東京喰種 そこそこ強い(自称)捜査官   作:ディルク

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第8話

白石は凄まじい速度で突進して右手に握った[カタナシ]をファルコンに向けて横に振り抜く。人間離れしたスピードに鬼瓦と首狩りは反応が遅れる。それを見て防御が外れたファルコンの首を撥ね飛ばすために首へと[カタナシ]を向かわせる。

 

「うおッ、危ねぇ」

 

しかしファルコンが両腕に纏わせた赫子で作ったブレードによって受け止められてしまう。すると白石は左手の[t-human]をファルコンの顔に向けて電撃を放とうとする。

 

「残念でした~(笑)」

 

[カタナシ]を押さえ込んでいたファルコンの赫子が突然爆発する。それによって白石は遠くに吹き飛ばされてしまう。

 

「鬼瓦と首狩りはハイルと戦闘中か。さっさとあいつを殺して加勢に向かうか」

 

再び自らの腕に赫子を纏わせて白石の首を切断しに向かう。ファルコンが近付いてくるが白石が起き上がる様子は見えない。仰向けに倒れたままだ。他の隊員達が援護に向かおうとするが喰種達の増援に阻まれて白石の元へ向かうことが出来ない。

 

とうとうファルコンが白石のすぐ側に到達してしまった。動かない白石に向けて赫子のブレードを向ける。

 

「俺とたいしてかわらない歳だな。もしかしてお前も転生者か?まあ、人間だし捜査官だから生かしておけないんだけどな。悪く思「長いんだよ、屑が」がッ!?」

 

気絶したふりをして攻撃しようとしてきたところにカウンターをいれようとしていたのにファルコンの話が長すぎて我慢できずに攻撃してしまった。

 

白石の蹴りによってファルコンは体をくの字にかえて吹き飛んでいく。そのまま地面を転がりしばらくしたら止まった。

 

わざわざ近付く必要もなかったのでその場で[t-human]をファルコンへと向けて電撃のチャージを始める。しかしファルコンも自分の危険に気付いたのかすぐに起き上がり白石へと赫子を飛ばす。

 

「チェンジ」

 

チューブが白石の血を吸い上げて[カタナシ]へと充填する。赤い光を放ち[カタナシ]が形状を縦長の盾へと変える。その瞬間に赫子が[カタナシ]へと殺到する。着弾してすぐに赫子が爆発する。

 

「やったか?」

 

そんなファルコンの呟きへの返答に白石は[t-human]の電撃を向かわせる。巨大な電撃がファルコンへと迫る。

 

自分へと迫る電撃に流石のファルコンも頬をひきつらせる。だが未だに余裕を残しているのかそこまで必死そうな様子は見られない。

 

「これを見せるのはお前が初めてだよ」

 

両腕の赫子のブレードを電撃の方へと向ける。すると赫子が炎を纏い始めた。ある程度炎が大きくなると赫子を電撃に打ち出した。

 

巨大な電撃と深紅の爆炎が正面からぶつかり合う。一時は拮抗したように見えたがすぐにファルコンの赫子が[t-human]の電撃に打ち勝った。そのまま赫子が白石へと迫る。

 

まだ距離が離れていたため白石は回避行動をとろうとする。しかし赫子は白石が回避した方向へと真っ直ぐ向かってきた。

 

(追尾か!)

 

回避しようとしたが距離があまりにも近すぎたため避けることが出来ずに白石の体が爆炎に包まれる。

 

「ふぅ、ちょっと焦ったけど万事解決」

 

「そうかい」

 

「え?」

 

脅威を排除したと思って一息ついていたファルコンの肩を後ろから白石が掴む。

 

「とりあえずくらっとけ」

 

「がッ!?」

 

ファルコンが振り向いた瞬間白石が拳を振り抜く。頬を思いっきり殴られたファルコンは回転しながら吹き飛んでいく。地面をバウンドしながら何故白石が生きているのかと混乱する。

 

(赫子は完全に当たったはずだ。避けられるはずがねぇ!)

 

地面に倒れたままの体勢で白石の方へと視線を向ける。そこには全身にかなり薄い鎧のような物を装着した白石が立っていた。

 

「な、なんだ……それは」

 

「[ヴィズル]SSSレート甲赫のクインケだ。俺の血を動力に動いている。まあ、[カタナシ]と赫包の持ち主が一緒だからな。見ての通りかなり薄いから日常生活で使っていても不便じゃなくてな」

 

「アラタと似たようなやつか。それにSSSレート、エトと芳村以外にいたか?」

 

「なーんか色々知ってそうだな。まあ、コクリア送りにする気はないからどうでもいいけど」

 

話を終えると白石の体が前のめりになりファルコンの視界から消えた。自分の探知能力を越えている白石にファルコンはかなりの恐怖を覚えていた。必死になって白石の場所を探す。しかしいっこうに白石の居場所が分からない。

 

(クソクソクソ!どこに行きやがった!?)

 

「ここにいるぞ」

 

ファルコンは突然自分の耳元に聞こえてきた声に驚き声がした方を振り向く。その瞬間ファルコンの視界に写ったのは白石の拳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「首領!?」

 

「主!?」

 

ハイルと戦闘中の2人は白石に殴り飛ばされて宙を舞っている自分達の首領の姿を見て、驚愕の声をあげる。彼等にとっては無敵の存在であったファルコンが白石に宙に吹き飛ばされているのが信じられないようだ。

 

「よそ見してると死んじゃいますよ」

 

ファルコンの方を見ていた2体に[アウズ]を振るう。とっさに気付いた2体は間一髪のところでハイルの攻撃をかわす。だがハイルはそのまま避けた鬼瓦達に[アウズ]で攻撃を続ける。

 

(くそっ、こいつ隙がない!)

 

(なんて速さの攻撃だ)

 

つい先程まで有利だったはずなのに一瞬で形勢逆転されてしまった。鬼瓦達は反撃の隙を窺っているが攻撃を休めることなく続けるハイルにそんな隙はない。

 

「そーれ」

 

大振りの一撃。受ければ致命傷だろうが歴戦の2体にとって避けることは造作もない。軽くワンステップで攻撃をかわし、ようやくできたハイルの隙をつく。それぞれの赫子がハイルを切り裂かんと迫る。

 

「かかりましたね」

 

ニヤリとハイルが笑みを浮かべる。それを見た鬼瓦達は背筋が凍りつくような感覚がしたが今さら攻撃を止めることもできずハイルへと赫子を振るう。

 

自分に迫り来る危険など気にもしないでハイルは振りおろした[アウズ]の刃先を反転させ首狩りに向けて切り上げる。その凄まじいスピードに自分が切られたことも分からずに首狩りの体が縦に真っ二つになり絶命する。

 

そして一呼吸をおくこともなく再び刃先を反転させ横に一閃する。首狩り同様反応することさえできずに鬼瓦は[アウズ]で頭を真ん中から切断される。

 

あまりにも一瞬、そこそこの実力の持ち主であっても同時に斬り込んだように見える剣閃を放ったハイルは満足そうに笑顔を浮かべている。

 

「まだ少し遅いですけど有馬さんと同じことができた。うふふ、嬉しいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方白石とファルコンの戦いは白石の圧倒という形になっていた。いくらファルコンが攻撃をしてもそれをすべて避けきり、全てにカウンターの一撃をくらわせている。もはやファルコンは心身共に限界に近かった。

 

(思いの外硬いな。雑魚だったら簡単に四肢を切断できてるんだがな)

 

ファルコンの異常なまでに硬い皮膚、それこそが白石がファルコンを未だ殺せていない理由だ。普通の喰種であれば致命傷になる攻撃を何度も繰り出しているのだがまだ腕の一本もとれていない。

 

(まあ、反応速度もずいぶんと落ちてきたからそろそろだな)

 

最早ガードも出来ないファルコンを見てそう思う。[カタナシ]の形状をハルバートに変える。[カタナシ]を後ろに構えて地面を強く蹴り、ファルコンへと接近する。

 

「じゃあなファルコン、久し振りにやりがいがあったよ!」

 

死へと誘う刃がファルコンへと迫る。白石が接近しているのにも関わらずファルコンは身動きひとつしない。

 

(諦めたか)

 

白石とファルコンが交差する。その瞬間白石は[カタナシ]をファルコンの首へと振り抜いた。しかし

 

「?」

 

ファルコンの首は繋がったままだった。白石としても手応えが無かったから仕留められたとは思っていなかったが理由が分からない。

 

「アヒヒヒ」

 

「赫子か?」

 

白石はファルコンの姿を見て驚きの表情を浮かべる。[カタナシ]で切りつけた首には赫子がびっしりと覆われていた。そしてファルコンの顔にも仮面の様なものが取り付いていた。それを見て白石はかつて自分の師と戦った存在を思い出した。

 

赫者。「共喰い」により『RC細胞』が増加し、全身にまとうような赫子を扱う者。だがファルコンは全身にではなく、身体の一部にまとっている。

 

(半赫者か)

 

「アアアアアアゥゥゥエエエ!?!?オマエハナンデイキテルンダァ?ハトハシナナキャダーメダローゥゥゥ!!」

 

その言葉と同時に白石へと赫子が飛来する。前の状態よりも赫子の大きさ、スピードもかなり上がっていた。足に力をいれて地面を強く蹴り、赫子の攻撃を横へと回避する。

 

ファルコンが白石へと先程の消耗具合が嘘のように赫子を飛ばし続ける。中途半端に避けると赫子の爆発に巻き込まれるし、立ち位置を間違えると味方に被害が出てしまう。若干白石もイライラし始めていた。

 

「アハハハーヒッヒアヒヒ、ハヤクシンデクレヨォォォ!」

 

更に攻撃の密度が増す。[カタナシ]を盾にして防ごうかと白石は思ったが動きを止めてはファルコンの思う壺だと回避を続ける。

 

(いい加減めんどくさいな。使うか)

 

「リミッター第一段階解放」

 

避けながらボソッと呟いた白石の声を[ヴィズル]が認識する。

背中にある吸血菅から血が更に多く[ヴィズル]へと送り込まれる。血が充填されると[ヴィズル]が赤い輝きを発し始める。

 

「ナンダァ?アカクナレバツヨクゥナレェルンデスカー?モシカシテパワーアップデスカァァ?」

 

「全くもってその通りだよ」

 

ファルコンの発した言葉に答え、[カタナシ]の形状をハルバートから刀へと変える。そして軽く地面を蹴る。

 

「アレ?」

 

次の瞬間には白石の姿は刀を振り抜いた体勢でファルコンの後ろにあった。そしてファルコンは右腕と右足を切断されていた。

 

「言ったじゃないか、パワーアップだって」

 

「ナンダッテェー!?」

 

痛覚が鈍っているのかファルコンに苦しそうな様子は見られない。地面に倒れ伏してくねくねと動いている。

 

「カグネカモーン」

 

ファルコンの右腕と右足に赫子がまとわりつきそれぞれの部位の形になる。さらに右腕に赫子を重ねていき徐々に巨大になっていった。

 

「隊長、援護に!」

 

「大丈夫だから来るな!ハイル、お前も待機しておけ!邪魔するなよ!」

 

すでにほとんどの喰種が討伐されていたので手が空いた捜査官とハイルが援護にはいろうとするが白石が止める。白石の戦闘スタイルは[ヴィズル]を使った超高速戦闘なので下手に援護がはいると邪魔でしかないのだ。

 

白石の意識が捜査官達にずれた瞬間ファルコンが右腕を振るう。白石は上にジャンプすることでそれをかわす。そのまま体を反転させて天井を軽く蹴り、ファルコンへと迫る。

 

巨大化した右腕を勢いにのせて[カタナシ]で切断する。さらに床を蹴って、ファルコンの両足を切断して横を抜ける。

 

「オッ?オッ?」

 

何が起きているのか分からないと言うようにファルコンが戸惑いの声をあげる。気が付けば右腕と両足を切断されていたのだ。

 

「これで、終了!」

 

壁を蹴ってファルコンへと高速で接近する。[カタナシ]を横に構えて首を切断しにかかる。にも関わらずファルコンは未だに白石の姿を見つけられていない。

 

(能力と実力が比例してないんだよな)

 

そう思いながら[カタナシ]を軽く振り切る。今度こそファルコンの首が宙を舞う。その瞬間その場が捜査官達の歓声に包まれた。

 

「はぁ、疲れた。よくお利口にできたな、ハイル」

 

「白石先輩は私を何だと思ってるんですかー?」

 

私不機嫌ですという雰囲気を出しながらハイルが白石へと話しかける。鬼瓦と首狩りを倒してからずっと待機していたのに白石からは馬鹿にしたような言葉がかかったのだ。不機嫌になるのも仕方がない。

 

「そんなに機嫌を悪くするなよ」

 

「ふーんだ」

 

「すまん、すまん。ところで丸手特等、逃げ出した喰種達はどうなりましたか?」

 

『おう、千之が第3隊を率いて今掃討中だ』

 

「そんなことよりも白石先輩!クインケちゃんとくださいね!」

 

「はいはい、帰ったらね」

 

和気あいあいとした雰囲気が広がる。普段であればその雰囲気は浮くが喰種達に圧倒的な勝利を得たためか皆がそんな雰囲気を作り出していた。

 

『殲滅率100%我々の勝利です!』

 

Ⅱ課の捜査官から通信が入り、あちこちで歓声があがる。

 

「ハイル」

 

「はい?」

 

「鬼瓦と首狩りを倒したあの技は凄かったぞ」

 

「ありがとうございます」

 

白石の賛辞に対してハイルが笑顔を浮かべる。そんなハイルを見て白石も笑顔を浮かべる。

 

「どこかで夕飯食べていかない?」

 

「賛成ですー」

 

何だかんだ言いつつも捜査官になって良かったと白石は感じていた。


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