『クー』はどこいったよ! オラァ! とのことだったので、軌道修正にかかります。
皆さん、優しいんですよ……優しく言ってくれるんですよ……脅迫まがいなことは一切なく……(´;ω;`)
一度決まった性格的にも厳しいんじゃないか、とも言われました。
ふ、不自然にならないかつちゃんと理由がある程度には……その分、未来の甘い展開に期待していてくだしあ。
甘い展開には、他作品で結構評判ですので。自分で言うのもとてもおかしな話ですが。
自分でハードル上げるとか、バカかよこいつ。
では、本編どうぞ!
テストの次週水曜日。柔道が授業であった日と、その後の土日から月火と挟んで。
結果が粗方返却されてきたであろう頃の水曜日。
小鳥は囀り、太陽は上る。蝉の合唱も、蛍光灯で照らされる教室も、いつもとなんら変わりない。
そうだというのに、現実は常に移り変わって足を止めることはない。
ただ単に同じ時間をなぞっているのではなく、同じ時間を再現しているに過ぎない。
ついにそれは破綻し、やがて現実が突きつけられる。
――そう、今のように。
「……負けた」
「そう、残念ね。まぁ、私に勝てる人の方が少ないのよ」
冷淡に、カウンターで本から視線を外さないで応える綾瀬。
その姿は実に美しく、転校したその日の綾瀬を想起させる。
テスト結果は、俺と綾瀬では予想できただろう、綾瀬の勝利。
十点や二十点ならまだいい。かなりの差をつけて離れてしまっていて、完敗だ。
「とは言っているけども、学年順位は?」
正直、この言葉は本気ではなかった。
からかうつもりで言った。ほんの軽い気持ちで言ったんだ。
「二位」
「……は?」
「二位」
「……二位?」
「そう、二位」
感情の起伏なんてさらさらないというように、文庫本から視線を外さずにページを繰る綾瀬。
それに対して俺は、驚愕を前面に出してオウム返しをするだけ。
俺は、考査の学年順位を聞いたはず、だよな……?
「学年順位、だぞ?」
「えぇ、二位」
うそ……だろ……?
クーラーが風を飛ばす音、一定の間隔で聞こえる本のページが擦れる音。
そして、外から聞こえる運動部の声出しの声が、周りの静寂に主張されて耳に届く。
「……で、だからどうしたの?」
「いや、だからどうしたの? じゃなくて……すげぇだろ」
「……そう」
どうしてだろう、今日の綾瀬はどこか物静かだ。
何に関しても関心がないように見えて、しっかり会話は成り立っている。
現に、今もこうやって会話しているんだから。
しかし、気力がない様子であることもまた事実。
流れ行く日常の変化に、違和感を覚えずにはいられなかった。
が、特に口にするようなことでもない。変に口に出すと、気になっているみたいじゃないか。
自分も自宅から持ってきた本を鞄から手に取る。
ライトノベルなのだけれどもね。いいじゃん、人が何読もうと。マンガじゃないし。
本を開こうとした時、廊下から静かに足音が向かってくる。
いつもの風景に戻ろうとしている合図が、聞こえてくる。
暫く音が大きくなるのを、本を開かずに待つ。
カラッ、と乾いた音を境に、隣の綾瀬は本を閉じて鞄にしまった。
え? 何その扱いの差? いつもそんな感じなのに、急に辛辣に戻りましたねぇ。
「やっほ~」
「相変わらず軽いわね、
「別にいいじゃ~ん。あと、その呼び方には悪意を感じるよ」
「……え?」
学年一位……ついさっきの話からいくと、考査結果のことだ。
だが、そうとも限らない。そうだ、そうだよ。
だって、発育のいいランキングだったら、確実に学年一位じゃん。
いや、この学校一かもしれない。豊満って、眼福だよね。大きいに越したことはないと思う。
小さい胸も悪くないと思う。うん、良さがあるよね。
――ねぇ、こっちを睨んだ気がするんだけど、気のせいですかね、綾瀬さん?
今日は随分と無愛想なくせして、考えは読んだかのように睨むんだね。俺は悲しいよ。
……えっと、何の話だったっけか。
「あぁ、そうそう。学年一位って、何のだよ、高波?」
「ん? 今回の定期考査だよ。一位が私、二位が七海ちゃん」
マジでか。マジで考査結果なのか。薄々どころかほぼ確信だったんだが。
まさか、うちのクラスでワンツーフィニッシュを飾るとは、思わなかった。
一位が高波なのも、納得いきそうで納得いかない。全部胸に栄養いってそうじゃん。
じゃあ、綾瀬はどこに栄養がいっているんだろうか。……あっ。
「それで、東雲君のその様子を見ると中々にひどいやられようだったみたいだけど、一番は何の教科を間違えたの?」
「家庭基礎」
「…………」
瞬間、この場に再びの静寂が訪れる。
うん、わかっているんだよ。一番の失点が家庭基礎って、どうかと俺さえも思っている。
自分でも思うくらいだからね。相当にひどい。
「さ、参考までに、その中でも一番の間違いを聞こうかな……?」
「あぁ、今の旬の食材を答えなさい、ってやつだな」
「……あんた、それどうやったら間違えるのよ……」
頭を抱えた状態でだが、今日の中で最長の会話だ。これはひどい。
問題には、今の季節は夏だとする、と書いたあったので、今の季節がどこに属するかで悩むこともなし。
単純に、旬の食材が何かを間違えたのだ。
文字通りに、何でもよかったのだ。
「そ、それで、どうやって書いて間違えたの……?」
引きつった笑みで、声も若干震えている高波が、肝心な質問をしてくる。
俺は、とんでもない間違いをしている。何をとち狂ったのだろうかと、今でも思う。
さぁ、その笑みを完全に失くしてやるよッ……!
「――
「「えっ……?」」
冷房の風が急に十度や二十度下がって、この図書室に吹き付ける。
ここだけ季節が冬になったかのような、寒々しい風が。
エアコンの稼働音と、運動部の声出しがまたしても聞こえてくる。
が、同じ静寂でも雰囲気が重苦しかった。
高波は、本当に驚いた顔をしている。そんな顔も可愛い。
一方の綾瀬は、「え? こいつ何言ってんの?」、と言わんばかりのゴミを見る目線でこちらを射抜く。
いや、まったくもってその通りなんだけれどもさぁ。
「あ、あんたそれ……」
「か、
「だから一番の間違いだって言ってんだよ。そもそも、俺は家庭分野は知識・実技共に全くできない。現に、料理は全くできないぞ」
昼食は勿論、朝も夜も同じような感じなんですけどね。不健康を体現したような食生活は、早く改善せねば。
そのために、料理を早め早めに練習しないといけないのだが……如何せん、どうにもできない。
「あんた……一回、栄養失調で倒れてみないとわからないようね」
「ごもっともで。今日からやってみるよ」
やってみよう、やってみようと思うものの、中々実行に移せずにいる。
目利きが多少できるくらいで、料理に取り掛かるとなると……うん。
心に決めた時、廊下から足音がまたしても迫ってくる音が聞こえる。
いつものメンバーが揃うという、感覚が合図を送っていた。
隣の綾瀬はカウンターから立つことはなく、扉の方を無気力に向いている。
この状態を見る限りは、また肘打ちを入れられる心配もなさそうだ。
足音が一瞬止まった直後、冷風が開け放たれたドアから逃げ出していく。
廊下の空気が入れ替わりに吹き込み、ドアは閉められる。
空気の行き来は終わり、通路のなくなったこの図書室に廊下の空気は停滞し、中の冷気に冷やされる。
「よっ! 蒼夜、高波、綾瀬!」
爽やかな笑顔を携えた彼は、夏場の暑さを微塵も感じさせない様子。
そんな彼に、少し驚いた。
「へぇ、呼び方は変えたんだな、遥斗。意外だよ」
「いや意外だよ、ってなぁ……もう、二度も嫌なんだよ……」
今度は先程と打って変わって、絶望や恐怖に浸ったような表情を見せてみせる。
気の毒だな、と思いました。なんで二回も肘打ちされたんだろうね。白々しいなおい。
見ているだけで痛々しい表情は青ざめていて、とてもじゃないが見ていられない。それほど痛かったのか……。
「どのくらいだった?」
「メリケンサックで殴られるくらい」
それはそれは。ご愁傷様です。
「それも、失礼だと思わないのかしらね?」
「……悪かったよ。反省している」
大人しく両手を軽く上げていて、まるで白旗を掲げるような、彼にとっては珍しい格好を見せる遥斗。
普段とは一風変わった様子を見せられたからか、綾瀬もメリケンサック・肘打ちを繰り出すつもりはないらしい。何それ強そう。
遥斗は若干はにかみながら、高波と一緒に本棚へ向かっていく。
どこか的外れな意味で逸脱したこの日常を受け入れ、少年少女は流れ行く。
奔流とは程遠い、波でさえ立つかどうか怪しい、この緩流を。
心地の良い鈴音が、いつまでも響き渡るようなこの夏に。
それが安心できる。一種の平穏の形として、既に認識しているから。
障害物はなく、一本道をゆったりと進ませるそれが、形作られて。
先が見えていないようで、大体が予想できる。平坦な道だからこそ、そうそう変わるものではない。そう予感するから。
変遷のきっかけは、まだ見えない。暫くはこの光景が目に入り込むことだろう。
自分自身も、その光景を目の保養としているのだろう。
結局のところ、俺もこの図書室の一時は楽しみであり、心安らぐらしい。
不本意の言葉がほんの僅かだけ脳裏を掠めたが、どうやら否定もできそうにない。
俺から自然に漏れ出す笑みが、その証拠なのだろうか。
「……どうしたの、あんた。急に微笑んで」
変わらずに色のない声が、隣から聞こえる。
そんな声に、俺はなんて返そうものか。
感覚のことは、言葉に言い表しにくい。それが自覚なしとなると、さらに難しくなる。
否定ができなかった以上、理論の当てはめで出した結論ではないことは確かだ。
必然的に、自分の感覚のもの。それも、無自覚の。応えようがないのだ、だって自分でもわかりかねるのだから。
「……いや、別に。強いて言うなら、変わらないこの光景に安堵していたんだよ」
「そう。……私には、わからないわ」
呟く綾瀬は、いずこかに悲しみを孕んでいる気がした。
その理由さえも、俺には霞んで見えているのでわからない。わからない理由がわからない。
「……そうか」
「えぇ、そうよ」
彼女はいつの間にか本を取り出して、挟んでいた栞を取り出し、読書にふけっていた。
目線が縦に羅列した文字ではなく、もっと別のものを見ている気がしたのは、気のせいなのだろうか。
それも例に漏れず、わからないままだ。
暗躍しているようで、ひっそりと姿を隠して消えるそれは、形すらも悟らせない。
漠然とした、不安定な自意識の向こう側へ消えていく。
靄の形をとる割には、消滅してもくっきりと後を残して消えていく。
それに不安を隠しきれず、綾瀬に言葉を挟もうと口を開きかけた。
が、直線に二人が借りる本を選び終わり、カウンターへ持ち込むタイミングが重なった。
不完全燃焼状態にも似た感情が、喉で引っかかる。不快感こそなかったが、気になって仕方がなかった。
けれども、聞いていいのだろうか? そうも思う。
他人の事情に深入りすることは、あまり好ましくない行為だ。
自分のパーソナルスペースを侵害されるのは、気分がいいものではない。
聞く好奇心よりも、優先するべき行動選択肢はあるはずだ。
ぐっとこらえたところで、廊下から聞き慣れない足音が聞こえた。
軽い足音から、まず男じゃない。間隔からも、生徒ではないだろう。
ということは、女性の教師であって。
「綾瀬~、東雲~、まだいるか~い?」
乾いたドアの開く音と共に、女性特有の高音の声が図書室に響く。
ここ一ヶ月ほどで、俺の呼び方は東雲に定着した、この先生からは。
「ここに来るなんて……珍しいですね、里美先生」
遠山 里美先生。うちのクラスの担任の先生が、笑顔を携えて訪れた。
先の通り、ここに来ることは珍しく、図書室でこの人の顔を見たのは恐らく初めてだろう。
里美先生、という呼び方なんだが、どうも他に遠山先生が複数いるらしい。
この生徒数の少ない学校で、先生の名前が被ることはないと思っていたので、下の名前に先生付けに気恥ずかしさを感じていた。
が、案外慣れるとそうでもなかったりする。結構な美人さんでグラマーだけれども。
「あぁ、まあね。今日は二人に連絡があって来たんだよ。そんなに急ぎでもないんだけどね」
遥斗の男性の笑顔の爽やかさとは違った、女性の爽やかさが前面に出た笑顔が浮かんでいる。
ボーイッシュなようで、きちんと可愛さや綺麗さは健全。歳は知らないが、この笑顔だけでも三、四歳は若く見えるだろうか。
笑顔を保ったまま、軽く咳払いをしてニカッ、と先ほどよりも明るい笑みを携える。
「今から一ヶ月くらいで、一年の図書委員で新聞を作ってもらいたい!」
「え……い、いやでも、他のクラスに同じ学年の図書委員は……」
……いない。図書委員は、同じクラスにも同じ学年にも、俺と綾瀬の二人だ。
仕事が少なく、元々人数が少ないこともあり、生徒は他の人員の必要な委員会にかかりきり。
他学年との協力ともなると別だが、今の話を聞く限りでは一年のみでの作成。
一年のみの作成は、つまるところ俺達二人のみでの作成を意味する。
期間が長すぎるほどなので、できなくもないが……
「夏休み前に間に合わせてくれれば、それで十分だよ」
「……だそうだ。俺はいいけど、綾瀬はどうする?」
「やるに決まってるでしょ。……里美先生、その新聞についての詳細を教えていただけると」
「勿論。それも含めて、私はここに来ているんだからね」
夏休みまでに、か……あと一ヶ月近くもあるが、もうそんな時期なんだと、今更になって感じる。
あれだけ揺らめいていた、陽炎があったというのに。
ありがとうございました!
五月十一日現在、週間オリジナルランキングで二位になりました!
ありがとうございます!(*´ω`*)
週間オリジナルの二位は、捻くれの最高ラインでして。
まさか追いつくことになろうとは……本当に、ありがとうございます!