Steins;Gate/輪廻転生のカオティック   作:ながとし

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再動のノスタルジア

「……ッは」

 

視界が一気にクリアになった。

 

机も窓もテレビも全部大きい。

パソコンに熱中している橋田至もいつもより大きく感じる。

冷蔵庫の上にファンがついているヘンテコなものもあった。未来ガジェット10号機クールビジターだろう。

となると、ここは……ラボか?

 

「だいじょうぶー? コウくん」

 

俺はまゆりの膝に座っていたようだ。

 

不意に”まゆりちゃん”という言葉が浮かんで消えた。

 

「大丈夫ですよ。まゆりちゃん」

 

驚くほど高い声が出た。

子供の声の雰囲気と大人の瀧原浩二としての雰囲気が混ざって何とも奇妙。

気を付けたほうがいいだろうか? いつもと同じように話していては不自然になってしまうが。

 

「もー、まゆしぃの方がお姉さんなんだから、”まゆりおねーちゃん”って呼ばないとだめなんだからね」

 

ほら、言ってみて、と言わんばかりにまゆりは俺の顔を覗き込んだ。

この距離は中々恥ずかしい。さっさと言ってしまおう。

 

「ま、まゆりおねえちゃん……」

 

「今日のコウくんはいい子だねー」

 

圧倒的なメロンに抱き着かれた。

何故だ。言われた通りにしたのに余計に恥ずかしい状況になったぞ。

 

「あら、まゆり。ようやくおねえちゃんって呼んでもらえたのね」

 

コーヒーカップを片手に開発室から出てきた紅莉栖。

その表情はとてもにこやかだ。

 

やはり、最も危惧していたことが起きているのかもしれない。

岡部倫太郎がいなくなったことに対して劇場版よりも違和感がとても薄いみたいだ。

 

元々、フェイリスルートに突入させることを目標としていたため、ラボメンの関係性をあまり重要視して来なかったせいだと考えられる。

今いる世界線には無理矢理来たわけだから、岡部倫太郎との思い出の数が原作に比べて薄いということか。

 

「えへへー まゆしぃの大勝利だよー」

 

密着度がさらに増えた。

子供の俺はまゆりのことを元々おねえちゃんって呼んでいなかったのか?

……いや、確かに呼んでいなかった。友達みたいだったからだ。紅莉栖は大人みたいな人だからおねえちゃんと呼んでいた。

他にも通っている小学校の名前や友達の名前も出てくる。

 

子供の俺の記憶を引き継いでいるのか? R世界線と第二のシュタインズ・ゲート世界線、仮にSGβ世界線は同一と言ってもいいくらいの世界線だ。まるで世界の表と裏の様な。脳の認識次第で移動できるほどの不安定さだからありえないことではないのだろうか。

聞きたかったことを子供のように言葉を出してみる。子供の記憶が出てきたせいか気恥ずかしさはだいぶん薄れた。

 

「紅莉栖おねえちゃん、講演のお仕事は終わったの?」

 

「そうね、あと少し残ってるわ。それがどうかしたの?」

 

「ううん」

 

首にかかっていた携帯電話で確認してみると8月7日。劇場版よりも岡部倫太郎が消えたのが遅れている?

 

まぁ時間的には劇場版と大きな差はないだろう。

しかしだ、今から大体一週間後に岡部倫太郎から貰ったスプーンとフォークをきっかけに劇場版ではタイムリープマシンを作ったわけだから、そのイベントを潰してしまっている以上その展開は望めない。鈴羽も未来から来たかも怪しいというわけだ。それに、岡部倫太郎をあまり待たせるわけにはいかない。

 

となれば、俺がそのきっかけを作るしかない。

 

「紅莉栖おねーちゃん、岡部倫太郎って知ってる?」

 

「……聞いたことあるような気がするわね。どんな人なの?」

 

しゃがんで目を合わせて話してくれている。

ここは、インパクトのあることをすべきだろう。思い出せなくてもなんとなく他世界線の記憶が俺の行動を補助してくれるはずだ。

 

まゆりの優しい拘束から逃げ出し、そこらへんに放ってあった白衣をサイズが合わないのも気にせずに決めポーズ。

 

「狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だッ! クリスティーナよ、作戦の状況はどうなっている」

 

「ティーナじゃないって言っとろーが、……あれ?」

 

「まゆりよ、ドクペを持て!」

 

「はい、コウ君」

 

「マイフェイバリットライトアーム、ダル・ザ・スーパーハカーよ、SERNへのハッキングはどんな調子だ」

 

「ハカーじゃなくてハッカーだろ常考。てかなんでハッキングしてること瀧原君が知ってるんだお」

 

あの無駄に練習してきた鳳凰院凶真の真似は一応通用したようだ。

橋田至は、劇場版の通りにハッキングを誰に言われずとも始めていた。岡部倫太郎との思い出は少なくなってはいるが消えたわけじゃない。確かに絆はここにある。

手渡されたドクペを一口飲み、ラボメン達を見つめる。

 

「ラボメンナンバー001にしてこのラボの創設者。数々の未来ガジェットを生み出してきた天才」

 

「滝原君、このラボと未来ガジェットを作ったのは僕だお」

 

「本当はもう一人いたんです。新しいガジェットの名前も普通クールビジターなんて厨二病みたいなのはつけないでしょう? さっきのドクペだってそうです。まゆりおねえちゃんもなんでわざわざ冷蔵庫に常備しているんでしょうか」

 

「誰かのむかなーって思って……」

 

「好んで飲む人がこの場にいますか? 橋田はコーラが好きで、紅莉栖おねえちゃんだって飲めるけどそんなに好きじゃなかったはずです」

 

この言葉でラボメン達の中にある岡部倫太郎がいないという違和感が大きなものになったはずだ。

 

「なんだか、コウ君がいきなり大人になったみたいでまゆしいはよくわからないのです」

 

「確かに不自然だけど……なんて言ったらいいのかしら」

 

「瀧原君が某名探偵みたいなわけだが」

 

そっち方向に違和感を感じてほしいんじゃないんだ。確かに子供がこんな話し方してたら俺も不思議に思うが。

ここで”身体は子供! 頭脳は大人! その名も瀧原浩二!”と言う感じにやってしまえたら楽なのだが、そうするとただの子供の妄言になってしまう。

よし、ごり押しで行こう。

 

「SERN、携帯電話、電子レンジ……紅莉栖おねえちゃん、何か思い出すものはないですか?」

 

「……わからないわ。何も関連性がないと思うけど?」

 

「全てを組み合わせるとタイムリープマシンが出来るんですよ。手順を説明しましょうか? 携帯電話を電子レンジの二つの機器に共通する電磁波を飛ばすためのリード線をマグネトロンと結線してしまいます。その状態で融合した個体を機能させると、まず電子レンジの機能、レンジ内の見えない水素に対して電磁波のエネルギー準位が上昇します。そこに携帯電話の拡散型の電磁波が加わることによってレンジ内のあらゆる素粒子が衝突を繰り返して質量を増して、光速に近い円運動を始めます。その結果としてマイクロブラックホールが生成されるんです」

 

「……ねぇ、それって電話レンジ(仮)って名前じゃなかった?」

 

「そうです」

 

「なんだか、不思議な感覚ね。説明されていくうちに、だんだんと思い出してきたわ」

 

「僕もなんだか作ったことがあるような希ガス」

 

「ばなな?」

 

うまくいったみたいだ。正直これで思い出してくれなかったら、独力で開発するしかなかったからひやひやした。

これで岡部倫太郎を救う足掛かりは出来た。全ては再びタイムマシンから始まるのだ。

 

紅莉栖と橋田至の尽力により二日後の夜にはタイムリープマシンは完成した。デュアル機能は実装できなかったが。

俺はラボに泊まると親に連絡してもらって一緒に制作した。さすがに夜になると体に引っ張られて眠ってしまったが。

手探りで作るよりも一度作ったものだから手際がいい。紅莉栖は鈴羽のためにタイムリープマシンの完成を過去へと梯子を掛けるように何度も作った記憶も、うっすらと思い出していたのかもしれない。

 

「本当に浩二君がいくの?」

 

「はい」

 

心配そうに見つめる紅莉栖。

劇場版では紅莉栖がタイムリープして岡部倫太郎を救いに行ったが、今の紅莉栖ではそれも難しいだろう。タイムリープマシンのキーワードを言った時の反応からして鈴羽もタイムトラベルしてきていないみたいだからだ。

 

劇場版で使われた解決方法。紅莉栖が過去に行って子供の岡部倫太郎にキスをするという方法は使えないが、他に何もないわけじゃ無い。

 

まず、岡部倫太郎が消えてしまう前、厳密に言えば8月3日にタイムリープする。原作では限界が48時間と言っていたが劇場版の今は違う。電話レンジの制作から紅莉栖がかかわったせいか、限界なんて存在しないのだ。携帯電話を持っているならばどの時間でも行けるらしい。

 

そしてリーディングシュタイナーの過負荷によってR世界線移動が起こる前に強烈な記憶を植え付けてやるのだ。

 

「行ってきます」

 

「気を付けて」

 

俺はヘッドギアを被り、携帯電話のボタンに指を添え―――押した。

 

 

8月9日 21時44分

 

    ↓

 

8月3日 11時44分

 




-追記-

ミスしてた部分があったので修正しました。

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