「ハイル、右よろしく」
白石が[カタナシ]を振るって喰種の体を両断しつつハイルへと声をかける。
「了解でーす」
白石の指示を聞いたハイルが白石へと攻撃を仕掛けようとしていた喰種に[アウズ]で横凪ぎの一閃を放つ。白石にのみ意識が向いていたその喰種に避けることなどできず容易く切り裂かれた。
ハイルの仕事ぶりを横目で見つつ目の前に立ち塞がる喰種達を次々と殺していく。20体以上いたはずなのにすでに5体しか残っていない。喰種達も10体を殺された時点で逃げようとしたのだが背を向ければ[ガーンデーヴァ]で容赦なく撃ち抜かれるので逃げるには白石をどうにかするしかなかったのだ。
もっともBレートほどの喰種がどうあがいたとしても特等級と言われている白石にはかすり傷さえあたえることはできないのだが。
「もういいや。飽きた」
左手の[ガーンデーヴァ]を放り投げて形状をハルバートに変えた[カタナシ]を両手で持つ。そして生き残っている5体の喰種へと飛び込み回転切りの要領で[カタナシ]を振り抜く。甲赫の喰種が前に出て防ごうとするが、殆ど意味をなさずに体を両断される。
そのまま勢いをいかしてもう一度回転切りを放つ。今度は先程よりも速度をあげたため反応することさえもできずに4体の喰種はその生を絶たれた。
「よしっ、今月37体駆逐達成で新記録だ」
「私も28体で新記録達成です」
「イエーイ」
「イエーイ♪」
2人が楽しそうにハイタッチを交わす。白石の権限が大きくなったことで自由に討伐に行くことができるようになってから2人は毎日のように喰種を探しに町へと出向いていた。
「しっかし最近暴れすぎたせいか全然喰種を見なくなったよな。こいつら見つけ出すのにも1週間かかったし」
「確かに最近は喰種1体を探すのにさえ苦労するようになりましたよね」
死体となった喰種達を探したときの苦労を思い出しながらしみじみと呟く。S0の局捜を総動員してようやく見つけた喰種達だったのだ。
「喰種達も慎重になってるしな。まあとりあえず処理班を呼ぶか」
喰種達の血で惨殺現場のようになっているこの場をどうにかするべく携帯を取りだし処理班へと連絡した。
「伊丙二等と合わせて総討伐数27体。いやはやお見事。流石は白石上等」
「ありがとうございます真戸上等」
仕事を終えた白石達は本局へと戻ってきていた。ハイルは着いてそうそうに有馬の元へ誉めてもらおうと走っていった。白石はというとS0の捜査室で真戸と話をしていた。
「しっかし最近は赫子も悪質な雑魚しかいないんですよね。ファルコンを最後にクインケ作れてませんし」
「ふむ。それは気の毒なことで」
「そういえば真戸上等新しいクインケを手に入れたって聞きましたけど」
白石がそう言うとよくぞ聞いてくれたという顔をする。
「ああ、私は今ジェイソンの担当についているのだがその途中で良質な赫子を持つ喰種がいてね」
「クインケにしたと?」
「その通りだよ。これがまた使い心地の良いクインケでね。早く使いたいものだね」
「そこまで言うほどのものですか。ぜひ見てみたいものですね」
そう白石が言うと真戸がちょうどいいと笑みを浮かべた。その笑みを見た白石はどうしたのだろうかと首をかしげる。
「ではしばらくの間合同で捜査をしないかね?私も君のクインケを見たかったからちょうどいい」
「……なるほど分かりました。では明日からそちらに加わりましょう。よろしくお願いします」
そのままお互いに笑みを浮かべて握手をする。そんな彼等の様子を見て周りの捜査官達は変なものを見るような目をするが2人は気付かない。
「そうだ。今日は飲みに行かないかね?」
「自分まだ未成年ですけど」
つい最近誕生日を迎えて18歳になったとはいえまだ子供の白石が酒を飲むわけにはいかなかった。
「別に酒を飲めと言っているわけではないよ。まあ一緒に食事でもということだ」
「ハハハ、ですよね」
「ところで亜門君も連れていきたいのだが構わないかね?」
「全然大丈夫です」
真戸が亜門を連れてくると聞いて白石はハイルを連れていこうかと思ったが居酒屋のような店は嫌だろうと思い、思い止まった。
「ではのちほど」
「ええ」
そう言って2人はそれぞれ自分の仕事を片付けるために机へと向かった。
「お待たせしてすみません。真戸さん」
「いやいや、私達も今来たところだよ。なあ亜門君」
「はい」
白石が走って待ち合わせ場所へと行くと既に真戸と亜門がいた。遅れてしまったと思い2人へと謝罪を入れるが真戸は笑って許した。
3人が揃ったので店へと向かうと3分もしないうちに店へと到着した。
「ここは私がよく飲みに来る店でね。近いし、安いし、美味しい。すばらしい店だよ」
「なるほど」
店に入り3人共席につく。真戸と亜門はビールと唐揚げを、白石はジンジャーエールと串焼きを頼んだ。頼んで10分もしないうちに料理が運ばれてきた。
「では乾杯といこうか」
真戸の声で3人は乾杯をする。白石は串焼きにかぶりつく。真戸は静かにビールを飲み、亜門は唐揚げをゆっくりと食べている。
互いに何かを言うことはなくただ静かに時間が過ぎていく。白石は話題をふろうかと悩んだが結局一言も話さず串焼きを食べた。そんな彼等に店主の方から声がかけられた。
「真戸さん、今日はお連れの方が2人ですか。珍しいですね。そちらのお兄さんは甥っ子か何かですか?」
「職場の同僚兼上司だよ」
「じッ、上司!?」
真戸の言葉を聞き白石の顔を凝視する。白石はまだ18歳。どこからどう見ても子供にしか見えない。そんな店主からの視線を白石はまったく感じていないように串焼きを食べ続ける。
「ていうか、真戸さんの上司ということは彼は」
「ああ、彼は喰種捜査官だよ。白石上等捜査官。喰種対策局の未来の希望の1人さ。ここにいる亜門君同様にね」
「私など」
真戸が白石と亜門を誉めると亜門は照れたように顔を伏せる。白石は変わらず串焼きを食べ続けている。
「亜門君、何か白石君に話をふってあげたまえ」
「えッ!?私がですか?」
「私はときどき彼とは話すが君は白石君と話す機会も多くないだろう?」
「はぁ、では白石上等今よろしいでしょうか?」
「いいよ」
ようやく食べるのを止めて亜門の方を向く。白石はいつも通りだったが、亜門は何を話そうか頭の中が混乱していた。
「何が聞きたい? 」
「捜査では何が一番大事だと思いますか?」
「うーん、そうだなぁ。やっぱり情報じゃないかな。敵の赫子の種類が分かれば対策もできるし、年齢層が分かればそいつの闘い方もなんとなく想像できる。若ければ大胆」
そこまで言うと亜門の視線が尊敬の眼差しに変わる。そんな亜門の様子に首をかしげる。
(このくらいのことだったら真戸さんも言ってそうなんだけどな)
白石の考えとは違って真戸は勘と経験とクインケを第1に捜査を行っている。亜門はようやく自分の捜査のイメージと合う言葉を聞けて安心していた。
「なるほど、ためになりました」
心からの感謝を表し白石へと頭を下げる。白石はそれをジンジャーエールを飲みながら不思議なものを見るようにして眺めている。
「おや、もう終わったのかね?」
「はい」
「では明日から頑張るために」
そう言って真戸は亜門と白石へとジョッキを向ける。白石と亜門は真戸に合わせてジョッキとグラスを掲げる。
「乾杯」
「「乾杯」」
3人がジョッキとグラスをぶつけ、一気に中身を飲み干した。そして真戸が白石の方を見て話しかける。
「白石君、これは勘なのだが君がいることで何か良いことが起こりそうだよ」
そう言われた白石はポカンとしていたが直ぐに笑みを浮かべた。
「ええ、起こしてみせましょう」
そして3人は明日からの喰種達との闘いに備えるためにそれぞれ注文していた物を食べ始めた。