天龍ちゃんと狩娘   作:二度三度

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パルデアで学生生活を満喫していて遅くなりました。
今作のポケモンはみんな個性派揃いで強い弱いはあっても完全劣化とかないの凄いですね。
特に気に入ったポケモンはキラフロル、先発で出してどくびし撒くのが好き。

フフ…砕けて結構!
キラフロルの仕事は砕けることだからな。






山城ちゃんと極秘指令2

 

 

 

 

 

「………………ハッ!?私の愛しの旦那様はどこ?私の敬愛する姉様は?私の可愛い子供達は?」

 

「ほへ?山城さん、急に何を言ってるんですか?」

 

鎮守府を出てからずっと姉とバルバレ提督の妄想を続けていた山城。

そのまま半ば無意識に歩き続けていたのだが、顔に吹き付ける熱風と砂粒の感覚によりふと我に帰ってみれば眼前に広がっていたのは岩場と砂漠で構成された荒野であった。

 

「雪風?」

 

「はい、雪風です!」

 

山城の少し前方にいたのは雪風一人、不知火の姿も蒼龍の姿もどこにも見当たらない。

 

「何で私こんなところにいるの?」

 

「何でってここまで一緒に歩いてきたじゃないですか。」

 

何故自分が砂原なんぞに二人きりで放り出されているのか全くもって不明であったが、雪風によれば自分の足でここまで歩いてきたらしい。

本人は妄想に浸っていて事実上意識が無かったのだが、身体の方は夢遊病の患者のように勝手に歩き続けてここまで来てしまったということになる。

そんな馬鹿なと思う山城であったがこれにはちゃんとしたワケがある。

 

これでも山城はG級狩娘であり、筆頭狩娘のメンバーに選ばれる程度には優秀なエリート狩娘である。

G級狩娘のしっかりとした足運びは無意識のままでも何かにつまづくことなく安定した歩行を実現し、実戦の中で磨き上げられた冴え渡る勘は夢心地のまま先行する雪風を追従し続けた。

その結果がこれである、気付いた頃には見知らぬ景色。

どこかで転ぶなり、ふらつく動きを不審に思った雪風に起こして貰うなりすれば早い段階で正気に戻れたのだが、本人が優秀過ぎたせいで逆にスムーズに事が進んでしまい雪風に疑問に思われることもなく、唐突に砂原に送り出されるという不幸を味わうことになったのであった。

 

「えっと、ごめんなさい。砂漠の日差しがキツくてちょっと頭がぼーっとしちゃったのよ。それで短期記憶障害を起こしちゃったみたいで、鎮守府を出た後から何があったか覚えてないの。何があったのか教えてくれる?」

 

「そうだったんですか、気付かなくてごめんなさい!熱中症は怖いですからね!まだ暑いフィールドには出てないけど、もっと早い段階でクーラードリンク飲んでおくべきでしたね!」

 

「ぐっ!?そ、そうね……。」

 

実際のところは最初から何も聞いてないし考えてもいなかったのだが、素直にそう告げるのは先輩としてのプライドが許さなかった。

なのでかなり無理のある言い訳をしたのだが、純粋な雪風はその見え透いた嘘をアッサリと信じ込む。

つまらないプライドのために素直な雪風に嘘を吐いたことで山城の良心も瀕死の重傷を負うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~鎮守府を出た直後~

 

 

 

既に妄想を始めていた山城、だが他のメンバーはそれに気付くことなく海を目指して進んでいく。

そして海辺に着いたところで全員が自然と足を止める、山城も自分の世界に入ったまま釣られて止まる。

 

「それでは改めて今回の任務の内容をを確認します。アプケロスの卵5個とリノプロスの卵5個の納品です。」

 

場を仕切る不知火の声。

それに頷く蒼龍と雪風、そしてタイミングよくカクンと下がる山城の頭。

それを見た不知火は全員が聞いているものと判断して話を続けていく。

 

「アプケロスとリノプロス、どちらも乾燥地帯に生息するモンスターです。しかしその生息域は基本的に被ることはなく違う地域です。一つ一つのフィールドに四人全員で向かうのは効率が悪い、ですので今回はパーティを二つに分けて行こうと考えています。」

 

「へぇ~、そうなんですねー!」

 

「確かここから一番近いアプケロスの生息地はジャンボ鎮守府近くの乾燥地帯だったっけ?」

 

「はい。そして近隣で一番リノプロスが多く見られるのは……。」

 

「バルバレ……。」

 

「その通り、バルバレ周辺の砂漠地帯です。」

 

妄想の中でバルバレ提督とイチャついていた山城。

思わず口からこぼれたバルバレの一言、それが偶然会話と噛み合ったことで話はそのまま進んでいく。

 

「私と蒼龍がアプケロスの生息地に向かいます。リノプロスの方は山城と雪風に任せようと思います、よろしいですね?」

 

「はいっ!頑張ります!」

 

「ウン……。」

 

元気のいい雪風と対照的に生返事の山城。

当然である、だって山城は話を聞いていないのだから。

 

「山城はバルバレ鎮守府に何度か行ったことがありますよね。だったら近場にある狩場の場所も分かるんじゃないですか?そこまで雪風を案内してほしいのですが。」

 

不知火は山城をバルバレ近くの狩場まで行かせようとしているのだが、シラフならとにかく今の山城に道案内させるのは不可能である。

無意識の山城は誰かの後ろに着いていくことは出来ても、自分一人で目的の場所に向かうことは出来ないからだ。

本人の気付かぬところで山城は絶体絶命のピンチを迎えていたのであった。

 

「可愛い子には旅をさせよ……。」

 

「うん?山城、今何と言いました?」

 

「子供は色んな経験をして成長していくものよ……。」

 

「なるほど、山城がそこまで言うのなら……。」

 

そこに飛び出した山城の意味不明の寝言。

それをどう解釈したのか、納得した顔の不知火は雪風に地図を渡す。

 

「雪風、貴方はまだまだ新人です。ですが新人だからといって我々におんぶに抱っこではいけません。自分の成長のためにも自力でこの場所まで辿り着きなさい。山城には敢えて貴方に指示を出させず、後ろに着いていてもらいます。これも貴方の成長の為です、いいですね。」

 

「はいっ!」

 

「心配しなくても大丈夫です、ちゃんと地図はあるのですから。どうしようもなくなった時だけ山城を頼りなさい。」

 

「はいっ!」

 

不知火と雪風は同じ陽炎型の姉妹艦である。

それ故に雪風に成長してほしいという気持ちは筆頭狩娘の中でも一際大きい。

山城の可愛い子には旅をさせよの一言で、雪風に率先して動いてもらいたいとの気持ちが芽生えたことで雪風を先行させようと思ったのである。

ちなみに山城の脳内ではいつの間にやらバルバレ提督とケッコンしており、子供も産まれていた。

妄想を始めてまだ10分も経っていないのにそこまで関係が進んでいるとは卑しい女である。

やたら子供子供と言っていたのはこれが理由であった。

 

「それでは雪風出撃します!山城さん行きましょう!」

 

「子供、ふふふふふ……。」

 

こうして偶然に偶然が積み重なった結果、山城は自分がトリップしていることを誰にも気付かれることなく雪風の背中に着いていくことで目的地にまで進むことが出来たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ということがあったんです!ちゃんと山城さんを頼らずに現場まで来れましたよ!」

 

「そうね、雪風エラいわ。よくここまで来れたわね。」

 

「えへへぇ~!」

 

誤魔化しがてらに取り合えず雪風を褒めてみるが、山城本人としてはそんなやり取りした覚えも無いのだからまるで心がこもっていない。

雪風が照れている間に自分を落ち着かせることで精一杯なのであった。

 

「それでえっと、ここは?」

 

「はい!ここはリノプロスがたくさんいる砂漠地帯のベースキャンプです!」

 

雪風の言う通り、ここは海から砂漠に直接上陸出来る場所に設置されたベースキャンプ。

バルバレ鎮守府がある地域には広大な砂漠が広がっている。

大半は雑草の一本すら生えていないキメ細やかな流砂の大地となっており、砂上船と呼ばれる専用の乗り物を使わなければ流砂に足を取られて移動することすらままならない過酷な環境となっている。

しかし全てのエリアがそうなっているわけではなくちゃんと歩ける砂地も存在するし、更には岩場やオアシスといった生物の生息可能に適した環境もしっかりと存在する。

 

「雪風達はこれからリノプロスの巣に向かいます!それは地図を読んだ限りここにあるらしいです!」

 

不知火から貰った地図、それにはこのフィールドのエリア情報も載せられており、過保護なことにリノプロスの巣があるエリアに印も付けてある。

先程雪風に地図を渡す際に書き込んでおいたらしい、雪風はこの地図を頼りにリノプロスの巣を目指すつもりのようだ。

 

「さぁ山城さん行きますよー!」

 

元気よく砂漠へと駆け出していく雪風。

不本意なクエストだったためやる気のなかった山城も渋々後を追う。

 

「はぁ、海で戦うはずの狩娘が何で海とは程遠い砂漠に出向かなきゃいけないのよ……。本当に不幸だわ……。」

 

ザクザクと砂を踏み締めて歩く二人、足元は流砂ではないとはいえ砂地である。

狩娘の足は海を歩くためのものであり、砂漠を歩くように出来てはいない。

歩き慣れない地面、照りつける日差し、そして吹き付ける砂埃。

 

「うぅ~、暑いですねー!」

 

クーラードリンクを歩き飲みし、額の汗を拭う雪風。

元気が取り柄の雪風もこの慣れない環境には流石に歩き辛そうにしている。

では不幸が取り柄の山城の方はどうなっているのかというと……。

 

「あ゙づい゙……武器重い……あっ、靴下に砂入った……うっ!?目にも砂入った……何で私がこんな目に……。」

 

まだ卵の運搬どころかリノプロスの巣にすら辿り着いていないのにこの有様である。

背中に背負った黄金に輝く大槍バベルは重いだけでなく太陽の熱をまんべんなく吸収し、熱さと重さのダブルパンチで容赦なく山城のやる気を奪っていく。

こんなことになるのならバベルなんか持ってこず、適当に軽くて小さい武器でも装備してくればよかったと思うがそれも後の祭り。

砂漠に大事な武器を捨てるわけにもいかず、持ち前のプライドと根性だけを頼りに砂漠を歩き続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩き続けたことで徐々に砂地は終わりを見せ、疎らに植物が生えた岩場へと景色が変わっていく。

足元が歩きやすい地形へと変化したことで雪風も山城も元気を取り戻し、やがて目的の場所へと辿り着いた。

 

「見つけました!リノプロスの縄張りです!オアシスの近くにリノプロスの巣があります!」

 

熱い砂漠における清涼剤、オアシスの周辺にリノプロスが群れを成して営巣している様子が遠くからでもはっきりと見えた。

リノプロスは鳥類などと違って自分の身体で卵を温める習性は持たず、地熱と太陽で卵を温める生態を持っており、卵は地面に皿状に掘られた丸い窪みに産みっぱなしされていた。

 

「リノプロスには悪いけど早速卵を貰っていきましょう!」

 

巣に向かって飛び出していこうとした雪風を山城は慌てて捕まえる。

 

「雪風待ちなさい!こういうのにはやり方というものがあるのよ!」

 

雪風に近くの岩陰に隠れて待機しているように指示を出すと、山城はオアシスに向かって歩き出す。

 

「いい雪風?リノプロスは聴力こそ発達しているけど視力はとても悪いの。そして当然卵を守ろうする本能こそあれど、その警備はザルもいいところよ。だからこうやって……。」

 

抜き足差し足忍び足でリノプロスの巣へと近付いていく山城。

山城の言う通りリノプロスは聴力にこそ優れるが視力はかなり低く、音を立てなければ接近してもそう簡単に気付かれることは少ない。

山城はそのままバレることなくリノプロスの巣の中にまんまと入り込むことに成功した。

 

「ま、私に掛かればこんなものね。(小声)」

 

「山城さんすごーい!(小声)」

 

「それじゃあ卵を頂くとしますか……ん?(小声)」

 

山城の手際の良さに離れた場所で見ていた雪風も目を輝かせる。

それに気を良くした山城が卵に手を付けようとした瞬間、彼女の上空に黒い影が現れた。

何事かと山城が見上げてみればそこにいたのは……。

 

「ノイオス?」

 

ハゲワシに似た頭部を持つ翼竜種の小型モンスター、ノイオスであった。

ノイオスは砂漠や荒野といった乾燥地帯に多く見られる翼竜種。

肉食だが基本的に生きた獲物を襲うことはなく、死肉を食べる腐肉食のモンスターであり危険度は低い。

戦闘力も低ければ性格も臆病で、このモンスターに傷付けられる方が珍しいとさえ言えるだろう。

厄介な飛行系大型モンスターならともかく危険度の低いノイオスなら問題ないだろうと判断した山城は警戒を緩める。

持ち前の不幸で手に負えない化け物でも現れたんじゃないかと影を見た時点で少し冷や冷やしていたのだ。

そんなノイオスだがこの場にいるのは一羽だけである。

本来群れで活動するノイオスが一羽しかいないということは、この個体は群れとはぐれたのであろう。

群れとはぐれて不安なのか動きに落ち着きがなく、あっちへフラフラこっちへフラフラと飛んでいる。

そしてはぐれノイオスは何を思ったのか山城の方へと飛んできた。

 

「ちょっ!?何でこっちに来るのよ、あっちへ行きなさいよ!(小声)」

 

危険度の低い小型モンスターということで油断していた山城も予想外のこの事態には流石に慌てる。

止まり木にするように山城の頭に止まろう足を伸ばすノイオス。

いくら大人しいモンスターとはいえ爪は鋭く、脚力もそれなりにある。

そんなもので頭を掴まれては堪ったものではない。

ノイオスを追い払おうと思わず振り回した腕、それはノイオスの横っ面に直撃した。

 

 

 

 

 

「キィイイイイィィィィィン!!!!!」

 

 

 

 

 

ノイオスは驚くと高周波を放つ性質がある。

この高周波はかなりの音量を誇っており、上空で鳴いたノイオスの高周波によって地中に潜んでいたモンスターが思わず飛び出してくることすらあるという。

山城に殴られたこの個体も例に漏れず高周波を放つ、山城の頭のすぐ上で……。

 

「うるさっ……あっ!?」

 

「ブルルル……。」

 

「ブルル……。」

 

「ブルルルル……。」

 

ノイオスの出した高周波。

それはオアシス全体に響き渡り、リノプロス達の注目を集めるには充分過ぎた。

 

「ど、どうも……怪しいものではありません。通りすがりの山城です……。えっと……それじゃ、お邪魔しました……。」

 

「ブオオォ!!」

 

「ブアァ!!」

 

「ブウウゥ!!」

 

「ててて撤収~~~!!!」

 

音を出した元凶のノイオスはいつの間にやら遥か遠くへと飛び去っており、残された山城に目掛けて次々にリノプロスの大群が突っ込んできた。

この状況では卵どころではなく、リノプロスの警戒を解くためにも一旦この場から離れるしかない。

危険度の高い大型モンスターが現れなかったから幸運?

そんなことはない、危険度の低い小型モンスター相手にすら酷い目に遭わされるからこそ山城は不幸なのだ。

 

「あぁもうしつこい、これでも喰らいなさい!」

 

しつこく追ってくるリノプロスに逃げ切れないと感じた山城は音爆弾をリノプロスの群れの真ん中に放り込む。

音爆弾は破裂することでノイオスの高周波に匹敵する大音量を鳴らすアイテムである。

音爆弾の爆音によってリノプロスが山城の位置を見失っている隙に、山城は雪風の待つ岩陰に逃げ込むのであった。

 

 

 

 

 

~五分後~

 

 

 

 

 

「よし、リノプロスの警戒心も薄れたようだし今度は一緒に一度行くわよ。もうやり方は分かるわね?」

 

「はい!雪風、決して走らず急いで歩いてきてそして早く卵を手に入れます!略してユキイレです!」

 

「ユキ……?まぁいいわ。」

 

リノプロス達が落ち着いたのを見計らって卵を手に入れるべく再びオアシスにゆっくりと近付いていく山城と雪風。

作戦ユキイレ開始である。

今度はノイオスに絡まれるといったトラブルに見舞われることもなく巣の中心にまで到達する。

 

「それじゃ卵を貰うわよ。割れ物だからゆっくり優しくね。(小声)」

 

「はい!ゆっくり優しく貰います!(小声)」

 

山城と雪風はそっと卵を持ち上げた、ずしりとした重みが両腕に伝わってくる。

そのまま来た時と同じく物音を立てないよう静かに歩き去っていく。

 

「やりました!リノプロス達に気付かれることなく卵を持ったままオアシスを抜け出せました!」

 

「喜ぶのはまだ早いわ、ベースキャンプに戻って納品するまでがクエストよ。それにクエストクリアに必要な卵の数は全部で5個、最低でも三往復しないといけないわ。」

 

「はーい、大丈夫です!」

 

楽観的な雪風に対して山城は頭痛を覚える。

山城は知っている、運搬というのは帰り道こそが本番であるということを。

行きはよいよい帰りは恐い、運搬クエストというものがどれだけ面倒臭いのかを知る山城は一人溜め息を吐くのであった。

 

 

 






最初はライバルのネモに対抗して主人公の名前をマラサイやバーザムにしようと思ったけど流石にそれは思い止まりました。



ちなみに今回のリノプロスの生態は捏造です。
でもゲーム中で真面目に卵を守っているモンスターなんてリオ夫婦とMHSTの連中だけな気がする。
まあ真面目に守られたら殲滅するしかなくてゲームにならないから仕方ないね。



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