大徳寺先生の錬金術の授業。
「一は全、全は一。これはデュエルモンスターズで言えば、デッキと一枚のカードのような物。一枚のカードはデッキを構成する一枚に過ぎませんが、
その一枚が集まってデッキが完成する。」
一人の人間では社会は構築できない。だが、その一人の人間が集まって社会が出来ている。
錬金術の講義は哲学的な学問であり、不老不死の秘薬を作ったり、非金属を貴金属に変換するような事が出来るようになる訳でも無いが、
もこっちはこの授業を密かに気に入っている。チャイムが鳴り…
「今日の授業はここまでなのニャ」
一は全、全は一について自分の言葉で述べよ。それが過去に大徳寺先生の進級試験に出たと胡蝶先輩から聞いて居るもこっちは
社会と自分について走り書きをしていると…
「さて、十代君。お昼の前に、私と一緒に校長室まで行くのニャ」
「ええ~?!」
「兄貴、何かしたんスか?」
「身に覚えが無いぞ?」
「ハハハ!十代!短い付き合いだったな!」
「万丈目君もニャ」
「何ぃ?!」
「それと、天上院さんも、三沢君も、黒木さんも」
「……」
無言で立ち上がり、筆記用具を筆箱に仕舞い、ノートと筆箱を鞄につめるもこっち。
「もこっち?」
「ごめん、ゆうちゃん。コレ預かっていてくれない?」
「いいけれど…」
校長室に向かう廊下。何故呼ばれたのか、それについてもこっちは心当たりがある。
三幻魔が封印されている。その地で校長をやっている以上、知らないはずがあるまい。
校長室に入ると、そこにはクロノス教諭が待っていた。
「良く集まったノーネ。しばらく待つノーネ。後一名、来ていないノーネ。」
大徳寺先生が一礼して立ち去る。
「何が始まるんだ、楽しい事だといいな?なぁ、万丈目!」
「サンダー!お前、馬鹿じゃないのか?クロノスの真剣な顔を見ろ。」
そう言われ、万丈目と遊城はクロノス教諭を見るが
「なんで、こっちをジロジロみるノーネ。何か顔に付いてるノーネ?」
「なっ、なんでもありません。」
「ならいいノーネ。」
「私も聞いて居ないわ。一体こんなに生徒を集めて何が始まるのかしら…。」
「悪い事じゃなければいいが…。」
無言で校長室を見渡すもこっち。何か仕掛けがありそうだ。何せあのオーナー。隠し通路ぐらいは用意していてもおかしくない。
重ね重ね、職務に忠実な海馬コーポレーションの社員が知れば噴飯物な思考を巡らしていると。
「遅くなりました。」
そういい、丸藤亮が入ってくる。
「揃ったノーネ。校長を呼んでくるノーネ。」
「カイザー!」
「遊城十代。そうか、お前も選ばれたのか。」
「選ばれたって何が?」
「すぐに…わかる。」
この張り詰めた表情。どうやら三幻魔の件だろうと内心目星をつけつつ、もこっちは涼やかな表情を浮かべる。
ややあって、鮫島校長が入室する。
「皆さん、良く集まってくれました。三幻魔のカードというものを聞いた事がありますか?」
やはり。思った通りの話が出て来て、一言半句聞き漏らすまいとするもこっち。
三枚あるが、その効果、レベル、攻守。全てが不明。
「聞いたことあるような、ないようななノーネ。」
「おっ、なんか凄そうじゃん!」
「この島には封印された、いにしえより伝わる、3枚のカードがあります。」
「それが…三幻魔のカード?!」
「島の伝説では、このカードが地上に放たれると、世界は魔に包まれ、混沌が全てを覆い、人々の闇が増大し、やがて世界は破滅、無へ帰する。」
「破滅?!」
「それ程の力を持っているカードだと伝えられています。」
「なんだか、凄そうなカードだな!」
「黙って説明を聞くノーネ。」
「そのカードを狙う者たちが現れたのです。」
「それは…一体誰なんです?」
「七星王…。セブンスターズと呼ばれる、七人のデュエリストだと名乗っています。その名前以外は全く謎なのですが、その一人がもうこの島に…。」
「でも、そのカードは封印されているのでは…?」
「三幻魔のカードは、島にある遺跡の、地中深くに安置された石室に封印されています。
その部屋には、七つの門。七精門の扉があり、七つの鍵で固く閉じられているのです。」
「3枚のカードに7つの門、7つの鍵か~。なるほどな~!」
「ホントにわかったのかノーネ。」
「その鍵がこれです。」
由緒ありそうな鍵が出て来る。美術品について詳しく知らないもこっちでも、かなりの年代物であり価値のあるものだと思える逸品である。
「これが…セブンスターズは、これを奪いに来るのか!」
「そこで、この鍵を貴方達に守っていただきたい。」
「守るといっても、一体どうやって?」
「デュエルです!」
「デュエル!」
「七精門の鍵を奪うには、デュエルによって勝たねばならない。これもいにしえより、この島に伝わる約束事なのです。
だからこそ、学園でも屈指のデュエリストである、あなたがたに集まってもらったのです。」
「鍵を受け取ってくれますね?」
その声に、6人の決闘者が動く。
「よし、おもしれえ!やってやるぜ!」
「ふむ、了解した。」
「のぞむところだ!」
「やります。」
「おっ、俺もやるにきまってるじゃないか。」
「カカカ、返り討ちにしてやるノーネ。」
最後に鍵が一つだけ残り、一同の視線が自分に向けられる。
「黒木さんは、世界が破滅しても良いのですか?」
「校長先生。この話をオーナーにしてはどうでしょうか?七星王、セブンスターズとて海馬瀬人を倒さねばならないとなれば
怖気づくのでは?」
「私もそう考えていたのですが…この程度の事態も解決出来ないならアカデミアを廃校にする、と」
「オーナーは世界が破滅してもいいのか。とはいえ、そういう事であれば私も参加します。」
「ありがとう、みなさん、この瞬間から戦いは始まっています。かならず、鍵を三幻魔のカードを守って、守りきってくれると信じています。」
校長室から退出する前に、もこっちはその場の面々全員に話があると告げる。
エントランスにて
「それで、話とは何だ?黒木」
「校長先生は七人の敵が来ると言って居たが、おかしくないか?」
「おかしい?」
「例えばだが、どうしても欲しいカードがあるとする。それこそ、手段を選ばずに手に入れたくなったとしよう。
それは7人が持っている鍵を奪わねばならない。そうなったらどうする?」
「どう、と言われてもな…」
「三沢。私なら相手の倍の戦力を密かに集め、同時に7人を個別に襲わせ、一気に鍵を手に入れてカードを奪う。
と言う事を単なる小娘ですら思いつく。あの鮫島校長が警戒する程の敵が、この程度の事すら思いつかない阿呆か?」
「なるほど、つまり黒木は予備戦力に注意しろと言いたいのか?」
「違うな、間違っているぞ、万丈目。鮫島校長が七人の敵というのは本当だろう。台所事情のせいで7人集めるのが精一杯な小物か。
いずれにせよ、黒幕の狙いが読めない。」
そこまで言った所で
「あー、もう!なぁ黒木。結局のところ俺達が勝てばいいだけの話だろう!」
「…そうだな、難しく考えすぎていたのかもしれない。勝てばいい、それだけだな。」
次の瞬間、予鈴が鳴り響く
「…昼休みが終わった?」
「げぇ?!まだ昼ご飯食べてないぜ!」
「マンマミーア!配布プリントが教員室に置いたままなのーネ!」
慌ただしく、次の授業に出るべく急ぎながら、もこっちはポケットにしまっておいた携帯食料を取り出し、袋を破って二本取り出し咀嚼する。
口の中が一気に渇くが、無理矢理飲み込んで走り出す。無遅刻無欠席の記録を失う訳にはいかない。
午後の教室に息を切らせて駆け込み、飲み物を大急ぎで飲み始めるもこっち達に好奇の視線が向けられるが、それ以上に疲れた様子のクロノス教諭の姿の方がインパクトが強く、その場で何か言われる事は無かった。
その夜。女子寮のエントランスにて。
「これが、校長先生の言って居た鍵?」
「鑑定して貰いたいが、私がセブンスターズならば間違いなく鑑定団の中に紛れて潜入するから無しだな。」
そう話していると
「流石明日香様!ブルー女子から鍵を守るよう託されるなんて!」
「やめてよ。黒木さんも託されていたわ」
「あんな運頼みなんて、所詮数合わせよ!」
雑音に思わず眉を顰めるゆうちゃんに対し、もこっちは呟く
「数合わせはどっちなんだか」
「辛辣だね…」
「ゆうちゃん。しばらくは一人きりにならない方がいい。」
「夜間の外出もしばらくは控えて置いたほうがいいかな…」
自室に戻り、もこっちはサイコショッカーを実体化させる。
「三幻魔奪取に、セブンスターズが動き出した」
『ついに…愚かな、アレを制御出来る物か。具体的な数値で言うなら、数千億ジュールのエネルギーだぞ』
「人間の貪欲さはそこが知れないぞ。日本はそれだけ膨大なエネルギー源があるならば、何が何でも制御し、利用しようとするだろう。」
『そのエネルギー源は精霊世界なのだが、な。ではお互い、立ち向かうとしよう』
「待て」
『ん?』
もこっちは真っ直ぐにサイコショッカーを見つめる
「三幻魔の復活を阻止しようとする精霊がいる」
『まぁ、人間世界まで入り込んで奮闘しようとしているのは私ぐらいだがな。こんな時期に精霊世界は戦争中だ』
「となれば、三幻魔の復活を図る精霊も居るのではないか?」
『…敏いな。その通りだ』
「そう、か」
押し黙ったもこっちを、無機質な目で見つめるサイコショッカー。
「となれば、情報源は二つあるな。セブンスターズと、三幻魔復活を目論む精霊。どちらかを捕縛すれば三幻魔の効果や攻守に迫れる。」
『…お前は。お前は恐ろしくないのか?』
「サイコショッカー。恐怖は可能性を狭める。私の前に立ちふさがるなら、神だろうと打ち倒すまで。とりあえずは」
そう言うと、もこっちはノートを広げる
「今日の復習だ」
『お前…』
「私の職業は学生だ。学生の本分は勉強。となれば、勉強に身を入れるべきだろう?」
『…一つだけ、はっきりした事がある。お前は大物になる』
「間違っているぞ。私は既に大物だ」
呆けたサイコショッカーを放置して、もこっちは教科書を取り出し、復習を始める。
セブンスターズが攻めて来ると言うのに、オーナーが動かなかったのかが今でも不思議です。忙しかったのか、はたまた影丸理事長が狡猾に動いたのか。
皆さんはどう思いますか?
私は、社長は気が付いた物の自分が出るまでも無いと黙殺した説を推します。