家庭教師ヒットマンREBORN! ~光と闇の奇跡~   作:R0

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ダークネスの悩み

リヴォルッツィオーネからロヴィーノ教団に変わって、2年。ベネスタンテ星の社会バランスが変わり始めていた。ロヴィーノ教団が最初に襲撃した貴族は世界的に見れば小さいが、ある区域では1番の貴族だったために、そこが墜ちたことで周りにいた地位の低い貴族たちが混乱した。その混乱に乗じて、ロヴィーノ教団は攻めこんで、その区域は完全に貴族たちは手放すことになった。それは豪が下級貴族を壊滅させたことと比べものにならない、平民たちにとって本当の意味での革命軍の初の勝利だった。

 

ロヴィーノ教団が与えた影響はそれだけではなかった。貴族に勝ったことでロヴィーノ教団の名前は瞬く間に世界中に広がった。そして、ロヴィーノ教団という名前により、《神々至上サイキョウ(最強・最恐・最凶)の邪神》のロヴィーノが平民たちの味方をしてくれているという噂も広がった。邪神とはいえ3つのサイキョウ(最強・最恐・最凶)を持っているために、戦うことを諦めていた平民たちは心強く思い、勇気づけられて、他の革命軍はロヴィーノ教団と同盟するようになり、今まで戦うことを諦めていた革命軍に入っていない平民たちも貴族たちにばれないように革命軍に物資などの協力をするようになった。中には、協力しない平民たちもいたが、それでも大半の平民が協力するようになったので傾向としてはいい方向に進んでいる。それに対して、貴族たちはプライドが高いために、同盟を結ぼうとしていなかった。それどころか、戦力の強化をしようと貴族たちで領地の争いを行っていた。余談だが、これを知ったダークネスたちはもの凄く呆れていた。それに関しては、自分たちの関係無いところでつぶし合いしてくれるなら好都合だということで放置した。

 

さらに、最初の貴族への襲撃でダークネスとルシフェルが最深部に乗り込んだことで、「ロヴィーノ教団は見たことのない炎を扱う」という噂も広まっていた。ダークネスの《闇》の炎とルシフェルの《傲慢の炎》、その後の貴族への襲撃で豪の《強欲の炎》、そして、最初の貴族への襲撃後にロヴィーノ教団に入団したスロウスの《雨》と《大空》を《闇》の炎で融合して生まれた《怠惰の炎》がそれを象徴した。大地の七属性よりも珍しい炎に平民たちは期待を寄せていた。

 

 

 

 

そんなある日の訓練所では………………

 

ドーーーーーン!!!!

 

「がっ!!!?」

 

ダークネスが壁に激突して、呻き声をあげた。

 

カチャッ…………

 

「はい。終わり」

 

「くっ…………」

 

ルシフェルにハルバードを突きつけられて、ダークネスは悔しそうに顔を歪めた。今、2人は模擬戦をしていたのだ。そして、結果は見ての通り、ルシフェルの勝利でダークネスの敗北だった。

 

ウィーン………

 

「ん?模擬戦は終わったのでござるか?」

 

ルシフェルが武器を納めて、ダークネスが立ち上がると豪が入ってきた。

 

「……………まぁな」

 

「お前はまた、貴族たちの死体を改造でもしていたのか?」

 

「そうでござる♪」

 

ルシフェルの言うとおり、豪は貴族たちの戦いが始まってから、貴族たちの死体を回収して武器を取り付けたりして、戦闘用に改造するようになったのだ。ロヴィーノ教団のメンバーは全員、そのことを知っていた。というのも、豪がリヴォルッツィオーネに入る前に自分の両親の改造死体で貴族を壊滅させたり、模擬戦で改造死体を使ったりしているので、最初は驚きはしたもののだんだん慣れたのだ。しかも、ロヴィーノがどんどんやるように薦めたために豪も調子に乗って死体を改造していくのだった。(余談だが、ロヴィーノは上層部、下っ端、関係なしにロヴィーノ教団の団員たちと自由に交流しているのだ。)そして、それにより豪は《死の人形遣い(カダーヴェリコ・プパーロ)》と呼ばれるようになった。

 

「ふふふ。貴族たちは無駄に名誉にこだわるでござるからな。死後も人として扱われないのは、奴らにとっては最大の屈辱になるでござる♪」

 

「確かにな♪」

 

「…………お前ら、いい趣味してるな」

 

「ふふふ。褒め言葉として受け取るでござる♪」

 

ダークネスの皮肉を豪は受け流した。それを見て、ダークネスは呆れてため息をついた。しかし、ダークネスも否定する気はなかった。豪が死体を改造する相手は貴族か革命軍にスパイとして入っていた裏切り者だったりで、同じ革命軍や平民たちだと、寂しさをまぎわらすために改造した豪の両親以外はいなかった。非人道的だということはわかっていたが、そんな奴らがどうなろうとダークネスの知ったことではなかった。

 

「それよりも、模擬戦の結果はどうだったのでござるか?」

 

「あぁ。俺の勝ち」

 

「…………………」

 

豪の質問にルシフェルが答えて、それを聞いたダークネスがムスッと顔をしかめた。

 

「またでござるか……………。ダークネスも動きは悪くないと思うのでござるが………………。やはり先輩を超えてロヴィーノ教団で1番の実力を持っているルシフェルとの模擬戦は無理だったのではないでござるか?」

 

「ま、おまけに俺は半分、手を抜いていたしな」

 

「チッ………」

 

ルシフェルの言葉にダークネスが舌打ちをした。ダークネスもわかっていた。今、自分と戦っていたルシフェルが本気を出していないことがわかっていたのだ。

 

「そもそも、炎の純度も俺とお前とでかなり違っていたからな」

 

「…………………」

 

「純度でござるか?」

 

「あぁ。俺の《傲慢の炎》は純度が高いが……………、ダークネスの《闇》の炎はそういうのが低かったんだよな………。それも、かなりな……」

 

「ダークネスがいくら損得のない戦いにやる気が起きないとはいっても、模擬戦の最中でそんなことがあるのでござるか?」

 

「………………《闇》の炎は………そこまで特殊なのか……………?」

 

ルシフェルの言葉に豪がそう言うと、もう1人、誰かが声をかけてきた。

 

「スロウス、いつから起きていたんだ?」

 

ルシフェルはスロウスにそう聞いた。実はスロウスはずっと前から、ダークネスとルシフェルの模擬戦の最中も訓練所の片隅で昼寝をしていたのだ。

 

「……………つい、さっき……………。……………それより………………俺の質問は…………?」

 

「あぁ。…………いや、さすがにそこまではいかないだろう。《闇》の炎も死ぬ気の炎の1つだ。やっぱり、()()が左右されると思うぜ」

 

「…………………俺には覚悟が足りないって言うのか?」

 

ルシフェルの言葉にダークネスは顔をしかめて、そう言った。

 

「あぁ。そうだが?」

 

あっさりと言うルシフェルにダークネスは少し顔を引きつらせた。

 

「容赦なく言ってくれるな……」

 

「俺はそういうの気にしないしな。お前もそうだろ?」

 

「……………否定はしない」

 

「やれやれでござる………」

 

「………………………」

 

ルシフェルとダークネスの言葉に豪は呆れて、スロウスは興味なさそうにしていた。

 

「それで、なぜお前の覚悟が足りないかというと……………」

 

「………………………」

 

「単純に貴族たちへの()()()()()()()()からだと思うぜ」

 

「………………は?」

 

ダークネスは訳がわからないという反応をした。

 

「憎しみが足りない………だと?」

 

「あぁ。そうだ。俺はあのゴミ共にお袋の病気を治す邪魔されて、親父を殺された。豪は両親を殺された」

 

「………………………」

 

ルシフェルの言葉に豪が当時のことを思い出して、顔をしかめた。

 

「それから、スロウスは奴隷として理不尽に働かされたときの憎しみがある。………………………そうは見えないが………」

 

「見えないな……………」

 

「見えないでござるね………………」

 

「……見えないだろうね………………」

 

ルシフェルの言葉にダークネスと豪だけではなく、スロウスまでもが同意した。ここに、クソビッチとダークネスたちに呼ばれる女がいたら、「いや、自分のことでしょ!!?」とツッコんでいたが、あいにく彼女はまだ入団していなかった。そのおかげでこの中にはツッコミ役がいなかった。それは置いといて、ルシフェルの言うとおり、スロウスは物心がついた頃から親というものはいなくて、いわば孤児だった。他の子供たちと一緒に孤児院にいたがある日に貴族にさらわれて、奴隷として働かされるようになった。碌な休憩も許さず、何か失敗するたびに必要以上に責めるのだ。中には体罰というのもあった。それで死んだ奴隷や孤児院の仲間もいた。だから、スロウスの内心は貴族たちの憎しみがあったのだ。解放されてから、ロヴィーノ教団に入ったスロウスはやる気の無さに問題はあったが、ルシフェル、豪に次いでダークネスの《闇》の炎の融合に成功した人物であり、覇気の無さと《怠惰の炎》を並行して使った事による暗殺に特化した人物であることですぐに正式な団員として認められた。

 

「まぁ、ともかく、俺らはそう言った感じで貴族たちへの憎しみがある。俺らはその憎しみを覚悟に変えて、いつでもあいつらと戦えるようにしている。………………だけど、お前はどうなんだ?」

 

「俺は………………」

 

ルシフェルに言われて、ダークネスは考えた。ダークネスには確かに貴族たちへの憎しみというものを明確に持っているわけではなかった。もちろんダークネスも貴族たちを憎んでいる。しかし、むしろ自分の両親への憎しみのほうが強かった。そして、ダークネスの両親は10年前に自分自身が殺したのだ。

 

「…………………部屋に戻る」

 

ダークネスはそう言って、訓練所を出て行った。

 

「……………行っちゃった……………」

 

「まぁ、仕方ないか……」

 

それを見て、スロウスが呟き、ルシフェルは肩をすくめた。

 

「…………しかし、ルシフェル。おぬしの言うとおり、我輩たちの覚悟は憎しみから来ているのでござろう。そこは、否定しないでござるが………。今更、ダークネスに貴族に憎しみを向けろというのも無理な話ではないでござるか?」

 

すると、豪が疑問に思って聞いたみた。

 

「あぁ~~~~……………。まぁ、そこはダークネス自身が何とかするだろ。あいつ、頭いいし…………。それに覚悟の全てが憎しみから来ているわけじゃないしさ!」

 

それに対して、ルシフェルは投げやりに答えた。

 

「さっきと言っていることが変わっているでござる…………」

 

「………要は……何も考えていなかった…………………」

 

ルシフェルの答えに呆れる豪とスロウスだった。

 

「う、うるせーな!!おら!!それよりも、例の改造死体のテストをするために来たんだろ!?俺が相手してやるから、とっとと用意しろ!!!」

 

「やれやれ、仕方ないでござるね…。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうでござる」

 

「ふぁぁぁ~~っ………………」

 

そして、この後、ルシフェルと豪で模擬戦することになり、スロウスは部屋まで移動するのも面倒くさいのか再び、訓練所の片隅で寝始めた。

 

 

 

 

~その日から数日後~

 

バーーーーン!!!!

 

ドカーーーーン!!!!

 

バンッ!!!バンッ!!!バンッ!!!バンッ!!!バンッ!!!

 

ロヴィーノ教団がまた、貴族たちに攻め込んでいた。辺りは武器や匣兵器による爆炎などで戦場と化していた。

 

「待ちやがれ!!!」

 

「逃がすもんか!!!」

 

たくさんの貴族の兵士たちが必死に追いかけていたのは………………

 

「あいつが例の黒い死ぬ気の炎を使う奴だ!!!絶対に逃がしてはならんぞ!!!!」

 

『ハッ!!!!』

 

ダークネスだった。

 

バンッバンッ!!!

 

(これほどの多くの兵士を連れてこられたなら十分か……)

 

ダークネスは後退しながら、ガンブレードで炎の弾丸を撃っていた。そして、心の中でそう考えていた。兵士たちは知らないが今回はダークネスは囮として活動していた。今までの戦いでダークネスの知名度が上がっていた。ダークネスの持つ得体の知れない炎が平民たちとは逆に貴族たちは警戒していたのだ。だから、ダークネスを消そうと奮起したのだ。それを呼んでいたロヴィーノ教団はそのダークネスを囮に使うことにしたのだ。他の場所では《傲慢の炎》を持つルシフェルと《強欲の炎》を持つ豪が囮になっていた。この貴族でのとどめはスロウスが行う手筈になっている。

 

「………………………」

 

ダークネスは黙って、両手のガンブレードに炎を込め始めた。相手の兵士たちはダークネスが何をするのか気づいていなかった。

 

「《漆黒の雨(ピオッジャ・ネーロ・コルヴィーノ)》」

 

バババババババババババババババババババババババババババンッ!!!

 

『なっ!!!?』

 

ダークネスはガンブレードから無数の《闇》の炎の弾丸が撃ち出した。兵士たちはその量に驚いた。そして、兵士たちはかわすことができず、無数の弾丸が襲いかかった。

 

『ぐあぁぁぁぁーーーー!!!!?』

 

兵士たちは無数の《闇》の炎の弾丸を受けて、悲鳴を上げた。そして、しばらく経つと……………

 

『………………………………』

 

兵士たちは物言わぬ屍となった。

 

「………………………………」

 

ダークネスは多くの兵士の死体を気にせずに自分の手を見ながら、数日前のことを思い出していた。

 

(覚悟が足りないか………………)

 

ダークネスはあの後から周りに迷惑をかけないようにずっと考えていた。ダークネスは全ての覚悟が憎しみから来るものではないというのは、わかっていた。しかし、それでも、ダークネスは何一つ、覚悟に成り代わるものが思いつかなかった。

 

「……………ハァ…」

 

ダークネスはそんな自分に嫌気がさして、ため息をついた。

 

…………………………………………ダークネスが油断している、そんなときだった。

 

グサッ!!!!

 

「ガハッ!!!?」

 

急に背中から何者かに刺されて、ダークネスは血を吐いた。

 

ジュウウウウウウッ…………

 

「ガアァァァァ!!!!?」

 

しかも、内側から焼けていく痛みにダークネスは悲鳴を上げた。自分の腹を見てみると《嵐》の炎が纏ったナイフの先が見えた。《嵐》の分解でダークネスの体内を分解しているのだろう。続いて、後ろを見てみると、そこには…………………

 

「ハァッ………ハァッ………ハァッ…………」

 

荒く息をついていた貴族の兵士がいた。どうやら、ダークネスが倒した兵士たちとは別に他の場所にいたみたいだった。

 

「くっ!!!」

 

ドガッ!!!

 

「ガッ!!!?」

 

ダークネスはその兵士を後ろに蹴り飛ばした。その時に刺さっていたナイフも一緒にダークネスの体から抜けた。

 

バンッ!!!

 

そして、そのままダークネスは炎の弾丸を撃って、兵士の眉間を撃ち抜いた。

 

「………ハァッ………ハァッ………ハァッ…………」

 

ダークネスはナイフが抜けたことで腹と背中から止めどなく、血が流れていた。

 

「………ハァッ………ハァッ………ハァッ…………チッ!!!」

 

ダークネスは傷口を手で押さえて、このままこの場所にいたらまずいと思い、移動を始めた。

 

 

 

 

 

「…………ハァッ………ハァッ………ハァッ…………」

 

ダークネスは荒く息をつきながら、森の中を逃げていた。

 

「…………ハァッ………ハァッ………ハァッ…………もう大丈夫………か……………?」

 

ダークネスは敵地から離れたことを確認して、近くにあった木にもたれかかった。しかし、安心したのもつかの間だった。

 

「………ハァッ………ハァッ………ハァッ…………(……………やばい………………血を…………流しすぎた……………)」

 

ダークネスは自分の傷口から流れ出た血の量からそう感じた。しかも、体内を分解されたために、さらにひどい傷になっていたのだ。そして、それと同時に目がかすんできた。最悪なことに近くに味方はおらず、通信機は逃げている最中にどこかに落としたみたいだった。

 

「…………ハァッ………ハァッ………ハァッ…………(…………俺は……………死ぬのか…………?)」

 

ダークネスは自分の死期を悟った。

 

「…………ハァッ………ハァッ………ハァッ…………(…………こんな………わけわからない形で…………死ぬなんてな…………)」

 

ダークネスは自嘲気味にそう思った。

 

―………………か―

 

(…………やべ……もう何も見えないうえに……幻聴まで…聞こえ始めやがった…………)

 

ダークネスがいるのは普段だれも寄りつかない森だった。作戦前に近くにそのような森があると聞いていたためにダークネスは幻聴だと思ったのだ。

 

「(………まぁ、………何でもいいや…………。………ただ…………)………まだ…………生きたかったな……………」

 

ダークネスはそう呟いて、息を引き取った。


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