東京喰種 そこそこ強い(自称)捜査官   作:ディルク

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第15話

「亜門君、重原の河まで来てくれ。喰種だ」

 

『この前の重原の河ですね!?私もすぐに向かいます!それでは……!』

 

真戸が亜門へと連絡を送る。トーカがその隙に攻撃を仕掛けようとしていたが白石が牽制していたため実行は不可能だった。

 

「この間ぶりだね。笛口の娘に……」

 

そこまで言って真戸はトーカへと視線を向ける。正確には彼女の持つ携帯のウサギのストラップを。

 

「ヤマグチ……いや、これは偽名か」

 

「こう呼ぶべきかな」

 

「ラビット」

 

その言葉を聞いたトーカの頬に一筋の汗が流れる。彼女は悟ったのだ。彼女達はここに誘き寄せられたのだと。

 

「こいつが支局に偽情報を流そうとした喰種ですか?」

 

「ああ、どういう意図で敵陣に潜り込んだのか考えたが、どうやら笛口の娘の為のようだ」

 

「CCGがたいした情報も持ってないから俺達を殺せば直接顔を見たものはいなくなる」

 

「そして以前に近い比較的平穏な生活が送れる可能性がある……」

 

そこまで言って真戸はニヤリと笑みを浮かべてトーカ達の方を見る。

 

「反吐が出る。バケモノの分際で穏やかな暮らしを望もうなどと!そうは思わないかね?白石上等」

 

「そうですね。人を貪り喰うことしか能のない喰種が平穏な生活を望むなんて笑える話ですね」

 

真戸と白石の侮辱の言葉にトーカの顔が怒りに歪む。殺気だち、今にも2人に襲いかかりそうな雰囲気を身に纏っている。

 

そんなトーカを無視して真戸はリョーコの腕を大事そうに抱き抱えているヒナミの方へと視線を向ける。突然真戸の視線を感じたヒナミが体をビクッと震わせた。

 

「……そうそう『贈り物』は喜んで頂けたかな?母親が恋しいかと思ってねェ……クク」

 

「まんまと掛かりおった」

 

「……ッッ」

 

真戸の言葉を受けてとうとうヒナミは耐えきれずに目から涙を流し始めた。声を出すことはなく、噛み締めるようにして泣いていた。

 

「ハハハ、ハハハハッ」

 

そんなヒナミの様子を見て、真戸が耐えられないというように笑い始める。それでもトーカに注意を向けるのは止めていない。いつでも対応できるように意識を向けていた。

 

「てめェッ!!」

 

当然トーカがそんな真戸の様子を見て、我慢できるはずがない。一刻も早く真戸の口を閉じるために距離を詰める。白石が手を出そうと動き出そうとしたが、真戸が手を向けて手を出さないよう指示を出す。

 

そして自分の持つクインケのスイッチを押してクインケを展開する。背骨の様な形をした[フエグチ壱]だ。

 

「そらッ!!」

 

[フエグチ壱]がトーカの命を奪わんと襲いかかる。真っ直ぐ迫り来る[フエグチ壱]をトーカは地面を強く蹴り、空中で体を捻ることで回避に成功する。

 

「ほう!見事!!そこらの雑魚とは違うな!!」

 

伸びきった[フエグチ壱]を再び自分の元へと引き戻す。

 

「今日死ぬ運命でなければ過日の20区の梟のようにさぞかし厄介な喰種となったであろうッ!!」

 

さらに近付いてきたトーカに再び[フエグチ壱]で攻撃する。左側から勢いをつけてトーカを殺さんと襲いかかる。しかし、トーカにあたる直前に柱に激突してその動きを止める。

 

「おっ……」

 

それを見た真戸が動きを止める。その隙にトーカは真戸との距離をさらに詰める。

 

(コイツがここへ来る可能性を作っておいて良かった。アンタの武器はここでは闘りにくい)

 

真戸達に誘い出されたとはいえ、ここは何本も柱があり、真戸のクインケ[フエグチ壱]では闘いにくい。トーカはCCG支局に偽の情報を渡し、真戸がここに来るきっかけを作った過去の自分に感謝していた。

 

(ここなら殺れる)

 

トーカにとって気掛かりだったのは真戸に止められてクインケすら展開していない白石だったが、真戸さえ殺せれば自分の力なら直ぐに殺せるだろうと思い、白石のことを頭の中から追いやった。

 

(この距離なら!)

 

とうとうトーカは真戸の懐へと飛び込んだ。この距離なら避けられないだろうと赫子を翼のように展開する。確かにこの距離なら普通はどうしようもないだろう。しかし、真戸にはこれに対処する手段があった。

 

ポイッ

 

「は……?」

 

[フエグチ壱]を投げ捨てた真戸を見て、思わずトーカの動きが止まる。その隙に真戸はもう1つのクインケを展開した。アタッシュケースから花弁の形をしたクインケが出てきた。それを見たトーカは後ろに大きく跳んで真戸と距離を取る。

 

「!!!」

 

「!?」

 

それを見たトーカとヒナミの反応は違った。ヒナミは恐ろしいものを見たように目を見開き、トーカは驚きつつも疑問が浮かんでいた。

 

(もう1個?……というか、さっきの武器も今度のヤツもまるで……)

 

「嫌……」

 

「ヒナミ?」

 

そんなトーカの考えをヒナミの小さな呟きが遮った。トーカがヒナミの様子を伺うとヒナミは頭を抱えて俯いていた。

 

「急いで拵えたからケースが2つになってしまったが……クク……どうだ?見覚えがあるだろう?」

 

そこまで言って真戸はヒナミの方を見て、今までで一番というほど愉悦で顔を歪ませながら笑いながら言う。

 

大好きなお前の母親だ

 

クインケは喰種(お前たち)の赫子から作るものだからなァァ!!

 

「いやだぁぁあぁあぁぁあぁ」

 

とうとう耐えきれなくなったヒナミが頭を抱えて、涙を流しながら叫ぶ。もうこれ以上は耐えられない、止めてくれというように。

 

「あぁぁぁぁああぁあぁあ」

 

そんなヒナミを見て、真戸はますます顔を愉悦に歪ませる。そして真戸の顔を見て、トーカの怒りは最高点に達した。

 

「……こ……んのッゲスッ野郎ォ」

 

怒りで我を忘れたトーカを見て、笛口リョーコの赫包から作られたクインケ[フエグチ弍]の開いていた花弁を閉じてトーカの赫子を防ぎきる。

 

「学習していないなラビット。相変わらず直情的で思考が短絡」

 

[フエグチ弍]を頭上に持ってきて、回転させる。4つの花弁がそれぞれ別の動きをして、トーカの注意を散漫させる。トーカの注意がそらされたところで最も注意が向きにくい位置の花弁をトーカの足に巻き付かせて、動きを止めさせる。

 

「果てしなく愚かで……」

 

残りの3つの花弁を焦らすようにゆらゆらと動かす。それを見たトーカは額から一筋の汗が流れる。

 

「それゆえ命を落とす」

 

1つの花弁がトーカの脇腹を抉り、後ろの柱へと縫い付けた。

 

「お前はいい材料になりそうだ」

 

トーカの表情は痛みに、真戸は愉悦に歪み、ヒナミは純粋に驚きの表情を浮かべる。

 

「あぁあぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

「うむ……調節段階だが夫婦揃って素晴らしい使い心地だ。ところで……」

 

そこまで言って、真戸は後ろに立っていた白石の方を向く。今までの間白石はずっと立っていただけなのだ。

 

「退屈させてしまって申し訳ないね白石上等。私の無茶を聞いてくれてありがとう」

 

「構いませんよ。良いクインケを見るのも勉強になりますので」

 

「そう言ってくれると助かるよ。では、君のためにも早くこいつを始末してみせようと言いたかったのだが、少し待ってくれ」

 

「さて」

 

振り替えって柱に縫い付けられているトーカの方を向く。

 

「死肉を貪るハイエナ……ゴミめ。1つ聞いておきたかったんだ。一体なぜ貴様らは罪を犯してまで生き永らえようとする?」

 

首を傾けながら真戸はトーカに問いかける。心底不思議そうに、全く分からないというように。

 

「…………っ……て……生きたい……って……思って……何が悪い」

 

頭に浮かぶのは自分を大切に育ててくれた愛しい母の顔。あまり記憶に残っていないが、それでも深い愛情を注いでくれたのは覚えている。

 

「こ……んな……んでも……せっかく……産んでくれたんだ……育ててくれたんだ……」

 

「ヒトしか喰えないならそうするしかねえだろ……こんな身体で……どうやって正しく生きりゃいいんだよッ」

 

「どうやって……!」

 

噛み締めるようにして呟く。

 

「テメエら何でも上からモノ言いやがって……テメエ自分が喰種だったら同じこと言えんのかよッ……」

 

「ムカツク……死ね!死ね死ね死ね死ねックソ白鳩野郎みんな死んじまえッッ!!」

 

「クソ…が……畜生……ちくしょ……」

 

「喰種だって……」

 

「私だって……アンタらみたいに生きたいよ」

 

そこまで聞くと真戸の表情から感情が消えて、無表情になった。

 

「……それはそれは……聞くに耐えんよ。もう十分だ、死ね!」

 

そこまで言い切ると先程拾っていた[フエグチ壱]でトーカの首を跳ねるために振るう。刻一刻と迫るトーカの死。それを見て、とうとうヒナミが行動にうつる。赫子を出して、真戸の右手へと向かわせる。しかし、後ろで見ていた白石が[ガーンデーヴァ]から炎を纏った赫子を放とうとする。

 

(悪いな。お前は急所をはずしてッ!?)

 

赫子を放とうと[ガーンデーヴァ]を構えた状態で白石の動きが止まる。何が起こったと熱を放つ自分の首筋へと手を寄せる。首筋に手を当てると熱い液体が手に触れた。

 

(馬鹿な……少しも気付けないなんて)

 

白石の目には右手を切り飛ばされた真戸の様子が見てとれた。助けに行こうにも白石の体は言うことを聞かず、膝から崩れ落ちる。

 

(真戸上等……気を付けて……)


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