東京喰種 そこそこ強い(自称)捜査官   作:ディルク

1 / 18
第1話

2区の某工場跡。ここはある喰種の集団が喰場として利用していた。いつも補食される人間の叫び声が響き渡っていたが今日は違った。

 

「死ね!クソ白鳩が!」

 

10人の喰種が彼等が白鳩と呼んだ1人の人間に襲い掛かった。それぞれが赫子を使い、男に攻撃を仕掛ける。

 

「血気盛んだな」

 

それに対して男は右手に持ったクインケを展開する。瞬く間に男の手に薙刀型のクインケが握られる。

 

その瞬間喰種達に一閃が走る。

 

「え?」

 

喰種達全員が呆ける。目の前の男を殺そうと襲い掛かったのに今自分の目に映るのは自分の切断された下半身だったのだから。

 

男のした事は至極簡単、ただ薙刀を横に薙ぎ払っただけだった。男は2つに分かれた喰種達に興味がないとばかりに目の前に歩き始めた。

 

喰種の死体を越えて扉の前まで移動し、扉を蹴り破る。男が中に入ると1人の喰種が全身を補食している人間の血で赤く染めていた。

 

「おっ、白鳩は片付けたかっ!?」

 

喰種が食べるのを中断して顔を上げて扉の方を向き、驚きの表情を浮かべる。自分が部下に殺しに行かせたはずの人間が目の前に立っている。それを認識した瞬間に喰種が戦闘態勢にはいる。目が赤くなり、両肩から羽のように赫子が広がる。スピード特化の羽赫の喰種だ。

 

喰種は男を忌々しいものを見るように睨み付ける。白いコートを羽織り、アタッシュケースを持った喰種の天敵。彼等の武器であるクインケは刃物や銃弾を通さない喰種の体を容易く傷つけ死へと誘う。

 

「赫眼を確認」

 

喰種の目が赫眼になったのを確認すると男はクインケ[カタナシ]を構える。

 

「たった1人で俺を殺しに来たのか?」

 

「ああ」

 

「この俺を白蛇と知ってのことか?」

 

アルビノのように体全体が白いことと白髪からこの喰種はCCGに白蛇と呼ばれていた。そんな自分を1人で狩りに来るとは馬鹿な男がいたものだと喰種が思っていると

 

「いや、知らないね」

 

男は即座に知らないと言う。実際には捜査資料に書かれていたのだが男はそもそも眼中に無かったので既に忘れていたのだ。

 

当然そんなことを言われた白蛇が黙っているはずもなく、顔を怒りで赤くして、男に襲いかかる。恐らく下級捜査官では目で追うことも出来ないスピードで男へと接近する。狙いは両足である。自分を虚仮にした仕返しに体をバラバラにして殺してやろうと考えた。

 

地面すれすれの地を這うような動きで男に迫る。男が動かない様子を見て半ば勝利を確信する。今まで殺してきた捜査官達と全く同じ反応だと。

 

「死ね!クソ白鳩ぉぉぉぉ!!」

 

もうすぐ赫子で切り裂ける、そんな距離まで近づいてふと男の顔を見て白蛇の顔が驚きに包まれた。笑っていたのである。それも明らかに白蛇の顔を見て。

 

「わざわざ懐に飛び込んできてくれてありがとう」

 

待っていたと言わんばかりに男がクインケを白蛇に対して上から振り下ろす。

 

「くそッ!」

 

流石に2つ名をつけられているだけあってその攻撃にも反応する。咄嗟に地面に手をついて横に跳ぶことで男から距離を取る。

 

しかし男に白蛇を逃す気などなく、そのまま白蛇との距離を詰める。その勢いを利用してクインケで突きを放つ。白蛇が顔を上げた瞬間だったので反応できずに左肩に突き刺さった。

 

「があぁぁッッ!!」

 

そのままクインケを上に跳ね上げて皮膚を引き裂き、蹴りを腹にいれて白蛇を吹き飛ばした。何回かバウンドした後に地面に転がる。

 

白蛇には目の前の男が本当に人間とは思えなかった。今の蹴りで内臓が滅茶苦茶にされた。喰種である自分が非力な人間に。しかもクインケではなくただの蹴りで。

 

(こいつ人間じゃねえ!)

 

そう思いながら必死に立ち上がる。体内の傷を何とか回復させている状況だったが今すぐにでも行動しなければ殺される。そんな思いで何とか体を動かしていた。

 

しかし男はそんな喰種のことなど知らずに早く仕事を終わらせようと思い、喰種へと歩き始めた。

 

(遠距離から赫子で圧倒できれば勝機はある!)

 

男の反応速度と身体能力の高さを見て、接近戦に挑もうという気はとっくに失せていた。

 

男から距離を取るために体に力を入れる。こんなところで死ぬわけにはいかない、そんな思いが白蛇の体を突き動かしていた。

 

後ろへと飛び退き男と距離を取る。それに対して男は何もしようとはせず、ただクインケを構えている。

 

「間抜けが!羽赫の喰種を相手に距離を取らせたこと後悔するがいい!」

 

ようやく男に対して攻撃を仕掛けることができる。そう思い、赫子を弾丸のように高速で打ち出す。

 

(勝った!死ねい!)

 

弾丸を超えるスピードで男へと突き進む。このまま進めば男を貫き、男に死をもたらすはずであった。男がなにもしなければ。

 

「チェンジ」

 

男がそう呟いた瞬間、手に持っていた[カタナシ]からチューブが伸びて男の腕に突き刺さった。チューブから血が吸いとられて[カタナシ]の中に一瞬で送り込まれていく。[カタナシ]に血が充填されると赤く光だしその形状を薙刀から巨大な盾に変える。

 

「なっ!?」

 

男に当たるはずだった赫子は全て盾に弾かれた。この攻撃で男を殺せると思っていた白蛇の動きが止まる。男がその隙を見逃すはずもなく、再び「チェンジ」と呟き、チューブを腕に刺して[カタナシ]へと血を送り込む。

 

赤く光だした[カタナシ]を見て、白蛇はハッとして更に距離を取ろうとする。しかし、この行動は誤りであった。そのまま攻撃していれば白蛇に対して直接的な攻撃はすることができなかったはずだ。

 

[カタナシ]の形状が変わり、長い槍へと変形する。クインケを白蛇に向けると槍が伸びはじめて物凄いスピードで白蛇へと突き進んだ。白蛇も回避しようとするがとても間に合うスピードではなかった。

 

「ごはッ!」

 

[カタナシ]が白蛇の胸を貫く。そのまま槍を上にむけて串刺しにする。串刺しにされ何とか抜け出そうとした白蛇だったが槍を抜くことはできず、また出血も止まらずしばらくすると串刺しにされたまま動かなくなった。

 

「チェンジ」

 

[カタナシ]の形状を刀へと変える。その時、白蛇はその辺に放り投げられた。男は白蛇の生死を確認するために動かない喰種の元へと向かう。

 

「脈はなし」

 

ちょうど男が喰種の脈を確認している時に工場入口から物音が聞こえてきた。振り返り喰種共が来たかと警戒するが、白いコートとアタッシュケースが見えたので警戒を解いた。どうやら部下が到着したらしい。

 

「うわ、喰種が真っ二つになってるよ」

 

「間違いなく班長のクインケだろ」

 

「だろうな。ところで班長はどこだろう?」

 

入口で男が殺した喰種を見て、部下が騒ぐが、直ぐに自分達の上司である男の姿を探す。

 

「おい、こっちだ」

 

男が部下達の方に声をかけ、自分の方に来るように手招きする。

 

「あっ、班長だ」

 

「あの近くで倒れている喰種、白蛇じゃないか」

 

「本当だ」

 

呼び掛けに応じて部下達が男の元へと集う。男のすぐ側で倒れている白蛇を見て、1人の部下が苦笑いを浮かべる。

 

「また、1人で討伐なされたのですか?」

 

「ああ」

 

「いつもなら大丈夫だと思うんですけど、今回は他の班と合同捜査だったのに大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だろ。仕事はこなしたんだし」

 

至極どうでもよさそうに言う自分達の上司を見て、班員3人はおかしそうに笑う。自分達の班長のマイペースな態度はいつも通りだと。

 

「班長、心配させたおわびとして俺うな重が食べたいです。おごってください」

 

「俺は刺身で」

 

「俺はいいです。と言いたいですけどとりあえず海鮮丼で」

 

「……。どこに年下にたかる大人がいるんだ」

 

ちなみに男は17歳、他の班員は全員25歳だ。班員の期待したまなざしにため息をはく。報償金も出るだろうし、別にいいだろうと考える。

 

「支部から回収班が来たらな」

 

男の言葉に3人が笑顔を見せる。そんな3人の笑顔を見て、男は苦笑いを浮かべて呆れたように肩をすくめた。

 

「約束ですよ!白石上等!」

 

無邪気に喜ぶ3人を白石と呼ばれた男は呆れたような目で苦笑いしながら眺めていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。