東京喰種 そこそこ強い(自称)捜査官   作:ディルク

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第6話

白石とハイルの顔合わせから1週間がたち、白石達の姿は本局の彼等のオフィスにあった。この1週間地味な捜査ばかりで1体も喰種を狩れていなかったのでやる気をなくしている白石は机の上で寝ており、ハイルは頬を膨らませてただ椅子に座っていた。

 

「白石先輩ー、何で私達こんなに地味な仕事しか与えられてないんですか?」

 

「……」

 

「て、寝てるし」

 

一向に起きようとしない白石の様子を見て不満を感じたのか静かに白石へと忍び寄る。その片手にマジックペンを持ちながら。

 

「あと少し♪あと少し♪」

 

じわじわと白石との距離をつめて顔へと近付いていく。後もう1歩近付けば白石に落書きが出来る距離まで近付いた。

 

「おい白石いるか?」

 

ところがそんなハイルの努力もノックもなく入ってきた丸手によって台無しにされてしまった。

 

「おいハイル、お前の手にあるマジックペンは何だ?」

 

「いやー、そのー、……えへへ」

 

「そんな可愛くしたところで無駄だ」

 

「おい、いちゃついてないでこっちを見ろ」

 

白石達の様子を見て早く話をしなければと判断した丸手は2人の会話を打ち切り自分の話を始める。

 

「白石、今度俺が指揮をとる作戦にお前を引き入れたからよろしく頼むぜ。今回の作戦、強力な羽赫持ちがいなくて困ってたんだ」

 

「まあ暇だったから良いですけど」

 

「それなら暇潰しは提供してやるからきっちり働けよ」

 

「へーい」

 

「明日の10時までに第4会議室に来いよ」

 

それを告げると丸手はさっさと部屋から出ていってしまった。

 

「ハイル、仕事ができたぞ。それも楽しい仕事だ」

 

「楽しみですね。やっぱり私は書類じゃなくて実戦がいいです」

 

「俺もそうだよ。そして何より今回の仕事は……」

 

「仕事は?」

 

「勘だが良いクインケが手に入りそうな気がする」

 

楽しみだと白石が笑みを浮かべる。その表情には喰種に対する恐怖心など微塵も浮かび上がっていない。自分が負けるとは思っていないのだ。

 

そんな白石の様子を見て、ハイルはこのパートナー兼上司は自分とは相性が良さそうだと内心で喜ぶ。やりずらい上司よりやり易い上司の方が良いのは当然だ。

 

(最初は有馬さんから離れるのも嫌だったけど少しの間だったらこの人と組んでも悪くないかな)

 

「ハイル、俺達の初仕事だ。足を引っ張るなよ」

 

「それはこっちのセリフですよ白石先輩」

 

お互いに笑みを浮かべながら挑発的な視線を交わす2人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丸手から呼び出しを受けた次の日、白石達の姿は喰種対策局本局の第4会議室にあった。会議室では丸手が捜査官達の前でモニターを使っての説明をしている。

 

「今回の俺達のお仕事はSSレートファルコン率いる自由の翼っていうダサい名前の喰種の集団を殲滅することだ」

 

丸手の言葉に会議室に動揺が広がる。大部分はSSレートという点に驚き、残りはファルコンという名に驚いていた。

 

「白石先輩、ファルコンってそんなに有名なんですか?」

 

「まあ、そこそこに」

 

「ふーん」

 

周りの捜査官達の様子を見てハイルが白石へとファルコンについて尋ねる。それに対する白石の返答はすごく適当なものであったがハイルもあまり興味がないのでながされてしまった。

 

「自由の翼は大体100人位の戦闘員と300人程の非戦闘員で構成されている。こいつらによる被害はいたるところで起きている。喰種捜査官の多数殺害、大量の捕食事件、そして捕食目的以外の殺人などもはや屑というべき存在だ」

 

丸手の説明を聞いた捜査官達の目に憎しみの炎が宿る。それだけ喰種という存在は彼等にとって受け入れられる存在ではないのだ。

 

「構成メンバーについてだが首領のSSレートファルコン、S+レート鬼瓦、Sレート首狩り、Sレート落武者、S-レートジャッカル、こいつらが最重要討伐目標だ。絶対に逃がすんじゃねぇぞ」

 

「そして次に部隊の編成だがまず総指揮は当然俺がやる。副指揮は篠原に任せる。部隊は正面に1つ、裏に1つ、そして支援に1つだ。正面の第1隊の隊長は白石、裏の第2隊の隊長は篠原、そして支援の第3隊は千之でいく」

 

「ちょっと待ってください丸手特等!第1隊の隊長が上等だなんて何を考えているんですか!?この討伐隊には彼の他にも准特等だっているじゃないですか!」

 

丸手が挙げた部隊編成に関して1人の捜査官が声を張り上げる。彼は自分の上司を差し置いて白石が隊長に抜擢されたのが納得いかないのだ。

 

「何でかだって?一番適任だからに決まってんだろ」

 

至極当然という様子で捜査官へと告げる。それから丸手は周りを見渡し全員に語りかける。

 

「第1隊は激戦になることが予想される。隊長はそんな中戦闘をこなしながら現場の指示もこなさなきゃならねぇ。それを確実にこなせそうなのが白石しかいなかったから隊長に抜擢したんだ。白石の討伐実績は知ってるだろう?」

 

「それは……」

 

白石の功績を知っているため誰も何も言うことができない。上等なのにも関わらず特等級の実力を持つ男、それが白石の評価だった。

 

「どうやら誰も文句は無いらしいな。よし、今から作戦の細部を説明していくぞ」

 

それから1時間ほどで会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白石先輩とっても有名なんですねー」

 

「物凄く目の敵にされてたけどな」

 

会議が終わった後2人は休憩と称して20区に軽めの昼食をとりにきていた。

 

「で、何が食べたい?」

 

「奢ってくれるんですか?」

 

「良いよ。金はそれなりに持ってるから」

 

喰種捜査官になってから今までの間に数々の高レートの喰種を狩ってきたため金銭にはそれなりの余裕があった。

 

「えっと、じゃああの喫茶店に行きたいです」

 

白石はハイルが指を指した方を見てみる。そこには『あんていく』という看板のある喫茶店があった。それを見た白石は喫茶店だったら小腹を満たすには丁度いいだろうと判断した。

 

「じゃあ行くぞ」

 

「はい」

 

2人があんていくに入るとウェイターが2人に対応する。

 

「2名様ですか?」

 

「そうでーす」

 

「あちらの席にどうぞ」

 

ウェイターの声に従って席へと腰かける。座って直ぐにメニューを開いてウェイターに注文をする。

 

「俺はサンドイッチとココアで」

 

「白石先輩って甘いものが好きなんですか?」

 

「まあね、苦いものよりは好きだよ」

 

「ふーん、じゃあ私も同じもので」

 

「かしこまりました」

 

注文を聞いたウェイターが下がるとハイルが白石へと話しかけお互いに談笑を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「店長、ようやくお客さんも少なくなってきましたね」

 

「そうだねトーカちゃん」

 

白石達の注文を受け付けたウェイター、霧嶋董香があんていくの店長である芳村へと話しかける。いつもなら彼等の他にも店員がいるのだが今日は2人しかいなかった。

 

「入見さんがいてくれればかなり楽になるんですけどね」

 

「古間くんもね」

 

「ハハハ、そうですね」

 

話をしつつもお互いに仕事を止めることはしない。てきぱきと仕事をこなしていってる。

 

「ところで白石先輩、羽赫のクインケ持ってたんですね」

 

しかしハイルの一言によって思わず2人の仕事の手が一瞬止まる。なぜなら今のハイルの発言は喰種である2人にとって聞き逃せる内容ではなかったからだ。

 

「店長、聞こえましたか?」

 

「ああ、聞こえたよ。まさか白鳩とは思わなかった」

 

白石達に気付かれないように小声で話ながら手を動かす。とりあえずは彼等の注文の品物を作るのが先だ。

 

「一応S+レートを1つ持ってるけど」

 

「良いなー、私は鱗赫のS+だけなんですよね」

 

「それで十分だと思うけど何が不満なんだ?」

 

「有馬さんは甲赫と羽赫のS+持ちじゃないですか。だから私も甲赫と羽赫のクインケが欲しいんですよね」

 

「ああ、IXAとナルカミね。あれは確かに凄い性能だよな」

 

この会話を聞いている董香は思わず冷や汗が出てくる。2人は平然とS+と言っているが公式ではこの20区にSレートより上のレートの喰種はいない。しかし2人はS+が大したことではないように話している。何故だかは分からないが董香にはそれがデタラメだとは思えなかった。

 

「お待たせしました。注文の品です」

 

そんな董香の様子を見た芳村が自ら注文の品を2人へと持っていく。

 

「わー、美味しそうですね」

 

「ただのサンドイッチなのにどうして分かるんだ?」

 

「匂いですよ」

 

2人の様子を見て芳村は思わず頬が緩みそうになるが警戒は解かない。2人の会話に出てきた有馬という名前、恐らくはCCGの死神、有馬貴将特等捜査官のことだろう。

 

2人の様子からどちらも有馬の姿を間近で見ていたように感じれる。つまりはどちらも0番隊に所属していたのではないかと芳村には思えた。

 

「美味しー♪」

 

「おお、うまい」

 

「ありがとうございます。お客様は20区にはよく来られるのですか?」

 

「いや、今回は昼休憩で来ただけだよ。20区には高レートの喰種もいないし」

 

「そうなのですか。では、またいらしたときは是非ともご来店ください」

 

そう言うと芳村は白石達のもとを離れた。どうやら捜査が目的でないことが分かったので安心することができた。

 

「いい店だな、ファルコンを討伐したらまた来ようかな」

 

「そうですね」

 

最後にサンドイッチを飲み込み、ココアを流し込む。そのまま席を立ち会計を済ませて2人は店を後にした。

 

「ふぅー、あの2人行きましたね」

 

「そうだね、でも……」

 

「店長?」

 

突然黙りこんだ芳村に董香が声をかける。それに対して芳村は何でもないよと微笑んで返した。しかし彼の中にはまたあの2人とは何かありそうだという予感がしてならなかった。


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