それと────遅れてごめんなさいm(_ _)m
いや、まさか自分がこんなにひ弱だとは思わなかったんです!!テストとか終わって教習所も区切りが良くなって「さあ書こう!!」と思ったら夏バテ扁桃腺炎熱中症のフルコンボになるとは······。
叶歩の身体の異常な硬さは生まれた時からの性質だった。
だから、両親は「これはまずい」と思ったらしい。
何がまずいか。それは
要するに、「この程度なら大丈夫だろう」という慢心だ。この時既に歩は車と塀のサンドイッチを経験(しかもほぼ無傷)していたので、まあ妥当な判断だろう。
つまり、死なないための措置。回避という概念を叩き込ませるための措置。
その一環で彼は、とある場所に通う事になる。
それは『実戦道場』。
つまり、型とか、そんなのではなく、本気で戦うことに重点をおいた道場。
そこで両親は避けるという事を覚えて欲しかった。
だから、その道場に入れたのだ。
ここから、彼の人生が大きく捻じ曲がることを知らずに。
時系列だと、丁度園原杏里の部屋に贄川春奈が襲撃したあたり。臨也のマンションのロビーにて。
「ッチ、やっぱ開かねえか······ぶっ壊すか?」
「また怒られますよ?それよりももっと実用的な悪戯をしましょう。このブラックコーヒータルタルソース味を臨也さんの部屋の番号のポストにぶちまけておきましょう。」
「いや入れないでくれない?てか何でここにいるんだよ君たち。というかどこに売ってるんだよそれ!?」
その辺の自販機ですが?と歩が答える。と同時にこの場をとんでもない怒気が支配する。当然の事ながらその怒気の発生源は静雄なのだが。
「お前を殴りに来たからに、決まってんだろ」
「なんで殴られなくちゃいけないのかな?」
「ムシャクシャしたからだ」
酷い暴論である、がこの程度なら日常茶飯事だ。静雄は他の人間には何もしない限り特に手出ししないのだが、臨也に対しては別。よってこの程度の暴論ならこの2人が同じ場所、正確には静雄が臨也を視認できる距離に限り、日常の光景、日常のやり取りである。
「んで、あえて言うなら手前が怪しいからだ」
「────は?」
がしかし、今回は違うようだ。
「怪しいって······何が」
臨也がそう問い返すと静雄はタバコを臨也へ向けながらこう言った。
「ブクロで騒いでる辻斬りの件
「────なんで俺が絡むのさ」
「わけがわからねぇで物騒な事件は99%手前が絡んでるからだ」
それは確かに事実である。今までの事を考えると。
「······残りの1%を信じてくれないかな」
「1%でも手前が信じられる要素のある奴だったら多分、俺と手前はもっと上手くいってただろうよ······なぁ······イザヤ君よぉ」
更に静雄はこう続ける。
「辻斬りの件がなかったとしてもよぉ、最近のブクロはなんか変だ、手前が原因だろ、何を企んでやがる?」
「酷い言いがかりもあったもんだ」
この場面で、臨也はポケットからいつも通りに、ナイフを静雄へ向けて突き出した。
この行動により静雄の怒気はさらに高まる。
が、そこで静雄は今まで見たことのない行動を見せた。
「────······」
「!?」
そう、スルーである。臨也を無視して、外へ歩き出した。
そしてそのまま歩道の植木へ突っ込む。
ペキペキと枝の折れる音がする。
「────まさか······」
歩の口からそんな言葉が出たのも無理はないだろう。
そして臨也も歩と同じ結論に達したのか、化物を見るような目で静雄へ視線を送る。
そして、静雄は彼らの想像通りの行動をとった。
べキッ
と鉄の潰れる音。そして────
ギシギシギシッ────ギシギシ
ボコッ
更に鉄が歪む音に、何かが抜けるような音、更にボコボコっと抜ける音が聞こえる。
────静雄は
「「······マジで?」」
歩と臨也の声が被った。
相対する臨也は二本目のナイフを取り出し、静雄に向かってナイフを振りかぶりつつ突撃する。
それを見た静雄は凶暴な笑を浮かべつつ臨也の方へ振り向きガードレールを振り回し────
その間に、漆黒の影が割って入って静雄と臨也を静止させた。
「······セルティさん?」
「セルティ······なんだよ?」
若干イラつきつつ、静雄がセルティに問いかける。
無言でケータイの画面を見せるセルティ。そこには────
────罪歌さんが入室されました────
罪歌:平和島静雄と叶歩に愛を与えるの
静雄と歩を愛することができればきっと
この町の全てを、池袋という人間の営みを
愛することができるから
────罪歌さんが入室されました────
罪歌:現れて私の前にもう一度現れて
────罪歌さんが入室されました────
罪歌:今度はみんなで一斉にあいしてあげるから
静雄 歩 待ってるから
現れないと私は他の人を愛するわ
池袋の人達を愛して愛して愛して愛して
待ってるから
南池袋公園で今晩ずっと待ってるから
警察も一般人もバケモノ達も 絶対に公園に近づけさせないから
囮はバッチリだから、安心して二人共
池袋は今夜混乱にまみれる
でも安心して あなたたちは私が愛してあげるから
私も愛してあげるから
「······なにこれストーカー?気持ち悪っ」
「······これもお前の計算か?」
「······セルティが偶然ここに来てくれることまで計算できるなら俺はとっくに君の家に隕石でも落としてるよ」
そりゃそうだ。
まだ何か言いたげな静雄だったが、暫く臨也と睨み合うと舌打ちをしてセルティの方へ歩いて行き、バイクの後ろに跨る。
「────ところで俺はどうやって南池袋公園まで行けばいいのかな?」
『任せろ、サイドカー作ってやるからそこに乗ればいいさ』
「セルティさん万能すぎない?」
軽口を叩きつつ、3人を乗せたバイクは南池袋公園へ向けて走り出した。
「────まったく、本当にあの男はやりにくい。単細胞のくせにどうしてあんなに鋭いんだろうねぇ」
───これだから、俺はシズちゃんのこと大嫌いなんだよ
南池袋公園は静まり返っていた。
人っ子一人、もしかしたらこの時三人を除いて生物が存在しないのではないかと疑いたくなるくらいには。
だが三人が公園の中に入った瞬間から、ぽつり、ぽつり、と人影が現れ始めた。
「ひぃ······ふぅ······ざっと百人ちょいかな?」
サラリーマンから街のチンピラ、小学生らしき子供、主婦、女学生、黄色いバンダナを巻いた者が何人か。
共通しているのは────全員が刃物を持ち、目が誰一人例外なく血の色で赤く染まっていること。
ナイフ、ハサミ、高枝専用長バサミ、チェーンソーetc.
『犯人が捕まらないわけだ。被害者全員が罪歌に乗っ取られて偽証していたんだからなぁ······』
「会いたかったわ、平和島静雄さん、叶歩さん」
「······来良の制服か······そういや斬られたとか言ってたな······てめえのせいで全校集会なんてクソみてえに面倒臭い事になったんだぞおい」
「本当に素敵ね、あなた達が私の『姉妹』を倒した時遠くから見させてもらったけど······」
「無視かよ」
その後も延々と罪歌が喋る、喋る、喋る。
「さあ、愛し合いましょう、どこまでもどこまでも、貴方が疲れて動けなくなっても私達が一方的に愛してあげる、愛し続けてあげる!!そこの化け物以外誰の邪魔も入らないよ!ここから離れた場所で新しい姉妹を増やし続けるから、愛し続けてるから!!お巡りさん達はみんな大忙しだからね!」
嬉しそうに笑う少女に釣られて、周囲の『罪歌』達もケタケタと笑う。
「──── 一つ聞いていいか」
今まで黙っていた静雄が唐突に口を開いた。
「なにかしら?」
「お前らよ······なんで俺のことが好きなんだ?」
思い切り場違いな言葉に、セルティと歩は危うく転けそうになった。
────空気読めよ!んなこと聞いてる場合か!?
二人して心の中で突っ込んだ。
それに対し、少女が代表して答えを紡ぎ出す。
「強いからよ」
「······」
「あなたのそのデタラメな強さ······権力や金に頼らない人間の本能としての絶対的な、それでいて暴力的な徹底した強さ。それが欲しいの。」
「それに────あなたみたいな危ない人好きになってくれる人間なんかいないでしょう?怖いもんね。だけど────私達なら、貴方を、貴方達を愛してあげられるわよ?」
「私たちは人類全てを愛してるの。でももう愛するだけじゃ足りない。私と人類の間に子を増やすだけじゃ足りないの。愛しても愛してもたりないから────人間全てを支配したいの。その為に優秀な子孫を残したいの。人間でも優性遺伝を残そうとかしたりするんでしょう?」
────どこの独裁者だ
セルティも歩も呆れていた。そして静雄は────
「はは······ハハハハハハハハハハハハ!!」
「笑ったァ!?」
『しっかりしろ静雄!駄目そうだったら何とかお前だけでも逃がしてやるから』
「いや······違うから······セルティ。歩。正直な、嬉しいんだよ俺は」
「え······?」
「俺はこの『力』が大嫌いで仕方なかった、俺を受け入れてくれる奴なんて誰もいないんだと思ってな。」
「だがよ······もういいんだよな······こんな俺を愛してるってやつが······いち······にぃ······まあ沢山いるわけだ、だから────もういいんだよな?」
「俺は自分の存在を認めてもいいんだよな、俺は自分を好きなってもいいんだよな?消したくて消したくて仕方なかったこの『力』をよ、俺は、認めてもいいんだよな?使ってもいいんだよな?」
「俺は、俺は────全力を出してもいいんだよな?」
そして次の瞬間、平和島静雄は生まれて初めて自分の意思で全力を出した。
いつものように、怒りに任せたものではなく────自分の『力』を愛してくれるモノが存在するという事実が嬉しくて。
「ああ、ちなみに、俺にとってお前らみたいなのは······全然、全く、これッッッッッポッチも好みのタイプじゃないからよ」
「まあ、取り敢えず────臨也の次くらいに、大嫌いだな。」
そして静雄が罪歌へ突っ込んでいくその瞬間────
「流れぶった斬るようで申し訳ないが罪歌よ、俺の質問にも答えてくれないかな?」
今まで殆ど発言しなかった叶歩が罪歌に話しかけた。
「······なにかしら?」
「······早めに終わらせろよ」
静雄も黙ってくれるらしい。
「······お前らさ、俺が頻繁に利用してるチャットルームに、こう書いてたよな『バケモノ達は近づけさせない』と······単刀直入に聞くぞ、サターニャ達に何をした?」
「何も?」
と、その問に罪歌は即答した。
「ただ、周りの人間と同じ目にあわせているだけよ?まあ、バケモノだから殺すことメイン。少数精鋭で実力者を操ってけしかけているのだけどね。」
あっさりと、何でもないことのように殺害予告を口にした。だが、歩は────
「────そうか、それを聞いて安心した。」
『!?』
セルティは再び驚いた。何故なら叶歩という人間は、間違ってもそんなことを言う人間ではないからだ。
「あー、セルティさん、勘違いしてるようだけど違うからね?別に俺はあいつらが死ねばいいなんて思ってないよ?ただ、これで闘う理由が出来たからさぁ。」
「······え?」
罪歌は呆然としている。
平和島静雄もただ、黙って歩を見ている。
「いやさ、今の話聞いてたら『俺必要?』って思っちゃってさー······静雄さんだけで充分じゃね?と。静雄さんも嬉しそうだし、静雄さんだけでお前らなんかぶっ倒されそうだし、寧ろオーバーキルに当たるんじゃないかな?と思ってさ。寧ろここで参戦したら静雄さんに恨まれそうだし······俺が闘う必要ないならあいつら探して土下座でもかまそうかと思ってたわけよ。」
「でもそんな事してるなら話は別だ。確かにアイツらは人間じゃない。一般的視点から見たら確かにバケモノなんだろう。だけど、それでも俺の友達だ。」
「友達が殺されかけてて、バケモノ呼ばわりされているのを見逃す程、俺はド畜生じゃない。」
スパァァアン!!
そして音が響いた瞬間、少女の隣にいた罪歌が5mほど、宙に舞った。
「────え?」
『なっ······!?』
「悪いが、手加減できるような精神的余裕はないから────取り敢えず死なないように気をつけてね?」
言葉の軽さに反して、彼の表情は憤怒に染まっていた。
だがそれよりも、手に持っている武器に、セルティも罪歌も釘付けになっていた。
叶歩の手には1本の竹刀が握られていた。
「ゴメン、静雄さん、そんなワケで半分────いや、四分の一でもいい、俺にコイツら吹っ飛ばさせてくれません?」
「······好きにしろ、そもそも、お前も愛されてたんだから、許可なんか要らねえよ。」
「······ありがとうございます。それじゃあ······」
「死ね!!」
「くたばれ!!」
こうして、池袋最強の男と池袋最硬の男が手を組んで、罪歌にとって地獄のような時間が幕を開けた。
最初から考えてた隠し設定:叶歩は戦闘においては武器を使った方が強い
次回、そこに至るまでの過去が明らかに────!!
まあ次回はガヴ御一行サイドの話メインですけど。
次回は────うん、早めに出します(震え声)