Steins;Gate/輪廻転生のカオティック   作:ながとし

17 / 21
片鱗のシーキング

「おい、そこの貴様、俺たちが見えているか? 何故答えない? モニターのそっち側にいる間抜け面の貴様だ!」

 

「トゥットゥルーまゆしぃです」

 

 いつかの再現のように、画面に映るアルパカに向けて喋る岡部倫太郎。アルパカの前を争うようにまゆりが割って入った。

 橋田至は変わらずパソコンをいじっている。

 

 タイムリープは成功したらしい。

 

 俺は携帯電話を片手に立ち尽くしていた。

 

「ん? どうかしたのか? 瀧原」

 

「何でもないです」

 

「そうか」

 

 再びアルパカに目を向ける岡部倫太郎。

 

「相変わらずおしゃべりしないねー」

 

「しかし、進展はあった。一年に及ぶ研究により遂に子孫が誕生したではないか!」

 

 画面に映るのはおっさん顔のアルパカと妻と思われる美人なアルパカ。その間に子供アルパカが一人、もしくは一匹いた。

 三匹になった分ステータス画面も増えているが、どれも変わった様子は見られない。

 

「かわいいねー」

 

「リア充爆発しろ」

 

 子供アルパカの笑顔が輝いているが相変わらず無言だ。

 本当に喋る機能がこのソフトに備わっているのか疑問に思えてくる。数百円のソフトだから仕方がないのかもしれないが。

 

「やはりこのソフトには、世界の支配構造を変革するための隠された暗号があると見るべきか……」

 

 スッと立ち上がり岡部倫太郎は頭に手を添える。

 

「……必ず暴いてみせるぞ、この鳳凰院凶真が!」

 

 体を捻るようにしながらポーズを決める事によって白衣の裾がなびく。

 そして岡部倫太郎自身も小さな声で”ふぁさ”と擬音を付けることでいかにもはためいているように感じる。

 素晴らしい厨二病だ。

 

「コウ君、麦茶のむ?」

 

「おねがいします」

 

「まゆ氏、僕にもおねがい」

 

「はいはーい」

 

「それと、お茶を入れるときは、お茶ドゾーでよろ」

 

 たしかネットスラングで議論が熱くなりすぎたり、一人で何か突っ走っている人に向けて、落ち着けという意味を持った言葉だっただろうか?

 

「お茶ドゾー?」

 

「そうそう、もしくはお茶置いておきますねでも可」

 

「オカリンはいる?」

 

「フッ、麦茶などと言う大衆的低俗な飲料が飲めるか、俺が飲むのは選ばれし飲料!」

 

「綾鷹だねー」

 

「違うわッ!」

 

「まゆ氏、グッジョブ」

 

 パソコンのモニタから目は離さないものの橋田至はサムズアップをした。

 

 その後、劇場版の展開通り未来ガジェット10号機クールビジターという疑似クーラー。

 実際には空気を送るモーターの排熱で逆に暑くなってしまうという欠陥機を、岡部倫太郎の提案で起動された。

 

 冷蔵庫の上に取り付けられた幾つものファンが力強く庫内の冷気とモーターの熱気を排出している。

 

「どうだぁ? 快適だろう?」

 

「それ、普通の扇風機とあまり大差無くね?」

 

「麦茶もあんまり冷えなくなっちゃったしねー」

 

 俺もまゆりに抱っこされてファンの前にあてられる。

 確かにちょっぴり涼しいような気がするが、奥の排熱ファンからの風の方が強い。

 

 突然、ラボ内を照らすライトが消えた。

 これは、ビル全体のブレーカーが落ちたのか? とりあえずこのクールビジターが原因なのは明らかだろう。

 

「ぬなぁぁぁああああ!! 今のはセーブデータがやばいパターンだお。……このォ!」

 

「なッ」

 

 橋田至は叫び岡部倫太郎をガラクタが積んである棚に押しやった。

 その激しさに幾つか物が落ちてきている。

 

「もしこのCGコンプデータが破損してたらオカリン殺して僕も死ぬ!」

 

 橋田至は涙を流している。岡部倫太郎はその様子に困惑気味だ。

 

「ちょっとーコウ君の前で殺すーとかいう言葉は、きょーいくじょー良くないんだよー」

 

 俺をかばうようにしながらまゆりはそう言った。

 

「岡部ェ!! ちょっと降りてこい!!」

 

 外から天王寺さんの怒鳴り声が聞こえてくる。慌てて窓に向かう岡部倫太郎。

 

「ミスターブラウンよ、用があるなら自ら出向くべきではないのか?」

 

「うっせえ、家賃5000円上げっぞ!」

 

「今すぐ参りますっ」

 

 窓の外を見ると天王寺さんと綯ちゃん、そして桐生萌郁も表に出てきていた。

 

「あ、綯ちゃん。トゥトゥルー」

 

「まゆりおねえちゃんとコウ君!」

 

 綯ちゃんが元気よく手を此方に振った。

 

 ここまでの展開で考える限りでは、この仮称SGβ世界線でも劇場版と同じ展開になっていると考えられるだろう。

 本当にどうやって未来の俺がこの世界線を見つけたのか不思議に思う。

 

 後は、強烈な記憶をどのような形で植え付けるかが問題だろう。

 

「ほら、コウ君も行くよー」

 

 まゆりに引っ張られて俺も賑やかな階下に向かった。

 

 

 

 8月3日、午後。

 

 俺とまゆりは漆原るかを連れて牧瀬紅莉栖を迎えに空港に来ていた。

 到着する時間は、あらかじめまゆりの携帯の方に連絡が来ていたのですれ違うと言うことは無いだろう。

 

 それにしてもこの低い視点は慣れない。空港という多くの人が集まる場所のせいなのか、圧迫感がすごいからだ。

 人にあてられるとでも言うのだろうか?

 ともかく、そんな感触から逃れるようにひたすらゲートを見続けた。

 

「あっ!」

 

 変なサングラスをかけているが間違いなく紅莉栖だ。

 駆け寄るまゆりについて行く。

 

「紅莉栖ちゃん、おかえりー」

 

「まゆり? それにコウ君も、わざわざ来てくれたの?」

 

「待ちきれなかったもん。ねーコウ君」

 

「うん」

 

「ご無沙汰しております、牧瀬さん」

 

「あなたはたしか漆原さんでしたよね?」

 

「はい」

 

 漆原るかは美しい微笑を見せた。

 

 ラボに向かう途中、橋田至の新しい友達の阿万音由季の話題がまゆりの口から出る。

 その人物が美人コスプレイヤーだということを知らされた紅莉栖は、真っ先に詐欺をしていると踏んで、近くの店から出てきた橋田至を問い詰めたりしていた。

 橋田至が変態だからと言っても扱いがひどいと思う。

 

「相変わらずここは散らかっているわね」

 

 停電騒ぎの後の事もあり、まだラボ内は綺麗とはとても言えない。

 ビット粒子砲やタケコプカメラーなどのガジェットも床に転がっている。

 

 まゆりがコップにお茶を入れて現れた。

 

「紅莉栖ちゃんお茶ドゾー」

 

「ドモドモー」

 

「……紅莉栖おねえちゃん。それじゃ@ちゃんねらーだって、自分で言ってるようなものだよ?」

 

 赤面する紅莉栖。やはり原作で言われていたと通り魂までねらーに染められているのだろうか。

 さすがに子供の俺には、うるさいと強く言えないのだろう。ぐぬぬ、とうなりながら立ち尽くしている。

 

「それにしてもオカリン遅いね」

 

「オカリンならブラウン氏のお使いの後、その足でアメ横までいくってさ」

 

「せっかく牧瀬さんが来たのに……」

 

 紅莉栖に対して岡部倫太郎が居なくて寂しいでしょうと言外に言っているようだ。

 

「別に! あんな奴来なくても私はどうでもいいわよ!」

 

 一気に麦茶をあおる紅莉栖。慌てて飲んだせいかむせていた。

 

「紅莉栖ちゃん大丈夫?」

 

 息を整えながら

 

「だ、大丈夫よまゆり。あいつが居なくてむしろほっとしたっていうか、無駄なエネルギーを使わなくて済んだっていうか」

 

「ツンデレ乙」

 

「誰がツンデレかぁ!」

 

 不意にラボのドアが開いた。

 

「全く、ミスターブラウンめ、この俺をパシリにするとは……ん?」

 

「あ……」

 

 窓から差し込む夕日を間にして見つめ合う紅莉栖と岡部倫太郎。

 きっと様々な想いが二人の中で交差していると思うのだが、どちらも素直な性格ではないから何も言えないのだろう。

 

「俺だ。機関が再びエージェントを送り込んできたらしい、何? 緊急要請だと? クッそれがシュタインズ・ゲートの選択なら仕方ない。エル・プサイ・コングルゥ」

 

「相変わらず厨二病してるな」

 

「サーセン」

 

 何故か反応した橋田至。

 

「久しぶりだな助手よ。いや、クリスティーナ! いや、実験大好き、天才変態蒙古斑少女よ! 略して変態!」

 

「いきなり失礼だな! それに略してないし!」

 

「それより、なぜクリスティーナがここに居る? ここはかの許されざる聖域、未来ガジェット研究所と言うことが分かっているのか?」

 

「私だってラボメンよ! 別にいたっていいでしょう」

 

「ハッ、一年間顔も見せなかった奴がどの口でほざいているのだ」

 

 喧嘩をしているかのようだが、その口調はどちらも満足げに思える。

 

「いつものラボに戻ったって感じですね」

 

「そうだねーまゆしぃはとっても嬉しいのです」

 

 岡部倫太郎と紅莉栖の言い合いはまだ続く。

 

「なぜ、日本に来たんだ? 助手よ。長らく来なかった事に対する謝罪にでも来たか」

 

「なんで私が謝罪しなきゃなんないのよ。私が来たのはたまたま日本で学会があっただけで、まゆりにも会いたかったしね」

 

 キャリーケースからラッピングされた小箱を紅莉栖は取り出した。

 

「はい、まゆりお土産。漆原さんもどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとー中身は何なのかな?」

 

「ソーイングセットよ。あと、浩二君にもお土産」

 

 渡された小箱のラッピングを少し剥がすと見覚えのあるキャラクターの絵が見えた。アメリカのヒーローのフィギュアみたいだ。

 

「これ好きだったでしょ?」

 

「あ、ありがとう紅莉栖おねえちゃん」

 

 俺に向かって微笑んだ後、スッと紅莉栖は立ち上がる。

 

「あんたたちには何もないわよ、私はまゆり達に会いに来たんだから」

 

 岡部倫太郎の白衣のポケットでプレゼントの様な小箱が見え隠れした。

 

「そんなものはなから期待していないわ! 渡し終わったのならとっととここから去るがいい!」

 

「なっ! ……言われなくもすぐに出ていくわよ」

 

「えーもう行っちゃうのー?」

 

「しばらくは日本にいるからまた会えるはず。ホテルにチェックインしてくるわ」

 

 紅莉栖がキャリーバックのチャックを締めて出て行こうとするときドアが開いた。

 

 フェイリスと桐生萌郁だ。

 

「凶真ー、来たニャー」

 

「…………」

 

 岡部倫太郎はギクリとしたような顔をしている。

 

「桐生さんにフェイリスさんまで、なんで……」

 

「ニャニャ? 紅莉栖ちゃんが今日ラボに来るからバーベキューやるぞって」

 

「……岡部くんに誘われた」

 

 表情が一転して若干の笑みを見せる紅莉栖。その様子をまゆりがニコニコと見つめる。

 

「オカリンは素直じゃないんもんねー」

 

 突如携帯を取り出し例の報告を始める岡部倫太郎。その姿はどう見ても照れ隠しをしているようにしか見えなかった。

 

 そんなこともあり、無事開催された紅莉栖歓迎会のバーベキュー。開催場所はビルの屋上だ。

 まだ何も焼けていないので、飲み物だけ貰ってのんびりとしていると岡部倫太郎にラボに行こうと言われそのままついて行った。

 

 電灯一つついていないラボ内は少しの不気味さを感じさせる。

 早速用件を聞く。早いところあの場には戻ってもらわなければいけないからだ。

 

「岡部おじちゃん、どうしたの?」

 

「……瀧原、お前瀧原なんだろう?」

 

 えっ?




-追記-

誤字報告ありがとうございます

余りに最後が雑すぎたので修正しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。