Steins;Gate/輪廻転生のカオティック   作:ながとし

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前途多難のワールドトラベラー

「おい、そこの貴様。俺たちが見えているか? ……なぜ何も答えない。貴様に聞いているんだぞ? モニタのそっち側にいる、貴様にだ」

 

 まさかこんな近くで岡部倫太郎の奇行を目にできるとは思わなかった。

 奇妙な感動を覚えながら少しリラックスする。

 

「ごめんねー。オカリンはいっつもこうなんだー」

 

 俺の隣ではコスを作りながら椎名まゆりが明るく微笑む。

 つられて俺もひきつったような笑みを浮かべた。

 

「瀧原氏も早く慣れた方がいいと思われ。因みに僕は諦めたお」

 

 橋田至は俺の方を気にしながらもキーボードをたたく手は止めない。

 岡部倫太郎はちゃちゃを入れられながらもモニタに映るキモいアルパカに話し掛け続けている。

 

「……ラボメン、すなわちラボラトリーメンバーは、俺を含めて4人である」

 

 最初に岡部倫太郎が自己紹介をして次に、椎名まゆり、橋田至と紹介する。

 

「最後に謎の情報を知る男にして俺と同じ被験体、ラボラトリーナンバー004瀧原浩二だ」

 

「はは……せめてラボメンナンバーは009にしてくれない?」

 

「何故だ」

 

「……特に意味はないんだけどね」

 

「おや、やはり瀧原氏もオカリンと同じく厨二病ですか?」

 

「黙れスーパーハカー、俺は厨二病ではない」

 

 岡部倫太郎は平然と前髪をかき上げ―――

 

「鳳凰院……凶真だっ!」

 

「そういう設定っしょ?」

 

 橋田至の厳しめの指摘にも慣れた様にけろりとしている。

 俺かなんでラボメンに入れられてるんだろうとため息をつきながら一時間前のことについて思い浮かべた。

 

「―――っくぅ」

 

 世界線移動。岡部倫太郎はこれをリーディングシュタイナーと名付けていた。

 世界線を越えて記憶を保持し続ける力。

 

 俺はその力のせいで起きた脳の違和感に耐えながら岡部倫太郎を陰から観察していた。

 いまのところ原作と大きな違いはない。

 当たり前だ。俺という存在が生まれてはいるが直接彼らに接触したことはまだ一度もない。

 

 彼らの様子を伺えば岡部倫太郎が椎名まゆりを揺さぶっている。

 人が消えた現象について問いただしているのだろう。

 

 それにしても暑い。この世界線の俺はいつからここにいたのだろうか。世界線移動のせいもあるだろうが頭がボーっとしていた。いつの間にか背負っていたバックからペットボトルを取り出し一口飲んだ。

 体勢を立て直すため一度日陰に入るべきだろう。

 仮に、万が一にでも見つかって彼らと話をしたとしよう。そうなれば原作との差異が出来るわけで先読みがしづらくなる。つまりだ、俺が安全に暮らせる世界線への道が遠のくというわけだ。

 そんな、無様なことをするわけには―――

 

 こっそりと数歩後退した時、足の端に妙な感触。それと共に弾ける様に転がってゆく小石。

 

「……誰だッ!」

 

 俺は走り出す。何処でもいい、取り敢えずにげることが先決だ。

 

 クソっ。俺はここで現れるべきではないイレギュラーだぞ。

 とにかくこれ以上の接触は避けなければいけない。

 

「まゆり!、あいつを捕まえてくれっ!」

 

「えー、まゆしぃはね――」

 

「頼むッ! どうしてもだ!」

 

 その言葉がスタートを切るピストルだった。

 青い姿が俺にとってはあり得ない速さで迫って来る。

 

「オカリーン! 捕まえたよー」

 

 必死に走るも虚しくそしてあっさりと捕まってしまった。

 原作の描写の通りの走力だ。勝てる気がしない。此処は何事もなかったかのように出ていくべきだったか。

 頭がボーッとする。さっきよりもひどくなってきた。

 

「ごめんねー オカリンがつかまえろっていうんだもん」

 

 しょんぼりした顔を見せるが、腕の拘束はかたいままだ。

 直ぐに岡部倫太郎も追いつく。

 

「今数千人の人が一瞬で消えたんです! あなたも見ただろ!?」

 

 とにかく否定せねば。

 

「岡部倫太郎。すまないが君の言っていることが分からない」

 

 あっ、マズい。

 ぼんやりした意識が危機感ではっきりと冴えてくる。

 

「見て……ない? いや、その前に」

 

 大層怪しいものを見るような口調で

 

「俺、名前言いましたか? まゆりか?」

 

「オカリン。まゆしぃもオカリンとしか言ってないよー」

 

 どうしたらいいだろうか。

 ボーっとしてもういっそのこと全部言ってしまえばいいんじゃないかそんな思考さえ浮かんでくる。

 非常にマズいぞ。

 

「そこの君たち!」

 

 いいところに来た警官Aさん!

 しかし、逃げられない事には変わりはない。

 

 結局俺はUPXまで連れていかれた後、岡部倫太郎と問答するうちに”謎の男”と気に入られて今に至る。

 岡部倫太郎も俺と同じく一時間前あたりのことに考えていたのだろうか。

 変な顔をしている。

 

 彼も、テレビやラボメンの言葉を聞いて人工衛星が落下してあの辺りは封鎖されていて人がいなかったことは納得はしていないが理解したようだ。

 

「そうか……そういうことか……! これもすべて、”機関”の隠蔽工作ということだな! 警察にすら圧力を―――」

 

 そこで何か思い当たったのだろう俺によって来ると

 

「というか、貴様吐け! 明らかに何か知っているだろう。俺の名前も既に機関に知れ渡っていると言うことなのか!」

 

「あー、コウくんちょっとびくっとしたー。でもーコウくんはまゆしぃ達よりも年上だからコウさんって呼んだほうがいいのかなー」

 

「べつにどっちでも気にしないですよ」

 

「それじゃあ、コウくんってよぶね」

 

「オカリン、ほぼ無理やり連れて来られても文句すら言わない瀧原氏にすこしは感謝すべきだと思うお」

 

「―――ッチィ」

 

 おもむろに白衣から携帯を取り出し。

 

「俺だ―――ああ、このラボに”機関”からのエーィジェントがついに送り込まれた」

 

 隠さなければならないことがあるせいか妙に否定しにくい。

 

「―――大丈夫か。だと? フッ、この俺を誰だと思っている。あえてラボメンとして迎え入れることで奴を油断させ、逆に情報を手に入れて奴らの所業を暴き、その支配構造に終止符を打ってやるのだ! フゥーハハハ!!」

 

 高笑いを終えた後一息ついて、

 

「エル・プサイ・コングルゥ」

 

 独特な発音でそうつぶやいた後、無駄に洗練された無駄のない動きで携帯をしまうと冷蔵庫からドクターペッパーを取り出しグッと飲んだ。

 

「ダルよ。例の計画はどうなっている」

 

「え、計画って何ぞ?」

 

 そのまま話を聞いていくとここ最近作った未来ガジェット8号機『電話レンジ(仮)』の調整についての話のようだ。

 ここでまた知らない筈のことを知っている風に見られるのもまずいだろう。

 一応聞いておいた方がいいな。

 

「椎名さん電話レンジって何ですか?」

 

「えっとねー電話レンジちゃんは電話レンジちゃんだよー」

 

「まゆ氏それじゃわからないって」

 

「うおっほん、それではこの俺が直々に説明してやろう。我がラボにて生まれた未来ガジェットにして最新作!『電話レンジ(仮)』! それは携帯によるリモートコントロール機能を電子レンジに追加し、お出かけ先から帰ってくる頃には中に入れた物が温まっているという画期的なガジェットなのだ!」

 

「つまり、ガラクタってわけで、でもまゆ氏が『ジューシーから揚げナンバー1』を温めようとしたらカチンコチンに冷凍されちゃって、そんでバナナを冷凍してみようって入れたら……まぁ、見てたら分かるお」

 

「まゆり! まゆり! バナナを持て!」

 

 抗議する椎名まゆりをよそにババナを一房ごと電話レンジの中に入れた。

 岡部倫太郎は携帯を取り出しまゆしぃガイダンスにあえて従わずに120#と打とうとする。

 

「むっ、むむむっ、なぜだ!」

 

「オカリン不器用過ぎじゃね。10回は間違ってるお」

 

「うるさい! ほら、起動したぞ!」

 

 ヴォンという音と共にバナナが回転するのを四人で黙って見守る。

 よく見ているとレンジされている一瞬のうちにバナナの色が黄色から緑に転じて重力によってドロッと垂れた。

 デモンストレーションとしてはもう十分だ。電気ももったいなく感じてきた。

 

「もういいんじゃないですか?」

 

「あ、え? そうだな」

 

 岡部倫太郎が取り出したバナナはバナナではなくなっていた。

 気色の悪い透明の緑、垂れている以外に中に気泡も入っているように見える。

 まさしくゲルバナと呼ぶにふさわしい風貌。

 椎名まゆりは何故か文句の言葉とは裏腹に完成を喜んでいるようだ。

 

 そう言えば原作の、牧瀬紅莉栖が来る少し前にバナナを1本だけ入れて実験するとバナナはゲルバナとなり元の房に戻った。つまり120時間まえに在るべき場所に戻ったわけだ。

 しかし、よく考えてみるとおかしくないだろうか?

 一房の実験でもどこかに移動するはずだ。電話レンジの中に5日間もあったわけではないだろうから。

 そう考えると1本の時でもおかしい?

 

 うう、ダメだ。これ以上考えると神の意志で潰されそうだ。

 

 元はバナナだというので食べてみろと橋田至と岡部倫太郎で揉めている間、椎名まゆりに頼んでスプーンを持ってきてもらった。

 なにせゲルバナだ、これ以上ないくらいの珍味だろう。見た目を模した料理もできていたのだから、まあ、大丈夫だろ。

 ゼリーのように掬い一口。

 

「なっ、食べたのかそれを」

 

 味わう味もなく、あるべき食感もなく、うむ。これが時空の味か。

 

「まずいけど、食えなくはないかも……」

 

「うわぁ、瀧原氏も相当な変態だって今わかったお」

 

「おいしくないよねー。でろでろで、ぶにゅぶにゅだもん」

 

 俺も初見では到底手を出したくない代物を実食しているとは流石椎名まゆりだ。

 

「味もしないし、ねー」

 

「ぶにゅぶにゅ……バナナ……」

 

 橋田至がうわごとのように何かを呟いた後、鼻血がつつーと垂れる。見なかったことにしておこう。

 電話レンジの謎の機能について話し合いをした後、岡部倫太郎と橋田至はATFのセミナーに向かうというので、俺はひとまず帰らせてもらうことになった。

 

「お前には例のことに関して吐いてもらう必要がある。近いうちにまた来るがいい」

 

「……またしばらくしたら来ます」

 

 メールアドレスを書いた紙を渡しビルから出た。

 大分、干渉しすぎた気もするがあれはしょうがなかった。うん。間違いない。

 結果的に言えば大した変動もなくラボメンに入ることが出来た。

 逆に言っても干渉しやすくなったと言える。

 原作展開への収束範囲内であることを俺は祈った。

 




-追記-

誤字報告ありがとうございます。

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