殲滅出来るじゃん。

そんなオレの疑問を余所に龍田の話は進んでいく。

 

「確かに狩娘はそう簡単には死なないわぁ。それでもクエスト中には何があるか分からない。だから基本的に出撃している狩娘達が合計3回やられると時間制限が残っていてもクエストは失敗となるの。つまりクエストが終わらない内に3回もやられる狩娘は実力不足と見なされるってこと。1人でクエストを受けているのなら本人の責任で済むからまだいいけど、他の狩娘と一緒に狩りに行った場合でも合計で3回やられたら1人残らず撤退しなきゃいけないの。つまり他の狩娘の迷惑になっちゃうから無謀な行動は控えるべきなのよ。」

 

「よく考えたら艦娘でも独断行動は他の仲間の迷惑になるよな、提督からの指示が無いから忘れてた。ほんと反省してる、ゴメン。」

 

「分かるのならいいのよ。大丈夫、天龍ちゃんはまだまだ狩娘初心者なんだもの。これから成功も失敗も色々経験して立派な狩娘になってねぇ。それとね狩娘は艦娘と違って提督の指示は受けられないの、全て現場の判断に任せられているのよぉ。だからこそ経験を積んで、どんな状況にも冷静に対応出来るようにならなくちゃいけないの。さっき天龍ちゃんはやられている時に応急薬飲まなかったでしょ?飲んでいれば私が到着するまで攻撃に耐えられたのに、ピンチに慌てて薬の効果どころか持ってることすら忘れてたんでしょ?提督からの指示は出ないんだから自分で考えなきゃダメよ!」

 

はい、忘れてました。何でそんなことまで分かんだよ?しかし指示が無いのかぁ、まぁあの提督じゃあどのみち期待は出来ねぇけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりゃそうとなんでオレはベースキャンプにいるんだ?それに龍田も変な煙の中から出てきたじゃん。さっきの場所とここって結構距離あったよな?」

 

「私が使ったのはモドリ玉よぉ。玉が割れると出てくる緑色の煙の中に入ると、どこにいてもベースキャンプに一瞬で戻ってこられる不思議な玉なの。」

 

煙に入るとベースキャンプに戻って来られる?意味も原理も全てが分からん。どこでもドアと玉手箱の雑種か?

 

「天龍ちゃんが戻って来れたのは1オチしてレンタクに乗せられたからよぉ。レンタクっていうのはね、連装砲タクシーの略で連装砲ちゃんが押す荷車のことよぉ。クエスト中に力尽きた狩娘は素早く連装砲ちゃんに回収されるの。そして連装砲ちゃんが危険な狩場から安全なベースキャンプまであっという間にで運んでくれるってワケ。それと1オチっていうのは1回やられたっていうことを指すスラングよぉ。1乙や1死とも言うわね。2回やられると2オチ、3回やられると3オチって言うの。」

 

へぇ~、それで1オチって言われたのか……えっ、連装砲ちゃんがオレを運んだの?それも一瞬で??あのデカいイ級がいるにも関わらず回収して???

 

「マジで?」

 

思わず連装砲ちゃんに聞いてみる。よく考えたら返事なんてあるわけないのに……。

 

「マジダヨー。」

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」

 

連装砲ちゃんは笑顔であの短い手を振りながら返事をしてきた。

嘘だろ?連装砲ちゃんって喋るの!?島風不在なのに動く連装砲ちゃんってだけでも不思議なのに喋るとかこれ本当に連装砲ちゃんか?中に誰か入ってるんじゃねぇのか?

 

「中ノ人ナドイナイヨー。」

 

中に人は入っていないらしい。じゃあAIで動いてるのか?

 

「連装砲ちゃんが気になるんでしょ?この子は見た目は島風ちゃんの艤装と同じだけど、艤装の連装砲ちゃんと違って島風ちゃんがいなくても自立しているし自意識もあるの。つまりこの子は生きているのよ。」

 

えぇ~、これが生き物?でも確かに島風抜きで動いてるし喋ってるしなぁ……。

 

2体の連装砲ちゃんは龍田にも手を振ると荷車を押しながら何処かに行ってしまった。あ、やっぱり荷車ごと海の上を進むんだ。

 

「連装砲ちゃんは危険な海域から狩娘を連れて帰ってくれる代わりに、代金としてクエストの報酬金を3分の1ずつ払う仕組みになってるのよぉ。やられればやられるだけ報酬金が減るから注意してねぇ。」

 

連装砲ちゃんに金を払うって……じゃあ連装砲ちゃんも金を使うのか。つまり生活の為に仕事をして給料を貰ってるってことだよな?島風がいないから自分のことは自分でする必要があるから金が要るのか?あの可愛らしい見た目で金使って生活しているなんて生々しくてイメージが崩れるなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、私達も帰りましょ。」

 

「えっ、ノルマは6体のハズだろ?まだ5体しか倒してないじゃないか。」

 

「天龍ちゃんが連装砲ちゃんに運ばれてる間に、私が1体やっつけちゃったわ。」

 

「Oh……何てこった。じゃああのデカいイ級は?」

 

「あぁ、ドスイ級のことね。」

 

ドスイ級?デカいイ級のことか?そもそもドスって何?ボスじゃなくて?

 

「あれはイ級を率いる群れのリーダーよぉ。群れの中で1番大きく育ったイ級は普通のイ級には無いリーダーの証である角が生えてくるの。戦闘力も普通のイ級とは比べ物にはならないわぁ。だけど所詮はイ級、そんなに大した相手じゃ無いわよ?」

 

「えぇ~、オレその大したことの無い相手に手も足も出なかったんだけど?斬り付けても全然効果無かったし。」

 

あの時斬り付けてもまるで効いた様子は無かった、っていうか傷一つ付いて無かったしな。

 

「狩娘が攻撃を受けても外傷が無いように、深海棲艦もダメージを受けても目に見える傷はそう簡単には出来ないわ。普通のイ級でも剥ぎ取る際に傷が無かったの覚えているでしょう?」

 

そういやそうだった。あれはてっきり骨の斬れ味が低過ぎて斬れなかっただけだと思ってたけど、考えてみればアタリハンテイ力は狩娘と深海棲艦の両方に作用してたんだったな。

 

「そして大きな深海棲艦はちっちゃな深海棲艦と違ってそう簡単には倒れないし怯まないわよぉ。だけど効いてないように見えても効かないってことは絶対に無いわ、とにかく攻撃あるのみよ!」

 

「つまり効いてないように見えただけでちゃんと効果はあったんだな、無敵かと思って焦っちまったぜ。だけどこんな貧弱な骨と裸一歩手前の防具で勝てんのか?」

 

「簡単よぉ、ドスイ級は動きが単純だし攻撃力も耐久力も低いもの。天龍ちゃんが負けちゃったのは慌てて判断力が落ちたせいよ、その装備でも十分に勝てるわ。うちの提督はキック1発でドスイ級を倒したって言ってたし、バルバレ鎮守府のまつ毛提督なんかパンツ一丁で深海棲艦を撃退したそうよぉ。」

 

マジで?あれをキック1発で蹴り殺すとか冗談だろ?それとそのパンツまつ毛提督はどういうシチュエーションでそんなことになったんだよ!?

 

「うちの提督は普段からあんな様子だからちょっと嘘っぽいけど、少なくともバルバレのまつ毛提督の話は本当よぉ。目撃者も一杯いるもの。当時のバルバレ提督は士官候補生ですらない一般人だったんだけど、深海棲艦を追い払った功績を認められて提督に任命されたんだって。バルバレ鎮守府が新しい提督を欲しがっていたっていう理由もあるけどねぇ。まつ毛提督は提督としての素質もあったみたいで、鎮守府の狩娘達からも慕われているそうよぉ。」

 

まつ毛提督すげぇじゃん、ウチの提督と取り換えてくんねぇかな?

それにしても深海棲艦って一般人でも倒せるもんなの?つうか提督って人種はどんだけ強いんだよ?狩娘の立場がねーじゃねぇか!

 

「あのねぇ、狩娘は海の上を歩けるってだけでそんなに強くないのよぉ。アタリハンテイ力に適応しているだけで、艤装が無い狩娘は普通の人と同じか、少し強い程度の力しか出ないもの。純粋なパワーなら艤装のエネルギーを扱える艦娘の方がずっと強いわぁ。」

 

そういやそうか、オレ達艤装使ってねぇんだった……。

 

「カリュード諸島で提督に選ばれるには立場や功績はもちろん必要だけど、アタリハンテイ力に適応出来るかどうかが一番重要なのよぉ。」

 

「はぁ?何でだよ?提督がアタリハンテイ力に適応しても狩娘には関係無いじゃん。それに適応出来るかどうかってことは、適応出来ないヤツもいるってことか?」

 

「それが関係あるのよぉ~。提督と狩娘の関係についての詳しい話はまた今度してあげるけど、とにかく提督が戦えるってことは鎮守府最後の砦になれるってこと。それとね、アタリハンテイ力には狩娘が全員適応出来るってだけで人間が適応出来るかどうかは別の話よぉ。ほら、神通さんも言ってたでしょ?人々を脅かした怪物をアタリハンテイ力に適応した狩人がやっつけたって。誰でも狩人になれるのなら最初から全員で怪物と戦っているわぁ。」

 

誰でも狩娘にはなれるけど、誰でも狩娘の提督になれるワケじゃないのか。めんどくさい世の中だなぁ。

 

「アタリハンテイ力に適応した提督は水の上に立てないだけで狩娘と条件は同じだから武器や防具も使えるし、深海棲艦とも互角に戦うことが出来るのよぉ。流石に水上には立てないから、本当に最後の切り札になるけどねぇ。ほら、私たちの提督が変わった鎧を着てたのは覚えてる?あれもアタリハンテイ力に適応した装備なの。だから狩娘より提督の方が強いっていうケースも決して珍しくはないのよぉ。」

 

うへぇ……提督強過ぎだろ。いや狩娘が弱いのか?

 

「ちなみにそのまつ毛提督が追い払った深海棲艦ってのはね、100メートルを超えた超巨大深海棲艦だったそうよぉ。」

 

100メートルの深海棲艦をパンイチの人間が撃退!?もう全部そいつ1人でいいんじゃないかな?

 

「まぁいくらドスイ級が弱いと言っても、装備を整えて挑むのは間違いじゃないわぁ。打倒ドスイ級を目指して頑張りましょうねぇ。」

 

「はぁい……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてオレの最初の目標はドスイ級へのリベンジと、それに向けての武器の強化と防具の生産に決まったのだった。

あれっ?オレの予定、龍田に勝手に決められてる!?

 

 

 






龍田「私、これでも上位狩娘だから本当は下位のドスイ級なんてイチコロなの。天龍ちゃんには内緒よぉ。」



ワ級:通称、泳ぐ生燃料。剥ぎ取ればほぼ確実に燃料が剥ぎ取れる。どこから燃料を調達してきているかは不明。深海棲艦としては生態系の最下位に位置するが、その代わりに生息数がとても多い。ぶっ倒しても!ぶっ倒しても!ぶっ倒しても!ワ級のリスポンは収まらない!
言うまでもなくアプトノスポジションだが、深海棲艦なのでアプトノスのように家畜の代わりにはならない。

イ級:みんなご存じ駆逐艦。1体1体は弱いが、数にものを言わせて狩りをする。群れを作って生活をしているので、見た目に反して高い社会性と知能を持つ。足は生えていない前期型。
モデルはランポスやジャギィ。

ドスイ級:イ級の群れを統括する大きな体格と角が特徴的なリーダー個体。足も生えており、外見は後期型に近い。ある程度成長したイ級は足と1本の角が生え、群れから離れて生活する。更に成長したイ級は、はぐれイ級を集めて新たな群れを作ったり、他の群れのドスイ級にボスの座を掛けて戦いを挑む。
モデルはドスランポスやドスジャギィ、生態もそのまんま。



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