東京喰種 そこそこ強い(自称)捜査官   作:ディルク

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第7話

「さてさて、自由の翼が拠点にしてる廃デパートにやって来た訳なんだけど……俺はいつまでここで待機していればいいんだ?」

 

作戦決行当日、白石とハイルの姿は第12区にあった。両手にアタッシュケースを持ちやる気に満ちていた白石であったが現在待機の命令を下されていた。

 

「まあまあ、白石君そう焦らないで。丸手特等がマスコミからインタビューを受けていますのでそれが終われば直ぐに貴方の出番がきますよ」

 

うずうずしていた白石を千之准特等が諌める。もうすぐインタビューも終わり作戦が始まる。それまでは気持ちを落ち着かせろと。

 

そんな千之の言葉を聞き入れたのか白石は目を閉じて黙りこんだ。その様子を見た千之は安心したようにため息を吐き、早く丸手が作戦を開始するのを願った。自分では次は白石を押し止められそうになかったからだ。

 

「よーし、てめえら待たせたな!これより喰種殲滅作戦を開始する!第1隊進軍開始!!!」

 

「「「「うぉぉぉぉぉぉッッッッッ!!!!!!!」」」」

 

そんな千之の願いが届き、丸手から作戦開始の指令が響き渡った。その声に気持ちを昂らせた一部の捜査官達が白石の了承も得ずに突撃を開始する。彼等は白石の指揮下に加わりたくなかったのだ。

 

「あらら、血気盛んな奴等が突撃していったよ」

 

「しっ、白石上等、彼等を止めないで大丈夫なんですか!?」

 

「俺の指示も聞かずに突撃していったやつらのことなんかどうでもいいさ。それに見てみろ」

 

「えっ?」

 

白石に言われた通りに捜査官が突撃した捜査官達を見てみる。

 

「ごぺッ」

 

「かぴょッ」

 

「がッ」

 

次々と羽赫の赫子をうけて倒れていく。デパートの2階から羽赫の喰種が捜査官達を狙撃している。捜査官達は反撃を試みるもその数に対応できずにとうとう全滅してしまった。

 

「という訳でお前達はここで待機。……ハイルお前もだ」

 

「りょうかーい」

 

こっそりついていこうとしていたハイルに釘をさすとハイルは頬を膨らましながらも渋々頷いた。

 

「ではでは久しぶりにお見せしましょうかね」

 

左手に持っていたクインケを展開させる。赫包が形状を変えて武器の形になる。アタッシュケースの中から現れたクインケは有馬が所持している[ナルカミ]に酷似していた。

 

羽赫のS+レート[t-human]、それが白石が左手に持っているクインケである。

 

その場で[t-human]を2階にいる喰種達に向ける。バチバチと[t-human]から電撃が生じ始める。これでもかというぐらい電撃を貯めて、とうとう限界が来たというタイミングで電撃を放出した。

 

すさまじい速度で電撃は2階にいる喰種達の元へと向かう。禍々しいほどの電撃に喰種達は思わず頬をひきつらせる。リーダー格の喰種が逃げろと叫んだがそれに反応できた喰種は数体だけであり、ほとんどの喰種が電撃により体を切断され、消し飛ばされた。

 

「よし、これで少しは通りやすくなったな。第1隊俺に続け」

 

そんな惨状を引き起こした本人は第1隊についてくるように指示を出し突撃を開始した。

 

「す、すげぇ」

 

「あの人なら敵なんていねえな!」

 

「よし、皆行くぞ!隊長に続けぇぇぇッッッ!!!」

 

圧倒的な強さを見せた白石の後を第1隊の隊員が続く。そんな彼等の様子を見て白石は思わずニヤリと笑いそうになる。あまりにも簡単に第1隊の隊員達の心を掴めたので内心驚きもあったが。

 

「鱗赫、尾赫は前衛へ、羽赫は後方、甲赫は羽赫の近くで護衛だ。なるべく羽赫は甲赫から離れるな。Qバレットは中衛から後衛にかけてクインケ持ちを援護しろ」

 

走りながら全員に聞こえるように指示を飛ばす。それに隊員達は了解と大声で返す。

 

「そら、敵が現れたぞ。各員戦闘開始!」

 

左手に[t-human]を持ったまま、右手のクインケを展開させる。白石の相棒である[カタナシ]だ。刀の形状をした[カタナシ]を横に一閃する。すると白石に攻撃を仕掛けようとしていた3体の喰種の首がとぶ。

 

そんな彼に続くように第1隊の隊員達が喰種達に攻撃を開始する。クインケが喰種達を貫き、切り裂いていく。

 

喰種達が前衛の甲赫、鱗赫のクインケ持ちを狙うが羽赫のクインケとQバレットに邪魔をされてうまく攻撃を仕掛けることが出来ない。また、羽赫のクインケ持ちは甲赫に守られているためこちらにもそう簡単に攻撃することが出来ない。

 

「何かおかしいな」

 

右手の[カタナシ]で近くの喰種の体を上下に真っ二つにし、左手の[t-human]で少し離れた位置にいる喰種達を撃ち抜く。順調に喰種を殺していっているが白石には疑問が浮かんでいた。

 

(ここにいる喰種だけでも100体以上、第2隊の方にも同程度の数がいるらしいし、確か非戦闘員が300体ほど、となるとこいつらは捨て駒か。大人ばかりなのを見るとこいつらの目的は……)

 

「白石先輩、伏せてください」

 

考え事をしていると横からハイルの声が聞こえる。その声に従い上半身を伏せる。すると白石にギリギリ当たらないという距離でハイルのクインケ[アウズ]が白石を攻撃しようとしていた喰種を切り裂く。

 

「あり「白石先輩、その羽赫のクインケ下さい!」へっ?」

 

お礼を言おうとした白石の声を遮り、ハイルが目を輝かせて自分の願望を口に出した。そんなハイルに白石は思わずポカンと口を開けて固まってしまった。

 

自分の憧れである有馬のクインケに酷似した[t-human]をハイルが欲しないわけがなかった。戦闘中にも関わらず白石の肩をつかんで揺らし続ける。

 

「下さい!下さい!下さい!」

 

「ちょ、揺らさない、で」

 

何とか動揺した状態から抜け出した白石は、ハイルのもとから逃れようとする。

 

「あのクインケくれたなら離してあげます!」

 

「分かった、分かったから。お前が重要討伐目標を1体でも討伐できたらくれてやるよ」

 

「やったー!」

 

周りでは殺しあいが起きているのにも関わらず、ハイルは白石が今まで見たなかで一番の笑顔を浮かべていた。

 

(やべ、これで本当に討伐してきたらどうしよう)

 

実力的にもそれが可能そうなのでもしそうなったらどうしようかという思いが白石の中に生まれた。

 

そんな白石のことなど気にせずにハイルは次々と[アウズ]で喰種を切り殺していく。早く重要討伐目標が現れないかと心待ちにして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第1隊も第2隊も今のところ順調そうだな」

 

戦闘が繰り広げられている現場からかなり離れた位置にある作戦室の中で丸手がモニターを見ながら呟いた。

 

「そっスね、丸手さん」

 

丸手の呟きに馬渕一等捜査官が同意する。それはこの作戦室にいる全員の気持ちを代弁した言葉だった。

 

敵の数に誤算があり最初はどうなるかと思っていたが第1隊は白石とハイルが敵を蹂躙して、第2隊では篠原を中心に堅実に喰種を討伐していっていた。

 

「第1隊の中継映像入ります」

 

「おう」

 

現場をよく見たかった丸手が第1隊の戦闘区域にカメラマンを何人か投入していた。そのカメラマン達が撮っている光景がモニターへと写し出された。

 

「おいおい、白石と伊丙は化け物か何かか?」

 

モニターの映像を見た丸手の第一声はそれであった。モニターには白石とハイルが喰種を次々と蹂躙していく光景が写し出されていた。

 

(マジで白石は今回入れといて正解だったな)

 

白石がいなければ最初の羽赫の喰種達によって第1隊はかなりの犠牲を強いられただろうし、突入までそれなりに時間がかかったはずだった。

 

「第1隊は大丈夫そうだな。おい、第2隊はどうなってる?」

 

「はっ、順調に討伐を進めていると……待ってください、篠原特等より通信が」

 

『聞こえるか、マル』

 

「ああ、聞こえてるぞ。どうした?」

 

『落武者とジャッカルがこっちに現れた。他の重要討伐目標はまだ現れていないから注意してくれ』

 

「おう分かった。お前も気を付けろよ」

 

『ああ』

 

篠原からの通信の内容を頭の中に再度思い浮かべる。

 

(落武者とジャッカルだけ。ファルコン、鬼瓦、首狩りは一体どこに?それに残りの非戦闘員はどこに行ったのか?)

 

考えても情報が足りていないため答えは出てこない。とりあえず丸手は第1隊に警戒するように通信を入れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『篠原の方に落武者とジャッカルが現れた。そっちにもSレート越えが現れるかもしれないから注意しとけ』

 

「了解」

 

(とは言ったものの、もうすぐ敵さんは全滅しそうなんだけどな)

 

戦闘開始からおよそ1時間ほどで正面の喰種達はほとんど壊滅状態に陥っていた。だいぶ余裕を持って戦えている状況なので突然敵が現れても大丈夫だろうと白石は思っていた。

 

「全員、作戦完全遂行まで一瞬たりとも気をぬくな」

 

「「「「了解!」」」」

 

一応隊員達に注意するように呼び掛けておく。クインケを持たない局員捜査官達は奇襲でも受けたらひとたまりもないだろう。

 

しかし、そんな彼の思いを読み取ったのか突然赫子が隊員達に降り注ぎ、着弾した場所が爆発し始める。直接体に被弾した隊員は体が爆発によって弾けとんだ。

 

爆発によって更地になった場所に1体の喰種が舞い降りた。その喰種に続いて2体の喰種も現れた。

 

「避難は大体終わったみてーだからこいつら殺して俺達もさっさと引き上げるぞ」

 

「任せろ」

 

「了解だ、首領」

 

真ん中の喰種が羽赫、両脇の喰種が共に甲赫の赫子を出し、臨戦態勢へとはいる。

 

「どうやら大本命がこっちに来たみたいだな」

 

「そうですね。でも私にとっては朗報です」

 

「俺にとってもだよ」

 

2人共臆することなく笑みを浮かべて自分のクインケを構えた。白石は新しいクインケ発見と、ハイルはこれで[t-human]が手に入ると内心で思った。

 

「うん?よく見ればハイルじゃねえかよ。何でここにいるんだ?」

 

「おいハイル、あれはお前のこと知ってるみたいだけど知り合いか?」

 

「喰種の知り合いなんていませんよ」

 

「それもそうかね」

 

「それよりも行きますよ」

 

「ああ、ぶっ殺してやろう」

 

ファルコンの言葉に疑問を感じた白石だったが、すぐにその事を頭から消し去りハイルと共にファルコン達へと斬りかかった。


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