家庭教師ヒットマンREBORN! ~光と闇の奇跡~   作:R0

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8年 後編

大罪の7人(ペッカート・セッテ)》が会議している頃、訓練所では…………………

 

ドカーーーーン!!!!

 

「ふぅ…………」

 

ルシフェルがハルバードを肩に担ぎながら息をついた。そんなルシフェルの周りには瓦礫の山があった。

 

「ちょっとルシフェル!!やりすぎよ!!」

 

それを制服を胸の谷間やへそを出すというきわどい着方をしたピンク色の髪の美女が注意した。

 

「………うるさいな。別にただの有幻覚なんだからいいだろ」

 

それに対して、ルシフェルは不機嫌そうに言った。今、ルシフェルがやっていたのはリリスの《色欲の炎》を導入して、作った仮想空間での特訓だった。そこで様々な地形で様々な敵を相手に戦ったりするのだ。

 

「あなたが、いちいち全壊にするから、それを直すために炎を提供する私の身になりなさいよ!!」

 

「まぁまぁ、落ち着くでござるよ。リリス」

 

「おい!!!!ルシフェル!!!!俺にもやらせろぉぉぉぉ!!!!」

 

「やれやれ、本当に騒がしい人ですね」

 

「グーッ………グーッ………」

 

それを聞いて、怒ったリリスにそれを宥める豪、ルシフェルに便乗するジャバウォック、呆れるエンヴィー、寝ているスロウスがそれぞれ、そんな反応した。

 

「もう、本当にあなたたちの相手をするのは骨が折れるよ…………。そうだわ!!」

 

すると、リリスが何か思いついたのか、ルシフェルに近づいた。

 

「ねぇ………、そんな暑苦しい特訓よりも私と2人っきりでいいことしよう………?」

 

リリスは谷間を強調して、上目遣いしながらルシフェルに話しかけた。普通の男ならこれでイチコロだろうが……

 

ガチャ………

 

ルシフェルは顔色1つ変えずにリリスにハルバードを突きつけた。

 

「2度とアホなことを言えないように本当に顎の骨を折ろうか?」

 

「え、遠慮します………」

 

それを見て、リリスは顔を青ざめて、両手を上げて、ルシフェルから離れた。

 

「ハァ………。俺はもう上がる」

 

リリスが離れると、ルシフェルはハルバードを匣に直して、訓練所を出ていった。周りにあった瓦礫の有幻覚もいつの間にか消えていた。

 

「…………ちょ、ちょっと、どういうことなの!?なんで!?昔は顔を赤くするとか、かわいい反応していたのに!?」

 

ルシフェルが出ていくと、恐怖からか涙目になりながら、このメンバーの中で1番ルシフェルと長いつき合いである豪に訊いた。

 

「いや~~、ルシフェルはもともとそういうのは枯れているでござるからな~~……。慣れたでござろう。女子の好意というものも全く気づいてないほど鈍いでござる………」

 

「…………男として、それはどうなんですか?」

 

豪の説明にエンヴィーがツッコんだ。

 

「そういうあなたは………って、そうか……」

 

リリスがエンヴィーに尋ねようとしたがやめた。

 

「なんですか?」

 

「ううん。なんでもないわ。(エンヴィーは昔、恋人だった貴族の女に身勝手に捨てられたんだっけ…………。それ以来、私………というより女相手にいろいろと警戒するようになったのね………)」

 

リリスはエンヴィーについて、そんなことを考えていた。

 

エンヴィーは昔、若くして、ある平民の町の診療所の医者をやっていた。そのときは目付きは鋭くなく穏やかで、腕はあり、町の評判は良かった。

 

そんなある日に近くの貴族の令嬢がエンヴィーの評判を聞いて、訪ねてきた。訪れてきた理由としては病気の治療であった。当時のエンヴィーは貴族に何かをされたというわけでもなかったので、貴族たちに憎悪などはなく、快く引き受けた。そして、何度かの出会いで貴族の令嬢はエンヴィーに惚れたらしく、告白した。エンヴィーも相手の令嬢が自分の知っている貴族たちと違うと思ったので、それに了承して、2人は恋人になった。その日からはエンヴィーにとっても幸せな時間を過ごしていた。

 

しかし、ある日、貴族の令嬢から別れ話が出された。これに驚いたエンヴィーは理由を聞くと、自分と同じで顔のいい、医術の腕を持つ貴族の男と出会ったからというものだった。当然、納得のできなかったエンヴィーは説得したが聞き入れてもらえず、手酷く捨てられたのだった。自分とその男はどちらも似たようなものだった。ただ自分は平民だから捨てられて、その男は貴族だから選ばれたのだった。エンヴィーはそのことに絶望して、貴族を憎むようになった。それからはエンヴィーの目付きが鋭くなり、女嫌いってほどではなかったが女に対して警戒するようになったり、嫉妬深くなった。医学の勉強の合間には格闘術の特訓も行い、ロヴィーノ教団に所属することになった。

 

「そうだわ。ジャバウォックはどうかしら?」

 

すると、次にリリスはジャバウォックに近づいて、声をかけた。

 

「俺は()()()()を裏切ることはしねぇぇぇぇーーーー!!!!」

 

「っ!?(意外にも一途なんだよね…………昔の奥さんに…………)」

 

ジャバウォックの大声に耳を押さえながら、リリスは思った。

 

ジャバウォックはロヴィーノ教団に入る前は今では想像がつかないぐらい穏やかな性格でごく普通の平民の人生を送っていた。産まれてから普通に優しい両親に育てられて、大人になったら普通に仕事をして、普通にある女性と知って恋人になって、結婚して、子供が産まれて、子供も赤ん坊から成長していって、そんな普通の幸せな人生を送っていた。

 

しかし、そんなある日に貴族たちの理不尽な仕打ちで愛する妻と息子を殺された。理由は特に無い。本当に理不尽な理由だった。これに絶望したジャバウォックは貴族たちと守れなかった自分に怒り、性格も180度変わった。それから、しばらくしてロヴィーノ教団に入った。

 

(………ってか、これを見ていると本当に穏やかな性格だったなんて信じられないんだけど)

 

リリスは遠い目をしながら、ジャバウォックを見た。

 

(…………でも、家族を大切にしていたのは本当みたいね)

 

リリスはジャバウォックの首にぶら下がっている家族の写真が入ったロケットを見て、そう思った。

 

(…………私にはわからないものね)

 

それを見て、リリスはそう感じた。

 

リリスは物心がついた頃から両親の顔を知らず、孤児院にいた。しかし、その孤児院は裏で貴族と繋がっており、リリスや他の孤児たちはある程度育つと貴族に売られたのだった。その中でリリスは同年代に比べて、発育が良いために、貴族の酒の相手など遊女をやっていた。リリスは貴族に内心、いい顔しなかったが生きていくために必死にがんばった。それにリリスは貴族に無理矢理とはいえ、奴隷よりもマシな立場にいると思い、それができる自分の体を誇りに思っていた。

 

しかし、ある日、酒で酔っぱらっていた貴族が要約すると『奴隷はまだ人間だが、遊女は人間じゃない』という話をしていたのをリリスは盗み聞きした。それを聞いたリリスは誇りを壊されて、絶望し、貴族により強い憎悪を抱くようになった。その後、ロヴィーノ教団が襲撃してきたことで開放されたリリスはそのまま、ロヴィーノ教団に入った。

 

(ここにいる奴らは私のことを『クソビッチ』とか馬鹿にするけど、人間扱いしてくれるからまだマシね)

 

リリスは豪たちを見ながら、そう思った。

 

「……………どうした…………リリス…………?」

 

「いえ、別に何でもないわ…………………って、いつの間に起きていたのよ、スロウス!!?」

 

声をかけてきたスロウスにリリスは驚きながら訊いた。

 

「…………今…………」

 

「そ、そう…………(スロウスは性欲よりも睡眠欲のほうが勝っているから論外なのよね……………。豪は死体改造で女性の死体も改造しているから耐性があるからね……………)」

 

「……………今、絶対くだらないことを考えているでござるね」

 

「……………同感…………」

 

「性欲塗れの馬鹿な女ですね」

 

「全くだぜぇぇぇぇ!!!!」

 

「ちょっと皆して酷いわよ!!?」

 

豪たちの罵詈雑言にリリスはツッコんだ。

 

「そんなことよりも、「そんなことよりも!!?」リリスは黙ってください。前から気になっていたのですがルシフェルの特訓、かなり過剰の気がしますね」

 

エンヴィーが豪にそう訊いた。

 

「あぁ、それはきっとダークネスに対抗にしているからだと思うでござる」

 

「ダークネス?8年前の《死体の大地事件》の実行犯ですか」

 

「なぜ、ルシフェルがそいつと対抗しているんだぁぁぁぁーーーー!!!!」

 

「…………ルシフェルと…ダークネスは……幼馴染み………」

 

「ほぼ同時にここに入ったでござるからね。きっと、《死体の大地事件》を引き起こしたダークネスにほとんど一方的にライバル意識を持っているのでござろう」

 

エンヴィーとジャバウォックの質問にスロウスと豪が答えた。

 

「ねぇ。そのダークネスってどんな人なのかしら?」

 

すると、リリスが興味津々に訊いていた。

 

「あぁ、少なくとも、ルシフェルと同じかそれ以上に枯れているでござるから、色仕掛けは効かないでごさるよ」

 

「えぇ~~!?つまらないわね~~~……………」

 

「つまらないってあなたって人は…………」

 

リリスの言葉にエンヴィーは呆れていた。

 

「そこまで枯れているなんて、もしかしてそのダークネスって………………オカマ?」

 

「……………ダークネスが…聞いていたら…………問答無用で…………九割殺しだな…………」

 

「やだねぇ、冗談に決まっているでしょ……………って、九割殺し!?半殺しよりも酷いわよ!!?ほとんど殺しているし!!?」

 

スロウスの言葉にリリスは再び、ツッコんだ。

 

「そんなことよりも、「また、そんなことよりも!!?」リリス、うるさいでござる。我輩たちの知っているダークネスは頭が良かったが戦闘はそこまで高くないでござる」

 

「そこまで高くない?それなのに《死体の大地事件》を引き起こしたのですか?」

 

「そうでござる。だから、我輩たちも聞いたときは驚いたでござる」

 

エンヴィーの言葉に豪は肩をすくめながら、そう言った。その後、5人はそれぞれダークネスについて話していた。

 

 

 

 

一方、訓練所から出たルシフェルは部屋に戻っていた。

 

「…………………」

 

ルシフェルはそこでベッドに寝転がり、8年前のことを考え込んだ。

 

当時、ルシフェルたちもグレム帝国とアルミダ帝国の戦争跡地に行った。そこの惨状を見て、言葉を失った。ベネスタンテ星でもかなりの実力者であるグレム帝国とアルミダ帝国の兵士たち、合計20万人が僅か1時間でダークネスに殺された。

 

「《人類至上サイキョウ(最強・最恐・最凶)の人間》か……………」

 

ルシフェルはポツリと呟いた。後にロヴィーノがその時のダークネスにつけた二つ名。ロヴィーノがつけた、この場合の人類はベネスタンテ星だけではない。地球はもちろん、平行世界、異世界の全ての人類に対するものだった。ダークネスはその全ての人類の中で最も強く、最も恐ろしく、最も凶暴の人間だということになった。

 

「ふっ………。俺より弱かった奴が1つの()()()でまさか、あんなに強くなるなんてな」

 

ルシフェルは薄く笑うと、そう呟いた。ルシフェルはダークネスがなぜ1人で2大国に攻めに行ったか、わかっていた。ダークネスは自分の世話になった人たちを殺した2大国に復讐しに行ったのだ。ルシフェルがその人たちの家に行ってみると、家は荒らされていて、庭には2つの墓が建っていた。

 

「……………だが、どういう理由があっても、俺たちの前から消えたことには納得できないな」

 

すると、ルシフェルの顔から笑みが消えた。

 

「俺はお前と戦ってみたいぜ、ダークネス。今のお前となら互角以上の戦いができそうだ。お前にやる気があろうがなかろうが関係ない。ないなら、無理にでもやる気を起こさせる」

 

ルシフェルはベッドから起き上がって呟いた。ルシフェルはどうやら、ダークネスと戦う機会がなくなったのに不満があるみたいだ。

 

「あいつの性格上、貴族側に寝返ることはない。それならば、必ずお前を見つけて連れ戻す。それで、お前に勝って、俺が《人類至上サイキョウ(最強・最恐・最凶)の人間》になってみせる」

 

そう呟いたルシフェルの目はまるで獲物を見つけたかのように鋭かった。

 

 

 

 

その頃のとある平民の町の喫茶店

 

「クシュン!………なんだ?風邪か?」

 

喫茶店の片隅の席でフードを被ったローブの男が呟いた。

 

「…………まぁ、いいか。それよりも…………」

 

男はそう呟いて、持っていた新聞に目を向けた。

 

「『貴族の所有する研究所、全壊!!犯人は被験者の少年!!』か…………」

 

男が読んでいた記事は先日、とある貴族が所有していた人体実験が行われていた研究所が被験者の10歳ぐらいの少年1人に破壊されたのだ。そこの研究員は皆殺しにされて、研究データは全て奪われて、他の被験者の少年少女たちも逃げられたのだ。監視カメラの映像でその少年が犯人だということが判明した。そして、新聞には載っていなかったが犯人であるその少年はその研究所の対革命軍の最高傑作らしく、貴族たちは目を皿にして探しているみたいだ。

 

そのこととは別に、その研究所を所有していた貴族は人体実験のことの責任を追及されていたことも載っていた。

 

貴族たち(ゴミ共)も白々しいが表向きは自分たちのことを善人のフリしているからな…………」

 

その部分を読んでいた男は呆れていた。しかし、男はそれよりも気になることがあった。

 

「この研究所の場所…………()()()()()()()()()()()()な………」

 

男が気になった部分はそこだった。男は被験者たちがこのまま、うまく逃げ切れるとは思っていなかった。逃げ切れる唯一の方法は貴族たちには居場所を隠しているロヴィーノ教団本部に逃げ込むことだった。

 

「ガキ共がロヴィーノ教団に入るかもしれないってことか…………。…………まぁ、俺にはもう関係ないことだな」

 

男はそう呟くと新聞を畳んで直した。

 

「パパ~~!!」

 

すると、男に少女が近づいてきた。

 

「トイレはもういいのか?」

 

「うん。それよりも、早く行こうよ!!」

 

「わかった、わかった。すぐにこれを飲むからな」

 

少女に急かされて男は机にあったコーヒーを飲み干した。

 

「それじゃあ、行こうか。()()

 

「うん!!」

 

少女が頷くのを見ると、男は伝票を持ってレジに向かった。少女の名はこの8年で成長した光城明聖だった。そして、明聖が『パパ』と呼ぶこの男は8年前にダークネスの名前を完全に捨てた光城輝夜だった。

 

 

 

 

輝夜と明聖が喫茶店から出ていこうとする頃、ロヴィーノ教団本部前では………

 

「おい!ガキ共!ここにいったい、何の用だ!!」

 

見張りの男が急にやってきた少なくない子供たちにそう言った。

 

「僕たちをここに入れてほしいんだ」

 

その子供たちのリーダーかと思われる紫色の髪をした少年が前に出て見張りの男にそう言った。

 

「なんだと?」

 

男がそれを聞いて、怪訝な顔をした。

 

「あ。他の皆はまだまだ、発展途上だけどそれなりに実力はあるし、僕に関しては大丈夫だよ」

 

それを見て、少年は聞いてもいないことを話し出した。そして、それと同時に………

 

シュルッ!

 

「シャーッ!!」

 

少年の腰から大蛇が出てきた。

 

「なっ!!?」

 

男はそれに驚いた。

 

「僕の名前は()()()()()でこいつは大蛇丸。昨日の貴族の研究所を破壊した犯人は僕だよ。これで証明になったかな?」

 

少年、ベルゼブブは自分のことをそう説明した。


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