家庭教師ヒットマンREBORN! ~光と闇の奇跡~ 作:R0
ダークネスが明聖と邂逅してから数日後、ロヴィーノ教団の本部ではダークネスとルシフェルが訓練の休憩の途中に重要な話をしていた。ちなみに豪は新たな戦闘用の改造死体作り、スロウスは自分の部屋で昼寝だった。
「グレム帝国とアルミダ帝国が戦争を起こすだと?」
ダークネスがルシフェルに信じられなさそうに聞いた。グレム帝国とアルミダ帝国とはこのベネスタンテ星でも上の部類に入る、世界でもかなり知名度の高い大国だった。その大国は力の強い貴族たちの連盟でできていた。
「あぁ、そうみたいなんだ。《霧》と《砂漠》の偵察部隊たちの話によると俺たちがさんざん暴れたせいか、お互いがお互いを潰して、戦力を手に入れようとしているみたいだぜ」
ルシフェルはダークネスにそう説明した。
「…………別にあんな連中の味方するわけじゃないんだが、あいつらには協力って言葉は知らないのか?下級や中級貴族たちが治めている国は自分の立場に遅くながらも気づいて、ようやく同盟を組んだりしたんだぞ」
「まぁな。連中、無駄にプライドが高いからな………。貴族って、自分たちの手で何とかするって考えを持っているやつばかりだし………」
「で、いざ、自分がやばくなったら、みっともなく喚くんだろうな…………。貴族って、自分よりも強い奴が現れたら一気に臆病者になる連中だな………」
「そうだな………。現に今まで見てきた貴族たちも皆、そんな感じだしな」
ダークネスとルシフェルはお互い、貴族に呆れながら話していた。
「………それで、その戦争に関しては俺たちはいつも通り、傍観だとさ」
「…………まぁ、そうだろうな。俺たちが首を突っ込んでも意味はないし、このままつぶし合いしてくれる方がこっちも都合がいい」
「そうだな。仮にもあの2つの国はベネスタンテ星でも1番ではないにしても、有数の大国だ。戦力も強大に違いない………。不用意に攻めても、俺たちがやられるだけだ」
ルシフェルの言うとおり、ベネスタンテ星の大国の住人になったら、アルコバレーノや
「…………傲慢な考えを持つことが多いお前にしちゃ、珍しいな」
「…………俺だって、ちゃんと相手を判断するさ。必要のない無謀な戦いなんか、したくないしな」
「まぁ、そうだろうな」
ダークネスの言葉にルシフェルはジト目で睨んだ。それに対して、ダークネスはどこ吹く風のように受け流した。
「チッ!…………まぁ、いい。この状態だと、俺たちはしばらくは何かするってことはなさそうだな」
「あぁ。せいぜい、連中が攻め込んでこないか警戒するぐらいだな」
「……………ってことは明日の休暇も例の家に行くのか?」
「まぁな」
「ふ~ん………。まぁ、気をつけな」
ルシフェルは質問しておきながら、興味なさそうに言った。
「あぁ、そうさせてもらうよ」
ダークネスも特に気にせずにそう言った。そして、2人はその後、訓練に戻った。
翌日、ダークネスは昨日、ルシフェルに言ったとおり、光城家に向かった。
ガチャッ
「お!おかえり、輝夜」
ダークネスが入ると、たまたま玄関近くにいた聖輝に声をかけられた。
「……………ただいま」
それに対して、ダークネスは照れくさそうに返事した。
「明夜と明聖なら、リビングにいるよ」
「あぁ」
そう言って、2人はリビングに向かった。そこにはベビーベッドで寝転んでいる明聖の面倒を見ていた明夜がいた。
「あら、おかえりなさい」
ダークネスに気づいた明夜が声をかけてきた。
「……………ただいま」
そして、ダークネスは聖輝のときと同様に照れくさそうに返事した。
「バブ!」
すると、ダークネスに気づいた明聖が嬉しそうに笑って、手を伸ばしていた。
「フッ…………」
それを見たダークネスは優しく微笑んで、自分の手を伸ばして、明聖をじゃれつかせた。
「私たちでもなかなか、あんな優しい顔つきにできなかったのに明聖だと1発よ。さすが、私たちの子供ね」
「そうだな。………でも、ちょっと悔しい気持ちもあるな…………」
「あ。それ、わかるわ。でも、かわいいは正義だから仕方ないよ!」
明聖をじゃれつかせていたダークネスの背後では
「そうだ、明聖。今、こいつを呼ぶからな」
そう言って、ダークネスは自分のリングに《闇》の炎を灯して、ポケットに入れていた匣に注入した。
「ガウッ!」
すると、小型サイズのドレイクが匣から飛び出した。ドレイクは飛び出すとベビーベッドの中に入って、明聖に向かい合った。
「キャハハ♪」
「ガウッ♪」
すると、明聖とドレイクはじゃれつき始めた。実は明聖とドレイクはダークネスが明聖と初めて会った日に既に紹介していたのだ。最初は小型とはいえ明聖がドレイクを怖がって泣き出さないか心配だったが、それは杞憂だった。明聖はドレイクと対面すると自分の体と同じくらいの大きさのドレイクを見ておもちゃができたと思ったのか喜んだのだ。ドレイクも明聖の遊び相手を快く引き受けたのだ。ドレイクは自分の爪などで明聖を傷つけないように気をつけて、明聖を楽しませていた。
「……………………」
そんな1人と1匹にダークネスは微笑ましく見ていた。ロヴィーノ教団でのダークネスしか知らないルシフェルたちが見たら、絶対、驚くだろう。
「………………ん?あれは?」
ダークネスが明聖とドレイクから視線をそらすと棚の上にあった物に目がついた。ダークネスはそれを手に取ってみると、それは写真立てだった。
「…………もうこの写真を飾っているのか」
その写真には明聖を抱きかかえた明夜と聖輝とダークネスとドレイクが写った写真だった。聖輝と明夜とドレイクがカメラのほうに向いているのに対して、ダークネスは視線をそらしていたが…………。
「当然よ!せっかくの家族写真なんですもの!飾らなきゃ、損よ!」
「まぁ、欲を言えば、輝夜もカメラのほうに向いてほしかったがな…………」
「…………うるさい」
実はこの写真もダークネスが明聖と初めて会った日に撮ったものだった。その時のダークネスは気遣ったつもりか自分は写るつもりがなかったのか(おそらく後者だろう)、「自分が撮ってやる」と言って、カメラを持ったが聖輝と明夜が「輝夜も写ろう!」と言って、カメラをダークネスから取り上げて、いつの間にか用意した三脚に取り付け始めた。ダークネスはそれを見て諦め、渋々と撮られることになったのだ。
「………………それにしても、あなたも雰囲気が柔らかくなったわね」
「は?」
「そうだな。初めて会ったときは少なくとも今よりはもっと暗い雰囲気を纏っていたように見えたな。それも、他の革命軍たちとは比べものにならないものをね…………」
「…………………」
聖輝と明夜が当時のことを思い出しながら話して、ダークネスは黙って聞いた。2人から見て、当時のダークネスは何か闇に包まれていて、ダークネスの目も一切何もこもっていないように見えた。態度とかではなく、直感的にそう感じたのだ。だが、今のダークネスはその雰囲気が柔らかくなり、目も僅かながらも光がこもっているように見えたのだ。
「………………まぁ、あんたらがそう見えるって言うなら、それはあんたら一家のおかげだろ」
それを聞いてダークネスが呟いた。
「ドレイクは俺にとっても大事な相棒だが、あいつは《大空》の匣みたいに主に影響されるみたいだから、ある意味、俺みたいなものだ。だから、闇である俺にとって光にならなかった」
ダークネスは明聖と遊んでいるドレイクに目を向けて、そう言った。
「だが、あんたら一家に関わって、あんたらの自分勝手に振り回されることも、正直に言ってムカつくこともしばしばあったが、なぜか胸が温かくなったように感じたんだ」
すると、次は聖輝、明夜、そして明聖に目を向けて、ダークネスは言った。さらりと毒を混ぜて………。
「輝夜って、たまに毒舌だよね………」
「そうだな…………」
それを聞いて、明夜と聖輝は顔を引きつらせた。
「……………まぁ。それに悪くないって感じた。だから、感謝する。………………ありがとう。俺にとって、あんたらは光だ」
そして、最後にダークネスは照れくさそうに礼を言った。
「輝夜…………」
「………………」
そんなダークネスに2人は優しい目で見た。
「………………それなら、いい加減、僕のことを『父さん』って呼んでほしいな」
「あ!私も『明夜』じゃなくて、『母さん』って呼んでほしいわ!」
「断る」
最後の最後で聖輝と明夜は雰囲気をぶち壊して、ダークネスは即答した。その後、いつも通り、明聖の面倒を見たり、談笑したり、一緒に食事をして過ごした。
その後、夜になり、ダークネスは光城家に挨拶して別れて、ロヴィーノ教団の本部に向かって帰っていた。そんな道の途中だった。
「そこのあなた、待ってください」
背後から誰かに呼び掛けられて、ダークネスは立ち止まった。振り返るとそこにはトレンチコートを着ていた20代の長い金髪を後ろに1本に纏めていた女性が立っていた。
「あなたはロヴィーノ教団のダークネスさんですね」
「そうだが…………。誰だ、お前?」
「これは失礼しました。私は『アジェンテ』のエレオノーラと言います」
「アジェンテ…………」
女性、エレオノーラの所属する組織の名前にダークネスは思い当たる節があった。『アジェンテ』、それはロヴィーノ教団とは同盟を組んでいない数少ない革命軍の1つだった。ちなみに同盟を組んでいない理由は定かではなかった。アジェンテは戦闘方面はそこまでではなかったが情報操作と研究はお手の物だった。その分野に関してはロヴィーノ教団を上回ると言っても過言ではなかった。同盟を組んでいないにしても、ロヴィーノ教団はアジェンテに依頼することは少なくなかった。そして、彼女が来ていたコートの胸の部分にはアジェンテのシンボルがあった。それにより、ダークネスは嘘ではないと思った。
「そのアジェンテの者が俺に何の用なんですか?」
同盟を組んでいないとはいえ、自分が所属する組織との仲を拗らせるわけにもいかなかったので敬語を使って話した。
「単刀直入に言います。私たち、アジェンテに入ってほしいのです」
「は?」
エレオノーラにそう言われて、ダークネスは一瞬、理解できなかった。
「…………いったい、どういうことですか?」
「はい。最初から説明させてもらいます。実は先程、お昼前にロヴィーノ教団から我々、アジェンテに同盟を申し込んできました」
ロヴィーノ教団が情報操作に優れているアジェンテと同盟を結びたかったことは知っていたので、別におかしい話ではなかった。
「そこで、我々はある1つの条件で同盟することを約束しました」
「条件………ですか。それで、その条件は俺への勧誘と関係があるのですか?」
「はい、そうです。我々が提示した条件は『ダークネスを我々、アジェンテの一員として迎える』というものです」
「!?」
アジェンテが提示した条件にダークネスは驚いた。
「……………それで、あなたがここにいるということはロヴィーノ教団の答えはそれを了承したということですか?」
「………いえ、半分は合っていますが半分は違います。厳密には『その答えはダークネスに任せる』というものです」
(俺に責任を全て負わせたな、あのじじい共)
エレオノーラの言葉にダークネスは心の中で上層部に毒づいた。
「(……まぁ、俺の意思が尊重されているだけ、まだマシって考えるか)………そうですか。……しかし、なぜ俺なんですか?」
ダークネスは心の中で上層部にフォローを入れて、気になったことを聞いた。
「はい。ご存じの通り、我々は情報操作と研究は優れていると自負していますが、その代わりに戦力が乏しいのです」
「それで、俺に入ってほしいってことですか?」
「はい、そうです。同盟してくれるとはいえ、やはり、こちらも戦力は上げたいので………」
「それなら、なぜ俺ですか?俺は確かに戦場に出ていますが、他にも適した人物がいたのでは?」
「それは、あなたの《闇》の炎に興味を持ったというのが1番の理由ですね。あなたの炎は今まで見たことのないものです。だからこそ、研究のしがいがあるというものなのです」
「…………………」
ダークネスはエレオノーラの説明に辻褄も合っていると思い、納得した。しかし、だからといって、アジェンテに転属することに悩んだ。別にロヴィーノ教団にいなければいけない特別な理由があるわけではない。しかし、ただ、なんとなく、そう思ったのだ。それを見て察したのかエレオノーラが声をかけてきた。
「もちろん、受け入れてくれるならば、それなりの待遇はします」
「……………あいにく、俺は富も地位も名誉も興味ないんです」
これはダークネスの本心だった。ダークネスはそんなもののために戦っているわけではなかった。これはルシフェル、豪、スロウスにも同じことが言えた。
「……………そうですか。それなら、あなたが仲良くされている
「!?」
エレオノーラの言葉にダークネスは驚いた。そして、それと同時に警戒もした。
「……………なぜ、あなたがそれを………?」
「……………失礼ながらも私たちはあなたが仲良くされているご家族について調べさせてもらいました。まさか、そのような一族がいたことに我々も驚きました」
エレオノーラはその時のことを思い出している様子だった。
「それで、この条件はどうですか?あのご家族が持っている炎は貴族たちに知られたら、きっと狙われます。しかし、我々ならその情報を隠すことができます」
「……………………」
エレオノーラの言葉にダークネスは考えた。確かにアジェンテの情報操作は一流だった。それであの一家を守ることができるなら、その方がいいかもしれない。もし、万が一、アジェンテの者があの一家を利用しようとするなら自分が守ればいい話だ。そう考えて、ダークネスはエレオノーラに向き直った。
「………………わかりました。その条件、飲みます」
「ありがとうございます」
エレオノーラはそう言って頭を下げた。そして、頭を上げるとこう言った。
「それでは、早速で夜分にすみませんがついてきてくれませんか?こういうのは一刻でも早く、手続きを行ったほうがいいので」
「わかりました」
そう言って、エレオノーラは後ろに振り向き、ダークネスは彼女の後ろをついていった。…………………………しかし、ダークネスは気づいていなかった。
「………………………」
エレオノーラの口がニヤリと歪めていたことに………………。