Steins;Gate/輪廻転生のカオティック   作:ながとし

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幻影のコンプレックス

 秋葉原前駅広場に背を向けてバイクを運転していた。

 だが、俺はペーパーライダーだ。正直言ってまともに運転できる気がしない。

 それならなぜ乗ったと思うだろう。でもこれぐらいがいいのだ。岡部倫太郎とフェイリスにかかる追っ手を分散させるには下手なくらいでいい。

 

 タイムズタワーがある交差点で左に曲がり、中央通りに出た所で南へと走る。

 ちらほらとヴァイラルフリークスたちと思われる黒い影が大体一定間隔ごとに見えた。ほんとにヴァイラル組織の規模はどうなってんだと思いながらも運転に集中する。もしかしたらラウンダー並みに秋葉原に散らばっているのかもしれない。

 時間を考えながらスピードを調節する。全く違う方向にもバイクを走らせてさらにかく乱を計った。

 

 万世橋に差し掛かる前に、右へ曲がりこの世界線ではラーメン屋さんになっているメイクイーン+ニャン2の前を通過するようにもう一度曲がった。

 まだ岡部倫太郎はとフェイリスが来るには早すぎた様だ。再び中央通りに向かい同じようなルートを選択しバイクを走らせた。

 気のせいか奇妙なものを見る目でいろんなところから見られている気がする。

 

 爆竹の様な音がした後、メイクイーンからラボの方に向かう岡部倫太郎とフェイリスを発見した。

 おそらく、紅莉栖からの助言で粉塵爆発でも起こしたのだろう。

 

 俺は回り込むように蔵前橋通りから、ラボに向けて走る。2人は完全に囲まれているようだ。更にバイクを加速させた。

 蜘蛛の子を散らすように歩いていた人達が横にそれる。

 

「くっ、ぐぁあああっ、右腕がっ暴走しているっ! お前たち早く逃げろっ、秋葉原が血の海と化すぞ……」

 

「俺様、黒き貴公子4℃様が黒と言ったならそれは黒なんだよ……ってコイツ大丈夫なのか?」

 

「4℃騙されんな! そいつは典型的な厨二病だ!」

 

 反社会的なDQN系の厨二病と、特別な力に憧れる邪気眼系の厨二病の妄想バトルなんて傍から見れば面白いことをしている。

 

「暴走バイクがとおりますよーっと!」

 

 そう叫びながら岡部倫太郎とフェイリスの間に割り込み、ヴァイラル達を蹴散らすために目の前で急停止してやろうと思った。

 ブレーキを掛けた途端にゴッという衝撃と共に前につんのめりそうになる。

 咄嗟にバイクを横に寝かせるようにしたら、物凄い勢いで前輪を軸に後輪が前へと出た。砂煙が辺りに漂う。

 怖えぇ!!

 結果的にヴァイラル達を怯ませられたからよかったが一歩間違えれば大事故だ。

 まだ、助けが来る気配はない。時間稼ぎをしなければ……。2人ともバイクに乗せて逃げようとも考えたが一人でも大変だったのに3人乗りとなると間違いなく事故る。

 

「フッ、黒き予言者、再び見参。お前たちは俺の前からは逃れられない」

 

 心の中で逃げてたのは自分だろとセルフでツッコミを入れる。

 

「テメェ、よくもさっきはこの黒い孔雀、4℃様の黒点を大勢の前で暴いてくれたな……」

 

 どうやらさっきのようにポカンとはしてくれないらしい。空き缶を持っている奴を確認した。

 岡部倫太郎は再びフェイリスを守りに入ったようだ。

 2人とも心配そうな目で俺を見るが出来るだけ気にしていないように演技をつづけた。

 

「それが、貴様の大切な秘密だったのかよんどしー?」

 

「テメェ舐めてんのか!」

 

 その言葉と共に投げられると分かっていた空き缶を掴む。ヴァイラル達にざわめきが起きた。

 

「殴りかかってきてもらっても構わないが、俺は全てを見通している。返り討ちにあうのは覚悟してもらおう」

 

 ハッタリだ。空き缶が投げられてくるという所までしか俺はヴァイラル達の行動は予測できない。

 しかし、こいつらも立派な厨二病患者の一員だ。それらしく思わせてやれば”ホントにそうなのかもしれない”と思って躊躇してくれる。

 僅かな間にらみ合い。この時間が俺たちの勝敗を分けた。

 

 エンジン音が響く。バカでかい車が狭い道を走って来る。クラクションが連打されている。

 さっきの俺のバイク暴走とは比にならないくらいの迫力に野次馬たちも悲鳴を上げて逃げ出した。

 急ブレーキにゴムが焼けるような匂いがした。

 

「乗りなさい」

 

 後部座席から身を乗り出したのはフェイリスのパパさんだ。

 すぐさま岡部倫太郎とフェイリスは乗り込む。俺も乗ろうとしたらフェイリスパパさんから物凄い眼で睨まれた。

 ドアを閉めようとするのを見てフェイリスがパパさんの勘違いを指摘した。

 

「待って、パパ。この人もフェイリスたちを助けてくれたのニャン」

 

 疑う様に俺を見たパパさんが素早いながらも渋々と開けたドアに俺は乗り込んだ。

 

「クソッ、待ちやがれ!」

 

 叫ぶ声を置き去りにして車は急発進した。

 

 

 車に乗ったはいいが、岡部倫太郎は緊張が切れたのか横になる。俺が来る前に何発かパンチを食らっていたようだ。

 そんな岡部倫太郎をフェイリスは膝枕していた。

 

 俺はもちろん入ってすぐにカツラとカラーコンタクトは外した。そのとたんに、君だったのか! と言われてしまい苦笑いした。

 フェイリスパパさんの話によると原作通り、雷ネットABグラチャンに優勝したフェイリスを祝おうと車で移動している最中にヴァイラル達ともめているのを目撃したそうだ。

 

「君達にはお礼を言わなければいけないね。岡部君、瀧原君、本当にありがとう」

 

 謙遜する岡部倫太郎だったが、パパさんは本当にありがとうと言って俺たちの手を取った。

 

 本当は岡部倫太郎一人でここは切り抜けられたのにその功績をかすめ取ったみたいで俺は何とも微妙な気分だった。

 

 その日の夜はパパさんの好意であの高層タワーマンションに泊めてもらうことになった。

 食事中、IBN5100について岡部倫太郎が聞くが、やはりフェイリスのDメールによる嘘の誘拐事件の身代金、一億円のためにフランスの実業家に売り払ったのだという。

 売った相手とは連絡が取れるらしいが、SERNに繋がっている可能性が高い。そんな危険は取るべきではないと判断したのだろう。丁寧にお断りをしていた。

 

 いつもの偉そうな口調が抜けちゃんとした敬語が使えているように思える。何故その口調を電話口でできないのだろうか。そうすれば原作でフェイリスのDメールを送る際に紅莉栖に電話を即切られることもなかっただろうに。

 

 その後、俺たちは部屋に案内された。フェイリスパパさんの隣の部屋で、この家でもかなりいい部屋だと言うことがそれだけでも分かる。

 着替えも用意してもらって俺は無事にあのへんてこな衣装を脱ぐことができた。

 

 岡部倫太郎がこれでよかったのかと聞いてきた。おそらく紅莉栖とまゆりが生存できる世界線に行くためにはという意味だろう。俺が考える限り完璧に近い。

 

「何も問題ありませんよ。あとは世界を変えるだけです。紅莉栖とまゆりちゃんが死なない世界へ」

 

「世界を変えるって、Dメールか? 更に変えてしまったらまゆりが死ぬのが早まるだけじゃないのか?」

 

「いいえ、鈴羽は1%の向こう側の世界線を目指していましたが、僕たちはその逆を行くんです」

 

「逆だと?」

 

「ダイバージェンス0%の向こう側。鈴羽が来た世界線から相対的にマイナスの世界線。ほとんど未知のアトラクタフィールド」

 

「そこに行けば紅莉栖とまゆりが助かるんだな?」

 

「少なくとも8月14日のデッドラインは越すことは確認しています。でも、その世界線では未来ガジェット研究所が作られず、ほとんどの人間関係が無かったことになります」

 

「ほとんどって、どれくらいなんだ」

 

「フェイリスさん以外の交友関係がなくなります」

 

「…………」

 

 つまり、岡部倫太郎が鳳凰院凶真として生きてきた理由がなくなるも同じ。自分だけが相手との思い出を覚えているが、相手からすると自分は見知らぬ人。

 椎名まゆりが原作で岡部倫太郎とタイムリープマシンの部品を買いに行った時に交わした言葉。

 

「まゆしぃがね、タイムリープマシンを使ってもしも今日友だちと遊びに行くことにしたらどうなっちゃうの?」

 

「それは……今ここにいる事実がなかったことになり、俺は一人で買い物をしていることになるな」

 

「まゆしぃはこの事を覚えてるんだよね」

 

「ああ」

 

「それじゃあ寂しいね」

 

「俺がか?」

 

「ううん。まゆしぃがだよ」

 

 原作のテキストを読んでいるときは正直よく意味が分からなかった。でも今ならよくわかる。たった数日間ラボメンとして過ごした自分でさえ寂しいと思うのだ。長い間椎名まゆりと過ごした思い出を持っている岡部倫太郎からしたら、それは今まで生きてきた人生が半分無かったことにされるも同じで寂しいどころではないだろう。

 

 岡部倫太郎は間違いなく二人の命を優先するだろう。それが分かっていてそんなことを突きつけている自分が嫌いになりそうだ。

 

「どんな内容を送ればいいんだ?」

 

「……フェイリスさんが送ったDメールに関連させてIBN5100を売らないように誘導させるんだ」

 

「具体的には?」

 

「分からない」

 

「分からないだと!? ここまでやってきてそれはないだろう!」

 

「本当に分からないんだ! でもその世界線に突入する前準備として状況は出来るだけ再現したんですよ……」

 

 岡部倫太郎が傷つくのを見逃すことはできなかったがそれ以外は出来るだけ再現したんだ。

 

「明日、フェイリスさんと、どんなメールを送るか相談してください。基本的な考えとしてIBN5100が僕たちの手元に来るような文面を考えたらいいです」

 

「…………」

 

 部屋のドアがノックされフェイリス、いや、今は秋葉留未穂の、入っていい? という声が聞こえてきた。

 俺は入って来た秋葉留未穂と入れ替わるように部屋を出た。俺に感謝の言葉を言われる筋合いはない。むしろ罵られるべきことをやって来た。秋葉留未穂が呼び止めてくるが、全部岡部さんに言ってあげてくださいと言ってリビングの方で夜景を見ながら俺はソファーにもたれた。気付いた時にはもう寝ていたのだろう。

 

 8月14日の朝。俺は起きるなり執事の黒木さんに挨拶をしてラボへと戻った。流石にもうヴァイラル達は周りを囲んではいなかったようですんなりと帰れた。

 

 数時間後、紅莉栖に電話がかかってきた。岡部倫太郎が実験をすると言っているらしい。間違いなくフェイリスルートへと導いてくれるDメールだろう。

 

「岡部、準備できたわよ」

 

 電話レンジの放電現象が部屋を青白く染めた。

 

 今まで以上の衝撃と痛みが大幅な世界線移動を予感させた。




-追記-

最後の部分を少し削除しました。

誤字報告ありがとうございます。

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