東京喰種 そこそこ強い(自称)捜査官   作:ディルク

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第16話

「白石上等!?」

 

白石の崩れ落ちた姿を見て、真戸は驚きの声をあげる。白石が倒されるのは真戸にとって自分の右手が無くなったことよりも驚くことだった。真戸は白石の実力を特等以上と評価していたため、その白石が不意を突かれたとはいえ、地に倒れ伏しているのは真戸からすれば予想外だった。

 

「上手く1人倒せたね」

 

「もう1人もさっさと倒してトーカ達を連れ帰るわよ」

 

その声のしてきた方へと真戸が視線を向けると、真戸にとって今までに何回か目にしたことのある存在がいた。

 

「魔猿……それに黒狗ッ!」

 

猿と犬のマスクをした2人の喰種。共にSSレートであり、過去に20区で縄張り争いをしており、その名を東京中に響かせていた。しかし、そんな2人はある時を境に姿を消していた。それ以来彼らの姿は1度も見られることはなかった。今この時までは。

 

「古間さん、入見さん」

 

トーカが思わずといった様子で2人の名前を呟く。体にはまだ痛みが残っていたが2人が助けに来てくれたので先ほど感じていた死の恐怖は忘れ去られようとしていた。

 

完全に安心しきっているトーカと違って、真戸は隙を見せてはいないが内心ではかなり焦っていた。いかに真戸がすぐれた捜査官であっても、1人でSSレート2体を相手取ることは不可能だった。

 

(流石にこの状況は厳しい。1体だけでも苦しいSSレートが2体、とてもではないが私1人では手には負えん。増援は今こちらに向かっているのは亜門君1人だけ。それも彼は相手が魔猿と黒狗という事を知らない。当てには出来ん)

 

これだけの悪条件に加えて、今の真戸は右手を失っている。敵が真戸を殺そうとすれば数分持てば良い方だろう。

 

「とにかくあの白鳩をさっさと殺してトーカ達を連れ帰りましょう」

 

「そうだね。早くあの2人の安全を確保しようか」

 

そこまで言うと2人は真戸を正面からとらえた。そんな古間達の視線を受けて真戸も[フエグチ弍]を放り捨てて、[フエグチ壱]を手に取り戦闘態勢に入る。せめて死ぬにしても1体でも道連れにしてみせよう、そんな意思を見せながら。

 

お互いに視線をぶつけ合い隙を探りあう。どちらも動きはほとんど見られない。ただ、お互いのクインケ、赫子がゆらゆらと動いていた。

 

このまま均衡は破られないと思われたが思わぬ所で均衡が破られた。それは今まで柱に縫い付けられていたトーカの声だった。

 

「古間さん、うしろッ!!」

 

「なッ!?」

 

一瞥することもなく古間と入見は横に跳躍する。すると先程まで古間のいた場所を炎に包まれた赫子が斜め下から通過した。赫子はそのまま天井にぶつかり、爆発する。

 

古間と入見は先程自分達が倒した捜査官の倒れていた方へと視線を向ける。そこには倒れたまま[ガーンデーヴァ]を構えていた白石がいた。ゆっくりと立ち上がって首を振る。そこには入見から受けたはずの傷が存在していなかった。

 

「どういうこと?確かに致命傷だったはず」

 

そんな白石の様子を見て、思わず入見がそう呟く。完全に不意を突いての奇襲。誰がどう見ても致命傷だという傷を与えたのに何故生きているのだと。

 

「ああ、確かに致命傷だったよ。俺じゃなきゃ死んでた」

 

「君じゃなきゃ死んでた?」

 

白石の言葉に古間が反応する。白石に対する警戒は続けたままであるが、古間は白石の言葉の続きを聞きたがっていた。

 

「まあな。まあそれをお前達に説明してやる必要は無いんだがな」

 

「どういうッ!?」

 

白石へと聞き返していた入見が後ろから聞こえた音に反応して、直感的に横へと跳ぶ。その後直ぐにその場所を[フエグチ壱]が通過した。入見は横凪ぎを警戒してバク転で[フエグチ壱]から距離を取った。

 

「惜しかったですね。真戸さん」

 

「せっかく引き付けてくれたのにすまないね」

 

「いえいえ、チャンスでしたらまたいくらでも作りますので」

 

そこまで言い切ると[ガーンデーヴァ]を投げ捨てて前傾姿勢をとって古間目掛けて勢い良く飛び出した。[カタナシ]を突きの型で構えながら古間へと接近する。古間は一瞬で距離をつめてきた白石に目を見開く。

 

しかし、直ぐに首を曲げて顔を狙った突きを回避する。そのまま白石の胴体へと蹴りを入れる。そんな古間の蹴りを白石は左腕を防御に使って胴体への直接のダメージを回避する。

 

それでも人間の数倍以上の身体能力を有しており、また肉弾戦に優れている古間の蹴りは完璧には防ぎきることは出来ず、壁まで吹き飛ばされる。

 

当然白石もやられて終わるのではなく、即座に反撃に移る。飛ばされた勢いを利用して壁を蹴って、再び古間に切りかかる。今度は安易には回避できない横凪ぎの一撃だ。

 

「おっとぉッ!!」

 

そんな白石の攻撃を古間は天井に赫子を突き刺して体を引き寄せて上に回避することで防いだ。さらに赫子を使って自分を離れた場所まで飛ばすことで白石とさらに距離をとる。

 

それを見て古間への追撃を諦めた白石は再び壁を蹴って、先程まで自分が立っていた場所まで移動する。そして、古間への突進の時に落とした[ガーンデーヴァ]を拾って、遠距離モードで炎を纏った赫子を飛ばした。

 

それを見て、古間が回避しようとするが、赫子の軌道で狙いが自分でないことに気が付いた。

 

「入見ッ、避けろッ!!」

 

「ッ!?」

 

間一髪の所で回避に成功した。髪に掠めて入見の後方へと赫子が飛んでいき、柱を数本破壊した。しかし、入見の危機は去らない。白石の攻撃に意識を持っていかれた隙に入見と距離を取っていた真戸の一撃が迫る。

 

「くッ!!」

 

[フエグチ壱]を体を捻って避け続ける。真戸は攻撃を緩めることなく、縦横無尽に攻撃を仕掛ける。白石の攻撃によって柱が破壊され、より自由に[フエグチ壱]を扱っていた。何とか懐に入って攻撃を仕掛けようとしても、後ろから白石の攻撃が迫ってくるので、遠距離から赫子で攻撃するので精一杯だった。

 

「ちッ!!古間、さっきからこっちに流しすぎよ!サボってんじゃないわよ!」

 

「サボってないよ!?こっちも必死で頑張ってるさ!」

 

近距離では[カタナシ]、遠距離では[ガーンデーヴァ]で絶え間なく攻撃される。自分に攻撃してくると見せかけて、後ろの入見へ。またはその逆を。それも一撃でも食らえば致命傷になりかねないものばかりなのだ。

 

(この魔猿が押されるだなんてね)

 

はたから見れば均衡が保たれているように見えても、実際に戦っている古間には分かる。このまま時間をかけて戦っていればいずれは押しきられてしまうだろうということが。

 

「ならばッ!!」

 

白石の[ガーンデーヴァ]の攻撃が止んだ瞬間に白石のもとへと駆け出した。そして戦っている最中に入手した壁の破片を出来るだけ小さく、しかし、しっかり殺傷力のある大きさに握りつぶして白石の顔目掛けて放つ。

 

思いの外接近する速度が速かったので、避けるのを止めて腕を顔の前に構えて、破片を防ぐ。その一瞬で古間は白石との距離をさらに詰める。そして、白石が腕を下ろそうとした瞬間に古間は足下の水に蹴りを放つ。それは激しい水飛沫を生じさせ、白石の視界を塞ぐ。

 

(右か左か、または前か)

 

白石の感覚が研ぎ澄まされる。白石の世界から色が消えて、動きはスローモーションになり、余計な音は消え去る。極限までに集中して情報を分析する。

 

0.1秒経過。動きなし。0.2秒経過。動きなし。0.3秒経過。

 

(左に動きあり)

 

チラッと白石の視界の端に何かが映る。全体像は見えなかったが白石は別にそれでもよかった。

 

(獲った)

 

古間が行動を起こしてからほとんど1秒もかけずに[カタナシ]を振るう。これは避けようがないだろうと白石は確信していた。[カタナシ]の刃が対象に当たるまでは。

 

(ッ!?しまったフェイクか!)

 

魔猿のマスク。斬ったモノは肉とはほど遠いものであった。故に直ぐ体勢を立て直そうとする白石だったが、大振りの一撃であったために直ぐには体勢を戻すことはできない。

 

そんな白石の事情など知らんと言わんばかりに水飛沫の中から古間が割って現れた。赫子を構えて白石の首を狙う。白石はそれに抗おうと[ガーンデーヴァ]の矛先を古間へと向けようとする。この距離で赫子を放てば自分にもダメージがあるがそんなことを言ってはいられない。

 

感覚を研ぎ澄ませているせいで白石は余計に恐怖を感じていた。さすがの白石も首を切断されては生きてはいられない。だから、必死に体を動かす。死の運命に抗うために。

 

古間の赫子が、白石の[ガーンデーヴァ]の矛先が、共に相手へと向かい、その空間は紅く染まった。


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