家庭教師ヒットマンREBORN! ~光と闇の奇跡~   作:R0

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帰還

「ここがロヴィーノ教団……………(昔、パパがいたっていう…………)」

 

明聖がロヴィーノ教団の本部の前に立って驚いていた。今まで、争い事に無縁だった明聖にとって、ある意味、新鮮な場所だった。………もちろん、悪い意味で。

 

「…………まさかここに戻ってくる日が来るなんてな」

 

明聖の隣にいた輝夜が同じようにロヴィーノ教団の本部の前に立って、懐かしそうに、だが憂鬱そうに呟いた。

 

「………………」

 

そんな輝夜を明聖はじっと見つめていた。

 

「どうしたんだ、明聖?俺の顔に何かついているのか?」

 

それに気づいた輝夜が明聖にそう尋ねた。

 

「…………ううん。パパ、髪切ったんだって、思って」

 

それに対して、明聖はごまかすように言った。しかし、実際、後ろに束ねることができるほど長かった髪がバッサリと切られていた。今の輝夜の髪型は8年前の時のと同じものだった。明聖が物心ついた頃から輝夜の髪は長かったので、明聖にとって、新鮮な感じだった。……ちなみに、今回はいい意味で。

 

「あぁ、まぁな。もともと、変装のために伸ばしていただけだし、正体を隠す必要がないなら、ただ邪魔なだけだからな」

 

「そうなんだ…………」

 

髪を弄りながら、そう言う輝夜に明聖は別のことを考えながら、そう言った。

 

(…………やっぱり、いつものパパに見えるけど、何かが違う。どうすれば、元のパパに戻るの…………?)

 

明聖は不安そうに、そう考えた。しかも、明聖の不安要素は輝夜の豹変だけではなかった。

 

(パパって、私を守るために、ここを勝手に辞めたんだよね。ひどいこと、されないかな……………)

 

明聖のもう一つの不安要素は自分と輝夜が何かされないかだった。明聖にとって、革命軍は怖いイメージがあった。一応、自分は輝夜から聞いた話だと自分の身の安全は保証されているみたいだけど、安心はできず、しかも輝夜のことについては何も言っていなかった。だから、明聖は心配だった。

 

「待っていたわよ、ダークネス」

 

「!?」

 

明聖が考え事していると誰かから声をかけられた。それに明聖は驚いて、声がしたほうを向くとそこにはリリアーナがいた。

 

「…お久しぶりですね。リリアーナさん」

 

「まったくね…………。あなたが無断でここを抜けたから、ロヴィーノ教団は大パニックよ。結果的に問題はなかったから良かったけどね………」

 

「……………それはすみませんでした」

 

リリアーナの小言に一応の謝罪はするが、輝夜は後悔も()()もしていないことをリリアーナは察した。

 

(貴族たちの憎しみが残っているとはいえ、今のあなたにとって、ロヴィーノ教団は()()()()()()()()()()ってなったわけね。ロヴィーノの話だと、この子を傷つけたら、あなたは容赦なくここを潰すって話だったわね。それほど、この子は大切な存在ってことかしら?)

 

リリアーナは輝夜の後ろに隠れている明聖を見て、そう感じた。

 

「……………………」

 

そして、明聖のほうもリリアーナをじっと見ていた。というよりも少し睨んでいた。

 

「?………どうしたのかな、君?」

 

それに気づいたリリアーナは明聖に声をかけた。それを聞いて、明聖は答えた。

 

「………お姉さん………パパと仲いいけど………もしかして、パパの恋人?」

 

「え?」

 

明聖の言葉にリリアーナは一瞬、理解できなかったが、すぐに理解して、否定しようとしたが…………

 

「いや、それはない」

 

輝夜が顔色1つ変えずに即答した。

 

「あ、そうなんだ」

 

それを聞いた明聖は安心したように息をついたが………

 

「………ダークネス………今の答え方は……少し傷つくわよ………」

 

輝夜の答え方のせいで乙女心にダメージを受けたリリアーナが輝夜を睨みながら言った。

 

「はぁ………。それならば、どう答えればよかったのですか?」

 

それに対して、輝夜は困ったように訊いた。

 

「そうね………。例えば、もう少し慌てたりしたらとか………」

 

「そんなことしたら、逆に誤解される可能性があります。そうなるぐらいなら、きっぱりと否定したほうがいいと思います。そのほうが()()()()()()()とかに迷惑が関わらないのですから」

 

「それもそうね…………って、なんで私が結婚していること知っているの!?私が結婚したのはあなたが抜けている間のことよ!(それと、あれで一応、気遣っていたのね………)」

 

「お姉さん、結婚していたんだ!でも、どうしてわかったの?」

 

輝夜の言葉にリリアーナと明聖が驚き訊ねた。それに対して、輝夜は説明を始めた。

 

「別にたいした理由ではありませんよ。あなたの左手の薬指にリングの跡が残っています」

 

輝夜に言われて、2人はリリアーナの左手の薬指を見てみると確かに薄くだが、細い跡がいくつも残っていた。

 

「それにより、跡が残るぐらいリングを着けていたことが証明されます。しかし、死ぬ気の炎を灯すリングにしては細い。だから、そのリングである可能性はない。そう考えると残りは…………まぁ、もともとその指に着けるリングといえば結婚指輪なんですがね」

 

輝夜の説明に2人は驚いたが、何となくムキになってリリアーナが訊ねた。

 

「私が離婚したという可能性は考えなかったのかしら?」

 

「…………自分で何言っているんですか?………まぁ、その可能性はありませんね」

 

リリアーナの言葉に呆れながらも輝夜は説明した。

 

「いくつも跡が残っているということは、何度も取り外しをしたということです。あなたは公私混同する人ではありませんし、仕事の際は外しているんじゃないのですか?そして、そのリングはあなたの服の首元からはみ出ているチェーンに通して、服の中に入れているんじゃないのですか?」

 

輝夜の説明にリリアーナは首元に手を当てて、明聖はそれを見た。確かに服の首元からチェーンがはみ出ていた。

 

「ハァ………。あなたの言う通りよ。私には主人と子供が1人いるわ」

 

リリアーナは観念したかのように息をつくと、チェーンを手繰り寄せて、チェーンに通してあったシンプルな結婚指輪を2人に見せた。

 

「相変わらずの観察眼ね。あの僅かな時間でそこまで見ていたとはね」

 

「ありがとうございます。………しかし、そろそろ中に入りませんか?」

 

輝夜は礼を言うと、リリアーナにそう言った。

 

「……それもそうね。それじゃあ、2人共、私についてきて」

 

「は、はい!」

 

「わかりました」

 

そんな感じで3人はロヴィーノ教団本部の中に入った。

 

 

 

 

中に入った後、3人はそれぞれの目的地に向かって歩いていた。そして、3人は雑談していた。

 

「一般人の平民と結婚したのですか?」

 

「えぇ、そうよ。休日に町に出たら会ってね。私のことを全て知っても、受け入れてくれてね。そこに惹かれて結婚したのよ」

 

「へぇ、そうなんですか~~!おめでとうございます!」

 

「ふふっ♪ありがとうね♪」

 

明聖に祝いの言葉を言われて、リリアーナは嬉しそうにお礼を言った。

 

「しかし、大丈夫なんですか?あなたは《大罪の7人(ペッカート・セッテ)》の専属秘書ですよ。そんな重要な人物のご主人とお子さんが人質に取られるなんてことがあったら………」

 

輝夜はリリアーナのことを心配してそう言った。

 

「それなら大丈夫よ。そこら辺の情報は規制されるし、ここの団員の家族は皆、保護対象に入るようになるのよ。だから、貴族たちに狙われるってことはないのよ」

 

それに対して、リリアーナは説明した。

 

「へぇ………。俺がいない間にそんなのができていたのですか」

 

それを聞いて、輝夜が感心したように言った。

 

「……………」

 

輝夜の言葉を聞いて、リリアーナは顔を暗くした。そして、2人に言った。

 

「………というのも、同じ悲劇を繰り返さないためなのよ」

 

「え!?同じ悲劇って………誰か犠牲になったのですか!?」

 

「え、えぇ………」

 

明聖の言葉にリリアーナは罰が悪そうな顔して、そう言った。

 

(…………まさか)

 

それを見て、輝夜は何かを察した。

 

「リリアーナさん?その人たちが言っていた人たちですか?」

 

すると、幸か不幸か、3人に若い女性団員が声をかけてきた。その女性団員に呼ばれたリリアーナはすぐに答えた。

 

「え、えぇ、そうよ。悪いけど、あなた、この子を大広間に連れていってくれないかしら?私は彼を団長たちのところに連れていくから」

 

「え!?」

 

急に、言われた明聖は驚いた。

 

「はい。それは構いませんが彼、もともと、ここの団員ですよね?案内の必要があるのですか?」

 

「ここから、逃げないようにという監視の意味もあるのよ」

 

「そうですか。わかりました」

 

「………………」

 

2人の話に輝夜は黙って聞いていた。

 

「ちょ、ちょっと、待ってください!」

 

それに対して、明聖は叫んだ。

 

「パパとどうして、別々なのですか!?一緒だとダメなのですか!?」

 

明聖は今の輝夜と離れることに不安があった。だから、別々になるのに抵抗したのだ。

 

「明聖」

 

すると、輝夜が明聖の頭を撫でながら、声をかけた。

 

「大丈夫だから。俺もお前も別に何かされるってことは無いからな」

 

「パパ…………」

 

「だから、少し待っててくれないか?」

 

「……………うん」

 

輝夜に言われて、明聖は渋々と頷いた。

 

「それじゃあ、行こっか」

 

「……はい」

 

そして、明聖は女性団員と大広間に向かった。

 

「………………それで?」

 

2人きりになったところで輝夜が切り出した。

 

「それでとは?」

 

「監視………というのも嘘ではないと思いますが、俺に何か話があったのではないのですか?」

 

「!?」

 

「そして、それは、さっき言っていた『悲劇』っていうのは俺と明聖に関係あるものですよね?」

 

「ッ!!?」

 

輝夜の話にリリアーナは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「…………そうよ。光城聖輝と光城明夜。あなたたちの関係者である2人が貴族たちに襲撃を受けたことで亡くなった………。それ以来、関係者を保護対象にするというものが生まれたのよ」

 

「……………」

 

「失念だったわね………。関係者が狙われることを微塵も考えていなかったんだから…………」

 

「……………仕方ありませんよ。俺も予想していなかったんですから」

 

輝夜は当時のことを思い出して、顔を歪めた。

 

「…………ダークネス。謝りたいことがあるのよ………」

 

すると、リリアーナはそう言った。

 

「なんですか?対策を練っていなかったことはもういいですと………」

 

「そっちじゃないわ。………エレオノーラって、覚えてる?」

 

「!?」

 

輝夜の言葉を遮って、言ったリリアーナの言葉に輝夜は思い出した。自分を引き抜こうとしてエレオノーラが勧誘してきたこと、それが嘘だったこと、それのせいで聖輝と明夜が死んだこと、それがきっかけで《死体の大地事件》が起きて二大国が滅んだこと。

 

「………………思い出したくも聞きたくもない名前ですね」

 

「そう…………」

 

輝夜の言葉にリリアーナは覚えていると感じた。

 

「それで、なんで、そいつの名前が出てきたのですか?」

 

そして、輝夜はリリアーナにそのことを訊いた。

 

「……………実は…………エレオノーラは………私の妹なの」

 

「!?」

 

「私はここに入る前は、アルミダ帝国の令嬢だったの………」

 

「………………」

 

リリアーナの話に輝夜は黙って聞いていた。それが逆にリリアーナに恐怖を煽っていた。《人類至上サイキョウ(最強・最恐・最凶)の人間》と呼ばれるようになった男の怒りがどんなものなのかリリアーナには想像ができなかった。しかし、リリアーナは謝るしかなかった。たとえそれが、自分の身に危険が及ぶことになっても……。

 

「私の妹と父が、あなたたちに酷いことをして、ごめんなさい………」

 

「!?」

 

リリアーナの行動に輝夜は驚いた。リリアーナは床に膝と手をつけて、頭を下げた。つまり、リリアーナは前にロヴィーノや《大罪の7人(ペッカート・セッテ)》に言った通り、輝夜に土下座したのだった。幸い、周りに人はいないし、近づいてくる気配もなかったが、輝夜は一瞬、戸惑った。だが、すぐに冷静になって、リリアーナに声をかけた。

 

「……………顔を上げてください」

 

「…………………」

 

輝夜に言われて、リリアーナはゆっくりと顔を上げた。

 

「別にあなたが謝る必要はないじゃないですか」

 

「!?」

 

顔を上げた途端に輝夜に言われた言葉にリリアーナは驚いた。てっきり、罵詈雑言を浴びせられるか殴られるかと思ったからだ。その驚いた表情に輝夜は呆れた表情を見せながら言った。

 

「……………なんですか?まさか、あなたがあのエレオノーラの姉だからという()()()()()()()であなたを軽蔑すると思ったのですか?」

 

「くだらない……って……………」

 

「くだらないですよ。あなたが元アルミダ帝国の令嬢だからなんですか?別にあんたがあの人たちを殺したわけじゃないんだろ?それとも、あんたはあの一件に関わっているのか?」

 

「か、関わっていないけど…………」

 

「それなら、別にいいじゃないですか。俺はあの一件に無関係の者に手を出す気はありません」

 

「………………あなたは貴族が憎くないの?」

 

とりあえず、自分に何もする気は無いとわかったリリアーナは立ち上がって、訊いてみた。その理由は今の輝夜の発言がまるで、貴族たちをどうとも思ってないみたいな感じだったからだ。

 

「は?もちろん、憎んでいるに決まっているじゃないですか」

 

「!?」

 

「あぁ…………でも、正確には貴族を憎んでい()ですかね」

 

「憎んでいた………?」

 

「えぇ。昔、ルシフェルが言っていたんです。『憎しみが強さの理由』だとね。俺は別にそのことに関しては否定する気はありません。8年前のあれもそれが理由ですからね。だけど、グレム帝国とアルミダ帝国を滅ぼしたことで憎しみをぶつける相手はいなくなったんです」

 

「…………まぁ、それは当然かもね」

 

輝夜の言葉にリリアーナは同意するかのように呟いた。そして、そのまま輝夜は話を続けた。

 

「あいつらなら、その憎しみを体に覚えさせたまま、戦うことができるでしょう。豪とかがその例です。あいつはとっくに自分の親を殺した貴族を壊滅させています。それにもかかわらず、あいつは新たな《雷の大罪》になろうとしています。それに比べて俺は気分屋なのでそういうことができないのです」

 

「でも、あなたは今では《人類至上サイキョウ(最強・最恐・最凶)の人間》と呼ばれているわ」

 

「……………別に俺はそんな肩書きを名乗ったことはないのですが……………まぁ、いいか。それよりもここで話、変わりますが俺はくだらない差別はしないんですよ」

 

「差別をしない?」

 

「えぇ。年齢も性別も種族も身分…………は貴族が嫌いなので微妙なところですが一応、向こうから何もしなかったら、俺は何もしません。敢えて差別すると言うなら、敵か味方かそのどちらでも無いかですね」

 

「ずいぶんとわかりやすい差別ね」

 

「そうですね。でも、だからこそ俺は敵には容赦なく叩き潰すだけですよ」

 

(………………単純に見えるけど、複雑に考えてみたらとんでもないこと言っているわね。しかも、それを自覚しているみたいだから質が悪いわ。彼を敵に回すことだけは絶対に避けた方がいいわね。初めて会ったときは《闇》だって思ったけど、もう彼はそんな生温いものじゃないわ)

 

そう言った輝夜にリリアーナは少しの畏怖を感じながら、そう思った。

 

「ふぅ………。そう。なら、そろそろ、団長たちのところに向かいましょうか」

 

「それもそうですね」

 

リリアーナに言われて、輝夜も同意して、2人は歩き出した。

 

 

 

 

「そういえば、あなた……………途中で敬語、抜けていたわよ」

 

「え?………あぁ、そういえばそうでしたね。すいません」

 

「まぁ、別にいいんだけどね」


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