クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

9 / 30
どうも、狼々です!

今回から第二章です。
あまり進展はないかと思われますが。

この作品の章の切りがいまいち掴めません(´・ω・`)
急に章作ったり消したり、話数分が変わったりがあるかもです。

では、本編どうぞ!


第2章 冷たいのか、暖かいのか
第9話 どうして


「おいぃ……クックパッドよ、しっかりしてくれよぉ……」

 

 どうしてくれよう、この料理。

 ナニコレ珍百景ならぬ珍料理にできそうだ。

 

 俺は確か、玉子焼きを作っていたはずだ。

 途中まで上手くいっていたはずなんだ。でも、どうしてだろう。

 

 ――玉子焼き(スクランブルエッグ)ができたんだが。

 あぁ、まさかあれか。「かき混ぜる」がスクランブルの意ではなく、「焼く」がスクランブルの意なのね。

 目玉焼きどうなんのそれ。

 

 「fried egg」とか「sunny side up」とか、目玉焼きの英語あるけども。

 スクランブルエッグに変わるとかもう、ねぇ?

 

 一応、専用の何か四角いフライパンみたいなのは買った。うん、買ったよ。

 卵を落として、砂糖やらなんやらを混ぜていたところまでは覚えている。

 取り敢えず要約しようか。

 

 

 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

 「おれは玉子焼きを作っていたらスクランブルエッグを作っていた」

 な……()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()() ()()()()()()()()()()()()()……

 

 頭がどうにかなりそうだった……

 催眠術だとか超料理技術だとか そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 

 

 むしろ長くなったんだけど。ねぇ。

 要約とは一体何だったのだろうか。それに、卵(ボロボロ)がちょっと黒くない? 気のせい?

 

「片鱗を味わう、ねぇ……」

 

 空もとい低い天井を見上げて、もう一度玉子焼きもといスクランブルエッグに目を向ける。

 いやぁ、これ黒いですねぇ。気のせいじゃないよこれ。

 夢だけど、夢じゃなかった! 夢であったほしかった。

 えっ、こんなのも作られない俺に絶望気味なんだけど。しかも焦げてるし。

 

 今まで、母か妹の葵に料理を作ってもらっていた。

 特に葵の玉子焼きは美味しかった。ふわふわと甘かった。

 これ甘くは……ないですよねぇ……。

 

 片鱗と共に、味も味わおうか。

 別の箸を取って、一口だけぱくり、と。

 

「がはぁっ!」

 

 超絶苦かった。

 ……明日も、パンでいっか!

 

 

 

 

 夏を彷彿とさせる夏。

 一見おかしな言葉構成だが、あながちそうでもない。

 夏らしくない夏もあるから。

 

 だが、今季節はそうでもないらしい。

 容赦なく降り注がれる陽光に目を細め、体は焼かれる。

 コンクリートの黒色は全面にそれを受けきり、自然の鉄板と化している。

 

 淀みない蒼天は限りなく広がり、白雲を薄く広げている。

 快晴中の快晴。晴れ渡るそれには、心を奪われる。

 

 ……が、俺はそうでもなかった。

 ずっと、心の奥底で引っかかったモノに、違和感を感じられずにはいられなかった。

 

 隣の女の子は、静かに読書中。

 こんなにも天気のいい昼下りだというのに、相変わらず物静かに過ごす。

 そんな彼女のことを、考えていた。

 

「なぁ、綾瀬」

「…………」

 

 はぁ、と溜め息さえ吐きたくなるが、喉奥で受け止めた。

 最近、隣の綾瀬の様子がおかしいんだが。

 いや、おかしいわけではないのだろう。

 元はこんな態度だったし、最近の仲が良かっただけなのかもしれない。

 

 少なくとも、ちょっと前まではこうではなかったはずだ。

 もっと笑ってくれて、話しかけても本を閉じてこちらに向いてくれた。

 では、今はどうだろうか。

 思い切り無視。初期の仲に逆戻り、といってもいいだろう。

 

 俺としては悲しいわけだ。

 別に好きというわけではないのだが、やはりよそよそしくされるのは、悲しいものがある。

 

 教室だけかと思いきや、図書室でもそう。

 ひたすらに寡黙を貫くかと思えば、高波や遥斗とは話す。

 

「……嫌われてんのかなぁ」

 

 呟きは彼方へ。

 誰にも届くことのないそれは。

 

 俺一人に、というのは嫌われているに違いない。

 そうは思うが、見当がつかない。

 自覚症状なし、というのも辛い。改善の余地もないのだから。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 今日の昼。隣の囁くような呟きに、反応してしまいそうになった。

 目を向けてしまいそうに、なった。

 

 この環境に、慣れるべきじゃない。そう思ったのだ。

 いつもしていた様に、冷たくあしらっていけばいい。そう思った。

 

 ……極力、男子との交流は避けたかった。

 交流があったら、仲が良くなることが避けられない。

 そうなると、告白の可能性が少なからず出てくる。

 

 自意識過剰かもしれない。が、私は嫌なんだ。

 

 あの外だけを見た上辺の告白は。

 (うそぶ)くことしかない告白は。

 閉ざされたままの扉を見る告白は。

 

 私はロマンチストではない。

 心がときめくような告白をしてほしいわけではない。

 そも、告白の定義の広さが疑われる告白を、されたくない。

 

 最近こそ落ち着いたものの、私のココロには今でも深く根を張っている。

 相手は私ではなく、私の『外側』を求めているんじゃないか。

 いつだってそう考えてしまう。

  

 駿河にも冷たい態度を取っているはずなのだが、一向に自分の態度を曲げようとしない。

 常に柔らかいペースを持っている相手は、正直苦手だ。

 あぁやって自分から何も考えず話しかけるような人には、あまり効果がない。

 自分自身、半ば諦めてしまっている節もある。

 

「はあっ……」

 

 今日も溜め息を漏らしながら、図書室へ……と、ふと思い出してコンピューター室へ。

 もう新聞の内容も決めて、今日はコンピューター室で本格的に作成に取り掛かる。

 

 ある程度だけ分担。内容は、各ジャンルごとでの読むべきポイントみたいなものをまとめる方針に固まった。

 さすがに作業に無視するわけにもいかないが、極力最低限の接触にしよう。

 

 ……私は、不思議だった。

 そんなことを考えるなら、今からでも図書委員をやめてしまえばいいのに。

 行動と言葉と思考の不一致に、自分でも不思議に思っていた。

 

 

 図書室と同じ別棟だが、別棟に移動してから全くの逆方向へ。

 彼はもう、先に向かった。

 いや、私がタイミングをズラした、と言った方がいいだろうか。

 

 扉を開けて、コンピュータ-室へ。

 十台ほどから駆動音が聞こえ、さらにタイピングの連続音。

 その中に紛れておらず、少し離れたところに、あいつ。

 

 デスクトップPCの駆動音に紛れて、クーラーの稼働音もつられている。

 低い独特の機械音の中に、人工の冷却風。

 どれだけ冷たくとも、何かを凍りつかせるような低音ではない。

 そのはずなのに、異様な寒さ。まるで、『何か』を凍結させているような。

 

 あいつの近くに寄ると、こちらに気付いて手を止める。

 

「あぁ、綾瀬。できるとこまでは進めといたぞ」

 

 画面を指差して、少し得意顔になって笑う彼。

 その笑顔にも、私は冷淡に返す。

 

「……そう。ご苦労様」

 

 私はそれだけ言って、隣の席に座ってPCを立ち上げる。

 データはどちらかに送ればいいので、わざわざ一台で作業する必要もない。

 向けられた視線と冷気と駆動音を掻い潜った。

 

 が、分担を決めているとはいえ同一物を作る上、最低限は話さないといけない。

 進行に差異が出ると、それはそれで面倒だし、期間に間に合わない可能性もほんの少しだが出てくる。

 

 隣のタイピング速度は結構なものだが、私はあまり早くはない。

 平均的か、それより遅いくらい。足を引っ張ってしまうのは目に見える。

 ……家には確か、PCは一台あった気がするが、使ってはいない。

 掃除は定期的にしているので、埃被っているわけではないのだが。

 

 隣の彼の速度の半分以下の速度で、キーを押していく。

 漢字変換に、キーの場所に、誤字に四苦八苦しながらも、徐々に形をつくっていく。

 

 

 

 と、沢山の機械音を長い間聞きながら、隣との短い会話を繰り返した中に、カラッと車輪の回るような音。

 更にもう一度同じような音が、遅くやってくる。

 

 途切れ、その音は軽い足音となって繋がれた。

 二つ交互に鳴るそれは、こちらに近付くごとに大きさを増す。

 

「うんうん、精が出るねぇ」

 

 まぁ、大体声でわかる。

 女性の声をしながら、軽快に踊るようなテンポ。

 

「……ありがとうございます、里美先生」

「まっ、タイピング速度は気にするものじゃないさ。まだ時間はたっぷりある」

「……はあ、そうですか」

 

 私達の後ろに回り、二つの画面を視野に入れて言った。

 いつもの、どこかボーイッシュな爽やか笑顔を誂えている辺り、本心からなのだろう。

 確かに、期間に関しては余裕がありすぎるほどだ。

 

 だが、自分の中でそう結論付けることが、どうにも腑に落ちなかった。

 しわ寄せが、隣の彼に寄ってしまう。

 明白だった。この状況と進み具合は。

 まだ始まって一日目だが、それがわかるほどに。

 

 東雲君はお人好しだ。なんだかんだ言いつつ、自分にも他人にも努力を最低限ではあるがする人間。

 私は、一緒に図書委員を担当していてわかった。

 きっと私が間に合わなくなるときは、自分の分量を増やすだろう。

 

 ……なんか、いやだ。

 根拠はないが、嫌だった。負けず嫌い――とは少し違うだろうか。

 あぁ、わかった。こいつに貸しを作ることが単に嫌いなだけなんだ。

 

 隣の「これ」は、私にはそれをする人間だ。

 善人なのか悪人なのか、如何せんわからない。

 

「……ねぇ、東雲君?」

「えっ、何か今、寒気がしたんだけど」

 

 おい。ちょっと待ってもらおうか。

 それは効きすぎた冷房のせいなのではないだろうか?

 もしそうでないのなら……

 

「あぁ、そうじゃないそうじゃない。いつも東雲君、なんて言わないだろ。東雲でいいよ」

「……あっそ」

 

 今更だが、どうしてさっき話しかけたのだろうか。

 曖昧になった思案は、形を成さずに霧状になって消えていった。

 

 ……どうして、だろうか。

 

「ん? いつもは二人はどう呼び合っているんだ?」

「俺が綾瀬に『綾瀬』、綾瀬は俺に『あん――」

「『これ』です」

「おい。俺、人間。これじゃない。指示代名詞わかる?」

 

 わかるに決まってるでしょう。わざとよ、わざと。

 必要以上の会話は省くため、この言葉を口にすることはないのだが。

 

 ――全く、わからない。

 何がわからないのか、わからなくなりそうでもあった。

 

 そして隣から、近くで煩く鳴るというのに。

 小さく、溜め息のようなものが聞こえた。

 

「……どうした? 二人で何かあったか?」

「いいえ、特には何も。強いて言えば、隣のこれが最近塩をかけられたみたいで、弱々しくなっているだけです」

「ねぇ、今度はナメクジ扱い? そんなにトロくないからね?」

 

 どうしてか、反抗の色も見られない。

 満更でもなさそうで、何の興味も示さない顔に、何かを見出したことなどなかった。

 

 適当なことを言ってはこの表情。

 適当なことを言われてはこの表情。

 さらには、先程の溜め息のときのような、悲しい表情。

 

 ……どれが本物の表情(かお)なのか、わからなくなる。

 

「うんうん、何もないようでよかった。今日はもう帰るといい」

 

 そう言われて少し驚き、窓を見た。

 が、黒のカーテンで完全にこちら側とあちら側を断たれている。

 光は天井に張り巡らされた蛍光灯と、目の前にある画面のライトのみ。

 

 自然光は入る余地なく、黒の屏風に邪魔された。

 吸収した屏風は、さぞ熱くなっていることだろう。

 

 と思いきや、そうでもなさそうだ。

 クーラーによるこの部屋の冷温度もあるが、何より。

 

「……もう、そんな時間なんですか?」

 

 日は傾き、光は変わらず直線に。

 ついさっきまで、全ての光を邪魔していたはずだった。

 が、時の流れと人の体内時計というのは、思いの外不一致なものだ。

 それが特に、集中した状態だと。

 

 今頃、青空ならぬ橙空が広がっていることだろう。

 

「あぁ。早いかもしれないが、これくらいで十分に間に合うはずだ」

「……了解です」

 

 隣の椅子は音を立てて引かれ、重みは外れていく。

 プラスチックのそれは、少しだけ甲高い音だっただろうか。

 

 荷物をまとめ、通学用カバンを手にして、PCの電源を落とした後、こちらを向いて立っていた。

 大体、察しがついた。明瞭とまではいかないが、今までのことからしてわかる。

 

「先に帰ってて頂戴。私は……少し、用があるから」

「……そうか。わかったよ」

 

 一人、ドアまで向かって車輪を鳴らした。

 そのドアの向こうで、こちらも見ないで視線を落とす、彼の目線が見えた。

 …………。

 

「よかったのか?」

「えぇ。私はもう少し、これをやっていることにします」

 

 先生の問いに、ゆっくりとしたタイピングと言葉で返す。

 着々とできあがっていそうだが、まだまだ先が見えない。

 最初から最後まで一貫して計画立てたわけではない。なので、中盤から後半になるにつれ、作業効率は落ちる。

 

 むしろ、内容に関しては題が決まっただけだ。

 具体的な内容はこれからだ。

 

 先に進めておいて、損はない。

 

「……そうか。遅くなりすぎないようにな」

 

 それだけ言って、彼女も扉へと向かう。

 やがて、それを合図にするように他の生徒も帰宅準備を進めている。

 

 目の端でこちらを見ているようだが、全く気にせずにディスプレイを見つめる。

 十分もせずに、部屋は私だけになった。

 音は機械のもののみとなり、終始無言で作業を進める。

 

 どれくらいの時間、進めただろうか。私もようやく帰ることに。

 入り口付近にかかっていたらしい鍵を取り、機械全てを止めて外へ。

 生温い風ではなく、もうすっかり冷え切った風に、私の体は押されていた。

 

 追随する風を感じつつ、階段を降りていく。

 コツ、コツと規則的なメトロノームが、足音に変換された。

 陽はすっかり落ちてしまい、もう赤系統の光もなくなった。

 

 鍵も返して、またメトロノーム。

 暗い、冥い中を彷徨うように歩き、外に出る。

 

 窓の開いた廊下から降りつける風とは、訳が違う。

 全身に受けるそれは、夏服で露出した肌全体に冷やす。

 

 コンクリートとローファーの組み合わせになり、音質が違うメトロノーム。

 それを聞き続けると、校門に。

 

「……どうして、待ってたのよ」

 

 ……彼が、いた。

 もう、何時だと思っているのだろうか。

 冥い夜空を見上げ、両手をポケットに入れながら背を校門に預けている。

 肩に通学用バッグをかけて。

 

 私の横で、職員室のライトが。

 彼には、何も光は当たらない。校門に隠れるようにして。

 

「……女の子が一人じゃ、危ないだろ。もう寒いし暗い。……行くぞ」

 

 ――わからない。どうして。

 ――どうして、なんだろうか。

 

 ――どうして貴方は、そうやって何事もなかったように歩き出すの?




ありがとうございました!

まだデレではないと信じたい。
うんきっとそうだいじょーぶ、なはず。
交互にクーとデレ入れたいな。

ではでは!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。