東京喰種 そこそこ強い(自称)捜査官   作:ディルク

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第14話

どこにでもありそうな普通の部屋で白石は布団にくるまって寝ていた。時刻は12時35分。完全に寝坊である。しかし依然として白石に起きる気配はない。しかも白石の家を知る人は殆どいないため人が起こしに来るということなどない。今まではそうだった。

 

「しーらーいーしーせーんーぱーい、朝ですよー」

 

今ではうるさい後輩がいるため1日中寝ているなんてことはなくなった。ハイルの大声に目を覚ました白石はゆっくりと布団の中から這い出た。

 

「う……今何時?」

 

よろよろと動きながらスマホの電源をつける。ロック画面に出た時計の時刻を虚ろな目で見る。

 

「12時38分……どうしよう。ものすごく寝たい」

 

「せーんーぱーい、お腹すいたんで早く開けてくださーい」

 

「……起きるか」

 

布団から起き上がり玄関へと向かう。近付くにつれてハイルの声がより大きく聞こえてくる。その声に少しイライラしながらも扉を開けた。

 

「あっ、やっと起きましたね」

 

「起こしに来てくれてありがとう」

 

「うふふ、完璧に見える白石先輩にも意外な弱点があるんですねー」

 

「俺のどこが完璧に見えるのかね?まあいいや。とりあえず家にあがるか?昼飯食べてないんだろ。何か出してやるよ」

 

「ありがとうございます」

 

やったーと手を上に挙げて喜ぶハイルを尻目に白石はキッチンへと向かう。冷蔵庫を開けて中を漁る。

 

(これでいいか)

 

昨日の夕飯の残りである親子丼を冷蔵庫から取り出した。多目に作っておいたので2人分でも十分な量がある。電子レンジで温めてハイルの元へと持っていく。

 

「ほら」

 

「ありがとうございますー」

 

白石も椅子に座って親子丼を食べ始める。白石が無言だったのでハイルの声だけが部屋の中に響いていた。しばらくすると2人共食べ終わり、食器を片付ける。

 

「よし、準備完了」

 

白石が出発の準備を終える頃にはもう2時を過ぎていた。しかし、白石はそんなこと気にせずに仕事場へと向かう。その隣ではハイルが機嫌良さそうにスキップをしていた。

 

「何でそんなに機嫌が良いんだ?」

 

「えへへ、初めて白石先輩の手料理を食べたので」

 

「……」

 

白石は思わず口をポカンと開けてハイルの方を見る。特に変わった様子は見られない。そして直ぐにこいつはこういうやつだったと思い出した。

 

「あれ、白石先輩顔赤くないですか?」

 

「気のせいだ」

 

赤面した顔を見せないようにしながら白石は仕事場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白石が本局でお叱りを受けたあと、彼等は真戸の元へと行くために20区のCCG支部へと来ていた。白石達が中へ入るといつもよりも暗い雰囲気に包まれていた。何故こんなことになっているのか気になった白石は近くの職員に聞いてみた。

 

「凄く暗い雰囲気が漂ってるけど何かあった?」

 

「白石上等ですか。……草場三等が昨日喰種に襲われて死亡したそうです」

 

「……」

 

(なるほど、釣れ始めたな)

 

まさかこんなに早く動き出すとは白石も考えていなかったので驚きはしたが、それもまたいいかと思い納得した。白石としても草場が死んだのは残念だという気持ちもあるがそこまで関わりもなかったので悲しみにくれるほどの衝撃は受けていなかった。

 

「白石先輩?」

 

「……何でもないよ。とりあえず真戸上等の所に行こうか」

 

職員に頭を下げて真戸達のいる捜査室へと向かう。ハイルは鼻唄を歌いながら、白石はこれからのことを考えながら神妙そうな顔をして歩いている。

 

しばらく歩いていると目的地である捜査室へとたどり着いた。ノックをして部屋の中へと入る。

 

部屋の中にはいつも通りの真戸と少し俯きがちな亜門の姿があった。どうやら草場のパートナーの中島はいないらしい。

 

「白石上等、少し話したいことがあるのだが構わないかね?」

 

白石が部屋に入って来た瞬間に真戸が声をかける。

 

「話ですか?」

 

「ああ、できれば君と2人で話したいんだが」

 

「……分かりました。ハイル、ここで待っててくれ」

 

「はーい」

 

ハイルにそのまま部屋に留まるように指示を出して真戸と一緒に隣の部屋へと移動する。

 

「君が狙っていたのはこれだね?白石上等」

 

「何のことですか?」

 

「ああ、別に君を責めてるわけじゃないんだ。むしろ私は効率的だと思っている。喰種一匹を餌に他の喰種を釣り上げる。なかなか良い発想じゃないか」

 

「……ハァ、ばれてるみたいですね。ええ、そうです。あの時、あの喰種を逃がしたのはあいつが他の喰種をおびき寄せてくれるのではないかと思ったからです」

 

「20区は他の区と違って比較的おとなしい場所だと聞きました。死体の発見数も少ない。しかし、行方不明者数はそこそこに多い。だから誰かが20区を抑えている、そう思ったわけです」

 

「なるほど」

 

「あいつを逃がして周りの喰種に助けを求めれば抑えられている喰種が派手に動き出すかもしれない。母親の方は戦い慣れていなかったので周りの喰種が助けていたのでしょう。そんな彼女が殺されて娘から復讐を頼まれたら心情的にも動きたくなるはずです」

 

「ほう、確かに」

 

「また復讐を頼まれていなくても勝手に復讐を果たそうとするかもしれません。どちらにせよ構いません。出てきてさえくれれば。できれば喰種共がボロをだして奴等のグループの全容が分かれば一番いいのですが、あまり期待はしていません」

 

「自分としては幹部くらいのやつが出てくればラッキーかなと思っています」

 

「……」

 

白石の話を聞いて、真戸は顎に手を当てて考え込んでいた。しかし、しばらくすると笑顔を浮かべて白石の方を向いた。

 

「なるほど、君の考えは理解できたよ。私も協力は惜しまないよ。これまで通りに喰種を殺していこう。何かあれば直ぐにでも君に連絡するよ」

 

「ありがとうございます。自分は常には20区にはいられませんので、助かります」

 

(さて、できるだけ早く動きを見せてほしいものだな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『白石上等、奴等が動きを見せたようだ』

 

「いくらなんでも早くないですか?」

 

白石としても1週間ほどかかるかなと思っていたのだが3日後には真戸から連絡が入っていた。真戸が白石に情報提供に来た2人組のことを話した。

 

『確認してみたが身元もでたらめ、現場も何も出てこなかった。恐らくは撹乱、そして誘き寄せだろう。私はこれに乗ってみようと思っているんだ。できれば君にも来てほしいのだが』

 

「分かりました。どこで合流しますか?」

 

『位置を送ったから、重原の河というところに18時ぐらいに来てくれ』

 

「はい」

 

電話を終えると隣の机で寝ていたハイルに声をかける。

 

「ハイル、仕事だ。起きろ」

 

「……うぅん……ふぁ……なん……ですか?」

 

「喰種狩りに行くから起きて準備しろ」

 

「うー」

 

ハイルがよろよろと起き上がる。まだ完全には覚醒していないようでふらふらしていた。白石はそんなハイルを見てため息をはいた。

 

「ハァ、まだ寝ててもいいぞ。喰種が現れたら呼ぶから」

 

「はーい」

 

そう言って再び眠りにつくハイルを見て、白石はため息をはく。ハイルがいなくても白石だけで対処は可能であるが楽ができるため、白石としてはいてほしかったのだ。

 

(まあ、これじゃしょうがないな)

 

幸せそうな顔をして寝ているハイルを眺めて、白石は自分の装備を整えるべく、白石個人に用意されている装備室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は17時55分。白石は真戸が言っていた重原の河へと向かっていた。両手にクインケを持ち、念のためにQバレットも用意してきた。

 

(ここが重原の河か)

 

しばらく道を歩いていると真戸の言っていた河へと到着した。白石は辺りを見渡して真戸の姿を探す。しばらく白石が目線を色々な所に向けていると、奥の方から真戸が現れた。

 

「白石上等、こっちに来てくれたまえ」

 

真戸が白石を手招きして呼び寄せる。白石も河へと降りて真戸の近くによった。

 

「奥の方で何をしていたんですか?」

 

「ああ、ちょっとした仕込みをね。さて、少し離れた所から様子を見てみよう」

 

そう言って真戸が歩きだした。白石はそんな真戸の隣を歩いていく。しばらく無言で歩いていたのだがふと気になることがあった白石は真戸に話しかけた。

 

「本当に喰種は現れるのですか?捜査の撹乱が目的だと思うのですが」

 

「ああ、私もそう思っている。なに、奴等がここに来るというのは私の勘でしかない」

 

「なるほど。でしたら現れるまで待つとしましょう」

 

聞きたいことも聞けたため白石は口を閉じた。先程2人のいた場所からそこそこ離れた地点で監視をすることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真戸上等、娘の方が現れました。奥の方へと向かっていきました」

 

「やはり来たか。もう少し様子を見てみるとしよう」

 

「分かりました」

 

白石は双眼鏡を覗きこんで辺りを注意深く見渡す。しばらく双眼鏡を覗きこんでいるともう1人の姿が見えた。即座に真戸へと伝える。

 

「真戸上等、2体目が来ました」

 

「ほう、現れたか。ではそろそろ行くとしよう」

 

「これ以上待たないんですか?」

 

「ああ、私の勘がこれ以上待ってても意味はないと言ってるからね」

 

「分かりました」

 

白石がそう言うと2人はトーカ達のいる場所へと歩き始めた。近づくにつれて2人の姿がよく見えてきた。白石はトーカの顔を見て、どこかで見たことがある気がした。

 

「白石上等、準備はいいかね?」

 

「もちろんですよ。真戸上等も油断しないでくださいね」

 

「ああ、もちろんだとも。喰種ごときにやられてやるわけにもいかないからな」

 

2人は歩きながらお互いに声をかけあう。2人に共通して見られるのは喰種ごときに負けるわけがないという絶対の自信だった。

 

「ヒナミが見つかったよ!」

 

2人が近づいていることにも気付かずにトーカは電話でカネキへと話しかけている。白石達にとってはそんなことは関係がなく、徐々に距離が縮まり始めていた。

 

『そ……それで今どこなの?』

 

「重原小の近くの……」

 

そこまで話してトーカの言葉は止まった。ふと視線を向けた先にいたのはかつてトーカが殺すのに失敗した真戸、そしてあの芳村が警戒していた白石だ。

 

そんなトーカの様子を見て、真戸はニタァというような笑みを浮かべ、白石はいつもと変わらない様子で立っていた。

 

「さて、喰種共、死ぬ準備はできたか?」


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