ノース校との交流試合。その代表を決めるデュエルを近々行うと、鮫島校長は発表する。
それが終わり、三々五々に分かれていく中。
「去年は誰が出たのだろう?」
「うーん、わかんない」
聞いてみただけではあるが、予想通りの反応が返ってきた為、さほど落胆せず肩をすくめるもこっち。
だが、直後に後ろから声をかけられる。
「亮様よ!」
「…胡蝶先輩」
赤い髪を伸ばした上級生がお手本のようなドヤ顔で立っている。
「先輩、どんな流れだったか教えてくれませんか?」
「いいわよ。相手は大柄な江戸川という生徒で、デビルゾアを主軸に置いたデッキだったわ」
「デビルゾア…」
思わぬカードを主軸に置いて居る決闘者の存在を知り、当惑するもこっち。
「メタル化をバトルフェイズ時に使ってサイバーツインドラゴンを攻撃したけれど、トラップジャマーで無効にされて返り討ち。そのまま次のターンに亮様が制したわ」
「となると、基本は」
「攻撃力2600の最上級モンスターを処理出来ない決闘者はまず選ばれない、と言う事か」
「まぁ、誰が選ばれても本校が勝つでしょうけれど」
分校に負けては沽券に関わる、と告げる胡蝶先輩に別れを告げ、もこっち達はその場を後にする。
その夜、風呂に入ろうと浴場へ向かっていると
「黒木さん、少しいいい?」
「ミーネ女医?ゆうちゃん、先に行っていて」
「うん」
ミーネ女医に連れられて、応接室に入る。
「失礼します、鮎川寮長。黒木さんをお連れしました」
「お疲れ様」
呼び出した相手が寮長。とはいえ、もこっちに緊張は無い。何かしらの事件で呼び出すとしても、心当たりはない。
一礼し、ドアを閉めてミーネ女医は立ち去る。
「黒木さん、職員会議で貴女をノース校との対抗試合に推薦したわ」
「ありがとうございます」
デビルゾア使いが相手ならば、こちらも同じように考案したデッキを使う事でミラーマッチが出来るかもしれない。
「でも、クロノス教諭と大徳寺先生がそれぞれ生徒を推薦したの。結局、総当たり戦で二勝した生徒が代表になる事になったわ」
「誰と誰でしょうか?」
「三沢大地君と、遊城十代君よ」
「…クロノス教諭が、ブルー生徒を推薦しなかったのですか?」
意外な話に突っ込むもこっち。レッドを見下すが、それ以上にオベリスクブルーに拘るのがクロノス教諭の特徴だからだ。
「十代君に勝てる決闘者が思いつかなかったのでしょうね。」
「話は以上でしょうか?」
「ええ、呼び止めてしまってごめんなさいね、お風呂に行って」
「失礼します」
風呂場にて、鮎川先生からされた話をすると、他の女子生徒も集まってくる
「…でも、変な話ね」
「そうね、どうして一年生から選ぶのかしら?」
先輩二人が解せぬと言った表情で話す
「そういえば、話に出てきたのも一年生ばかり。」
「と言うと考えられる線があるわ。ノース校は一年生を出すと言って来た」
ああ、なるほどと頷く胡蝶と、話が飲み込めない一年生組
「いえ、相手が一年生だろうと本校は本校で選べばよいのでは?」
「あのね、相手が分校の下級生なのに、本校が上級生を出すだけで勝っても負けても本校の名声に傷がつくの」
ようやく得心がいった一年生組は、ゆっくりと湯船から立ち上がる。そこに後ろから声がかけられる。
「黒木、負けたら承知しないわよ」
「ラーイエローも、オシリスレッドも、ノース校も。ブルー女子の敵では無い事を証明して来ます。」
振り返りつつ、もこっちは告げ、その場を後にする。
シャワーを浴び、更衣室で着替える一年生組。
「ねぇ、あんな事言ったけれど、どうするの?」
「勝つ」
「いや、あれだけ大口叩いて負けたら恥だけれど…」
「誰がどう見ても、私がふさわしい。そう認めさせるデュエルをする。」
立ち上がり、自室にもこっちは向かう。倒す順番及び、セリフも考えておくべきだろう。
代表決定戦をワンマンショーに仕立て上げてしまおう。主演は私、監督、脚本も私。全てが私の為の舞台にする。
代表決定戦当日。
デュエルフィールドには相応の人が詰めかける。
「シニョール&シニョーラ!今から学園代表決定戦を開始するノーネ!まずーは!」
「クロノス教諭!」
「ナパ?な、何なノーネ、シニョーラ智子」
「第一試合は、私と遊城で始めさせてください」
「おっ!俺が最初か!へへっ、やっぱり強い奴から相手をしようって事か?」
遊城の言葉を無視して、もこっちは言葉を紡ぐ。
「三沢、遊戯と私のデュエルを分析し、一番通用しそうなデッキを選ぶといい。」
「と言う事は、十代には最初から勝つ事前提だとでも言うのか!」
ざわめく会場の中、鮫島校長が告げる。
「ふむ、良いでしょう」
「鮫島校長?!よ、よろしいのデスーカ?」
「ええ。遊城十代君と三沢大地君を立て続けに倒せるというのであれば、実力は十分でしょう。」
「分かったノーネ、では両者、前に出るノーネ!」
互いに対峙するもこっちと遊城。
「俺が前座扱いか、だが黒木!勝つのは俺だ!」
「答えはデュエルだけが知っている。始めよう。」
デュエル!
もこっち ライフ4000
手5 場
十代 ライフ4000
手5 場
「私の先攻、ドロー!カードガンナーを守備表示で召喚。効果発動。デッキからカードを3枚墓地に送る」
「デッキから三枚?」
「送ったカード一枚につき、攻撃力がエンドフェイズまで500ポイントアップする。私はこのままターンエンド。エンドフェイズに、攻撃力は元に戻る」
もこっち ライフ4000
手5 場 カードガンナー
十代 ライフ4000
手5 場
「それで終わり?ならば俺のターン、ドロー!俺はバーストレディを召喚!バトルだ、カードガンナーを攻撃!」
「カードガンナーの効果発動。私はカードを一枚ドローする」
「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
もこっち ライフ4000
手6 場
十代 ライフ4000
手4 場 バーストレディ 伏せ1
「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、黄泉ガエルを墓地から特殊召喚!」
「なっ?!何時の間に…そうか!カードガンナーの時か!」
「そう。そしてこの黄泉ガエルを生贄に。人造人間サイコ・ショッカーを召喚!」
「げっ?!そいつは罠を封じるモンスター!」
「そして永続魔法、エンジンチューナーを発動!場の機械族モンスターは全て攻撃表示になり、その元々の守備力の半分、攻撃力がアップ。よって1500の半分、750が
サイコ・ショッカーの攻撃力に加えられ、攻撃力は3150!」
「何ぃ?!」
「バトル。バーストレディを攻撃!」
「ぐっ?!」4000から2050
「カードを二枚伏せて、ターンエンド」
もこっち ライフ4000
手3 場 サイコ・ショッカー エンジンチューナー 伏せ2
十代 ライフ2050
手4 場 伏せ1
「俺のターン、ドロー!よし!E・HEROスパークマンを召喚!さらに装備魔法、スパークガンを装備!」
「…どういうつもり?」
「へへっ、スパークガンの効果発動!サイコ・ショッカーを守備表示に変更する!これなら守備力1500のサイコ・ショッカーを」
スパークガンの電撃を浴びたサイコ・ショッカーは一度腕を組んで防御態勢を取るが、即座に攻撃表示に戻る
「…へ?」
「エンジンチューナーにより、表示形式を変えた所ですぐに攻撃表示に戻る」
「しまったぁ!なら、俺は融合を発動!場のスパークマン、手札のフェザーマンとバブルマンを融合!来い!テンペスター!」
「守備表示で出してきたか…」
「ターンエンドだ」
もこっち ライフ4000
手3 場 サイコ・ショッカー エンジンチューナー 伏せ2
十代 ライフ2050
手0 場 テンペスター 伏せ1
「私のターン、ドロー!私はモンスターをセット。」
「へ?」
「バトル、サイコ・ショッカーでテンペスターを攻撃。サイバーエナジーショック!」
「テンペスターの効果発動!伏せていたヒーローバリアを墓地に送り、戦闘破壊を無効にする!」
「…ターンエンド」
もこっち ライフ4000
手3 場 サイコ・ショッカー セットモンスター エンジンチューナー 伏せ2
十代 ライフ2050
手0 場 テンペスター
「俺のターン、ドロー!よし!フィールド魔法、摩天楼スカイスクレイパー発動!そして、テンペスターを攻撃表示に変更!」
「リバースカードオープン!」
「無駄だ!サイコ・ショッカーが居る限り、お互いに罠は使えない!」
「発動させるのは罠では無い!速攻魔法、月の書!」
「月の書?!それでテンペスターを守備表示に変えるつもりか!」
「違う。私が対象にするのは、サイコ・ショッカー!」
月の光に照らされて、サイコ・ショッカーが沈黙してセット状態になる
「だけど、結局攻撃すればエンジンチューナーで攻撃表示になるから、ダメージは避けられないぜ?」
「そう思って居るなら攻撃すればいい。サイコ・ショッカーが裏側守備表示になった事で、罠カードが使えるようになった」
そう言ってもこっちは伏せカードに目を向ける。
「?!」
「どうする?攻撃する?しない?」
冷たい双眸と遊城の視線が交差する。逡巡すらせず、遊城は告げる。
「ここで攻撃しないなんてありえないぜ!バトルだ!テンペスターでサイコ・ショッカーを攻撃!カオステンペスト!」
「罠発動!地縛霊の誘い!攻撃対象は私が決める!テンペスターの相手はサイコ・ショッカーでは無く…セットしていた球体時限爆弾スフィア・ボム!」
「げぇえええ?!」
テンペスターの胸元に合体するスフィア・ボム。
「ヒーローには胸元にタイマーが付いているのがデフォだったはず。お似合いだな?」
「や、やべぇ…ターン、エンドだ」
もこっち ライフ4000
手3 場 セットモンスター エンジンチューナー スフィアボム
十代 ライフ2050
手0 場 テンペスター 摩天楼
「私のターン、ドロー!」
「…」
もこっちは自分を見ず、デッキの一番上を見ている遊城を睨む
「遊城、どこを見ているの?」
「へ?」
「…まさか、次のターンのドローでこの窮地を脱しようと思って居るのか?」
「当たり前だ。俺はまだ諦めて居ないぜ」
「なら、このターンで沈める。セットしていたサイコ・ショッカーを生贄に、ブローバックドラゴンを召喚!」
「何ッ?!」
「馬鹿な、次のターンでほぼ勝ちは確定しているというのに!」
「ギャンブル頼みッスか?!」
「エンジンチューナーにより、攻撃力は元々の守備力の半分、1200の半分600アップして、攻撃力2900」
「ぐっ、それでテンペスターを破壊するつもりか…だが、確率は」
「当たる」
「なっ…」
冷たい、どこまでも冷酷な双眸に、遊城の身も心も射貫かれ、凍り付く。
「遊城、デュエルは自分だけではできない。デッキを信じるのは大事。でも、相手を見ないようでは…コイントス。」
結果は
「三枚全部表…?」
呆然と呟く遊城。
「テンペスターを破壊する」
ブローバックドラゴンの射撃がテンペスターに降り注ぐ。スフィアボムに直撃し、誘爆に巻き込まれてテンペスターが破壊される。
「バトル、ブローバックドラゴンでダイレクトアタック」
無慈悲な狙撃が遊城を撃ち抜き、勝敗は決した。
「ウィナー!シニョーラ智子なノーネ!」
うなだれる遊城に対し、一瞥を向けた後、もこっちは観客席の一つに目を向ける。
「三沢、今すぐ始められるか?それとも、時間が欲しいか?」
「30分だ。30分貰いたい」
「分かった。では30分後に第二試合といこう」
「ま、待つノーネ!」
「いいではありませんか、クロノス先生。互いに了承しているのです」
「それはそうデスーガ。しかし、これでついにドロップアウトボーイがドロップアウトするところが見れたノーネ…」
30分後
「待たせたな、黒木!今度は俺が勝つ!キミに対するデッキは完璧だ!」
「三沢。デュエルの前に、一つ言って置く。優秀な決闘者の欠点を」
「欠点だと?」
「私とのデュエルでそれに気が付けば、飛躍的に成長出来ると確信している。始めよう」
デュエル!
もこっち ライフ4000
手5 場
三沢 ライフ4000
手5 場
「私の先攻、ドロー!私はモンスターをセット。ターンエンド」
もこっち ライフ4000
手5 場 セットモンスター
三沢 ライフ4000
手5 場
「俺のターン、ドロー!俺はハイドロゲドンを召喚!バトルだ!ハイドロゲドンでセットモンスターを攻撃!」
「セットしていたのは、球体時限爆弾スフィアボム。ダメージ計算は行わない」
「ハイドロゲドンの装備カードとなったか、だが想定内!俺はカードを二枚伏せて、ターンエンド!」
もこっち ライフ4000
手5 場 スフィアボム
三沢 ライフ4000
手3 場 ハイドロゲドン 伏せ2
「私のターン、ドロー!」
「ここだ!罠発動!酸のラストマシンウィルス!場の水属性モンスターを生贄に、黒木!君の場と手札の機械族モンスターを全て破壊!一体につき500ポイントのダメージを与える!
しかも、三ターンの間にドローしたカードを確認し、それが機械族なら破壊して500ポイントのダメージを与える!」
「手札はリボルバードラゴン、沼地の魔神王、旧型発進、サイコショッカー、オーバーロードフュージョン、時の機械タイムマシーンだ。
機械族は三体、よって1500のダメージを受ける」ライフ4000から2500
手札を淡々と捨て、ダメージを受けるもこっち
「旧型発進は墓地の機械族を特殊召喚するカード。となると…」
「手札の沼地の魔神王を墓地に捨て、デッキから融合を手札に加える」
「何?だが君の手札に融合素材は居ないはずだ」
当惑する三沢。だが次の瞬間、もこっちの狙いに気が付く
「?!そうか!沼地の魔神王は墓地で融合素材の代わりになる!と言う事は…」
「魔法カード、旧型発進を発動。蘇れ、サイコショッカー!これで場の罠カードは発動出来ない!」
「ぐっ…」
「オーバーロードフュージョンを発動!墓地のリボルバードラゴン、沼地の魔神王を除外して融合召喚!現れろ!ガトリングドラゴン!」
一気に並ぶ闇の機械。それらは酸のラストマシンウィルスでほぼ葬ったはずだった。にも関わらず、結果はこれ。その事実に、三沢の動揺は隠せない。
「な、何故だ!俺の対策は、間違って居なかったはずだ!なのに何故!」
「…三沢、対策となるカードは、対策の為に抜いたカードより、対策以外の面では劣る場合が多い。故に、対策デッキは全体的に弱くなる。
重要なのは、全体的なデッキの強さ。局所的な戦術で勝利しても、戦略で敗れては勝てない。やるなら、全体的なデッキの強化を考慮するべきだろう。」
そう言われ、三沢は伏せカードに目を向ける。球体時限爆弾などの厄介な効果モンスターへの対策として用意していた、聖なる輝き。
直接的な対策に目を奪われていた事に、ようやく気が付く。
ディスクをおろし、真っ直ぐに顔を上げる三沢をもこっちは見つめる。敗北が確定したというのに、その表情は晴れ晴れとしている。
「黒木、今回は俺の負けだ。だが、俺はこの敗北で必ず強くなってみせる!」
「その時は、また相手をしよう。いけ、ガトリングドラゴン!サイコショッカー!」
二体の闇機械が襲い掛かったが、三沢は一瞬も目をそらさず、その攻撃を受け…
「…」ライフ0
三沢は敗北する。ここにノース校への学園代表が決定したのであった。
ノース校との交流試合云々が二年目には関わらなかったのが残念。
三年目には各校のチャンプが参加する中、ノース校は名前なし…
結構不遇な気がします。