androidってこんな酷いの?まだ買ってから一年経ってないんだけど······。
平日の昼下がり。
門田京平、遊馬崎ウォーカー、狩沢絵理華、渡草三郎の4人はワゴンの中で駄べっていた。
『昨夜また、通り魔による犯行があり、これによる被害者の数は────』
「やばいよなぁ······」
「どしたのドタチン」
「なにかあったんですか?門田さん」
「え?なんかあったので?」
「昨日で通り魔の被害者50人超えたって······まて、何で歩がいる!?」
「学校サボりました☆そしたら門田さんたちを発見したのでたった今乗りましたとさ」
まあ、今までサボったことないし、テストの成績も良いから別に平気だろ。
「お前なぁ······」
「無遅刻無欠席無早退とかもうとっくに途絶えてるんで最低限登校すればいいですしねぇ······ようれん菌許すまじ」
「お前毒で死なないのに病気は普通になるんだな······」
そこまで人間離れしてないですからね。
「にしても50人かぁ······」
「お前そういや名指しされてるんだろ?大丈夫なのか?」
「んー······まあ、保険としてこれ持ってるんで大丈夫でしょ。」
「······そういやお前何持ってるんだ?それ。」
それは長い袋。ちょうど刀1本くらい入りそうな袋だった。
「······眼には眼を歯には歯を、武器には武器を······ってヤツです。」
「お、なに?歩くんひょっとしてC〇DE:BR〇AK〇R?」
「もしかして体の硬さは異能だったんすか!?」
「ロストしないから違うと思いますよー?」
まあ、その前に静雄さんが全部片付けてしまいそうだが。
「っつーかこの事件が最初に起きたのって······もう半年以上前っすよね?」
「ああ、確か夜道を歩いていたチンピラの頬が切られたことが始まりだった筈だ。被害者は「刀で斬られた」の一点張りだったが、よくある喧嘩沙汰の一つとして処理されて大したニュースにもならなかった。
だが2ヶ月後、喧嘩とは無縁そうなサラリーマンが、さらにその後クリスマスの夜に一組のカップルが切られたことと、この事件が前の事件と同一犯だという見解が発表されてからこの話題は一気に加速した······最近じゃ1日に一人ってペースで被害が増大してるって話だ。」
「······でも一人も死んでないんすよね?」
「渡草はなにか聞いたことないのか?」
「知らねぇっすよ······基本夜なんかに外に出ねえし······ルリちゃんのライブ以外は!!」
「······おい、狩沢と遊馬崎はなにか聞いてないのか?切り裂き魔とか被害者の話と······か······」
「だから俺は絶対ヒロインは髏々宮さんだと思うんすよ!」
「いーや御狐神くんだよ!」
「遊馬崎さんに賛同。髏々宮さんだと思いまーす」
悲しいかな、この3人にとって切り裂き魔より漫画談義の方が優先のようである。
「お前ら······人が心底憂いてる時にマンガやアニメの話で盛り上がってるんじゃねえよ!!······ったく、お前らみたいなのが捕まったら絶対マスコミに叩かれるぞ?アニメと現実の区別がつかなくなった者による犯行って」
ガッ!
その言葉を聞いた瞬間、遊馬崎さんが突然車のシートを掴み、立ち上がる。
その顔は珍しく怒りに染まっていた。
「いくら門田さんでも聞き捨てならないっスね······いいっすか!?マニアってのは二次元と三次元の区別をつけた上で!!堂々と二次元を選んでるんスよ!!三次元なんて自ら望んでゴミ箱にぽいっすよ!!二次元と三次元の区別がつかなくなるなんてマニアでも何でもないっす!!」
「ま、そんな奴じゃなかろうが出版社とかはそう取り上げますよ。そっちの方が稼げますし。」
「ぐうっ······今回の通り魔が時代劇好きだったらテレビ局は時代劇を放送中止にしてくれるんすよね!?」
「俺は時代劇好きだから勘弁しろや······」
と、雑談をしているとメールが来た。
「ん?メールか?」
「あれ?俺も来たっすね」
「俺も来たぞ」
「私もー」
どうやらこの場にいる全員に届いたようだ。
「······お前ら、いよいよ他人事じゃ無くなってきたぞ」
『切り裂き魔にダラーズのメンバーが襲われた
情報求む
情報求む
情報求む』
「────街が、壊れ始めやがった」
門田さんの言葉が、重々しく感じた。
(帝人のやつ······相当混乱しているのかな······)
同時刻、とある高層マンションの一室で、セルティ・ストゥルルソンは同じメールを受け取っていた。
(しかし······まだ死人が出ていないというのも不可解だ)
と、言うのもセルティ・ストゥルルソンは先日、切り裂き魔に日本刀で
尤も、首のないセルティには、なんの意味もなかったのだが。
だがしかし、首があったら恐らく死んでいた。
殺意を持った攻撃だった。なのに、まだ死人は出ていない。
(······初撃が腕に刺さった時、血が出なかったのを見て念のため首を撥ねたのか?······どちらにせよ、放ってはおけない。私の住む池袋の街で好き勝手なことはさせない)
「まあまあ、セルティ、そんなに気張ることないさ、案ずるより産むが易し。出来ることをやればいいんだよ」
と、悩んでいたところ、同居人の岸谷新羅が帰ってきたようだ。
『新羅帰ってたのか?』
「うん、ちょうどね······それにしても何かあてはあるのかい?まさか夜の街を毎日パトロールするわけにもいかないだろ?」
『まあな······タダでさえ私自身が斬り裂き魔との関連を疑われてるんだ』
「切り裂き魔か······そう聞くと5年前の辻斬り事件を思い出すね」
『······5年前?今回と同じように被害者が「日本刀のようなもので斬られた」っていうやつか?あれは2~3件で終わったんだよな?』
「でもあの時は2人くらい死人が出てるんだよね、他の人達は軽症で済んだのに······」
こうして、彼らの昼は過ぎてゆく。
「あー······しんどい······」
昼休み、机に突っ伏してガヴリールが唸っていた。
「······何があったのですか〜?」
「ラフィ!?いつの間にいたのよ······歩が休みだから登下校歩かなきゃいけないのが憂鬱なんでしょ?」
「え?歩さん休みなのですか?」
「アンタ······朝にこっち来たのに気づかなかったの?」
「サターニャさんを弄るのに夢中で······」
「アンタねえ······!!」
「歩くのめんどくさい······ヴィーネ、おぶってー······」
「嫌よ······たまには自力で帰りなさい······にしても歩が休みなんて珍しいわね······」
だがしかし、歩はようれん菌で休んだ事があるので別に珍しい話ではない。
······まさか風邪などを引くとは思わなかったが。
歩曰く、普通の風邪などは人並みにかかるらしい。
予防接種の度に針がなかなか通らないと愚痴を零していたのを覚えている。
「赤ん坊の頃は通ったらしいんだけどなぁ······ギリギリだったらしいけど······」
と、自分から言っていた。
「でもさー······銀夜も居ないっておかしくね?」
それは確かに思った。
ヴィーネがいつもよりも遅かったから迎えに行ったら、ガヴリールはまだ寝ていて、歩の家には誰もいなかったのである(歩が「俺にもし何かあったら銀夜の世話を頼む」と言ってヴィーネに合鍵を無理矢理渡していたからそれを使った)。
そう、あの半引きこもりの蕪木銀夜もだ。「海に行くなら引きこもりながらゲームしてた方がましです」と宣った蕪木銀夜すら家にいなかった。
「つーか······アイツ狙われてんのになんで行方不明になってんだよ······アホなの?」
「······え?狙われてる?」
「なんだ、ヴィーネ知らないのか?あいつ今流行りの斬り裂き魔にご指名されたんだぜ?」
「はぁっ!?」
「え?知らなかったの!?」
ほれ、とガヴリールはチャットではない、大手掲示板のページを見せる。
「······あのー······まさか歩さん······1人で決着をつけに行ったのでは?」
「「「··················」」」
「その兄を義妹は追っていったとか······」
「「「··················」」」
十分、ありえる話だった。
その頃、蕪木銀夜は折原臨也のマンションにいた。
「なるほど、つまりねずみ算式に増えていくんですね」
「うん······その認識で間違ってないね。」
厳密にはちょっとどころかかなり違うが。
訂正するのも面倒なので臨也はそう言った。
「にしても兄妹が同じ情報を買いに来るとは······ビックリだよ、色んな意味で······」
「昨日は体調悪くてぐっすり寝てしまっていたので······朝起きたらお兄様は当然いませんからね。それでネットサーフィンしてたらお兄様が狙われていたので······」
「まあ、半額に負けておくよ、どうせそろそろあの黒バイクも来るだろうし、お金には困ってないからねぇ」
「そうですか、ではこれで。」
淡々と言って蕪木銀夜は退室しようとする。
「君は────何で罪歌をどうにかしようとしているんだい?別に君は当事者じゃないだろう?」
が、出る前に臨也がそう質問した。
「────そんなの決まってるじゃないですか」
何を言ってるんだこいつは、と言わんばかりの目で銀夜は臨也を睨み、言った。
「お兄様に手を出した。それだけで万死に値する行為ですから。」
蕪木銀夜の出ていった部屋で、臨也はポツリと呟いた。
「······これ裏で手を引いてるのバレたら確実に俺死ぬよね······?」
「自業自得でしょう?」
「いや、確かにそうだけどねぇ······っと、来たみたいだね、随分遅かったけど。」
蕪木銀夜と入れ替わりで入ってきたのはセルティ・ストゥルルソン。
『斬り裂き魔に心当たりは?』
「────3枚でいいよ」
────夜11時────
「やめるんだ!!もう「瞬間」を何からナニまで「刹那」って言い換えてかっこいい文章だと思うのはやめるんだ!」
「そう言って色々斜めに構えて見たいお年頃なのかな?ゆまっちは」
「世の中の常識的な大人の意見を否定すれば反抗期の中高生に受けるだろう······とか思うのもやめるんだ······!」
「思想とか社会とかを批判すればなんでもかっこよくなると思う薄っぺらなお年頃なんだねー」
「······遊馬崎が本の悪口言うなんて珍しいな、何読んでんだ?」
「えっとね、昔ゆまっちが自費出版した小説だって」
「(´^ω^`)ブフォwww」
「歩君にまで笑われたっ!?」
いやーだいぶ笑わせてもらった。
「······はぁ······いろいろ突っ込みどころはあるが······お前ら真面目に斬り裂き魔の情報集めろよ、仲間がやられたんだからよ。カズターノが拉致られた時みたいに気合いれろ」
「でもさードタチン。カズターノくんは私達と仲いいからあれだけど、今度やられた人は会ったこともないんだよ?いくらダラーズの一員だからってさー」
「少しは他人のために泣く感性ぐらい持っとけ、歩なんかやる気満々じゃねえか」
「まあ喧嘩売られましたし?ぶっちゃけ他のメンバーなんざどうでもいいっすけどね〜」
「お前もかよ······」
「当事者じゃなきゃもう家帰ってますよ」
基本、叶歩は面倒くさがりなのである。
「······お、そういやこの辺だよな、来良の女子高生が斬られたのってよ······あーあー」
「どうしたんすか?」
「無用心なこった······ああいうのが狙われんだよな」
門田さんの向いている方向を見てみる。
「あれ?園原じゃねえか」
「ん?知り合いか?」
「クラスメイトですよ。ただの。────ん?」
園原の後ろに、1人男が後をつけている。
その手には、ナイフ。
「門田さん────」
「わかってる!おい渡草!!」
「······まさか────」
嫌な予感がして渡草は顔を青くする。
そして、予想通りの言葉が渡草を襲う。
「撥ねるぞ」
門田は笑顔でそう言った。
ドンッ!!
さて、次は義妹とか動かしますか······
あと2話位で罪歌編終わるかもしれない······