東京喰種 そこそこ強い(自称)捜査官   作:ディルク

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第5話

「結局ジェイソンには逃げられてしまいましたね」

 

「うむ」

 

ジェイソン討伐戦から2日後、白石の姿は13区支部の会議室にあった。あの作戦に参加していた喰種捜査官6人で情報の整理をしていた。

 

「問題は我々の作戦が敵に知られていたことです。今回の作戦で最優先討伐目標のジェイソンを伐てなかったのも死者が13人も出てしまったのはそれが原因です」

 

「ただこちらの偵察が敵にばれただけじゃないのか?」

 

中津の言葉に白石が疑問を抱く。作戦がばれていたのは敵に偵察が発見されたからなのでは、と。しかしそんな白石に中津は首を横に振る。

 

「偵察がばれただけなら敵にはいつ我々が来るかなど分からないはずです。作戦は白石一等が拠点を発見してから1週間後に行われました。偵察は発見後2日以内で終わらせました。その前もその後もジェイソンの様子に変化はありませんでした」

 

「ところが1週間後の作戦決行日にはなぜかこちらの動きを完全に読んでいた」

 

「そうです。我々を待ち受けていました。こちらの奇襲は完全に失敗でした」

 

何故なんですかね、と中津は上を仰ぎ見て額に手を当てる。中津からすれば昇進のチャンスだったのだ。単体のSレートを特等と特等並の一等で圧殺する。もしもの時のために40人の局員捜査官も動員した。

 

ところが運はちっともこちらに味方しなかった。討伐数だけ見れば54体とかなりの数だがレートはB~Cレート程の喰種しかいなかった。それに対してこちらは13人の死者を出してしまった。ちっとも良い戦績とは言えない。

 

「まあどうしようもないですね。この件は本局の方に回しましょう」

 

それから1時間ほど情報交換を行い会議を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

13区支部での会議が終わった後、白石は本局の方に来ていた。総議長からお呼びだし受けたからだ。呼び出しを受けた本人は一体何を言われるんだと不安になってきていた。

 

もう何回も通った総議長室への道を辿る。今まで何回も説教を受けたので総議長室への道筋はしっかりと覚えている。

 

(何だろうな?もしかして降格終了かな?まだ何も学んでないけど)

 

そんなことを考えているうちに総議長室の前に到着した。総議長からは14時に来いと言っていた。手元の腕時計を見る。時刻は13時47分、少し早く来すぎたようだ。

 

「あれ、白石君じゃない?」

 

「本当ですね」

 

「ん?」

 

声のした方を見てみると離れたところから本局局長和修吉時と対策Ⅱ課課長の丸手特等捜査官が白石の方へと歩いてきていた。

 

「お久しぶりです、和修局長、丸手特等」

 

「久しぶりだね。そういえば最近降格させられたらしいね」

 

「けっ、一体何やらかしやがったんだ?」

 

「うーん、合同捜査完全無視で単独で喰種を討伐しに行っただけなんですけどね」

 

そんな白石の返答に吉時は面白そうに、丸手は胡散臭いものを見たような反応を示す。

 

「あははは!やっぱり変わってないね、入りたてだったあの時から何も変わっていない」

 

「笑い事じゃないですよ吉時さん。おい白石、いいかよく聞け。合同捜査を組むってことはそれだけ危険性の高い任務につくってことだ。それを単独でこなそうとするなんざ馬鹿のすることだ。例え討伐に成功しても無視された班は次からは心から協力してくれなくなる。周りに敵ばかり作ってどうするんだ?そんなんじゃ早死にしちまうぞ」

 

「これはマルの言う通りかな、確かに白石君は強いけど無敵のスーパーマンじゃないんだからもう少し周りと協力してみなよ」

 

「はあ」

 

吉時と丸手が白石へと忠言を送るが白石に納得した様子は感じ取れない。そんな態度を見て、吉時は苦笑いを浮かべ、丸手は舌打ちをする。

 

「ところでどうしてこんなところにいるんだい?」

 

「総議長からお呼びだしがかかりましたので」

 

「あー、そういえば親父殿が何か言ってたような」

 

吉時が顎に手を当てて思い出そうとするが全然思い出せない。

 

「ごめん、忘れちゃった」

 

「構いませんよ局長、すぐ爺から聞くことになるんですから」

 

「爺?」

 

「総議長です」

 

白石の暴言に吉時は爆笑し、丸手は横で顔を青ざめさせる。

白石はそんな2人の様子をどうでもよさそうに見ている。

 

「では早く爺の所に行ったほうがいいのではないかな?」

 

「そうですね。では失礼します」

 

吉時と丸手に頭を下げて別れを告げ、総議長室の扉をノックする。

 

「入れ」

 

常吉の声に従い部屋の中に入る。そのまま奥の机にいる常吉のもとまで歩いていく。

 

「それで、一体何の用事ですか?」

 

白石は他の人が聞けば青ざめるようなことを平然と口にする。それに対して常吉の額がピクリと動くがいつものことだと思いつつ話を始める。

 

「黒磐特等のもとでしっかりとやれているらしいな」

 

「まだちょっとしかやってませんけどね」

 

「それでもお前が人の言うことを聞くようになったのだ。それだけでも成長したと言えよう」

 

「そんなことを言うために呼び出したんですか?」

 

珍しく常吉が誉めたのにも関わらず白石はそれをどうでもよさそうにしている。早く本題に入れ、と暗に言っているのだ。

 

「……。そうだな、では本題に入るとしよう。白石一等、貴君をジェイソン討伐作戦の功により上等へと昇格させる。また黒磐特等のもとから離れて白石班として行動してもらう」

 

常吉の言葉に首をかしげる。つい最近降格させられたのにこんなに直ぐに昇格なんてあるのだろうか、と。

 

「別に俺は構いませんけど良いんですか?」

 

「構わん。それよりもお前に頼みたいことがある。白石、白日庭を知っているな」

 

「あー、優秀な人間を集めてる教育機関だったような」

 

「その認識であっている」

 

「それと俺に頼みというのが何の関係があるんですか?」

 

「もう察しているのではないか?」

 

ここまで話しているのだからおおよそのことは分かるだろうと常吉が問いかける。しかし一切理解していない白石には何のことだか見当もつかなかった。

 

「知りません。早く教えてください」

 

「察しが悪いな。お前には庭の新人の教育を任せたい」

 

「新人?なぜ俺が」

 

「お前が適任であると判断されたからだ」

 

「はあ、まあ良いですけど」

 

自分のどこにそう判断する要素があったのかは知らないが仕事であれば断ることもできないのでとりあえず了承の返事を返す。

 

「そうか。では顔合わせといこう」

 

「ここに来ているんですか?」

 

「ああ、お前が入ってきてからずっと外で待たせている。入ってきなさい」

 

常吉が扉へと声をかけるとゆっくりと閉じられていた扉が開き始める。白石もどんな人物か気になるのかまじまじと扉の方を見つめる。

 

(あれ?)

 

入ってきた人物を見たとき思わず唖然としてしまった。そうさせた原因は入ってきた人物の服装だ。自分もかつては袖を通していた0番隊の白装束、それを目の前の人物が着ている。

 

あらためて入ってきた人物をよく見る。おっとりとした垂れ目。ピンク色の髪。ふわふわしたような雰囲気。本当に0番隊、いやそもそも捜査官なのかすら疑うような印象だった。

 

「彼女が自分が教育する新人ですか?どうやら0番隊みたいですけど、本当に新人なんですか?」

 

「入局してからまだ1年だ。充分新人と言えよう。それよりお互いに挨拶でもしたらどうだ?」

 

「……これから君のパートナーとして君の教育にあたる白石上等だ。よろしく」

 

とりあえず常吉の言葉に従い挨拶をしてみる。そんな白石に対してふわふわした少女、伊丙 入はニコニコと笑いながら挨拶を返す。

 

「こんにちは白石先輩、伊丙 入三等です。これからよろしくお願いします」

 

入はそう言って白石へと手を差し出してきた。白石も嫌がる理由もなかったので素直に握手をする。そして気になったことを聞いてみる。

 

「ところでなんで先輩?」

 

「先輩は0番隊出身でしょ、だからです」

 

「なるほど」

 

白石が疑問がとけて頷いていると常吉から用は済んだ、退室しろ、と言われたので白石はハイルを連れて総議長室を後にして廊下を歩いていく。

 

「楽しみですね白石先輩」

 

「いや、一体何が?」

 

「これから始まる私達の成長物語です」

 

「……俺も入ってるの?」

 

「有馬さんからは一緒に成長してこいと言われましたので」

 

そしてそのままハイルは有馬について目を輝かせながら話し始める。白石もしばらく有馬さんから離れていたのでハイルの話に耳を傾ける。そうしてしばらくハイルから有馬の話を聞いていると突然ハイルが止まって白石の方を向いた。

 

「そういえば白石先輩、なんて名前なんですか?」

 

白石の方へとぐっと顔を近づけさせる。ハイルにとっては何気ない行為だったが突然そんなことされた白石は驚いてハイルから数歩離れる。

 

「あれ、どうしたんですか?」

 

若干頬を赤くしている白石に純粋な目を向けて尋ねる。からかっている様子もない。白石はそんなハイルを見て悟る。

 

(こいつ天然か)

 

やっかいなだな、とため息をつく。そんな白石を首をかしげながら見ていたハイルだったが質問に答えてもらえていないのを思い出して白石に返答を迫る。

 

「白石先輩名前教えてください、名前」

 

「俺の名前?そうだな、……もう少しお前を信頼できるようになったら教えるよ」

 

「えー、まだたりてないってことですか?」

 

「今会ったばかりだから当然だろ」

 

「ふーん、分かりました。だったら直ぐにでも教えてもらえるように頑張りますので早く仕事しに行きましょう」

 

そう言うとハイルは白石の手を引っ張って廊下を走り出した。突然のことに文句を言おうとした白石だったが鼻唄を歌いながら楽しそうにしているハイルの横顔を見るとそんな気も失せてしまった。

 

(これから大変そうだな)

 

苦笑しながらそう思わずにはいられない白石だった。


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