家庭教師ヒットマンREBORN! ~光と闇の奇跡~   作:R0

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~追憶~ 闇夜の過去編
ダークネス


~20年前~ベネスタンテ星

 

そこは、日本語に直したら『豊かな星』という名前とは裏腹に数万年前から9割近くの土地が荒廃していた星だった。しかし、その星の大きさは恒星と同じくらいあるために、豊かな土地もいろんな場所にそれなりの広さがある。その土地には王族や貴族といった力を持った人々が暮らしていた。そして、それ以外の荒廃した土地には平民、貧民といった人々が暮らしていた。そこは生きていくだけなら困ることはないが、時折、暇を持て余した貴族たちが嫌がらせをする。平民たちはそれに抗うために軍隊を作って、貴族たちと戦争を起こすことがよくある。だが、貴族たちはいかんせん、過去に土地の争奪戦で勝ち抜いた者たちの集まりだったために力があり、資源もそちら側が有利であり、おまけに平民たちの中にいる腕のある兵士を交渉して引き抜いているために、平民たちはいつも貴族たちに敗北してしまう。戦争で負けた平民の兵士たちは奴隷として扱われたり、見せしめとして処刑された。そんなことが長い間、続いた場所だった。

 

そして、そんな平民たちが暮らす土地の中でもより貧相な場所では………………

 

ドガッ!!!!

 

「ぐっ……………!!?」

 

すでにボロボロの6歳ぐらいの黒髪の少年が少年の父親と思われる灰色の髪の男に殴られていた。側には少年の母親と思われる黒色の長髪の女が冷めた視線で少年を見ていた。少年は殴られて、床に倒れた。

 

「こんな簡単な仕事もできないとは、本当に役に立たないガキだな!!!」

 

「本当ね…………ただでさえ、()()()()()()()()を持っていて気持ち悪いのにね…………」

 

男は少年に罵声を浴びせて、女は気味が悪そうな目で見ながら、そう言った。

 

「……………………」

 

少年は何も言わず無表情で立ち上がった。

 

「ちっ!!今日もテメーは飯抜きだ!!!納屋で寝てろ、()()()()()!!!」

 

その少年は齢6歳のダークネスだった。このときはまだ、輝夜と呼ばれていないようだ。

 

「………………わかった」

 

男に言われて、少年もといダークネスはフラフラとなりながらも部屋から出て行った。

 

 

 

 

ダークネスは親から虐待を受けていた。ダークネスの家は平民の中でもより貧しい貧民だった。父親は働いていた仕事場で問題を起こしてクビになり、酒を飲んでばかりの生活を送っていた。母親も浪費癖があり、苦しい状況にもかかわらずお金を使ってしまう。そんな家での収入源は家の傍にある畑の僅かな作物と()()だった。たまに父親が店から品物を奪ったりするが、基本はまだ6歳のダークネスにそれをやらせている。しかし、当時のダークネスはまだ6歳のために盗みを失敗することがほとんどだった。そして、捕まったダークネスはその店の店主に痛めつけられてボロボロになり、帰ってきたら失敗したということで今のように怒鳴られながら殴られるのだ。仮に盗めたとしても、できて当然だと言わんばかりの態度をとられるのだ。

 

しかも、ダークネスが虐待される理由はそれだけではなかった。母親が言っていた『得体の知れない炎』………。これは《闇》の炎のことだった。この星では、死ぬ気の炎は一般的に流通していた。しかし、知られていたのは《大空》・《嵐》・《雨》・《雲》・《晴》・《雷》・《霧》の大空の七属性、それよりも少ないが《大地》・《氷河》・《森》・《山》・《沼》・《川》・《砂漠》の大地の七属性の合計14の炎だった。《夜》・《闇》・《光》は世間には知られていなかった。ダークネスの両親も父親が《雷》、母親が《雨》の炎を持っていた。しかし、ダークネスはそのどちらの炎も持っておらず、黒い炎の1種類だけだった。産まれてすぐに体が燃え上がって判明した謎の炎にダークネスの両親は性質を調べた。見たことの無い炎に不気味さを感じるがこの炎が自分たちの今後の生活に役に立つならば、という考えにより期待していたが、その時に調べた結果は普通の炎と同じように対象物を燃やし尽くしたり、強化したりするぐらいだった。それぐらいなら、前者は《嵐》の炎、後者は《晴》の炎で何とかなるため、2人はがっかりした。そして、残ったのは不気味さだけだった。一応、自分達の子だということで両親は育てていたが、ある程度成長するとだんだんと粗雑に扱うようになり、今の状態になった。

 

 

 

 

「……………………」

 

ダークネスは納屋の中で痣だらけの体を手当てしないまま、膝を抱えて、座っていた。包帯などは、家のほうにあるためにできないのだ。

 

ぐ~~~っ

 

「……………………」

 

ダークネスの腹の虫がなった。もう、ここ数日、何も食べていなかった。近くにある川の水で腹を満たしているだけだった。しかし、ダークネスはそんなことは気にならないと言わんばかりに黙っていた。

 

「…………………どうすればいいかな?」

 

ダークネスはポツリと光のこもっていない目でつぶやいた。それは、盗みに成功する方法なのか、虐待されずにすむ方法なのか、どうすれば家族仲良くなれるのか、この腐った世界が平和になる方法か、それとも全部か、つぶやいたダークネス自身もわかっていなかった。ただ、痛む体も空腹も我慢して何かを考えていた。

 

『いっそのこと、あの2人を殺したらどうかな?』

 

すると、ダークネスの耳にそんな声が聞こえた。ダークネスは顔を上げて、周りを見渡した。しかし、周りには自分以外誰もいなかった。

 

「……………だれ?どこにいるの?」

 

『私が誰なのか、どこにいるのか、そんなことはどうでもいいさ。それよりも、貴様はいいのかな?』

 

「…………何が?」

 

ダークネスは聞こえてきた声に何者なのか、どこにいるのか聞いたが、聞こえた声は答えてくれず、逆に問いかけた。

 

『貴様の現状に決まっているさ!!いつも、いつも、父親に暴力を振るわれて、母親は見てみぬふりして気味悪そうに見る。このままだと、貴様死ぬぞ?』

 

「………………………」

 

『私はそうなる前にあの2人を殺すことをおすすめするけど?』

 

声はダークネスにそう声をかけた、自分が殺される前に自分が殺せと。確かに、この状況が続いたら、ダークネスの命は危ない。だからと言って、聞こえてきた声の言う通りに実の両親を殺すのはまずい。はたして、ダークネスの答えは……………

 

「……………………いやだ」

 

殺さないだった。

 

『何?』

 

聞こえてきた声は訝しげそうに言った。

 

『あのクズの2人を殺さないだと?いいのか?貴様死ぬぞ?』

 

「大丈夫だよ。確かに、あの2人はぼくのことを殴ったり、悪口言ったりするけど、全部、ぼくが悪いんだ。ぼくがしっかりしていたら、ちゃんとごはんも食べれるし、家の中で暖かい布団で寝かしてくれるから…………」

 

『………………………』

 

「それに悪いのは貴族だよ。貴族がくだらないことをしなかったら、こんなことにならなかったんだ………」

 

『!!』

 

ダークネスは気づいていなかったが、声の主は驚いた。無意識にダークネスは何もこもっていなかった目にどす黒く見えて、純粋な闇を宿していることを………。

 

『くっくっくっ』

 

「なにがおかしいの?」

 

姿が見えないためにダークネスは声の主にそう言った。

 

『いや、なんでもない。まぁ、貴様がそう言うなら、私もこれ以上は何も言わないさ。せいぜい、生き延びることだな』

 

声の主がそう言うと、もうダークネスの耳には何も聞こえなかった。

 

「………………なんだったんだろう?」

 

ダークネスは首をかしげて、そう言った。いつも通りに暮らしていたら、急に謎の声が聞こえたのだ。そう思ってしまうのは当然だ。ちなみにダークネスの目は元の何もこもっていない目に戻っていた。

 

「父さんと母さんを殺すか………………」

 

ダークネスは誰にも聞こえないぐらい小さく呟いた。少し思案すると、こう言った。

 

「…………………くだらないな」

 

 

 

 

ここは何もない真っ暗の空間。

 

ボウッ!!!

 

そこに、周りの空間とは真逆の真っ白の炎が燃え上がった。

 

『クックックッ。なかなかおもしろい子供だったな』

 

その白い炎から笑い声が聞こえた。

 

『殺さないって言った時は期待外れかと思ったが、あの目は……………』

 

声の主はその時のダークネスの目を思い出していた。

 

『クックックッ。あの子供は私とは似ているようで全く違う闇を持っている。まさしく、ダークネス()だ』

 

声の主は笑いながら、そう言った。

 

『これは楽しみだ。あの子供には私から()()()()でもいれようかな?その差し入れを手にした、あの子供はいったいどうするのやら?』

 

声の主は楽しそうに言った。この先、何が起きるのか、このときはまだ誰もわからなかった。

 

 

 

 

ダークネスが納屋で不思議な体験をした日から数日経ったある日。

 

ガシャンッ!!!!

 

「待ちやがれ!!!このクソガキ!!!!」

 

「ハァッ……………ハァッ…………」

 

平民たちが暮らす町の中でダークネスが盗みを働いていた。ダークネスが盗んだいくつかの物を取り返すために店主が追いかけていた。ダークネスも捕まるわけにはいかないと必死に逃げた。今回、盗んだものはそれほどの価値があると思っている。

 

「くそ!!!どこに行きやがったんだ、あのガキ!!?」

 

ダークネスを見失った店主はそう言って辺りを見渡すと、ダークネスを探しに移動した。

 

「……………行ったかな?」

 

物陰に隠れていたダークネスが顔を出して、辺りを見渡した。そこには、もう店主の姿は無かった。

 

「……………よし。今のうちに……………」

 

ダークネスはそう呟いて、我が家に帰った。

 

 

 

 

「よく、やったぞ!!!ダークネス!!!」

 

「えぇ!!本当よ!!がんばったわね、ダークネス!!」

 

父親と母親は珍しくダークネスを褒めていた。ダークネスが奪ってきた物は刃渡り20㎝の刃がついている銃身の側面には銀のドラゴンが彫られていた拳銃が2丁、漆黒の石がはめられているリング、そして。漆黒の色をした匣だった。この星では地球より匣の開発が進んでいるために戦争でも使われているのだ。

 

「この武器もリングの彫金も見事だな…………。売れば、高い値がつくぞ!!!おい、お前!!!ダークネスに飯を食わしてやれ!!!」

 

「えぇ。わかったわ。ほら、ダークネス、ご飯にしましょう」

 

「うん」

 

その日、ダークネスは久しぶりに両親と一緒に温かい食べ物を食べた。その時のダークネスは年相応に笑っていた。そして、"やっぱり、あの声が言っていたことはくだらないことだったな"とダークネスは思っていた。そして、ダークネスはその後、風呂に入り、これもまた、久しぶりに家の中で温かい布団の中で寝た。

 

 

 

 

その日の夜

 

「…………う、う~ん」

 

ダークネスは夜中に尿意を感じて、起きた。そして、ダークネスは用を足そうとトイレに向かった。トイレに向かっている途中、暗い廊下の中で部屋から光が漏れていた。おそらく、両親が起きているのだろう。そう思い、あまり気にせず、トイレに向かおうとすると……………

 

「それであの子はどうするの?」

 

「!?」

 

部屋を通り過ぎる前に聞こえた母親の言葉にダークネスは思わず立ち止まった。ダークネスは気になって、トイレに行く気にもならず、扉の隙間から覗いた。

 

「どうするってなんだ?」

 

父親が酒を飲みながら、母親に尋ねた。

 

「もう!!ふざけないで!!確かにあの子が盗ってきたものは今までで1番よかったわ…………。でも、これらって、ちょっと困ったのよね…………。武器のほうはグリップに炎を込めれば炎の弾丸を放つことができる仕組みだから、自分の炎がきれるまで弾切れが起きないっていう凄い物だけど、リングと匣に関しては属性がわからないわ………」

 

「…………………」

 

母親の困った声にダークネスは黙って聞いていた。

 

「確かに、このリングと匣は俺の《雷》でもお前の《雨》でも無かった」

 

「そうよ!!このリングと匣が何の属性かわからなかったら、売りようがないのじゃないかしら?」

 

「まぁ、確かにな。だが、そんなもん、明日、鑑定に出せば、すぐにわかるだろ?」

 

「そうかもしれなけど…………。それにしても、このリングと匣の色……………」

 

「…………あぁ。あいつの炎みたいな色だったな。それが不気味でいやだったな」

 

「…………………」

 

父親の言葉にダークネスはいつも言われているためにあまり気にしていなかった。

 

「まぁ、どっちにしろ、このリングはAランクオーバーな上に彫金も見事だし、匣はそれだけで便利な物だ。これらを()()()()()どもに売れば、大金が手に入るだろう!!!」

 

「!!?」

 

ダークネスは自分が盗ってきたものをまさか、自分の憎んでいる貴族たちに売ることに驚いた。しかし、両親はぞんなダークネスに気づかずに話を続けた。

 

「そうね。あの人たちは嫌いけど、金払いはいいからね」

 

父親の言葉に母親が肯定した。

 

「それで、話を戻すけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()はどうするの?」

 

「!!!?」

 

母親の言葉にダークネスは先程よりも驚いた。

 

「あ?そんなもん、売るに決まってんだろ」

 

「!!!?」

 

父親の言葉にダークネスはさらに驚いた。

 

「確かに今回はいい物を盗ってきたがたまたまだ。次からは、また失敗が続くだろうな。もう、面倒を見てられないぜ、まったく」

 

「そうね。それなら、いっそのこと、あの子を売って、お金になったほうが有効活用できるわね。でも、そしたら、あの子はどうなるのかしら?」

 

「さぁな?奴隷として扱われるか、人体実験の被検体として扱われるかのどっちかだな。まぁ、どっちにしろ、あいつにそんなの耐えきれず死んでしまうだろうな」

 

「ひどいわね…………。あの子の父親でしょ?かわいそうとか思わないわけ?」

 

「はっ!!そんなの全く思わないな!!!だいたい、お前もそうだろ?」

 

「まぁ、そうね♪」

 

「「アハハハハハハハ!!!!」」

 

両親はそう言うと、2人とも笑い出した。

 

「…………………………」

 

それに対して、ダークネスは黙って離れて()()()()に向かった。

 

「…………………………」

 

その時のダークネスの表情からは何も感じられなかった。

 

 

 

 

それから、両親も寝ようと寝室に向かって、2人は寝た。

 

……………………………………

 

…………………………

 

………………

 

………

 

 

その時だった。

 

グサッ!!!!

 

「がはっ!!!?」

 

父親の腹に急な激痛が伴い、眠りから目を覚ました。父親はいったい何事だと自分の腹部を見た。そこには…………

 

「貴様……………、どういうつもりだ……………()()()()()!!!!」

 

「……………………」

 

包丁を実の父親の腹に突き刺していたダークネスがいた。ダークネスは無表情のまま、父親を見ていた。

 

「誰のおかげで、生きてこられたって思っているんだ!!!!」

 

父親は白々しいことを言って怒鳴り、ダークネスを捕まえようとしたが…………

 

グサッ!!!!

 

その前にダークネスが包丁を引き抜いて、父親の心臓に突き刺した。

 

「がっ…………はっ……………!!!?」

 

父親はそのまま、血を吐きながら倒れて、絶命した。

 

「あなた!!!?」

 

すると、隣の喧噪に目を覚ましたであろう母親が今の光景を見て、驚愕していた。

 

ダッ!!!

 

グサッ!!!!

 

ドサッ!!!!

 

それに気づいたダークネスが包丁を父親から引き抜き、母親に勢いよくぶつかった。ダークネスの勢いに母親はそのまま後ろに押し倒された。

 

「な、なにするのよ!!!?……………ひっ!!!!」

 

文句を言おうとした母親だったが、ダークネスの顔を見て、まるで化け物でも見たかのように小さく悲鳴を上げた。その時のダークネスは何の感情もこもっていない表情をしていた。そしてダークネスは包丁を振り上げていた。

 

「ご、ごめんなさい!!!私たちが悪かったから!!!もう、あなたにひどいことなんてしないから!!!!だから、お願い!!!!命だけは!!!!」

 

母親は実の息子が何をしようとしているのか察して、命乞いをした。しかし、ダークネスは聞く耳を持たず………………

 

グサッ!!!!

 

母親に包丁を突き立てた。

 

「キャアァァァァァァーーーーー!!!!!」

 

激痛に耐えきれず母親は悲鳴をあげた。

 

グサッ!!!!グサッ!!!!グサッ!!!!グサッ!!!!グサッ!!!!

 

ダークネスは包丁を引き抜いては突き立てて、引き抜いては突き立ててを繰り返して行った。

 

「…………や………やめて…………」

 

母親は途切れ途切れにそう言ったがダークネスは聞く耳を持たずに包丁を突き立てていた。

 

「……………………」

 

そして、しばらく経つと母親がすでに絶命していることに気づき、ダークネスは包丁を突き立てることをやめた。

 

「……………………」

 

そこに残ったのは両親の死体とその両親の返り血を浴びたダークネスだった。

 

「………………くだらなかったのは……………ぼくの考えだったのかな………………?」

 

ダークネスの呟きが静かな部屋に響いた。その時のダークネスは自分を利用しようとしたことに対する怒りも実の両親が死んだことに対する悲しみもこれ以上自分がひどい目に遭わなくてすむという喜びも感じられない、恐ろしいぐらい無表情でダークネスの目は今までで1番、何もこもっていない無機質な目だった。


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