自分が一番好きな太刀は骨縛刀【カゲヌイ】です。
バギィの皮で作られたカッコいい鞘が最高だなぁオイ!
だから骨縛刀を上書きして現れる魂縛棍はあんまり好きじゃなかったり……。
だけど骨縛刀ってブシドーに反する武器らしいね。
何でしょうか?カゲヌイに落ち度でも?
「これにて狩技もマスターゼヨ。ところでお腹の調子は大丈夫ゼヨ?」
「トイレトッテモ長カッタゼヨ。」
狩技は失敗しても闘気を失ってしまう。
鏡花の構えに失敗して魚雷に吹き飛ばされ続けたオレは、そのたびに回復薬と狩技ドリンクを飲まされ続けた。
そしてようやく鏡花の構えに成功したオレは、太刀を構えるだけの気刃解放円月斬りをさっさと成功させ、そのままトイレに直行していた。
もはや何本飲んだのかすら覚えていない。
濃厚な甘さと飲み過ぎで少し気持ちが悪くなってきた、誰か胃薬と頭痛薬をくれ。
もうオレのお腹はタプタプだよ……。
「最後に教えるのは狩技ではない、太刀そのものの必殺技ゼヨ。」
太刀そのものの必殺技?
ゴクリ……、今までで1番凄そうだな。
「……その名も気刃斬りゼヨ。」
気刃……斬り……?
カ、カッコいいじゃないか、名前からして気刃にも関係がありそうだな……。
「フッフッフッ、だゼヨ。狩猟スタイルによって多少の違いはあれど、気刃斬りは太刀にとって必要不可欠ゼヨ。気刃斬りなくして太刀は語れないと言っても過言ではないゼヨ。気刃斬りの無い太刀なんて、ワサビの入ってない寿司みたいなものゼヨ!」
気刃斬りの無い太刀は、ワサビの入っていない寿司同然……。
ふーん、なるほどね…………全然分からんっ!!つーかなんだよその変な例えは?
気刃斬りなくして太刀は語れないとか言ってるけど、サビ抜きの寿司なんて珍しくないだろ!?
それに駆逐艦みたいな小さい娘や、辛いのが苦手なヤツはサビ抜き食べるだろ!?
ひょっとして気刃斬りって太刀にとってそこまで重要じゃない……?
そんでもって小さな子供や、体質的に合わない奴は使っちゃ駄目な技なのか!?
オレの疑問を余所に師匠は話を続けていく。
「刀身の内側に練気が溜まってパワーアップするのはさっき教えたゼヨ。この気刃斬りというのは溜まった練気の力を開放して繰り出す太刀の奥義ゼヨ。素早い連続攻撃と刀身の外側に開放した練気のお陰でその威力は絶大ゼヨ。まさに我に断てぬもの無しゼヨ。」
ワサビ云々は置いとくとして、気刃斬り自体はめっちゃ強そうじゃん!だって奥義だぞ、奥義。
狩技に関係無くそんな必殺技が使えるっていうのに使い方を知らないんじゃ、そりゃ龍田も練気の使い方がなってないって怒るよな……。
「その代わり狩技の闘気と同じように気刃斬りは使うと練気を消耗するし、連続攻撃故に隙も大きいゼヨ。使い所には気を付けるゼヨ。」
ハイリスクハイリターンってワケか、ますますオレ好みだ!
ノーリスクで放てる強い技なんてオレの性には合わねぇぜ。
まぁそんな都合のいい技なんてそうそうないだろうけどな。
「気刃斬りの極意はこれで終わりではないゼヨ。気刃斬りのその先に究極の最終奥義があるゼヨ。」
きゅ、究極の最終奥義……?
「それじゃレン丸、準備を頼むゼヨ。」
「了解ゼヨ!」
レン丸は先程のイ級の的よりずっと大きく、そして頑丈そうなドスイ級の姿が描かれた的を地面に突き刺した。
これならちょっとやそっと斬った程度でバラバラになることはなさそうだ。
「それでは気刃斬り、そして最終奥義を見せるゼヨ。」
師匠はドスイ級の的の前に立ち、鞘に収まったままの太刀の柄に手を掛けると、深呼吸をして精神統一を始めた。
「スゥーッ、ハァーッ……。」
師匠は糸目を大きく開くと同時に素早く太刀を抜き放つ、そしてドスイ級の的に勢いよく斬り掛かった。
「これが気刃斬りゼヨォォォ!!」
凄まじい勢いで太刀を振り回し、流れるようにドスイ級の的に連続攻撃を叩き込む師匠。
「そしてこれが最終奥義ゼヨォォォォォ!!!!!」
踏み込みつつ、身体ごと大きく回転しながら斬撃を繰り出す師匠。
そしてそのまま太刀を鞘に納める。
遅れて数秒後、真っ二つになってずり落ちるドスイ級の的。
「フッ、決まったゼヨ。これこそ最終奥義、気刃大回転斬りゼヨ。」
か……かっけぇー!!これが気刃大回転斬り、太刀の究極の最終奥義……。
「気刃大回転斬りは気刃斬りの締めにしか繰り出せない、まさに気刃斬りの先にある最終奥義ゼヨ。ただ動きを真似て回転斬りをしても、それでは威力の乗らないただの紛い物ゼヨ。そして見るがいいゼヨ。」
再び太刀を抜く師匠。しかし今度は何かを斬るように構えるのではなく、ただ単純に刃をオレに見せるためだけに抜いたらしい。刃が一体どうしたってんだ……!?
「これはッ!?」
「フッフッフッ、だゼヨ。気付いたかゼヨ?」
「太刀の刃が仄かに白く光っている?」
「その通り、そしてこの輝くオーラこそ気刃大回転斬りの神髄ゼヨ。気刃大回転斬りはただ強いだけの必殺技ではないゼヨ。なんと気刃大回転斬りには気刃斬りを使うに当たって放出した練気を、刃の表面に取り込み直す力があるゼヨ。つまり使った練気のリサイクルゼヨ。とってもエコで、自然にも優しいゼヨ。」
エコ?自然に優しい?
……えっ、練気って自然に優しくないの?ただ太刀を振ってるだけじゃなくて?
オレの疑問を余所に話は続いていく。
「練気を刃の表面に取り込み直したことで、今まで刃の内側にあって直接目で見ることが出来なかった練気が見えるようになるゼヨ。それがこの白いオーラゼヨ。内側に秘められていた練気が表に現れたことによって太刀の威力と斬れ味は更に上昇するゼヨ。つまり気刃大回転斬りを繰り出すということは、太刀をパワーアップさせるということでもあるゼヨ。」
必殺技で相手に大ダメージを与えつつ、更にパワーアップも出来る。何より見た目も最高にカッコいい。成程、そりゃ確かに最終奥義に相応しいな。
「話はまだ終わりではないゼヨ。このパワーアップ、なんと更に上があるゼヨ。この白いオーラを纏った太刀で更に気刃大回転斬りを繰り出すと、次は黄色いオーラを纏うゼヨ。黄色のオーラは白のオーラよりも更に強力ゼヨ。そして黄色いオーラを纏った太刀で気刃大回転斬りを繰り出すと、今度は赤いオーラを纏うゼヨ。この赤のオーラは練気が最高に高まった証ゼヨ、これこそ太刀の最強形態ゼヨ。赤いオーラを纏った太刀の威力は、普通の太刀なんて相手にならないレベルゼヨ。」
すげぇ!!すげぇ以外に言葉が出ねぇ!!
詰め込み過ぎでよく分かんねぇけど、要するに斬れば斬る程強くなるってワケだろ?
こりゃ最高だぜ!今からこれが使えるようになると思うと脳汁が止まらねぇ!!
「ただしもちろん欠点もあるゼヨ。練気が時間とともに消耗するっていうのはさっき教えたゼヨ。そして気刃大回転斬りで溜めた太刀の外側の練気も練気には違いないから、時間と共に徐々に消耗していくゼヨ。だけど練気は太刀の中でしか生成されないゼヨ。太刀の中にある練気は戦えば維持出来るゼヨ、それに対して太刀の外側にある練気は普通に戦っても生成されないから消耗する一方ゼヨ。だから定期的に気刃大回転斬りを繰り出して、練気を補充する必要があるゼヨ。」
成程、強くあり続けるのにも条件があるのか。まぁそれも納得だな。
努力無くして結果無し!どの道、更なるパワーアップの為には気刃大回転斬りを繰り出す必要があるんだろ?だったら連発すればいいだけの話だしな。
「欠点はまだあるゼヨ、むしろこっちの方が重要ゼヨ。」
……えっ?まだあんの?欠点多くない?
「1つは気刃大回転斬りをちゃんと相手に当てなきゃ練気を取りこめないことゼヨ。気刃解放円月斬りと違って、繰り出すだけでは意味がないゼヨ。隙の大きい気刃斬りを最後まで繰り出して、そこから更に気刃大回転斬りを相手に当てるっていうのは意外と大変ゼヨ。気刃斬りを繰り出す隙を伺っている間に、時間を使い過ぎて練気が無くなったら全部パーゼヨ。」
確かに言われてみればその通り、だからこそ如何に当てるかってのも重要になるんだな。
使いこなすって意味では、最終奥義っていうのも伊達じゃねぇな。
「もう1つはもっと重要ゼヨ。気刃大回転斬りは斬り付ける範囲が大きいゼヨ。適当にぶん回すと間違いなく味方を巻き込むゼヨ。アタリハンテイ力のお陰で痛くないとはいえ、斬られていい気分になる狩娘はいないゼヨ。それに痛みは無くても斬られている最中は怯んで動くことが出来ないゼヨ。自分の攻撃のせいで動けなくなった味方がそのまま敵にやられたら責任取れないゼヨ。気刃斬りを繰り出す時は敵だけでなく、味方もよく見るゼヨ。視野を広く持つことが重要ゼヨ。」
うおっ、そりゃ確かに重要だ。
これ知らなかったら龍田に自慢気に披露して、一緒に斬っちゃう未来が目に見える。
そんなことになったらもはや怒られるどころじゃスマンだろ。
もう正座は嫌なんだ!あれ以上正座したらオレの足が使い物にならなくなって軽巡棲鬼になって化けて出るぞ!?
うわあああぁぁぁ足が、足があああぁぁぁ!!!???
「何だか少しSAN値が下がっているように見えるゼヨ。ほら、正気に戻るゼヨ。ボーっとしてると練習する時間が無くなるゼヨ。時間は有限ゼヨ、タイムイズマネーゼヨ。」
はっ!?オレは一体何を……?
「それじゃ本題に戻るゼヨ。今から気刃斬りの練習……といきたいところだが、今のオヌシの太刀には練気が溜まっていないゼヨ。このままでは気刃斬りは使えないゼヨ。」
……そうだな、言われてみれば太刀に力が溜まっていないような気がする。
今までは気付かなかったというか気にもしていなかったんだけど……何というか、刃に重みが無いと言うか、温かみが無いというか……ちょっと表現が難しいんだけど、とにかく何かダメなんだよ。
「気刃解放円月斬りを使えばしばらく練気を使い放題にする効果があるから、戦わなくても練気を溜められるし気刃斬りも使い放題ゼヨ。そしてオヌシは先程の狩技の練習で気刃解放円月斬りを放っているゼヨ。」
そういやそういう効果があるってさっき言ってたな。
外すとカッコ悪いの連呼で、どんな効果なのか忘れかけてたぜ……。
「だけどオヌシはトイレが長かったから、流石の気刃解放円月斬りの効果もとっくに切れているゼヨ。」
ん?何か嫌な予感が……。
「……という訳でこれを飲むゼヨ!」
じゃんじゃじゃーん、狩技ドリンク~~~♪
……って冗談はやめろォ!オレはもうそれを飲みたくねぇ!!
トイレに行ったとはいえ、まだ腹の調子は悪いし、それに口の中も大変なことになってんだぞ!?
「どうしたゼヨ?早く飲むゼヨ。」
勘弁してくれ!これ以上飲んだらイチゴを嫌いになるぞ!?牛みたいに赤い色を見ると怒るようになるぞ!?
「……ひょっとして飲ませて欲しいゼヨ?フーム、女の子っていうのはよく分からんゼヨ。ましてやオヌシみたいな気の強そうなタイプの狩娘が飲ませて欲しいだなんて意外ゼヨ。まぁ、しょうがないゼヨ。ワシも師匠となったからには弟子の面倒はちゃんと見るゼヨ。それではアーンするゼヨ。」
そう言って狩技ドリンクのボトルをオレの顔に近付けてくる師匠。
ちょっと待てっ、それ以上近寄るんじゃねぇッ!!
そもそもドリンクでアーンってどういうことだ!?
「オー、船長優シイゼヨ。ワシモ弟弟子ノタメニ何カシテヤリタイゼヨ。」
そう思うんだったらオレをここから逃してくれ!
「ソレジャアワシハ天龍ノ頭ト鼻ヲ押サエテオクゼヨ。飲ミ物ダカラ不器用ナ船長ガウッカリコボシタラ大変ゼヨ。」
そう言ってオレの後頭部に跳び付きそのまま鼻を摘まむレン丸。
お前っ、オレをここから逃さないつもりかぁ~~~っ!?
「それじゃあ口も開いたことだし流し込むゼヨ。遠慮することはないゼヨ。」
マジでやめろッ、オレの胃袋はもう限界なんだって!?オレを苛めてそんなに楽しいか!?
天龍「いやーもう十分堪能したぞ。(満身創痍)」
潮風丸「いえいえ、まだ(特訓は)これからゼヨ。」
天龍「……すいません狩技ドリンクを飲むのだけは勘弁してください、何でもしますから!」
潮風丸「ん?今なんでもするって言ったゼヨ?」
剣レン丸「ソウゼヨ。(便乗)」
潮風丸「それじゃあフルフルの実を食べるゼヨ。」
天龍「」