電「ハチミツください。」
長門「いいぞ、好きなだけ持っていけ!ついでにお小遣いもやろう。」
神通「おい、やめろ馬鹿。」
「そういえば今日は連絡船が来る日でしたね、色々あり過ぎてすっかり忘れていました。」
ここの鎮守府に限った話ではありませんが、鎮守府には定期的に連絡船がやって来ます。
ここはカリュード諸島、本土には無い珍しい物がたくさんありますが、逆に言えば本土でしか手に入らないものも多いのです。
それに鎮守府の設備や調合を駆使しても作れない物は数多くあります。
そういった物資を補給するためにも、連絡船は無くてはならないものなのです。
ゆうた提督が着任してから心休まる日はありませんでした。
本来なら忙しい物資の搬入も、少しでも気分の転換になるのならむしろ望ましい限りです。
今日はもうクエストの受付業務を終了して、連絡船の受け入れ準備を始めた方がいいかもしれません。
一応提督にも伝えておきましょう、真面目に取り合ってくれるとは思えませんが……。
やっぱりまともに聞いてくれませんでした。
『ぜんぶやって やくめでしょ』だそうです。
秘書艦の役目は提督の補佐であって、提督の尻拭いではありません。
ハァ……今の鎮守府を団長が見たら一体どんな顔をするのでしょう?
後のことは頼んだとまで言われたのに、子供一人にすら手を焼くなんて情けない限りです。
仕方ありません、私一人で連絡船の受け入れ準備をしておきましょう。
ドジャアアアアァァァン!!!
辛い現実から目を背けるかのように鎮守府に搬入されてくる物資の予定リストに目を通していると、突然鎮守府全体に大銅鑼の音が鳴り始めました。
この大銅鑼はここの鎮守府の緊急警報です。
現在のこのご時世で、何故未だにサイレンではなく古めかしい大銅鑼を使用しているのかは不明ですが、とにかく滅多なことでは鳴らない緊急用の大銅鑼が鳴ったんです。
文字通り緊急事態に違いありません!
私自身も避難訓練など以外で大銅鑼の音を聞くのは初めてです。
ですがこれは訓練ではなく本当の非常事態、確認の為にも急いで大銅鑼の設置されている屋上まで駆け上がります。
屋上まで着いてみると、その場を任されていた連装砲ちゃんがとても慌てていました。
その焦り方からこれは誤報でも訓練でもなく、本当に緊急自体だというのが一目で見て取れます。
「アッ、香取サン!大変ダヨー!アレヲ見テヨー!」
私に気付いた連装砲ちゃんは屋上に備え付けてある監視用の望遠鏡を覗くように促してきました。
一体何が見えたのでしょうか?
言われた通りに望遠鏡を覗いてみます………………あっ、あれはっ!?
「緊急クエスト発令!緊急クエスト発令!この鎮守府に入港予定の交易船が正体不明の超大型深海棲艦によって襲撃を受けている!詳しい説明は一階のロビーで行う、戦闘可能な狩娘は直ちにロビーに集合せよ!繰り返す、この鎮守府に入港予定の交易船が正体不明の超大型深海棲艦によって襲撃を受けている!詳しい説明はロビーで行う、戦闘可能な狩娘は直ちに一回のロビーに集合せよ!」
全館放送で鎮守府中の狩娘に呼びかけます。
この目で見ても未だに信じられませんが、規格外の大きさを誇る深海棲艦が連絡船を襲っているのを確認しました。
バルバレ鎮守府近海どころか、カリュード諸島に初めて鎮守府が造られてから現在に至るまでの歴史の中で、あそこまで巨大な深海棲艦の目撃情報なんて一度もありません。
故に相手の正体は不明ですし、当然有効的な戦法も分かりません。
そもそもあそこまで巨大な相手だと、挑むことすら憚られます。
ですがあの連絡船はこの鎮守府の生命線、それが撃沈されるとなると大打撃は必至です。
それに仮に物資などが関係無くても、船を見捨てる理由にはなりません。
何より深海棲艦の侵攻ルートから考えて、放っておけばそのまま鎮守府まで攻め込んでくる可能性も考えられます。
そうなる前に何としてでも食い止めなければなりません。
念のため提督にも声を掛けましたが、布団をかぶって縮こまっていました。
『ぼくはかんけいない ここくるじかんあるなら はやくなんとかしろ しねしねしねしねしねしねしね』とのことです。
何故声を掛けに行っただけなのに、罵倒されなければいけないのでしょうか?
とはいえ提督とはいえやはり子供、鎮守府まで攻め込まれるとなると怖いのでしょう。
口こそ未だに悪いものの、いつもの傍若無人な振る舞いは見る影もありません。
ですがパニックを起こされないだけまだマシと考えましょう。
しかし深海棲艦を恐れて引きこもっても現状の回復にはつながりませんし、当然提督として取るべき行動でもありません。
やはり提督を頼るべきではないようです。
「集まったのは金剛さんと睦月さんだけですか!?他の狩娘は一体どうしたのです?」
ロビーに集まった狩娘は金剛さんと睦月さんのたった二人だけ。
ここの鎮守府にはあれから何人もの狩娘が所属したのですから、外出中の狩娘や戦闘不能の狩娘を除いたとしても、二人しか集まらないというのはいくらなんでも異常です。
「Giantな深海棲艦って話に、みんな怯えて戦意喪失しちゃってるネー!」
「睦月も他の娘に声を掛けたけど、みんなオロオロするばっかりで戦えそうにないのにゃ!」
私達の鎮守府の新しい狩娘達はほとんどロクに狩りをしたものがいません。
それで戦闘経験が少ないが故に、状況にまるで対応しきれていないようです。
「くっ、なんてこと……。ですが金剛さんも睦月さんもずっと他の狩娘のフォローを続けていた為に疲労が残っているはずです!今日一日は休息をするようにと、今朝言ったではありませんか!?」
普段からあまり怒鳴るようなことはしないのですが、緊急事態による焦りと人員の少なさによる不安からかつい語尾が強くなってしまいます。金剛さんと睦月さんに当たっても仕方ないというのに。
それどころか休みを返上して駆け付けてくれた二人に対して、このような態度を取ってしまう自分が情けない限りです。
「でも誰も来てないじゃないですか!それに私達だって鎮守府の危機だってときに、のんびり休んでいられないんです!」
いつになく真面目な様子の睦月さん。
「Oh、ムッキーの言うとおりデース!それにマトモな戦闘経験の無い狩娘を無理に出撃させたところで結果は見えてるヨ!ましてやTargetは今までにないVery bigな深海棲艦、戦意喪失した娘に相手が出来るワケないネー。それくらいなら私が出マース!」
そして疲れているにも関わらず、戦意を隠そうとしない金剛さん。
彼女達を説得するのは無理ですね。それにあまりこういうことを言いたくはありませんが、やはり他の狩娘を出撃させたところで戦力になるとは思えません。
この状況でお二人の出撃さえ認めなければ、間違いなく連絡船は沈没し、鎮守府も壊滅してしまうでしょう。
「仕方ないですね。分かりました、お二人の出撃を認めます。」
「Thank you!やっぱり香取は話が分かるネー!」
「あれからパワーアップした睦月のパワー、存分に見せてやるぞ~!ようやく完成した睦月型制服のデビュー戦だにゃ!」
「ムムッ、私だって新しい装備を揃えたんデスからネー!負けないヨー!(吹雪型の制服ダケド……。)」
やる気満々で出撃しようとする金剛さんと睦月さん、ですがまだ話は終わっていませんよ。
「お待ちなさい、誰もタダで行かせるとは言っていませんよ?その出撃……1つだけ条件があります。」
「「条件?」」
出撃に条件があると聞いて驚く金剛さんに、疑問を隠そうとしない睦月さん。
しかし無理を言っての出撃というのが分かっているのか、不安な様子は見えても不満な様子は見られません。
ふふっ、そう心配しなくても無理難題は出しませんよ。
「私も一緒に出撃する、それが条件です。」
「なぁんだそんなことカー、もっと難しいこと言ってくるかと思ったヨー。そんな条件断るワケがないネー!」
「香取さんがいれば百人力だよっ♪バルバレ鎮守府の初期メンバーの強さを後輩に見せつけてやるいい機会にゃしぃ!」
私の出した条件を聞き、笑顔を見せる金剛さんと睦月さん。
「それでは今から緊急クエストを開始します。メンバーは私、香取と金剛と睦月の三人。クエストの成功条件は超大型深海棲艦の撃退及び撃沈であり、失敗条件は連絡船の撃沈及び鎮守府が破壊されることです。それではいざ出撃っ!」
「「おーーーっ!!」」
こうしてカリュード諸島史上初となる超大型深海棲艦戦が始まったのです。
先程までは穏やかだった交易船。しかしそこは現在、混乱の真っ只中にあった。
しかしそれは状況を考えれば当然の話で、むしろこの状況で落ち着くと言うのが無理な話である。
それもそのはず、連絡船は超大型深海棲艦の襲撃を受けていたのだから。
BGM:砂海に浮かぶ峯山
「うおおっ、何だあの化け物は!?」
「深海棲艦だッ!早く迎撃態勢に着け!」
「信じられん、デカい、デカ過ぎる。この船よりデカいなんて……。あんなデカいのがいるなんて聞いたことないぞ!」
「オレだって聞いたことねぇ!無駄口叩いているヒマがあったらさっさと手を動かせ!」
なんてこった、もうすぐバルバレだってのに……。
連絡船に乗ってのんびりとバルバレを目指す優雅な船旅のハズが、こんなことになるなんてな。
突如として船の遥か後方に現れた巨大な深海棲艦は、かなりの勢いでこの船を追って来ている。
深海棲艦とこの船の距離はまだまだ遠いが、逃げ切れる速度じゃない。
俺も引退したとはいえ提督の端くれ。せめて相手の正体を見極めようとは思ったが、流石にこの距離からじゃ黒い小島が動いているようにしか見えず、相手の艦種もさっぱりだ。
もっともあんな巨大な深海棲艦を見るのは初めてだし対策もすぐには浮かばないが、とにかく尋常な相手じゃないということだけはハッキリしている。
しかしこりゃ不味いぞ、船員達は完全に深海棲艦の迫力に呑まれちまってる。
口では強がっているようだが、明らかに動きに精彩を欠いているな。
「団長殿!」
「おぉ、船長か?」
俺に声を掛けてきたのはこの輸送船の船長だ。
ハゲ……じゃなくてスキンヘッドが眩しい、大柄な体格と老け顔が特徴的な海の男だ。
「すまない、オレも長い間連絡船の船長をやってるがこんなことは初めてだ。いつも相手にしている小型の深海棲艦なら船員達でも相手が出来るんだが……。」
そう言って船の設備に目を向ける船長。
そこにあるのは古めかしいデザインの大砲とバリスタ。
まるで中世時代に逆戻りしたかのような兵器だが、アタリハンテイ力の影響下で深海棲艦に通用する兵器はこういったものしかない。
大砲とバリスタは竜人妖精さんお手製の兵器であり、現代兵器や艤装の武器とは違ってカリュード諸島に生息する深海棲艦にも効果がある。
もちろんそのような近代兵器と比べれば格段に使い勝手は格段に悪い。
しかしあると無いでは大違いであり、小型の深海棲艦程度が相手ならアタリハンテイ力に適応出来ていない船員達でも十分に倒すことが可能となり、中型の深海棲艦が相手でも追い払うことが可能となった。
事実、今までずっとそうやって航海をしてきたのだから。
「こんな巨大な相手は初めてだ。この船も決して大きいワケではないが、だとしても相手がデカすぎる。目測100メートル以上はあるか?この船の倍近くだ、この目で見ても信じられん。文字通り深海に棲む艦だ……。こんなことを言いたくないが、正直オレの手に負える相手とは思えん。」
船長の顔が苦悩に歪む。船乗りとしての誇り、船員たちの命の安全、長年付き合ってきた船への愛情、戦って無事に済むのか、脱出したとして果たして逃げきれるか、様々な考えがない交ぜとなっているのだろう。
「なぁに、心配するな。ここは俺がいた鎮守府に近いんだ。あそこにいる狩娘ならすぐに救援に駆け付けてくれるさ!俺達が勝つ必要は無い。船長、アンタはここで時間を稼いでくれればそれでいい。後はバルバレ鎮守府の狩娘が全部やってくれる、何たってアイツらは強いからな!」
そう言って船長を励ます。正直言って狩娘が救援に来てくれる保証はない。だが、アイツらなら確実に来てくれると俺は信じている。
「船長ともあろう立場の人間が弱みを見せて悪かったな。ありがとうよ団長殿、お陰で目が覚めた。何としても持たせて見せる!」
船長は自分の両頬をパシンと一発叩くと、大声で船員達に指示を出し始める。
「おいお前ら、手を休めるんじゃねぇ!一班は大砲を撃ちまくれ!射程は短いし射角も固定されているが、見た目は派手だからなぁ!アイツを近付けさせないことが目的だ、命中させなくていい!二班はバリスタを使え!こっちはちゃんと命中させろ、射程に入るまでは撃つな!アイツの顔を狙え、顔面を撃たれて平気な奴なんていやしねぇ!三班は一班と二班のフォローに回れ!弾を切らすんじゃねぇぞ、負傷者の手当ても忘れるな!舵はオレに任せろ、歴戦の船乗りの操舵術を見せてやる!いいか、必ず救援が来る!それもとびきり可愛らしいお嬢さんの救援隊だ!海の男ならお嬢さんの前でみっともない姿を晒すんじゃねぇぞ!分かったか!分かったのなら交戦開始だ、合図の大銅鑼を鳴らせェーーーッ!!」
「「「「「ラジャーーーッ!!!」」」」」
ドジャアアアアァァァン!!!
流石は船長だ、あっという間に現場の混乱を収めやがった。
指揮力が高く人望もある、船員達の不安な空気も叱咤激励と大銅鑼の大音量で消し飛ばした。
こういう人にアタリハンテイ力の適性が無いのは惜しい限りだな。
しかし指揮系統が違うから口出し出来る立場ではないとはいえ、こういう時に何も出来ない自分がもどかしくなる。
今の俺に出来ることはみんなを信じて待つことだけだ。だったら信じて信じて信じ尽すのみ!あいつらなら絶対に勝てる、俺は信じているぞ!
アステラ祭【開花の宴】とかいう金冠モンスターを探しつつ、ランゴスタを撃ち落とすだけのとっても楽しいお祭り。
金冠集めはようやく終わったから、今度は闘技場で50戦目指して頑張るぞー!(白目)