今回は説明回です。
「クロオビ鎮守府へようこそ天龍さん、秘書艦の神通です。あなたの着任を歓迎します。」
龍田に連れられて着いた鎮守府の執務室にて、オレを出迎えたのは緑色のリボンと一体化した鉢金が特徴的な艦娘の神通だった。
「着任早々提督が無礼な態度をとったようで、秘書艦として代わって謝罪します。」
そう言うと神通はこちらに対して頭を下げてきた。
今まで変な提督やちょっぴり意地悪な龍田にしか会ってなかったから、こうも生真面目なキャラが相手だとなんか調子狂うな。
っていうかクロオビって地名か?全然聞いたことないんだけど……。横須賀とか佐世保じゃなくて?
「あの提督は元々は海軍で士官候補生達の教官をやっていたんです。その後ここの鎮守府の提督として配属され、若干不真面目ながらも業務にはちゃんと取り組んでいたのですが、自分で開発したビールが売れるようになってきてからは『ヌハハハハ!これからは商売の時代だな、提督なんて面倒臭いことなどやってられるか!』と言い出し、更に不真面目となって提督としての仕事すらしなくなったんです。今日天龍さんに会いに行ったのも気まぐれみたいなものです。」
えぇ~、それって提督としてどうなんだ?
それと提督の本名知らないけどそれはいいのか?みんな提督としか呼んでないから未だに本名不明なんだけど……。
「では天龍さん、少し長くなりますがここの鎮守府の成り立ちも含めてお話ししましょう。」
えっ、成り立ち?そんなところから話す必要があんの?
驚くオレを見て神通は微笑みながら話を始めた。
「ふふふ、不思議そうな顔をしてますね。初めてここに来る
また
かんむすとはんむすの違いについて考えているオレに構うことなく、神通はいきなり爆弾発言を放り込んできた。
「まず最初に言っておきますが、ここの鎮守府に艤装はありませんし、あったとしても使いません。」
「天龍ちゃん、さっき艤装を出そうとして失敗してたでしょ?でも最初から無いものが出るわけないのよぉ。」
やっぱり艤装って最初から無いのかよ!?っていうか使ってすらいない?
じゃあ後で改めて支給されるってワケでもないのか。あと龍田、それの話はオレが変身ポーズをする前に言ってくれ。
「このクロオビ鎮守府という名前も聞いたことがないですよね。当然です、何故ならここは日本ではありませんから。」
えぇ、何だそりゃ?じゃあここはドコだよ?ひょっとして噂に聞くグンマーとかいう謎の国か?でもあそこって確か海は無いよな?海が無きゃ艦娘の意味も無いような……?
次々と出てくる衝撃の事実にツッコミが追い付かないでいるが、神通はそのまま続きを話し始めた。
「ここは太平洋に浮かぶカリュード諸島、そしてここはそんな数ある島々に建つ鎮守府の1つです。」
「カリュード諸島?何だそれ、全然聞いたことないぜ?」
「それも当然です、何故ならこの島はいつの間にかあったのですから。」
は?いつの間にかってどういうこと?
さっきから言ってることが無茶苦茶でさっぱり分からねぇ。
オレの疑問が手に取るように分かるのか、それとも最初から説明する気があったのか、神通は淀みなく続きを話し始めた。
「地殻変動によるものなのか、異常気象によるものなのか、はたまた超常現象によるものなのかは未だにハッキリと分かっていません。しかしある日、普段通らないルートを偶然通った艦隊は、あるはずの無い島々を見つけました。それがこのカリュード諸島です。しかしかつてこの場所は間違いなく海でした。常に荒れて入り込めず、調査の出来ない未知の海域などでは決してありません。岩礁はおろか浅瀬さえ見られないごく普通の海域でした。ですがこれらの島にはまるでジャングルのように木々が生い茂り、数多くの野生動物の姿も確認されています。仮に海の底にあった島が浮上してきたのだとしたら、木や動物などが存在するハズがありませんし、何らかの要因で動植物がこの島にたどり着いたのだとしても、短期間ではあり得ない程の繁栄を見せています。何より島の奥地には建造物と思われる遺跡がいくつも発見されているのです。つまりかつてこの島には人が住んでいたということです。それも1人や2人ではなく大勢の人々が、です。」
「よく分からんけどとにかくスゲェ!それって世紀の大発見じゃん。でもそれだけじゃ艤装が無い説明にはならねぇよな。」
「ええ、おっしゃる通りです。結論から言いますとこの島と付近の海域では未知の力が働いており、艦娘と深海棲艦もその力の影響を受けているのです。」
未知の力?なんだか色々あり過ぎて逆に驚かなくなってきたな。
「島を発見した艦隊は倦怠感を感じていました。しかしそれは長旅による疲れと割り切り、調査の為に気にすることなく島を目指しました。そして島を前にして遭遇した深海棲艦といつも通り戦闘に入りました。こちらの艦隊の練度はそこまで高くはありませんが、相手は何の変哲もないイ級数隻。疲労こそあれど、油断でもしなければまず負ける要素のない相手です。しかしこちらの艤装による攻撃はまるで通用せず、逆に一方的に攻撃を受け撤退に追い込まれたのです。」
イ級に攻撃が通用しない? イ級って基本的に一番弱い深海棲艦だろ?そりゃ絶対に勝てるとまでは言わないけどさ、一方的にやられるってどういうことだよ?
「その後は万全を期して選りすぐりの艦隊を組み、再び島を目指しました。しかしやはり謎の倦怠感に襲われた上に、深海棲艦に対してこちらの攻撃は通用しないという二重苦に襲われました。そこで仕方なく艦隊は強行突破を敢行し、ようやく島への上陸を果たしたのです。」
「へぇ~、ってそれじゃ詰んでねぇか?こっちの攻撃は通用しないのに、相手の攻撃は受けるんだろ?上陸したところで袋のネズミじゃん。」
「えぇ、ですがこちらも精鋭部隊。ただやられるだけではなく冷静に相手の攻撃を観察した結果、この海域のイ級は砲撃を行うことはなく、噛み付きや体当たりなどの肉弾戦を中心とした戦い方を行うことが分かりました。また攻撃力は肉弾戦故か普通のイ級よりもむしろ低かったのですが、何故かダメージを服に受け流すことが出来ず次々とダメージを受け、大きな被害を受けたそうです。」
「そうなのよ~。だから天龍ちゃん、この海域を任されている私達は艤装を持っていないし、インナー姿で戦っても服にダメージを受け流せない以上、受けるダメージは変わらないのよぉ。」
「な~るほど、それなら下着姿で出撃しても問題は……いやいやそういう問題じゃないだろ!?ダメージ変わらないから下着でいいやって……そんなアホみたいな発想があって堪るかーーーっ!!」
「もうっ、天龍ちゃんったら。さっきから下着下着ってずっと言ってるけど、これはインナーっていうんだって。」
「いやいや名前はどうだっていいんだよ!大体インナーも下着も意味は一緒だろうが!」
「………………んんっ!!天龍さん龍田さん、話を戻してもよろしいでしょうか?」
あっ、ヤベっ!神通からなんか不機嫌なオーラが出てる。神通って普段は穏やかだけど絶対に怒らせたらマズいタイプだろ?ほら、あの龍田も神通が咳払いした一瞬ビクッってなったもん!
きっと怒らせたら『私を本気にさせたいのですね?』とかいって逞しい姿に変身するんだろ!?そんでもって生まれたことを後悔するような酷い目に遭わせるんだろ!?フフフ、怖ぇ~。
神通は一度、内心で怯えるオレをジロリと睨むと、気が済んだのか表情を改め続きを話し始めた。
「ゴホンッ……それでですね、イ級を振り切りようやく島への上陸を果たした艦隊は見慣れない妖精さんを発見しました。」
「見慣れない妖精さん?」
妖精さんってアレだろ?詳しい正体は不明だが、艦娘の建造から装備の開発、更には戦闘の補助までしてくれる、艦娘にとってなくてはならない小人のことだろ?
「えぇ、それがこちらです。」
いつの間にか神通の手のひらの上には妖精さんがいた。
うーん?どっからどう見ても妖精さんだな、どこが違うんだ?
…………あれっ、耳が葉っぱのように尖っている?いわゆるエルフ耳ってヤツか?
「気付きましたか天龍さん。彼らは竜人妖精さんといい、この島固有の妖精さんです。そして彼らの技術も本土の妖精さんとは大きく異なるものでした。」
うーん、神通の話すげぇ長いなぁ。ちょっと飽きてきたぞ…………あっ、何だか神通の目付きが怖くなってきた!聞いてます、ちゃんと話聞いてますから!
「続けて大丈夫ですか天龍さん?……そして上陸した艦娘達に対して竜人妖精さんは資材を要求してきました。そこで試しに行き掛けに偶然手に入れていた鋼材を竜人妖精さんに渡してみたところ、妖精さんはあっという間に一振りの無骨な大剣を作り出しました。」
「大剣?機銃とかじゃなくて?」
「ええ、大剣です。ロクな設備も無しにその場で2メートル前後の巨大な鉄製の剣を作り出したのです。ですがこれを見た当時の艦娘は落胆しました。まぁそれは当然ですね、これまで砲撃や航空機で戦っていたというのに、いきなりこのような原始的な得物を渡されれば困惑するのも無理のない話です。」
そりゃそうだ。オレだって本来なら艤装の一部として刀を持ってるんだが、艦娘の戦いは基本的に射撃戦だからな。本当に余程のことがない限りは使わねぇつもりだ。そもそも刀を使う距離まで敵に近付かれた時点でこちらの負けみたいなもんだ。
「ところがどの艦娘もその大剣を上手く扱うことは出来ませんでした。理由は簡単です、金属製の巨大な剣が非常に重くて持ち上げるのがやっとだったからです。しかし艦娘は仮にも軍艦の生まれ変わり。艤装に秘められたエネルギーを艦娘本人に供給することによって人間と変わらぬ体格でありながら当時の出力と同等の力を発揮出来ます。いかに鉄製といえどもその程度の大きさの剣を持つなど簡単なはずでした。だというに何故か扱うことが出来ません。」
えぇ~、冗談だろ?剣が重くて持てないのに、どうやって材料の鋼材を運んだんだ?
基本的に艦娘ってヤツは普段の生活では力にリミッターを掛けてるから鎮守府の壁に穴を開けたり、うっかり提督を殴ってミンチにするようなことはない。日常を送るのに、過ぎた力は必要無いからだ。
だけど本気を出したら素手で敵艦の装甲を引き裂くようなヤツだっている。まぁそれも一部の戦艦とかであって、全ての艦がそこまで出来るワケじゃないけどな。
とにかく艦娘のパワーは凄いんだよ、何たって元が軍艦だ。まぁそれも結局は艤装の力であって、艤装を外したら見ての通りの細腕なんだけどな。
「しかし先の戦闘とも呼べない強行突破で囮を務めていた為に大きく破損していた艤装を用済みと判断して既にパージしていた1人の艦娘がその大剣を手に取ってみたところ、不思議なことに大剣は簡単に持ち上がったのです。艤装の無い艦娘の力など人間とほとんど変わらないというのにです。そしてその艦娘は駄目元で大剣を使いイ級に戦いを挑みました。すると今まで砲撃が全く通用しなかったのが嘘のように互角の戦いを繰り広げ、そして見事イ級を追い払い無事に鎮守府に生還することに成功したのです。」
「ん?何で艤装が通用しなかったのに鉄製の剣で戦えたんだ?それに艤装が無い艦娘だけが持つことが出来たって……実は選ばれし者だけが使える隠された力を持った伝説の剣だったのか?」
オレがそう言ったとたん龍田が笑い出し、神通も何とも言えない顔をして固まってしまった。
「クスクス、天龍ちゃんったら何を言いだすの?変なことを言って神通さんを困らせちゃダメでしょ~。」
「何だよ、いいじゃねーか!?そっちの方がカッコいいだろ!」
あーもう笑うな!自分じゃ見えないけどオレきっと顔真っ赤だぞ!?
文句を言うオレとそれを笑いながら流す龍田のやり取りを見て調子を取り戻したのか、ようやく神通も再起動を果たした。
「……いいえ、剣そのものは頑丈なだけの鉄の剣です。ですがここで先程の力が関係してくるのです。」
そして神通は真面目な顔をしながらも、まるで冗談のような話を始めた。
「その後の研究と竜人妖精さんの情報提供により、この島とその周辺の海域には原理不明の特有の力が働いていることが分かりました。その名もアタリハンテイ力学です。」
ア……アタリ…ハンテイ……力学ぅ???
服の調達すらまだなのに、未だに続く神通の長話と意味不明な単語の連続に、着任から1時間経たずして疲れ果てる天龍なのであった。
信じられるか?普通に長々と会話してるけど、実は天龍は下着姿のままなんだぜ?
それにしても最初にアタリハンテイ力学っていう言葉と概念を考えた人は天才だと思う。
ただの造語なのに広く浸透してる辺りが本当に凄い。
えっ?そんなデタラメが浸透するようなゲーム自体に問題があるって?