東京喰種 そこそこ強い(自称)捜査官   作:ディルク

12 / 18
第12話

「で、親子を追って20区にやって来たと」

 

「はい」

 

白石とハイルは真戸と亜門と合流するために20区のCCG支局へと訪れていた。ちなみに先日真戸達が本局にいたのは真戸が呼び出しをくらったためであり、彼等の今の拠点は20区だった。

 

この捜査室には白石とハイル、亜門しかおらず真戸の姿はない。しかもハイルが寝てしまっているので実際はずっと2人で話しているようなものだった。

 

「それで目星はついてるの?」

 

「こちらを」

 

亜門から白石へと捜査資料が渡される。白石は受け取った資料に目を通す。

 

「我々は723番がクロだと見ています」

 

「何か動きは?」

 

「まだ何も、しかしこの後捜査会議がありますのでそこで何か進展があるかもしれません」

 

「なるほどね」

 

亜門の言葉に納得し再び資料に目をおとす。723番笛口リョーコ。そしてその娘。女子供を殺すのはこれが初めてではないにしろあまり気分的に良いものではない。

 

「そろそろ会議の時間です。行きましょう白石上等」

 

「そうだね。おい、起きろハイル」

 

「うー、ご飯ですか?」

 

「そんなわけないだろ。仕事だ」

 

とりあえず考えるのを止めてハイルを連れて会議室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「723番はどうですか?20区の担当方」

 

真戸が20区の局員捜査官、中島と草場に尋ねる。何かしら動きを見せたか、と期待が若干こもった声だった。

 

「は、はい。723番は午前中は特に行動はなく、日がくれてから石碑のようなものに立ち寄る姿を確認しました。その後知人の車に乗り帰宅しました」

 

「車のナンバーは?」

 

亜門が話していた草場へと話しかける。突然話しかけられた草場は焦ったように答える。

 

「あ、えっと、すみません。確認していません」

 

その草場の発言を聞いて亜門が眉をしかめる。かなり苛ついた態度を出していたが口には出さなかった。

 

「それと石碑は実際は墓では?埋蔵品が696番の喰種と関連付けられれば723番は喰種と確定する。何故そこまでやらまなかったんです?」

 

「わ、私に墓を漁れと!?そんなこと倫理に反しますよ」

 

「本局と我々とではやり方が違うんです」

 

亜門の言葉に思わず草場と中島は言い返す。しかしそんな2人の言葉に怯まずに亜門が言い返す。

 

「倫理?」

 

何を言っているんだとというふうに亜門が呟く。そして草場達の方を目を見開いて見る。

 

「倫理で悪は潰せません。我々は正義、我々こそが倫理です」

 

そう亜門が言い切った瞬間に草場達は思わず息を飲んだ。自分達との認識の違いを改めて思い知らされたのだ。

 

「ふむ。他に報告することはありますか?」

 

「い、いえ」

 

「では今日は解散としましょう」

 

真戸の提案に草場達は思わずほっとする。その様子に亜門の額がピクリと動いたが亜門は黙って会議室を後にした。

 

「私達空気でしたね」

 

「言うな。そもそも今日から合流した俺達が混ざるわけにはいかないだろ」

 

「ですよねー」

 

「とりあえず真戸上等のところに行くか」

 

「はーい」

 

先に会議室から出ていった真戸と亜門を追いかけるために白石とハイルは椅子から立ち上がり駆け足で会議室を後にした。そこには草場と中島だけが取り残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白石達が真戸達のもとにたどり着くと真戸が亜門を落ち着かせている光景が見られた。どうしたのだろうかと白石は思ったがまあいいかと考えることを止めた。

 

「真戸上等」

 

「ああ、白石上等。すまなかったね、これと言った進展がなくて」

 

「いえ、構いませんよ」

 

「そう言ってもらえると助かるよ。今日はもう遅いから捜査に関してはまた明日ということで構わないかね?」

 

「分かりました」

 

白石が了承すると真戸はまた明日と言って亜門と白石達を置いて一足先に支部を後にした。白石も帰ろうとしたのだが支部で保護された子供を見て走り出した亜門のことが気になっていた。

 

「ハイル、もう帰っていいよ」

 

「白石先輩はどうするんですか?」

 

ハイルはいつもは一緒に帰っているのに今日は先に帰らせようとする白石に疑問を抱いた。そんなハイルに白石は肩をすくめながら言った。

 

「ちょっと土掘ってくる」

 

「宝探しでもするんですか?」

 

「まあ、そんな感じだな。汗はかくし、汚れるし、宝も大したものではないけどな」

 

頭に?を浮かべたハイルを放置して白石は亜門を追いかけるために支部を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人目のつかないひっそりとした場所に亜門はスコップを持って来ていた。孤児の姿を見た時に浮かんだ怒りの感情。欲望のままに人を喰らう喰種達への怒り。それが亜門の体を突き動かしていた。

 

(彼等のように幼くして親を殺される子供がいていいはずがない!喰種は悪だ!この世から最後の一匹まで駆除しなければならない!)

 

局員捜査官が報告していた石碑の前に立つ。墓を漁るような行為、普通であれば亜門のような正義感の強い人間がすることではないが、彼は今怒りの炎で燃えていた。ましてやこの墓は喰種のもの。まだ断定できたわけではないが亜門の勘は間違いないと言っていた。ならば躊躇する必要はない。

 

「ずいぶんと仕事熱心だね、亜門一等」

 

スコップを突き立てていざ穴を掘ろうというタイミングで亜門の後ろから声がかけられる。民間人に見られたのではないかと一瞬焦った亜門だったがしばらくすると自分の上司の1人であることに気が付いた。

 

亜門は振り上げていたスコップを下ろして後ろを向く。そこにはやはり白石がいた。亜門は何故ここに白石がいるのかと疑問に思いながら声をかける。

 

「白石上等、何故ここに?」

 

「亜門一等のことが気になってね。支部に連れてこられた孤児を見て、いてもたってもいられないっていう顔をしてたから多分ここなんじゃないかなって思ったけど、正解だったみたいだね」

 

やれやれというように白石は肩をすくめる。そして右手に持ったアタッシュケースからクインケを展開する。[カタナシ]を手に持った白石の方を見て亜門が疑問の表情を浮かべる。

 

そんな亜門を無視して白石は[カタナシ]に血を吸わせて、形状を巨大なスコップへと変える。スコップへと姿を変えた[カタナシ]を見て亜門は目を点にした。

 

「俺も手伝うよ。埋められている場所までは俺が抉るから後の細かいのはよろしく」

 

「そ、それはありがたいのですが。その」

 

「うん?どうした?」

 

「白石上等のクインケはどのようなものにでも形状を変化させられるのでしょうか?」

 

ずっと思っていた疑問を口にする。人間の技術力では喰種のように赫包を自由な形にすることは出来ない。だからクインケは形を1つにして作られているのだ。

 

しかし白石のクインケはそんな事を無視しているかのように形を変える。武器だけではなくスコップにまで。これにはさすがの亜門も聞かずにはいられなかった。

 

「うーん、俺も詳しい話は聞いてないんだよね。これは一応SSレートから作り出されたクインケなんだけど日本産じゃなくてドイツ産なんだよね。なんでもとてつもなく燃費が悪くて普通は1回のチェンジに要する血の量は人間1人分」

 

「なっ!?」

 

白石から告げられた言葉に亜門の表情が驚きに染まる。白石の言葉が正しいのであれば白石は今人間1人分の血を消費したことになるのだ。亜門は白石の体調が心配になった。

 

「大丈夫なのですか?」

 

「まあね。俺がこんな年で捜査官してるのはそこんところも関係しているんだよ。まあ、俺のことはどうでもいいからはやく掘るぞ」

 

白石は[カタナシ]を地面に突き立てる。その瞬間に何か固いものが刃先に当たる。その地点の手前まで地面を掘り起こす。

 

「あと少し掘れば何かあるよ。石じゃなければいいけど」

 

「分かりました」

 

かなり掘られた地面を亜門がさらに掘っていく。しばらく掘っているとコツンと何かにスコップの刃先が当たった。亜門は勢いよくそれを掘り起こした。

 

(696番のマスク!723番は喰種!)

 

その時の亜門の表情は白石が見てきた中で一番輝いていた。そんな亜門の様子に白石は思わず苦笑いをする。

 

(そこまで嬉しそうにするかね)

 

そう考えたが真面目なのだしそうなのであろうと判断した。そしていつまでもマスクを見て達成感溢れる顔をしている亜門に帰ろうかと声をかけた。

 

「はい、白石上等!明日にでも723番を駆除しましょう!」

 

「はいはい」

 

帰り道は白石がやる気に満ち足りた亜門を落ち着かせながら帰るはめになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では我々はここに待機しているのでここまで追い込んでくれ。君達が捜査をしているものだと気付けば君達から離れようと正反対の方へ行くだろう。そして人目が少ないこちらへとやってくる」

 

「そして来たら俺の[ガーンデーヴァ]で無力化して真戸上等の新しいクインケで止めを指す」

 

「その通りだよ白石上等。私は君のクインケも笛口の絶望の顔もどちらも早く見てみたい」

 

「白石先輩、これどっちが悪者か分かりませんね」

 

「それは言わないで」

 

真戸の邪悪な笑みを見たハイルがふと白石へと話しかける。確かにどっちが悪人か全然分からない顔をしていた。

 

「それでは君達頼んだよ」

 

真戸の指示を聞いた中島達が行動を開始した。監視カメラの情報で笛口達がどこにいるのかは把握できている。中島達はあえて笛口達に気付かれるように彼女達の近くで聞き込みを開始した。

 

それに気付いた笛口リョーコが娘のヒナミの手を引いて早足で歩き始める。突然の母親の様子に疑問を抱いたヒナミだったがリョーコはそんなことを気にしてはいられない。

 

(ここをもう少し進んで曲がれば逃げられるはず)

 

ふとリョーコが後ろを振り返ると中島達が近づき始めていた。それも真っ直ぐリョーコ達の方を見て。

 

(気付かれている!?)

 

そう思わずにはいられなかった。そしてその思いがリョーコの足を早めさせた。死地に自ら向かっているとも知らず。

 

ようやく曲がり角に着くことが出来た。ここを曲がれば人目も少なく道も複雑なので逃げ切ることが出来る。曲がるまではそう思っていた。

 

(これで逃げッ!?)

 

曲がった道にはアタッシュケースを持った人間が4人いた。白鳩、喰種達の天敵である喰種捜査官達である。その姿を目におさめたリョーコは目の前が真っ暗になり足が止まった。

 

後ろから中島達も追い付いてリョーコ達の背後を塞ぐ。まだ出してはいないが手にはQバレットを握っている。リョーコにはこの場を切り抜ける策は思い付かなかった。

 

「雨ってのは嫌なものですな」

 

白鳩の1人がリョーコ達に話しかけてくるがリョーコにはそれを聞く余裕がない。自分は逃げられないにしてもヒナミだけは何としても逃がさないと、その思いだけがリョーコの中を占めていた。

 

(この娘だけは逃がさないと)

 

「ちょっとお時間いただけますかな。笛口リョーコさん」

 

怯えた様子でヒナミがリョーコに抱きついている。そんな娘の姿を見たリョーコは覚悟を決める。自分はここで犠牲になり、ヒナミを逃がすのだと。

 

「ヒナミ……逃げて」

 

俯いていた顔を上げる。その目は喰種の証である赫眼だった。娘を守るために赫子を広げる。リョーコの表情は覚悟を決めた者の顔だった。

 

そしてそれを見た真戸は笑みを浮かべ、白石は女子供の姿をした喰種を殺さなければならないことにため息を吐いた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。