Steins;Gate/輪廻転生のカオティック   作:ながとし

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漆黒のフォール

 これが、強制的に記憶を思い出す苦痛なのだろうかとプスプスと脳を刺す痛みに思わず声を上げる。

 俺にとって初めてのタイムリープとなるため不安があった。

 岡部倫太郎は慣れているのか携帯で時刻の確認をしている。どうやら成功したようだ。

 

 俺たちは揃ってラボにいた。何もおかしいことは無い。まだ俺はタイムリープマシンの制作途中のはずだからだ。

 岡部倫太郎の話によると、牧瀬紅莉栖と鈴羽がタイムリープして大雨の日に届くようにタイムリープマシンの完成を早めたそうだが、世界線移動の際になかったことにされたらしい。現に隣の開発室で牧瀬紅莉栖が作業を続けている。

 ラボにいる人にバレないように小声で岡部倫太郎に用件を伝える。

 

「いいですか? これから岡部さんにはフェイリスさんのメールの内容を打ち消そうとしてもらいます」

 

「フェイリスのメールをか?」

 

「はい。内容は岡部さんが自分で探って下さい。でも動き出すのは14時くらいになってからでお願いします」

 

「何故だ?」

 

「僕の知識ではそのように岡部さんに動いてもらうのが、椎名まゆりと牧瀬紅莉栖が助かる可能性の高い世界線に移動しやすいからです」

 

 俺はそういうと牧瀬紅莉栖の作業に参加した。

 わざわざこの時間に跳んだわけは主にタイムリープマシン及び電話レンジの構造についてもっと詳しく知るためだ。前回の制作だけではまだわからないところがあったのだ。なんて言ったってこれはタイムマシンだ。自分の知的好奇心を満たすにはこれ以上のものがないだろう。

 無言で手を動かす。前回やった部分の制作はお手の物だ。

 

 時間は刻々と過ぎて行き、再び俺は仕上げの二本のコネクタをつないだ。完成だ。

 談話室に戻るともう岡部倫太郎の姿はなかった。居るのは椎名まゆりと牧瀬紅莉栖と俺だ。橋田至はいない。

 

 今頃岡部倫太郎はフェイリスの家に向かった後追い返されてUPXの方に歩いているころだろうか。どう転ぼうともフェイリスのストーカーに近い橋田至に連絡を取るのは間違いないから何も問題はないだろう。

 橋田至のパソコン前の椅子に座って一息つく。

 

「ねーねー、コウ君。ちょっとこのコスをびろーんってひろげてみて欲しいんだー」

 

「これでいいですか?」

 

 襟の部分と右の方をつかんで広げた。

 椎名まゆりは広がったコスプレを見て唸っている。時折自分の手のひらを物差しのようにかざしている。芸術家の様だ。

 そう言えば原作で椎名まゆりが作るコスはレイヤーに人気があると言われていたな。確かに近くから見ても安っぽさはなくクオリティーも高いように見える。

 

「うん。できたーコウ君ありがとー」

 

「私の勝ちね、まゆり」

 

 そう言えば競争をしていたのだった。それに徹夜も。

 持っていたコスを椎名まゆりに返した後、再び椅子に座った。

 

「そう言えば、瀧原は私たちの事を知っているらしいけど、私たちはあんまり知らないのよね。不公平だわ」

 

「まゆしぃもコウ君のこと興味があるなー」

 

 2人は俺が何か話すまで目を離す気は無い様だ。何を話そうか。

 

「別につまらない話になりますがいいですか?」

 

「うん。いいよー」

 

「では、小さいときの頃の事でも話しましょうか。信じられないかもしれませんがこれでも僕は問題児だったんですよ。無駄な知識を大量に持ってましたから」

 

「無駄な知識って、未来の記憶も含めてってこと?」

 

「はい、その通りです」

 

「えー、それじゃ強くてニューゲームだねー」

 

「ホントにそんなかんじだったんですけどね。知識はあっても使う頭がなかったですからどれだけ頑張っても周りの人たちと対立して、結局は親が呼ばれてというのを繰り返していました。そのころはこんな風に丁寧な話し方じゃなくて、自分の事は俺って言ってたんですよ。それで、結局友だちもできなかったんですけどね」

 

 図書館に通っていた日々を思い出す。高校、大学に入っても結局小さいときの時を思い出してクラスメイトとかと仲良くできなかったんだよな。

 そのおかげで今、椎名まゆりと牧瀬紅莉栖と話せているわけだが。

 

「でもでもー。もうまゆしぃ達が友だちだから問題ないよねー」

 

 きっと言ってくれるだろうと分かっていたが、やはり直接言われると嬉しいものだ。

 

「コウ君もまゆしぃのことは椎名さんじゃなくてもっと気楽に呼んでほしいのです」

 

「私も牧瀬さんじゃなくて紅莉栖でいいわよ」

 

 ほんとにいい人たちだ。何としてでも救わないといけないと思う気持ちが強くなる。

 

「それじゃ、早速。まゆりちゃん、クリスティーナ、今後ともよろしく」

 

「ちょっと、瀧原まで岡部みたいに呼ばないでよ! 結構はずかしいんだからな! それ……」

 

「ははは、冗談ですよ。紅莉栖」

 

「まゆしぃだけちゃん付けなのが納得いかないなー。なんだか子供みたいだよー」

 

「子供みたいに可愛いからですよ」

 

 これは口説いているわけではない。前世を含めるともう年寄りもいいところだ。だからその規格外の立派なものには断じて興味はないのだ。と自分に言い聞かせるが、どうも顔が赤くなっているような気がする。ニコニコしている椎名まゆりと牧瀬紅莉栖。いや、まゆりと紅莉栖にもう話は終わりだと告げてパソコンをいじる。

 

 温かい目で見られている気がするが、何とか振り切った。岡部倫太郎が帰って来たらすぐにタイムリープマシンを使ったのは言うまでもない。

 でも、やらなければならないこととはいえ、この思い出もなかったことにされるのは寂しい気がした。

 

 

 8月13日 17時32分

 

     ↓

 

 8月13日 10時32分 

 

 

 タイムリープが成功した後、俺は岡部倫太郎にやるべきことの確認を取った。フェイリスを雷ネットの決勝戦に勝たせるためにサングラスと耳栓を買っていってフェイリスに渡すのだと岡部倫太郎はしっかりと理解しているようだ。

 

 すぐに出かけた岡部倫太郎を見送ったあと俺は紅莉栖とタイムリープマシンの制作作業を急いだ。

 

 そして再び俺は二つのコネクタを電話レンジを制御するパソコンにつなげ、タイムリープマシンは完成した。

 時間は午後二時。俺はある準備をするために買い物に走った。

 

 今頃、岡部倫太郎はヴァイラルアタッカーズとフェイリスの試合を見ているのかもしれないな。そんなことを思いながら試着を繰り返し強要された。

 

 それから、買い物と借り物を終えた俺はできるだけ急いで、午後四時ごろフェイリスと岡部倫太郎が4℃率いるDQN軍団に絡まれる陸橋まで来ると俺は機を伺った。

 

 岡部倫太郎がフェイリスに事情を説明しているようだ。未来のフェイリスがヴァイラルアタッカーズに卑怯な行為をされ一度負けたこと。そのフェイリスが雷ネットの決勝で勝てればDメールの内容を思い出せると言っていたらしいのだが、事情を聞いたフェイリスによるとそれはやはり嘘だったらしい。

 

 原作を思い出してみると、それは見事な色仕掛けだったな……。あれじゃ4℃にシャム猫を気取ったメスと言われても否定できないような気がしたが気にしないことにした。

 

 それからしばらくじっと見つめ合っている岡部倫太郎とフェイリスを囲むように”黒い集団”が集まりだしていた。俺もそれに混ざるように岡部倫太郎とフェイリスに近づいて行く。

 最後に現れたのは4℃だった。

 

「チャンピオンに言わなきゃならねぇ事がある。そう、ガイアが俺に物言いをしろとささやくのさ。この雌猫がよぉ、相手の心を読むなんてイカサマをしてやがるってことおよぉ」

 

「フェイリスはそんな卑怯な手は使わないニャン」

 

「イカサマなんてしてるはずがないだろう! 卑怯な手を使って妨害していたのは貴様らの方ではないか!」

 

「なんだと、テメェ。この黒の絶対零度こと4℃様は黒き神に誓ってイカサマなんかしねぇ! ……それ以外にどんな方法を取るかはしらねえがなぁ」

 

 ニヤリと笑った4℃は続けるように言葉を発した。

 

「それに、知ってるんだぜ。テメェの父親はこの秋葉原で幅を利かせている権力者ってことをなぁ! 大方そのコネを使って雷ネットABグラチャンのスタッフに自分が勝てるように圧力をかけてるんだろう?」

 

 その言葉に雷ネットABグラチャンから帰ろうとしていた観客たちの野次馬がざわめきを見せた。

 さらにヴァイラルフリークスたちは集まってきた観客を煽るように適当なことを大声で吹かす。

 

「やっぱり出来過ぎだと思ってたんだよなぁ、やっぱりやらせだったか」

 

「全く最悪だぜ、あの猫女」

 

 ここで俺もヴァイラルフリークスに成りすましてあることを大声で言ってみようか。

 

「ところで、知ってるか? 4℃様の頭にある10円ハゲって就職が上手くいかない事を親にしつこく怒られたからなったらしいぜ」

 

「マジかよ、知らなかったぜ」

 

「いっつも4℃様が黒点って言ってたけど、あれってどう見ても白点だよなぁ……」

 

「てか、テメェ誰だよ!」

 

 あまりにノリがいいヴァイラルフリークスに感動を覚えながら俺は輪の中心に出た。

 俺は、抑圧されていた時期が多いから、変身願望が元々あったんだ。それにいつもの口調だと舐められるだろうからここはインパクトで勝負だ。だから、ご了承ください。

 

「俺は、この世界に舞い降りた黒き予言者、フォール様だ!」

 

 時が止まった。

 黒い革ジャンにピッチピチの黒いパンツ。体のいたるところにシルバーアクセサリーを付け、歩みを進めるごとにジャラジャラと鳴る。

 髪はカツラにより真っ白で目には赤いカラーコンタクトがはめられている。

 しまいには化粧まで……。

 店員さんに”ガイアが俺にささやいてる感じで”ってお任せした結果がこれだった。簡単なのでよかったのに本気を出されてしまって、気づけば時間も迫っていたからしょうがなくこのまま来たというわけだ。ほんとに恐ろしい街だ。

 某魔神のように手を斜めに振り下ろす。

 

「お、お前、瀧原なのか?」

 

「ちょっと似合ってるのがウザイニャン」

 

「僕の事はいいですから早く逃げてください」

 

 未だに戸惑ったままのヴァイラルフリークスたちの横をすり抜け岡部倫太郎とフェイリスが逃げ出す。俺もそのあとに続くように逃げ出した。

 

 ようやく4℃の声で再起動を果たしたヴァイラルフリークスたちが俺たちを追いかけ始めた。

 

「いいですか! 困ったらメイクイーン+ニャン2に行ってください!」

 

「分かった!」

 

 それだけ岡部倫太郎に言うと、俺は下に止めておいた借りバイクで走り出した。

 




-追記-

少し不自然な所があったので編集しました。

誤字報告ありがとうございます。

メイクイーン+ニャンの後に二乗の2を付けていたのですが表示されない場合があるらしく、普通の2に代えさせてもらいました。

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