家庭教師ヒットマンREBORN! ~光と闇の奇跡~   作:R0

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堕ちる《闇夜》

その日の夜、輝夜と明聖は宿を取って、部屋にいた。

 

「スーッ…………スーッ……………」

 

「……………寝たか」

 

輝夜はベッドで寝ている明聖の頭をなでながら、呟いた。すると、輝夜は立ち上がって、机の上に置いていた昼間に買っておいた花束を持って部屋から出た。

 

バタンッ!

 

「ん………。……パパ?」

 

すると、扉が閉じた音で明聖が目を覚ました。近くにいない輝夜が気になって、明聖は扉を開けて、廊下を見た。そこには花束を持って、階段で下に降りていく輝夜の姿が見えた。

 

「パパ、花束なんて持って、どこに行くんだろう?」

 

明聖はそれを見て呟いた。昼間に花屋で花束を買った輝夜に尋ねたが輝夜は言葉を濁して、教えてもらえなかった。

 

(そういえば、去年も一昨年もこの時期に花束を買って、次の日にはなくなっていたっけ…………?)

 

明聖は去年も一昨年もその前の年も花束を買っていたことを思い出した。その年は明聖が花が欲しいと言って、輝夜が買ってくれて、それとは別に花束を買っていた。しかし、次の日にはその花束は消えていたので聞いてみると『渡したい人に渡した』と答えた。明聖はそれが誰なのか聞いたが輝夜は教えてくれなかった。

 

(もしかして、パパの恋人!?)

 

その時、明聖はハッとして、そう考えた。結構、ませているようだ。しかし、実際、輝夜は明聖から見ても顔立ちが整っている。明聖が側にいないときは女性から逆ナンパしてくることは1度、2度ではなかった。輝夜はそのことに鈍く、なぜ、自分を誘っていたのか、わかっていなかったがとりあえず誘いを全て断っていた。しかし、そんなことが起きているなら、恋人の1人や2人いてもおかしくないと明聖は考えていた。

 

ちなみに、明聖は輝夜に自分の母親のことについて尋ねたことがあったがその時の輝夜は悲しそうな顔をして、『亡くなった』と答えた。その時から、明聖は母親のことについて訊かないようにした。

 

(パパの恋人がどんな人か見分けなくちゃ!!)

 

明聖は真剣な顔つきして、そう考えた。まだ、輝夜が恋人に会いに行くと決まったわけでもないのに、どうやら明聖は少々、ファザコンのところがあるみたいだ。そして、明聖は輝夜の後をついていった。

 

 

 

 

「あ、あれ?」

 

しかし、宿の外へ出ると輝夜の姿はなかった。見失ったようだ。確かに、明聖は輝夜が外に出て行くのを見た。それから、すぐに明聖は外に出たので、信じられなかった。

 

「もしかして、《闇夜》の炎で?」

 

明聖は輝夜が《闇夜》の炎で移動したことを考えた。今の状況を考えるとおそらく、それが正解だろう。

 

「うぅ………ど、どうしよう…………」

 

それにより、明聖は途方に暮れた。輝夜が《闇夜》の炎を使われたなら、明聖に追いかける手段はない。明聖は諦めて部屋に戻ろうとした。

 

「どうしたのかな、お嬢ちゃん?」

 

すると、誰かに声をかけられて、明聖は声がしたほうに向くと、そこには白髪の赤い目の青年がいた。

 

「えっと………実はパパがここから出ていくのを見たんだけど、見失っちゃって………」

 

明聖は驚きながらもその青年に事情を説明した。

 

「う~ん。君のパパか………。もしかして、君のパパって、黒い髪を後ろで結んでいて、メガネをかけている男かな?」

 

「!!はい、そうです!!」

 

青年が言った特徴が輝夜と当てはまり、明聖は頷いた。すると、青年はそれを見て、微笑みながら声をかけた。

 

「そっか、それなら、私が見たから一緒に行こうか」

 

「え………でも、パパが知らない人についていったらダメだって………」

 

青年の提案に明聖が困ったような反応した。

 

「ハハッ。君のパパはしっかり教育をしているみたいだね。でも、大丈夫だよ。()()で君のパパの近くに案内するから」

 

「え?」

 

「ほら、目を瞑ってみて」

 

「う、うん………」

 

一瞬で輝夜の近くまで案内するという青年の言葉に驚いて、明聖は青年の言うとおりに目を瞑った。すると、自分の両肩に何かが置かれた。おそらく、青年の両手だろう。

 

「はい。もういいよ」

 

「う………ん………えっ!!?」

 

青年に言われて、明聖は目を開けると、驚愕した。そこは宿の前ではなく、どこかの空き家の前だった。

 

「ここはど―――」

 

「シーッ。ほら、その空き家の庭から声が聞こえない?」

 

明聖の言葉を遮って、青年がそう言った。青年の言葉に明聖は空き家の庭のほうに耳を傾けると、誰かの声が聞こえた。

 

「!!パパだ!!」

 

明聖はそれが輝夜のものだとわかった。

 

「ほら、パパのところに行ったら?」

 

「うん!ありがとう、お兄さん!」

 

「ハハッ。どういたしまして」

 

明聖は青年にお礼を言うと、声のするほうに向かった。そして、明聖の姿が見えなくなると、青年は口を歪めて笑った。

 

「………さてと、これからどうなるのか楽しみだな。()()()()()

 

 

 

 

明聖が声のするほうに足を運ぶと、だんだん、声が大きくなった。

 

「パパの恋人って、誰なんだろう………?そういえば、パパはどうして、こんなところにいるんだろう?」

 

明聖の頭にはそんな疑問が浮かび、不安そうに呟いた。そして、そんな疑問を余所に輝夜の声がすぐそばまで近づいた。輝夜の声は曲がり角を曲がったところから聞こえる。明聖はその曲がり角の物陰に隠れて、覗いた。

 

「………いた」

 

そこには、確かに、輝夜の姿があった。しかし、輝夜の前には恋人と思われる人物は無くて、代わりにあったのは…………

 

「…………お墓?」

 

2つの墓だった。その墓のすぐ側に輝夜が昼間に買った花束が置いてあった。輝夜が渡したかった相手というのはおそらく、この墓に向けてだろう。恋人に向けてじゃないというのはわかったが明聖にある疑問が浮かんだ。

 

「………誰のお墓だろう?」

 

明聖は輝夜の目の前にある墓が誰のものなのか気になった。すると、輝夜はその墓に話しかけた。

 

「………………もうあれから、8年が経ったな……。あの時はまだ赤ん坊だった()()()()()()、明聖も大きくなったよ」

 

「え…………」

 

輝夜の言葉に明聖は言葉を失った。母親はともかく、父親はずっと、輝夜だと思っていた。しかし、今の輝夜の言葉だと輝夜は明聖の実の父親じゃないということになる。

 

「あんたらは憎んでないのかもしれないが俺があんたらを殺してしまった」

 

「!!!?」

 

明聖が聞いているとも知らず、輝夜は墓に話しかけて、その内容に明聖はさらに驚愕した。

 

(…え?…………どういうこと?………パパが………私の両親を殺した…………?)

 

明聖はあまりのことに壁にもたれかかって座り込んだ。その間、輝夜が何か話し続けていたが明聖の頭に入ってこなかった。

 

(…………パパはずっと、騙していたの?…………そんなの……………ひどいよ…………)

 

そう考えて、明聖は泣きそうになると……………

 

「明聖?なぜ、お前がここにいるんだ?」

 

「!!?」

 

いつの間に話し終えたのか、輝夜が戻ってきていて、見つかった。明聖は驚きながらも、立ち上がって、輝夜に尋ねた。

 

「……………ねぇ、パパ。……………今のって……………」

 

「!!?………………すまない」

 

「!!?」

 

輝夜の言葉に明聖は、今の謝罪は明聖の本当の両親を殺したことに対してのものなのか、今までその事実を隠してきたことに対してのものなのか、明聖にはわからなかった。というよりも、考える余裕がなかった。明聖はできれば否定してほしかった。しかし、今の謝罪によって、輝夜が話していたことを肯定したことがわかった。

 

「……………どうして」

 

「明聖………」

 

「どうして……………私を騙していたの?」

 

「……………………」

 

「何で……………答えないの…………」

 

「………………すまない」

 

「嫌だよ!!謝らないでよ!!私はそんなのを聞きたくないよ!!」

 

輝夜が謝罪すると、明聖がボロボロ涙をこぼしながら答えた。

 

「……………もういいよ。パパなんて知らない!!!!」

 

「明聖!!!?」

 

明聖がそう叫ぶと後ろを振り返って、走り出した。輝夜も追いかけようとしたが足がすくんで走り出すことができなかった。

 

(俺にあいつを追いかける資格なんてあるのか………………?)

 

そういう考えがあったせいで輝夜は動けなかった。しかし、そんなときだった。

 

「キャーーーーー!!!?」

 

「!!!?明聖!!!!」

 

すると、明聖の悲鳴が聞こえて、輝夜はさっき考えていたことを忘れて、走り出した。

 

「明聖!!!!」

 

輝夜が追いつくとそこには明聖を連れてきた青年がいて、彼の足下には倒れている明聖がいた。

 

「お前!!!そいつに何をした!!!?」

 

輝夜は青年に警戒しながら怒鳴った。

 

「安心しなよ。こいつの命は奪っていないからさ」

 

青年はそれに対して、そう言った。

 

「パパ……………」

 

よく見てみると明聖の命に別状はなさそうだった。輝夜はひとまず、そのことに安堵した。

 

「さて、そんなことよりも私のことを気にしてほしいね。ダークネス」

 

「!!?」

 

輝夜は自分のことを『ダークネス』と言った青年に対して、さらなる警戒をした。

 

「お前、何者だ?」

 

輝夜は青年の素性を聞いた。

 

「何者かって?貴様も知っている()()さ」

 

青年がそう言うと………………

 

ボウッ!!!

 

「「!!!?」」

 

青年の体が白い炎で燃え上がった。それを見て、輝夜と明聖は驚いた。特に、輝夜はその白い炎に見覚えがあった。輝夜は青年の面影もなく、ただ白い炎となったものに叫んだ。

 

「お前………ロヴィーノか!!!」

 

「ロヴィーノ…………?」

 

『その通りだよ、ダークネス』

 

輝夜に言われて、明聖は意味がわからず、そう呟き、ロヴィーノは肯定した。

 

「さっきの姿がお前の本当の姿か?」

 

輝夜はさっきの青年の姿がロヴィーノの本当の姿なのか訊いてみた。

 

『いいや、違うよ。わかっていると思うけど、さっきの姿は私の幻覚で作ったものさ。でも、私の本来の姿になるには今の魂の状態ではできないんだよね。私の本当の姿を見たら、きっとお前は驚くだろうな』

 

「俺が驚くだと?」

 

ロヴィーノの言葉に輝夜は怪訝な顔をした。ロヴィーノの本当の姿は色と髪の長さを除いて輝夜と似ているため、後にロヴィーノ復活直後は驚く暇はなかったが、落ち着いて、よく考えてみたら驚くことになるのだった。

 

『まぁ、私の本当の姿なんて、どうでもいいじゃないか』

 

「……………そうだな、それよりもお前に訊きたいことがあるんだ」

 

『へぇ、何かな?』

 

輝夜の疑問にロヴィーノは興味津々に訊いてみた。一方で、明聖は状況について行けなかった。

 

「単純な話だ。いったい、何の用だ?」

 

『なんだ、そんな話か…。それこそ、単純な話だよ。貴様を連れ戻しに来たに決まっているだろ。もうそろそろ、家出もやめたら、どうなんだ?』

 

「そんなことだと思ったぜ。だが、なぜ今更そんなことするんだ?お前なら、俺の居場所なんか、すぐにわかるだろ」

 

『今回は状況が違うんだよね。もうすぐ、《大罪の7人(ペッカート・セッテ)》の世代交代するんだよ。その新生ロヴィーノ教団には《闇夜》の炎を持つお前の力が必要なんだよね。ちなみに《大空の大罪》がルシフェル、《雷の大罪》は豪、《雨の大罪》はスロウスだよ』

 

「………………あいつらがな」

 

『そう。あ。あとの4人はお前が抜けた後に入った連中だから』

 

「ご丁寧に教えてくれて、どうも」

 

「え?ちょっと待って!!どういうことなの!?」

 

輝夜とロヴィーノの話に明聖が理解ができず、叫んだ。

 

『ん?貴様、こいつに何も話していないのか?』

 

「……………………」

 

『どうやら、そうみたいだな。それなら、私が教えてやるよ。そこの男、ダークネスは元ロヴィーノ教団の戦士の1人なのさ』

 

「パパがロヴィーノ教団の戦士…………?…………って、ちょっと待って!!ダークネスって何!?パパの名前は輝夜だよ!!」

 

明聖はロヴィーノの話に間違いがあることに気づき、それを指摘した。

 

『本当に何も話していないんだな……………。貴様の父親は8年前に改名したのさ。まぁ、正規の方法じゃないから、戸籍上はまだ、ダークネスの名前があるんだけどね』

 

「そっちのほうが逃走に使えるからな。だが、今の俺は光城輝夜だ。ダークネスという名前はとっくに捨てたんだ。(というよりも、ダークネスはあの時に死んだんだ)」

 

輝夜は自分が死んだ時のことを思い出しながら、そう言った。

 

『それよりも、訊きたいことはもう終わったのかな?それなら、ロヴィーノ教団に戻ってきてくれないかな?』

 

「……………断るって、言ったら?」

 

『その時は光城明聖(こいつ)を人質にでも取って、言うことを聞かせようかな。個人的にも光の一族は気に入らないしね』

 

「ひっ!?」

 

ロヴィーノにそう言われて、明聖は小さく悲鳴を上げた。輝夜は明聖が寝た深夜に賞金首を捕まえている上に、その時は顔を隠して、正体をばれないようにしていたために、明聖は争いごとと無縁だった。

 

「させるか!!」

 

輝夜はそう叫ぶと、《闇夜》のショートワープで明聖を急いで回収し、ロヴィーノから離れた。

 

「パパ……………」

 

明聖は輝夜に横抱きされながら、輝夜の顔をじっと見た。

 

「無事か、明聖?」

 

「う、うん。えっと………これって…………」

 

「…………………終わったら、全て話す。だから、少し待ってくれないか」

 

「うん………わかった………」

 

輝夜は明聖の返事を聞くと、明聖を下ろした。

 

「下がってろ」

 

「うん………」

 

輝夜にそう言われて、明聖は輝夜とロヴィーノから離れた。

 

「…………………」

 

それを確認すると、輝夜はメガネを外して、それを捨てた。それから2つの匣を取り出した。

 

「…………開匣」

 

「グオォォォォーーーー!!!!」

 

そして、輝夜はそれぞれガンブレードとドレイクを匣から出した。

 

『気が早いな。私とやるつもりか?』

 

ロヴィーノはそれを見て、呆れたように言った。

 

「どうせ、ここで逃げても、お前は執拗に追いかけてくるんだろ?それなら、わかりやすく、意思表示するだけだ。それにお前は明聖を狙っている。そんなやつを放っておけないんだよ」

 

『なるほどね。ずいぶん、その光の一族の小娘を大事にしているんだね』

 

「パパ…………」

 

ロヴィーノの話を聞いて、明聖は目を見開いて、輝夜を見た。先程のこともあり、明聖はわからなくなっていたのだ。

 

『でも私には理解できないな。そんな溢れんばかりの光を持つ小娘を必死に守ろうするお前をな……』

 

「別に理解してほしい、とは思わないな。所詮、俺とお前は他人なんだ。考え方が違うことぐらい、あるに決まってんだろ」

 

『まぁ、それもそうなんだが、お前だと話は別なんだよな』

 

ロヴィーノの話に輝夜は顔をしかめた。

 

「どういうことだ?」

 

『いや。なんでもない。このことはまたゆっくり話すさ。とりあえず、今は…………』

 

ボウッ!!!

 

『貴様を連れて帰ることだけを考えようか!!』

 

ロヴィーノは激しく燃え盛りながら、そう言った。

 

「チッ!結局はそうなるのか!だが、お前に負けるわけにはいかないんだ!!いくぞ、ドレイク!!」

 

「グオォォォォーーーー!!!!」

 

そう言って、輝夜とドレイクはロヴィーノに向かって飛び出した。

 

 

 

 

数十分後

 

「ガハッ…………!!?」

 

「グルル………………」

 

輝夜とドレイクはボロボロで倒れていた。惨敗だった。つけていたヘアゴムもちぎれて、輝夜の髪は下ろされた状態だった。

 

「パパ!!!ドレイク!!!」

 

それを見て、明聖は叫んだ。

 

「くっ…………。強すぎる………………。攻撃が全く通じない………………」

 

輝夜は悔しそうに呟いた。相手の体は炎の状態だった。だから、輝夜は《闇夜》の炎の無効の力で攻撃した。しかし、ロヴィーノは平然と受け止めたのだ。

 

『まぁ、そんなに落胆することはないよ。今の貴様の実力は8年前のときと比べて、比べものにならないくらい強くなっているからさ。私がつけた《人類至上サイキョウ(最強・最恐・最凶)の人間》の名に恥じない実力だったよ』

 

「…………いつの間にか変な異名がついていると思ったら……………お前がつけたのかよ………………」

 

ロヴィーノの言葉に輝夜は顔をしかめて、呟いた。

 

『さてと、そんなことよりも、もう終わりだね。ロヴィーノ教団の連中を呼んで連れてくるか』

 

ロヴィーノはそう言って、消えようとしたが…………

 

「まだだ…………!まだ、終わってない!」

 

輝夜がフラフラとしながら、立ち上がった。

 

「パパ!!」

 

『まだ、やるのかい?もう、わかっているだろ?貴様に勝ち目ないってこと』

 

ロヴィーノはそれを見て、そう言った。しかし、輝夜はそんなことは関係無いと言わんばかりに言い返した。

 

「だから、なんだ?俺はこいつを守れるなら勝ち目があろうがなかろうが関係ないんだよ!」

 

『へぇ………。貴様がその小娘を守るためにロヴィーノ教団を抜けて、8年間逃げ続けていたことは知っていたけど、そこまで覚悟を持っていたとはな……………』

 

「パパが私を……………?」

 

ロヴィーノの話を聞いて、明聖は呟いた。

 

『その小娘の実の両親を自分の失態で殺してしまったことに対する罪悪感から来ているのか?』

 

「………………否定はしねぇよ。俺があの時にエレオノーラの悪意に気づいていたら、あの人たちが死ぬことはなかった。俺が明聖の両親を殺したようなものだ」

 

輝夜は当時のことを思い出しながら、話し出した。

 

「俺はそのとき、絶望したよ。俺も、あの人たちは親のように感じていたからな。あの人たちは気にするなって言っていたがそれで納得できるほど、俺はできた人間じゃねぇ。だが、そんなときに明聖が救ってくれた」

 

「私が………?」

 

「あぁ、そうだ。あの時、涙が枯れて途方に暮れた俺に明聖が優しく微笑んでくれた。まるで、俺を励ましてくれたかのようにな………。その時に、俺は改めて思った。『俺にはまだ、明聖がいるんだ』ってな」

 

輝夜は哀しみと懐かしさを混ぜたような顔をしていた。すると、次の瞬間、覚悟がこもった目をして、言った。

 

「だから、せめて俺にとっての光である明聖だけは俺の命に代えてでも守ってみせる!!」

 

「パパ………………」

 

輝夜の話を聞いて、明聖はまた涙を流していた。それは、先程の涙とは違う。輝夜がこんなにも自分のことを想ってくれていたという嬉しさの涙とそれに対して、酷いことを言ったという後悔の涙だった。明聖は輝夜に謝りたいと思った。しかし……………

 

『ふ~~ん。それなら、貴様の覚悟がどんなものか見させてもらおうか』

 

「ガッ!!?」

 

「パパ!!?」

 

ロヴィーノがそう言うと、輝夜はまるで金縛りにあったかのように固まった。それを見て、明聖は輝夜のことが心配になり、叫んだ。

 

『安心しな。逃げられないように《大地》の炎の重力で貴様を押さえつけただけだ』

 

「何を………する気だ………!?」

 

輝夜が苦しそうにしながらも、ロヴィーノに訊いた。

 

『別に、このままやったら、貴様が使い物にならなくなりそうだから、少し手を加えるだけさ』

 

ロヴィーノはそう言って、白い炎を輝夜に飛ばした。

 

「くっ…………!!?」

 

輝夜はかわそうとしたが、炎の重力のせいでできなかった。そして、炎は輝夜の体内に入り込んだ。

 

ボオオウッ!!!!

 

「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!?」

 

「パパ!!!?」

 

すると、輝夜の体から白い炎が燃え上がった。輝夜はその炎のせいで苦しみ出した。それを見た明聖が心配して、輝夜に近づいたが思いの外、炎の勢いが凄まじく、近づけなかった。そして、しばらく経つと、炎が治まり…………

 

ドサッ………

 

いつの間にか、炎の重力も解いていたのか、輝夜はその場に倒れた。

 

「パパ!!!?」

 

それを見て、明聖は輝夜に駆け寄った。

 

「パパ!!!パパ!!!お願い!!!起きて!!!」

 

明聖は輝夜に必死に呼び掛けた。どうか、無事でいてほしいという願いを込めながら………。

 

「…………大丈夫だ、明聖」

 

すると、輝夜はそう言って、起き上がった。

 

「パパ………。………っ!!!?」

 

それを見て、明聖は一瞬喜んだが、輝夜の顔を見て、明聖の顔がひきつった。

 

今の輝夜が自分の知っている輝夜とは()()()()()()見えたのだ。

 

『さてと、ダークネス。今ここで尋ねるがロヴィーノ教団に戻ってくれるかな?』

 

そんな明聖の心情を無視して、ロヴィーノが尋ねた。それに対して、明聖は断るだろうと思っていた。

 

「あぁ、いいだろう」

 

「!!!?」

 

しかし、その考えは裏切られた。

 

「だが、明聖の安全を保証しろ。それが条件だ」

 

『ふ~ん。これでも、そんなこと言えるんだ。………………まぁ、いいか。わかったよ、ロヴィーノ教団の連中には忠告しておくよ』

 

「感謝する」

 

輝夜とロヴィーノがそんな話をしていたが、明聖は頭が追いついていなかった。

 

(どうして……?パパのはずなのに、まるでパパじゃないみたい…………。というかパパが怖い…………)

 

明聖は今の輝夜を見て、恐怖を抱いていた。それもそうだ。後に判明することだが、ロヴィーノは《闇》の炎で輝夜の中にある貴族や世界への憎しみを助長させたのだ。それによって、今の輝夜はより冷酷な性格になったのだ。正の感情には影響がたいしてなかったのがせめてもの救いだった。おかげで、人格を変えられても明聖のことを気にかけることができたのだから。

 

「明聖、とりあえず今日は宿に戻るぞ。明日、ロヴィーノ教団に向かう」

 

「え!?あ、うん……………」

 

明聖が考え事している間に輝夜が声をかけてきた。明聖は突然声をかけられたことに驚いたが、すぐに返事した。周りを見てみると、いつの間にかロヴィーノが消えていて、ドレイクは匣に戻っていた。

 

(パパがなんで、変わっちゃったのかわからないけど、私が何とかしなくちゃ!今のパパは嫌だ!!元のパパに戻ってほしい!!)

 

明聖は移動するために輝夜と手を繋ぎながら、そう決心した。そして、2人はその場から消えた。


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