Steins;Gate/輪廻転生のカオティック   作:ながとし

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番外編
孤独のリスタート


 カセットコンロの火をつけてお湯を沸かす。

 今日のカップ麺はチーズ味のラーメンだ。あまり食欲が沸かない。

 窓の外には、インスタント系食品の容器をこれでもかというほど詰め込んだ袋が大量に積み上げてある。

 

 熱湯を容器に注いだ後リモコンで蓋をした。

 野菜とか、肉とか新鮮な食材が恋しい。あっという間に腐りやがった。

 ソファーに座り、うーぱのぬいぐるみを抱きしめた。

 この頃、外に出ることすら億劫になって来そうだ。なにせ変化が非常に乏しい。

 

 長い間ラボ周辺に住み着いているが、鳥すら見たことがなかった。

 

 ここは多分、R世界線。まさか第二のシュタインズゲートにも存在しているとは思わなかった。

 この世界線が登場するのは劇場版だ。そのイベントがあったとして、始まるのはなんと2011年8月。いまはもうすっかりレジェンドになった気分だ。

 生物以外のすべてが幸いなことに存在していた。どういう理屈で人間がいないのに建造物があるのかはわからないが、とにかく助かったことは事実だ。

 歩きさえすれば何でも手に入ったから俺はここまで生き延びている。

 

 すっかり今の生活になじんでしまった俺だが、人がいる世界をあきらめたわけではないのだ。

 

 原作の岡部倫太郎は劇場版では、リーディングシュタイナーの過負荷状態によってこのR世界線に飛ばされた。

 過負荷状態というというのは、他の世界線の強烈な記憶に引きずられて世界線に留まれなくなる現象だと俺は考えている。

 

 つまりだ、自身の認識次第で世界線を超えることが可能だということ。そのような仮説を俺はたてたのだ。

 実際にシュタインズゲート世界線にいるのであれば俺はこんなことをしているだろうという妄想を繰り返して意図的に他世界線の記憶をデジャヴという形で思い出してR世界線から脱出しようと試みた。

 

 しかし、今こうして一人で3分待ちしていることから結果はお察しだろう。

 

 デジャヴの一つくらい起こってもいいと思うのだが何も起きはしない。たしか、劇場版で紅莉栖はデジャヴという現象を通して他世界線の記憶を思い出すという考えをしていたはずだ。

 なぜ、他世界線の記憶を、脳に記憶データをぶち込んでいないのにも関わらず、思い出せるのだろうか?

 

 俺の考えとしてはこうだ。

 

 すべての世界線の記憶は元々脳に収められている。実際に経験をすることによって、思い出し方を覚えるのではないか、と。

 脳科学関係はさっぱりなのであくまでも素人の考えだが、仮にこうすると全ての現象に大分説明がつく。

 

 この仮説が合っていれば、デジャヴを意図的に引き起こしてR世界線を脱出するという試みは僅かながらでも成果があってもいいはずだった。

 もしかしたら俺は、因果律の環から外れたのかもしれないな。この世界線以外に俺という存在が居なかったことにされているのかもしれないということだ。

 

 考えているうちにもう3分以上たっていたらしく容器の中は、ほぼチーズスープと化していた。

 

 

 白衣をなびかせ中央通りの車道ど真ん中を歩く。何日か分からなくなった頃からこうして、もしかしたら来るかもしれない岡部倫太郎を待ち続けている。

 人工の光が消えた街。

 この光景は原作のプロローグ。岡部倫太郎が初めてDメールを送った時の光景によく似ている。

 

「フゥーハハハ―――」

 

 なんとなく、岡部倫太郎の真似をしてみる。

 何度も繰り返しているからもう慣れたものだ。電源の切れた携帯に報告するまでがセットだ。

 

「―――ハハ、ハ?」

 

「瀧原……なのか?」

 

 高笑いしている最中に人が現れた。

 無精髭と無造作にかき上げた髪。ヨレヨレのシャツに白衣。イケメン。

 苦しんでいるように見えるのは―――

 

「岡部倫太郎!?」

 

 正直に言って予想外だ。

 待っていたのは確かだが、岡部倫太郎がこの世界に来ることは無い筈だった。

 リーディングシュタイナーの過負荷の原因となる強烈な記憶は大幅に削減できたはずだ。だから、過負荷状態になることは考えづらい。

 

「瀧原! 生きていたのか!」

 

 俺の手を取る岡部倫太郎。暖かい。……ん?

 お互い困惑していたようで、落ち着くのにしばらくの時間を要した。

 話を聞くと、岡部倫太郎は劇場版の通りリーディングシュタイナーの過負荷を起こしていたようだった。

 

「それで、瀧原。ここは一体どこなんだ?」

 

 もちろん、土地の事を聞いているのではなく世界線の事を聞いているのだろう。

 

「多分ですが、R世界線と呼ばれる世界線です」

 

「R世界線?」

 

「はい。岡部さんが元々いた世界のすぐそばにある世界線です。おそらくリーディングシュタイナーによってほかの世界線の強い記憶を持っていることが原因で、この世界線に移動してしまったのではないかと考えられます」

 

「お前は俺が世界線移動した時からここにいたのか?」

 

「そのとおりです。今までラボを拠点にして生活していました」

 

 俺と言う主観と岡部倫太郎の主観が限りなく近いとはいえ、別の世界線にあったというのに二人ともなぜだか記憶がある。

 基本的にはR世界線と第二のシュタインズゲート世界線は同じ世界線だと考えた方がよさそうだ。

 

 俺たちは取り敢えず、ラボへと帰った。

 

「本当に俺たちしかいないんだな」

 

 道中しきりに周りを気にしていた岡部倫太郎がそう言った。

 俺にとってはもう当たり前の景色となってしまったがために、少し違和感を覚えながらも同調するように言葉を返した。

 

 第二のシュタインズゲート世界線は紅莉栖もまゆりも平和に暮らしていたそうだ。そうでなくては困る。

 約一年ぶりの奇妙な再会にお互いの認識をすり合わせるように話を進めて行った。

 この世界線について俺が知っていることを大まかに話した後、岡部倫太郎から衝撃の言葉を聞いた。

 

「僕が子供になっていたんですか?」

 

「ああ、同じ名前で、しかもわずかながらに世界線の記憶を持ち越していたようだから、間違いないだろう」

 

 俺が子供か。R世界線脱出の実験が上手くいかない理由が分かった。

 残響と言えるその子供の姿こそがその世界線での瀧原浩二の正しい在り方なのだろう。きれいさっぱり消えてしまうと思っていたが、予想は見事に外れていたようだ。

 実験も、”今”の自分ならこうしているだろうと考えて、デジャヴを起こそうとしていたのがそもそもの間違いだったのだ。

 ”子供”の自分を想像しなければかすりもしないというわけだ。

 

 景色が歪み一瞬、母親の様な女性の姿が見えた。

 

 成功だ。何というイージーミスをかましていたのだろうか俺は。早速成功したのは驚きだが、それほど第二のシュタインズゲートが不安定だということなのだろう。

 

「どうした?」

 

 一瞬、めまいでよろめいた俺を心配してくれたようだ。

 

「……今、岡部さんが元いた世界線に多分、一瞬移動しました」

 

「何!? そんな簡単に戻れるのか!」

 

「岡部さんはこう簡単にいかないでしょう。まゆりの死を目撃したという強烈な記憶がある筈ですから、僕よりも記憶に引きずられる力が強い筈です」

 

「そうか……」

 

 ラボメンのみんなに幸せになってもらうためにあの選択をしたというのにリーディングシュタイナーの過負荷という理由で幸せを終わらせるわけにはいかない。

 劇場版のように紅莉栖が岡部倫太郎を取り戻すために奔走するはずだが、第二のシュタインズゲートは何が起こるか分からない。俺が行くしかないだろう。

 

「何をしょんぼりしているんですか岡部さん。……これよりオペレーションミズガルズを開始する。戦いのときは再び来た。再びあの栄光のもとに導いて見せようではないか!」

 

 白衣が広がるように意識しながら手を振り上げた。

 流石に厨二病歴が長い岡部倫太郎。俺がこの状態をどうにかする案があると言うことに気がついたようだ。

 

「……似合わないな」

 

「……そこは黙っていてくださいよ」

 

「そういえば、俺がこの世界線に来た時、鳳凰院凶真の真似をしていたな」

 

「ぐっ……」

 

「ヴァイラルアタッカーズから逃げてた時も素晴らしい衣装だったなぁ、瀧原よ。やはりお前も俺の同類というわけか、フゥー―ハハハハハ!!」

 

 調子を取り戻してくれたのはいいが、封印していた黒歴史をほじくり返されるとは……。

 orz状態から回復した後、俺は岡部倫太郎に当面の生活に必要な物資があるところを念のために伝えていた。

 

「水はシャワー室。カップ麺は開発室に。外に発電機も設置してありますから暇なときは映画を見てたらいいと思います」

 

「ああ、感謝する」

 

「それじゃ、行ってきます」

 

 部屋の中心辺りで目をつぶる。

 俺は出来るだけ童心を強く思い出しながらデジャヴ、もしくはリーディングシュタイナーの不快感を感じた。

 

 




遅くなって申し訳ございません。

番外編始めました。

これからは遅くても週一の不定期更新とさせていただきます。


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