今回はいつもより一日早く投稿できました。
もっと投稿ペースを上げたいが、水木と10時間授業なのはでかい。
では、本編どうぞ!
五月も終盤に差し掛かり、六月一日を境にした夏服への衣替えも近付き、俺自身もこのクラスに、学校に慣れつつあった。
図書委員を綾瀬と進め、高波といつも会話して楽しんで、時に遥斗がやってきて肘打ちを入れられ。あいつ、学ばねえのかよ。見ているこっちが痛々しいものだ。
今日も昼までの授業を終え、昼食の時間になる。
いつも俺は一人でパンを食べるか、遥斗とパンを食べるかだ。あ、パンは確定事項な。
今日も遥斗とパンを食べようとして、外の春めいた景色に心を澄ませようかと思っていたら。
「ねえねえ、私達と一緒に昼食を食べよう、東雲君!」
「ちょ、ちょっと、何で私『達』になるのよ。私は――」
「おう、一緒に食べよう!」
遥斗がそう笑顔で言いつつ、二人を招き入れる。
あの、一ついいですかね……俺、発言権は無いのかな?
別に断るつもりもないのだが、何より綾瀬にこちらを睨まれたような気がするのでね。疲れているんだよ、俺。
今すぐ六つのボールを機械に乗せて、てんてんてててん♪ という音楽と一緒に回復してもらわねば。ありがとう、ジョーイさん。状態異常回復もするからね。HPだけじゃない。
「……というか、あんた、いつもパンを食べているの? 栄養バランスとか大丈夫なの、それ?」
「いいだろ、別に料理ができるわけじゃないし。っていうか、何見てるんだよ」
「見てるんじゃなくて、パンを普段食べる人なんて、あんたぐらいなのよ」
ま、そりゃそうか。皆は毎日パンを食べるわけではない。
学食か、売店の弁当か、自前の弁当か。多種多様な昼食と昼休みの過ごし方だ。
あぁ、そういえば。名前は伏せるが、前に弁当だけを持ってきて箸を忘れて、食堂にわざわざ行って、箸取って食べていたな。
……ペンとか鉛筆とか、文房具で弁当食べればいい、って言ったんだがな。
全く、遥斗は馬鹿すぎるだろ。名前は伏せるんじゃなかったのかよ。
「そうそう、いつも東雲君の方を見ているんだよ、七海ちゃんは、ね」
「あら、麗美奈の目がそっちに向いているんじゃないの?」
何? 俺を見るのがそんなに嫌なの? 悲しむよ、俺?
遥斗は遥斗で面白いと言わんばかりに笑うし。
「はいはい。わかりましたから。さっさと食べるぞ~」
「そうね。私もパンを食べるこれと一緒に昼食なんて、早く終わらせたいわ」
じゃあ何でここにいるんでしょうかねぇ?
それに、もうそれ、ただの暴言ですよね? あんまり俺を貶さないでね?
ツチノコってメンタル弱そうだからさぁ。天然記念物だぞ。
今日も恒例の放課後を迎え、教室から生徒が続々と漏れ始める。かくいう俺も、その一人。
夏に入りかけの少し涼しいような、暖かいような微妙な風を廊下から感じながら図書室へ。
もうこの図書室への道は、通り慣れた。
そして、窓を開けた時に飛び込んでくる、綾瀬の姿も見慣れてしまった。
いつものようにカウンターに座って、本を静かに読んでいる姿。
しかし、今日はそんな見慣れた姿とは違っていた。
勉強道具を広げて、教科書に視線を落として、シャープペンシルを走らせている。
カリカリ、と勉強時独特の、シャープペンシルや鉛筆の芯が徐々に削れる音が、静寂の均衡を保つこの図書館に、控えめに響く音が、どこか心地いい。
「……アンキパンって、何気に欲しいよな」
「あんた、何の話しているの?」
まぁ、そう返されるのも無理はないか。
会って早々、開口一番にアンキパンの話をしだすのだから。
でも、あれは欲しいよな。学生の誰もが思ったことがあるはずだ。
俺の考える学生が欲しい秘密道具ランキングは、一位から順に、もしもボックス、どこでもドア、アンキパンだ。
……学生に限らねぇな、これ。誰でも欲しいわ。
もしもボックスで、言うんだよな。もしも、勉強がない世界になったら! とか。
しかし、俺は全力で、声を大にしてこう言いたい。
――もしも、ぼっちしかいない世界になったら! と。
ぼっちがいない世界にしない辺り、なんとも俺らしい願いだ。
どこでもドアは……あれだ。
遅刻しない、移動費かからないの二強だから。これがあれば、日本から外国に一瞬で通勤・通学できるぞ。
これ、日本から外国の高校に入学して、自宅周りの地図を載せるやつあるじゃん。
それが外国にも導入されていたら、日本のとある場所だけの地図が載っているっていう、意味不明なことが起きる。
進学先の学校側からすれば、意味わかんねぇよ。通学路:どこでもドアとか、四次元の空間上、とか書かれても、ねぇ?
アンキパンは……うん、すっごく役に立つね。うん。すごいね! 適当にも程があるだろ。
あれだ……うん、諸々のテストに役に立つね。
「ちょっと秘密道具の偉大さについて、な」
「はぁ? あんた、あの青い猫型ロボットのやつ、まだ見てるの? 子供向けでしょ?」
「あぁ、確かにそうだな。しっかしぃ! こうやって人間としても体格としても成長したことでわかることだってあるんだぞ!」
「あっそ。それはよかったわね~。子供向けの知識で自分の脳が養われるなんて、あんたの脳が子供だってことがよくわかったわ」
何だろう、馬鹿にされている気がしてならない。体格的には綾瀬も成長していないか。主に胸。
ドラえもん、最高だぞ、おい。
あの都合よく映画の時に限って、友情深くなったり、優しくなったり、勇敢すぎるくらいに勇敢になるジャイアン。
毎回見ていて思うけれど、アニメ・漫画と映画で、きれいなジャイアンに交代してんじゃねぇの?
俺としては、ペコの話が一番好きだわ。
あと、イチのやつな。あのイヌ素晴らしいよな。どっちもイヌだわ。
ネッシーのピー助のやつも中々。そして何と言っても、ドラえもん自体が素晴らしい。
そりゃそうだわ。主人公格だもん……何のこと考えているんだ、俺は?
「まぁ、それはいいとして、どうして――」
どうして勉強しているんだ。そう問おうとして、図書室のドアが音を立てて開かれる。
最近、音の大きさやスピードで、入ってくる人物がわかるようになってきた。
そもそも図書室を利用する生徒が少ないし、このどこか荒っぽい駆動音をさせる開け方は――
「よう、蒼夜、まな板!」
「はぁ~……あんた、ホントに何なのよ……」
綾瀬は頭を抱えて、大きく溜め息を吐いて言う。
遥斗も中々の傍若無人ぶりだ。あの調子で何回肘打ちを入れられ、苦しみながら帰っていったことか。
あれから、綾瀬と遥斗は交流を深めていった。仲良くなったとは言わない。どう見ても仲が良いわけじゃないし。
遥斗はどうかわからないが、綾瀬ただの邪魔者にしか思ってないんじゃないの? かわいそ。
いや、錯覚するな。まな板は失礼すぎるだろ。せめて砂丘。
「おぉ~、放課後の図書室に四人で揃うっていうのは、結構珍しいんじゃない?」
今度は静かな駆動音と共に、高波が図書室に。
現在は衣替え前ということで、中間服。春服のブレザーは着脱可。着るもよし、脱ぐもよし。
高波は期待通りというべきか、長袖のカッターシャツだけ。たゆんたゆんだ。
綾瀬のそれを見ようとして、一瞬顔が動きそうになったのを無理矢理に止める。肘打ち、怖い。
ちなみにだが、俺はブレザーを着ている。寒がりなんだよ、俺。
いや、皆が寒さに強すぎるだけだ。高波だけでなく、綾瀬も遥斗もカッターシャツのみ。
図書室は緩く冷房がかけられていて、さらに寒いだろうに。
「そうだな~。で、どの本を返して借りる?」
「あぁ、いや、今日は返すだけだよ。さすがにもう……近いし」
まぁ、何が近いのかはわからないが、何かが近いのだろう。それ以外に何があるんだよ、逆に。
中々珍しく神妙な顔つきだったので、聞くことを躊躇ってしまう。
その表情のまま本の返却を終えたら、そそくさと図書室を出て行く。
それにつられるように、遥斗も足早に図書室から去っていく。
今日は、どこかおかしい。
二人の様子といい、綾瀬の急な勉強といい。
「なぁ、綾瀬。どうして――」
「……ぁう、ぁう、ぁうぅ……」
急に船を漕ぎ始めた綾瀬は、情けない声を出しながら必死に睡魔に抗っていた。
何だろう、めちゃくちゃ可愛い。
頭が揺れる度に、ぁう、とか言っているし、超可愛い。
そうしてすぐに、睡魔との戦いが終わる。
結果は、睡魔の圧勝。一瞬でノックアウト。そして、綾瀬はカウンターに突っ伏して眠っている。
いつもの態度と違い、可愛らしい様子で寝息を静かに立てている綾瀬に、ドキッとしてしまう。
こうやって、黙っていれば可愛いのになぁ……勿体無い。
ともあれ、こうやってカッターシャツだけで眠るのは、まぁまずい。
冷房が当たっている中、この格好だと風邪を引いてしまう。冷房は切ればいいが、それでもな……
仕方ない、か。
自分の着ているブレザーを脱ぎ、綾瀬にかける。
小さく上下する背中に触れて、ドキドキとしつつも優しくかけることができた。
変に意識してしまっている節があることに、我ながら呆れてしまう。
少し冷たい図書室の中、隣で眠る綾瀬を視界の端に入れつつ。
明るすぎる陽光が差し込む中、外と部屋との温度の、ガラスの境界を不思議に思いつつ。
俺は静かに、微笑を浮かべながら来訪者を待っていた。
「……お~い、起きろ。もうすぐ時間だぞ?」
「ん……あ、れ……?」
「お、起きたか。おはよう」
「んえ? ふみゅぅ……おは、よ」
可愛い。可愛いのだが、言ったら俺が苦しくなる。物理的に。
主にみぞおち辺りが。
「あれ? こえ……」
まだ寝ぼけたような甘い声を出しながら、かけられた俺のブレザーを手にとって確認する。
そして、俺の方を向く。
そしてまた、ブレザーへ視線を戻す。
「あ……ご、ごめんなさい……」
「別にいいよ。むしろ、ブレザー一枚で何か変わるといいんだがな」
差し出されたブレザーを羽織り、既に切ったはずの冷房の冷気が少しだけ遮断される。
ブレザーは本格的な防寒具ではないため、風邪を防げるかどうか、怪しいところだ。
少しは効果があるだろうが、大きく変わることはないだろう。
俺が綾瀬を起こしたのは、もう下校時刻間際になったからだ。
部活生も活動を切り上げ、片付けなり部室の施錠なりしている。
あれほど明るかった日の光も、今では少しだけ薄暗くなってしまっている。
コトコトと窓が叩かれる音が、外の微妙な寒気を予感させる。
「よっし、帰るか。さっさと出てくれよ~。鍵は返しとくから、先に校門に行っててくれ」
「わかったわ。お願いね……ふわあぁ……」
口元に手を当てて、柔らかい欠伸をしながら図書室から退室する。
俺もそれに続き、照明と冷房を落として施錠。職員室へ。
片方一人が鍵を返し、もう片方は校門で待つ。
それを繰り返して、いつしか暗黙の了解となっていた。
当たり前であることを前提に、下校を共にしていた。
気づけば鍵も返し終わっており、外の冷気に身を包ませていた。
案の定というべきか、俺にとっては中々の寒さだった。
胸と頭と頬中に謎の熱さを感じていたが、それもすぐに冷えて消えた。
ポケットに手を入れながら、着実に校門へ。
そして目に入る、小柄な女子の姿。
向こうもこちらに気付き、俺が校門に着いたと同時に隣り合って歩き出す。
そうして、図書館内でのくだらない会話の再開。
「俺って、マジでアンパンマンだよな」
「えぇ、それもそうね。そのすぐに替えが効きそうな頭とか、酷似どころかそのものね」
「おい、それは正義への冒涜だろ。あの勇気と笑顔に満ち溢れるパンを舐めんなよ」
「あんた、一体誰なの?」
俺でもわからなくなってくるが、俺が一番アンパンマンだ。
いや、正確にはアンパンマンに近いのはぼっちだ。
愛と勇気だけが友達らしいからな。
(自分への)愛と(孤独に対する)勇気は、これ以上にないくらい友達で、むしろ親友。一心同体なまである。
それなのに、どうしてアンパンマンは賞賛され、ぼっちは賞賛されるどころか卑下されるのだろう。
正義への冒涜だろ。アンパンマンを寄ってたかって馬鹿にするとか、幼児激怒するぞ。
「んで、どうして今日はまた勉強なんてやっていたんだ?」
「え? どうしてって……あんた、知らないの?」
いや、知らないの? もなにも、明確に提示してくれないと、わかることでもわからないのだが。
「来週――
「……ゑ?」
ありがとうございました!
タイトルで察しているであろう通り、ドラえもんとアンパンマンのことです。
私はあまり見ていないのですが。
宣伝です。
23日の日曜、新しく短編を投稿しました。またですよ、新作したい病。
今回は短編なので、すぐに終わらせられるかと。
……後で連載に切り替わる可能性も完全には否めない。
タイトルは『八月の夢見村』です!
R15のタグなし、エロ要素も当然なし(!?)、今度こそ純恋愛。
感動モノにしたいです。その予定。
よかったら見てやってください。
ではでは!